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3話
魔塔での生活が始まって数日。
エリオットは、ヴィクトールから与えられる過剰なほどの慈しみに溺れかけていた。
朝は彼の手によって目覚めさせられ、極上の食事を口に運ばれ、最高級の衣類を纏わされる。
かつて聖騎士として厳律な生活を送っていたエリオットにとって、それはあまりに退廃的で、背徳的な時間だった。
しかし、身体にはある異変が起きていた。
「……っ、あ……熱い……」
午後、ヴィクトールが不在の書庫で本を整理していたエリオットは、突如として襲ってきた熱に膝を折った。
心臓が激しく脈打ち、指先が痺れる。魔力を失ったはずの体内が、枯れ果てた大地が水を欲するように、何かに飢えて疼いているのだ。
「はぁ、はぁ……っ、なんだ、これ……」
視界がちかちかと点滅する。
呪いによって空になった魔力回路が、無理やり外からの力を取り込もうと暴走しているのだ。
かつて経験したことのない、内側から掻き乱されるような渇き。
「……言ったはずだ。お前の体は、すでに私の魔力なしでは維持できぬようになっている、と」
背後から、冷ややかな、けれどどこか愉悦を含んだ声が響いた。
「ヴィクトール……様……っ」
振り返る間もなく、大きな影に包み込まれる。
ヴィクトールは床に座り込むエリオットを後ろから抱き寄せ、その細い首筋に顔を埋めた。
彼の体から放たれる圧倒的な魔力の波動が、エリオットの肌をチリチリと焼く。
「ひ、あ……っ」
「魔力枯渇による発作だ。無理もない。お前の魔力回路は、私が注ぎ込んだ魔力に適合し始めている。……ほら、私を求めろ」
ヴィクトールの長い指が、エリオットのシャツの隙間から滑り込んだ。
熱を帯びた皮膚に、冷たい魔導師の指先が触れる。その温度差に、エリオットは背中を反らせて喘いだ。
「だめ、です……そんな、こと……っ」
「何がだめなのだ? 私の魔力を受け入れなければ、お前の回路は焼き切れて死ぬだけだぞ。それとも、ここで壊れるのが望みか?」
ヴィクトールはエリオットの耳たぶを甘噛みし、そのまま低い声で呪文を唱えた。
すると、彼の指先から金色の光が漏れ出し、エリオットの肌を通じて体内へと流れ込んできた。
「あ……っ、あああ……っ!」
衝撃。
脳を直接揺さぶるような強烈な快感が、脊髄を駆け抜ける。
枯渇していた回路に、ヴィクトールの濃密で強大な魔力が無理やり流し込まれていく。
それは、純粋なエネルギーの奔流であり、同時に暴力的なまでの侵食だった。
「……お前の中が、私の色に染まっていくな。エリオット」
ヴィクトールは恍惚とした表情で、エリオットの反応を観察していた。
魔力を流し込まれるたび、エリオットのサファイアブルーの瞳は潤み、薄い唇からは蜜のような吐息が漏れる。
「あ……っ、熱い、です、もう……っ、中に、いっぱい……」
「足りない。もっと注いでやろう。お前が、私以外の魔力を受け付けない体になるまでな」
ヴィクトールはエリオットを翻弄するように、魔力の密度を高めていく。
エリオットは拒絶する理性を失い、無意識にヴィクトールの腕に縋り付いた。
自分を捨てた世界の冷たさとは対照的な、この男が与えてくれる破壊的なほどの熱。
「……さま、ヴィクトール、さま……」
「そうだ、私の名を呼べ。私の魔力だけを食らって生きろ」
ヴィクトールの紅い瞳に、暗い独占欲が渦巻く。
かつて光り輝く場所で皆に崇められていた聖騎士が、今や自分の腕の中で魔力に翻弄され、情けなく腰を揺らしている。
その事実が、ヴィクトールの歪んだ愛をさらに加速させた。
エリオットは、流し込まれる熱の心地よさに涙をこぼした。
それが、自分を「所有物」として刻印するための行為だと理解していても、今の彼には、この熱だけが世界のすべてだった。
「ふ……っ、く……」
最後の一滴まで注ぎ込まれるような感覚と共に、エリオットの意識は真っ白な光の中に弾けた。
ぐったりと力なくヴィクトールの胸に預けられたエリオットの銀髪を、魔導師は満足げに何度も撫でた。
「いい子だ、エリオット。お前はもう、私の籠から逃げることはできない」
ヴィクトールの口元に、冷酷でいて狂おしいほど甘い笑みが浮かんだ。
エリオットは、ヴィクトールから与えられる過剰なほどの慈しみに溺れかけていた。
朝は彼の手によって目覚めさせられ、極上の食事を口に運ばれ、最高級の衣類を纏わされる。
かつて聖騎士として厳律な生活を送っていたエリオットにとって、それはあまりに退廃的で、背徳的な時間だった。
しかし、身体にはある異変が起きていた。
「……っ、あ……熱い……」
午後、ヴィクトールが不在の書庫で本を整理していたエリオットは、突如として襲ってきた熱に膝を折った。
心臓が激しく脈打ち、指先が痺れる。魔力を失ったはずの体内が、枯れ果てた大地が水を欲するように、何かに飢えて疼いているのだ。
「はぁ、はぁ……っ、なんだ、これ……」
視界がちかちかと点滅する。
呪いによって空になった魔力回路が、無理やり外からの力を取り込もうと暴走しているのだ。
かつて経験したことのない、内側から掻き乱されるような渇き。
「……言ったはずだ。お前の体は、すでに私の魔力なしでは維持できぬようになっている、と」
背後から、冷ややかな、けれどどこか愉悦を含んだ声が響いた。
「ヴィクトール……様……っ」
振り返る間もなく、大きな影に包み込まれる。
ヴィクトールは床に座り込むエリオットを後ろから抱き寄せ、その細い首筋に顔を埋めた。
彼の体から放たれる圧倒的な魔力の波動が、エリオットの肌をチリチリと焼く。
「ひ、あ……っ」
「魔力枯渇による発作だ。無理もない。お前の魔力回路は、私が注ぎ込んだ魔力に適合し始めている。……ほら、私を求めろ」
ヴィクトールの長い指が、エリオットのシャツの隙間から滑り込んだ。
熱を帯びた皮膚に、冷たい魔導師の指先が触れる。その温度差に、エリオットは背中を反らせて喘いだ。
「だめ、です……そんな、こと……っ」
「何がだめなのだ? 私の魔力を受け入れなければ、お前の回路は焼き切れて死ぬだけだぞ。それとも、ここで壊れるのが望みか?」
ヴィクトールはエリオットの耳たぶを甘噛みし、そのまま低い声で呪文を唱えた。
すると、彼の指先から金色の光が漏れ出し、エリオットの肌を通じて体内へと流れ込んできた。
「あ……っ、あああ……っ!」
衝撃。
脳を直接揺さぶるような強烈な快感が、脊髄を駆け抜ける。
枯渇していた回路に、ヴィクトールの濃密で強大な魔力が無理やり流し込まれていく。
それは、純粋なエネルギーの奔流であり、同時に暴力的なまでの侵食だった。
「……お前の中が、私の色に染まっていくな。エリオット」
ヴィクトールは恍惚とした表情で、エリオットの反応を観察していた。
魔力を流し込まれるたび、エリオットのサファイアブルーの瞳は潤み、薄い唇からは蜜のような吐息が漏れる。
「あ……っ、熱い、です、もう……っ、中に、いっぱい……」
「足りない。もっと注いでやろう。お前が、私以外の魔力を受け付けない体になるまでな」
ヴィクトールはエリオットを翻弄するように、魔力の密度を高めていく。
エリオットは拒絶する理性を失い、無意識にヴィクトールの腕に縋り付いた。
自分を捨てた世界の冷たさとは対照的な、この男が与えてくれる破壊的なほどの熱。
「……さま、ヴィクトール、さま……」
「そうだ、私の名を呼べ。私の魔力だけを食らって生きろ」
ヴィクトールの紅い瞳に、暗い独占欲が渦巻く。
かつて光り輝く場所で皆に崇められていた聖騎士が、今や自分の腕の中で魔力に翻弄され、情けなく腰を揺らしている。
その事実が、ヴィクトールの歪んだ愛をさらに加速させた。
エリオットは、流し込まれる熱の心地よさに涙をこぼした。
それが、自分を「所有物」として刻印するための行為だと理解していても、今の彼には、この熱だけが世界のすべてだった。
「ふ……っ、く……」
最後の一滴まで注ぎ込まれるような感覚と共に、エリオットの意識は真っ白な光の中に弾けた。
ぐったりと力なくヴィクトールの胸に預けられたエリオットの銀髪を、魔導師は満足げに何度も撫でた。
「いい子だ、エリオット。お前はもう、私の籠から逃げることはできない」
ヴィクトールの口元に、冷酷でいて狂おしいほど甘い笑みが浮かんだ。
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