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魔力供給による甘い痺れが残る体を、ヴィクトールは慈しむように抱き上げた。
抵抗する気力すら奪われたエリオットは、ただ彼の胸に顔を埋め、荒い息を整えることしかできない。
「……少し、休みすぎたな。エリオット、お前に見せたいものがある」
ヴィクトールはエリオットを抱いたまま、塔の最上階にある彼の私室へと運んだ。
そこには、重厚なベルベットの布がかけられた、細長い木箱が置かれていた。
「……これは?」
エリオットが掠れた声で尋ねると、ヴィクトールは片手で布を払い、蓋を開けた。
中に収められていたのは、鈍く輝く白銀の剣――ではなく、一筋の細い「首輪」だった。
白銀を基調とし、中央にはヴィクトールの瞳と同じ、血のように鮮烈な紅い魔石が嵌め込まれている。
それは装飾品と呼ぶにはあまりに官能的で、拘束具と呼ぶにはあまりに美しい。
「君は……元騎士だろう? 武器の代わりに、これを授けてやろうと思ってな」
「首輪……ですか? ですが、僕はもう騎士ではありませんし、戦う力も……」
「戦う必要などない。私が守ると言っただろう。これはお前の身を守り、そして――私との繋がりを強めるための魔道具だ」
ヴィクトールはエリオットの返事も待たず、その細い首筋に指を添えた。
ひやりとした金属の感触が肌に触れ、カチリ、と小さな音が響く。
外すための鍵穴も、継ぎ目も見当たらない。ヴィクトールの魔力でしか解除できない、文字通りの「鎖」だった。
「っ、あ……」
首輪が装着された瞬間、中央の魔石が脈打つように発光した。
エリオットの体内に残っていたヴィクトールの魔力が、その石に吸い寄せられ、心地よい微熱となって全身を巡る。
「……熱い、です。何だか、ずっとあなたが触れているみたいで……」
「ふふ、察しがいいな。その石には私の魔力を常時流し込んである。どこにいても、お前が私の所有物であることを、その熱が教え続けるだろう」
ヴィクトールは満足げに、首輪に指を滑り込ませた。
きつくもなく、けれど決して抜けることのない、絶妙な密着感。
白銀の肌に、白銀の金属と紅い石。その背徳的なまでの美しさに、ヴィクトールの紅い瞳がさらに暗く沈んだ。
「ヴィクトール様……これでは、まるで……」
「まるで、愛玩動物(ペット)のようか?」
ヴィクトールはエリオットの耳元で囁き、その薄い耳たぶを優しく食んだ。
「お前を捨てた国や家族は、お前を『聖騎士』という道具としてしか見ていなかった。だが、私は違う。私はお前のその心も、魔力なき体も、絶望すらも愛している」
「あ……っ……」
「いいか、エリオット。お前はもう、自由ではない。私の腕の中でだけ、呼吸することを許されているのだ」
ヴィクトールの言葉は、呪いのようでいて、今のエリオットにとっては唯一の「救い」に聞こえた。
誰にも必要とされず、泥の中で死ぬはずだった自分を、これほどまでに執拗に求めてくれる男。
エリオットは、首元の冷たい感触を確かめるように、自らその石に触れた。
指先から伝わるヴィクトールの魔力の鼓動。
それは、彼との消えない絆を証明しているようで、エリオットの胸に淡い安らぎをもたらした。
「……はい。僕は、あなたのものです……ヴィクトール様」
自ら差し出すようなその言葉に、ヴィクトールは獣のような笑みを浮かべ、エリオットの唇を深く、奪い去るように塞いだ。
魔塔の外では、エリオットを追放した王国が、予期せぬ魔物の氾濫に揺れ始めていた。
だが、その喧騒も、この密室に漂う甘い白檀の香りと、二人の吐息にかき消されていく。
エリオットはまだ知らない。
自分を追い出した者たちが、今さらになって自分を「聖騎士」として呼び戻そうとしていることを。
そして、ヴィクトールがそれを、一欠片も許すつもりがないことを。
抵抗する気力すら奪われたエリオットは、ただ彼の胸に顔を埋め、荒い息を整えることしかできない。
「……少し、休みすぎたな。エリオット、お前に見せたいものがある」
ヴィクトールはエリオットを抱いたまま、塔の最上階にある彼の私室へと運んだ。
そこには、重厚なベルベットの布がかけられた、細長い木箱が置かれていた。
「……これは?」
エリオットが掠れた声で尋ねると、ヴィクトールは片手で布を払い、蓋を開けた。
中に収められていたのは、鈍く輝く白銀の剣――ではなく、一筋の細い「首輪」だった。
白銀を基調とし、中央にはヴィクトールの瞳と同じ、血のように鮮烈な紅い魔石が嵌め込まれている。
それは装飾品と呼ぶにはあまりに官能的で、拘束具と呼ぶにはあまりに美しい。
「君は……元騎士だろう? 武器の代わりに、これを授けてやろうと思ってな」
「首輪……ですか? ですが、僕はもう騎士ではありませんし、戦う力も……」
「戦う必要などない。私が守ると言っただろう。これはお前の身を守り、そして――私との繋がりを強めるための魔道具だ」
ヴィクトールはエリオットの返事も待たず、その細い首筋に指を添えた。
ひやりとした金属の感触が肌に触れ、カチリ、と小さな音が響く。
外すための鍵穴も、継ぎ目も見当たらない。ヴィクトールの魔力でしか解除できない、文字通りの「鎖」だった。
「っ、あ……」
首輪が装着された瞬間、中央の魔石が脈打つように発光した。
エリオットの体内に残っていたヴィクトールの魔力が、その石に吸い寄せられ、心地よい微熱となって全身を巡る。
「……熱い、です。何だか、ずっとあなたが触れているみたいで……」
「ふふ、察しがいいな。その石には私の魔力を常時流し込んである。どこにいても、お前が私の所有物であることを、その熱が教え続けるだろう」
ヴィクトールは満足げに、首輪に指を滑り込ませた。
きつくもなく、けれど決して抜けることのない、絶妙な密着感。
白銀の肌に、白銀の金属と紅い石。その背徳的なまでの美しさに、ヴィクトールの紅い瞳がさらに暗く沈んだ。
「ヴィクトール様……これでは、まるで……」
「まるで、愛玩動物(ペット)のようか?」
ヴィクトールはエリオットの耳元で囁き、その薄い耳たぶを優しく食んだ。
「お前を捨てた国や家族は、お前を『聖騎士』という道具としてしか見ていなかった。だが、私は違う。私はお前のその心も、魔力なき体も、絶望すらも愛している」
「あ……っ……」
「いいか、エリオット。お前はもう、自由ではない。私の腕の中でだけ、呼吸することを許されているのだ」
ヴィクトールの言葉は、呪いのようでいて、今のエリオットにとっては唯一の「救い」に聞こえた。
誰にも必要とされず、泥の中で死ぬはずだった自分を、これほどまでに執拗に求めてくれる男。
エリオットは、首元の冷たい感触を確かめるように、自らその石に触れた。
指先から伝わるヴィクトールの魔力の鼓動。
それは、彼との消えない絆を証明しているようで、エリオットの胸に淡い安らぎをもたらした。
「……はい。僕は、あなたのものです……ヴィクトール様」
自ら差し出すようなその言葉に、ヴィクトールは獣のような笑みを浮かべ、エリオットの唇を深く、奪い去るように塞いだ。
魔塔の外では、エリオットを追放した王国が、予期せぬ魔物の氾濫に揺れ始めていた。
だが、その喧騒も、この密室に漂う甘い白檀の香りと、二人の吐息にかき消されていく。
エリオットはまだ知らない。
自分を追い出した者たちが、今さらになって自分を「聖騎士」として呼び戻そうとしていることを。
そして、ヴィクトールがそれを、一欠片も許すつもりがないことを。
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