14 / 20
14話
しおりを挟む
かつては「死神の塔」と恐れられ、冷たい石壁と古書の匂いしかなかった魔塔。
だが今、そこはエリオットの銀色の魔力とヴィクトールの漆黒の魔力が溶け合い、奇跡のような光景が広がっていた。
「……ふふ、見てくださいヴィクトール様。また新しい芽が出てきました」
エリオットが中庭の土をなでると、そこからクリスタルのように輝く花々が次々と咲き誇る。
ヴィクトールの魔力を栄養とし、エリオットの意志で形を成す「共鳴の花」だ。
殺風景だった塔の周囲は、今や一年中花が絶えない幻想的な楽園へと姿を変えていた。
「お前の力が、この塔の呪いさえも塗り替えてしまったな」
背後からヴィクトールが歩み寄り、エリオットの細い腰を当然のように抱き寄せた。
ヴィクトールはエリオットの肩に顎を乗せ、その白い首筋に鼻先を寄せて深く呼吸する。
「あ……っ、くすぐったいです、ヴィクトール様」
「お前からは、いつも私の魔力と、この花の甘い香りがする。……たまらなく、私の独占欲を刺激するんだ」
ヴィクトールの声は、出会った頃の冷徹さが嘘のように、熱を帯びて甘い。
彼はエリオットを振り向かせると、その指先に付いた土をそっと拭い、代わりに自分の魔力を指先から流し込んだ。
「……っ、ん……。また、そんな風に……。今はお花に魔法をかけていたのに」
「花よりも、私を見ろ。……エリオット、最近のお前は、外の世界へ戻りたいとは微塵も思わないのか?」
ふと、ヴィクトールの瞳にわずかな不安がよぎった。
かつては「光の聖騎士」として大衆の憧憬を浴びていた男だ。こんな隠者のような生活に、いつか飽きてしまうのではないか。
そんな攻めの「愛ゆえの脆さ」に気づいたエリオットは、慈しむような微笑みを浮かべ、主の首に腕を回した。
「戻りたい場所なんて、どこにもありません。……僕は、あなたの隣にいる時が、一番自分らしくいられるんです。ヴィクトール様こそ、僕のような元騎士に、この塔を占領されて嫌ではありませんか?」
「嫌なものか。むしろ、この塔そのものをお前で満たし、お前を永遠にここに閉じ込めておきたいくらいだ」
ヴィクトールの唇が、エリオットの唇を深く、吸い付くように塞いだ。
共鳴する魔力が二人の周囲で渦を巻き、花々が祝福するように光り輝く。
二人の生活は、もはや「主と奴隷」ではなく、互いの欠けた魂を補い合う「つがい」そのものだった。
しかし、平和な楽園に、新たな影が忍び寄る。
王国を追放されたエリオットの「実家」の者たちが、落ちぶれた生活から脱却するために、エリオットを「家宝」として売り飛ばそうと画策を始めていたのだ。
「……エリオット、お前の過去の残滓が、まだ掃除しきれていなかったようだな」
ヴィクトールの紅い瞳が、不穏な魔力の接近を察知して鋭く光った。
エリオットは、もう怯えなかった。ヴィクトールの隣で、彼は自らの意志で戦う覚悟を決めていたからだ。
だが今、そこはエリオットの銀色の魔力とヴィクトールの漆黒の魔力が溶け合い、奇跡のような光景が広がっていた。
「……ふふ、見てくださいヴィクトール様。また新しい芽が出てきました」
エリオットが中庭の土をなでると、そこからクリスタルのように輝く花々が次々と咲き誇る。
ヴィクトールの魔力を栄養とし、エリオットの意志で形を成す「共鳴の花」だ。
殺風景だった塔の周囲は、今や一年中花が絶えない幻想的な楽園へと姿を変えていた。
「お前の力が、この塔の呪いさえも塗り替えてしまったな」
背後からヴィクトールが歩み寄り、エリオットの細い腰を当然のように抱き寄せた。
ヴィクトールはエリオットの肩に顎を乗せ、その白い首筋に鼻先を寄せて深く呼吸する。
「あ……っ、くすぐったいです、ヴィクトール様」
「お前からは、いつも私の魔力と、この花の甘い香りがする。……たまらなく、私の独占欲を刺激するんだ」
ヴィクトールの声は、出会った頃の冷徹さが嘘のように、熱を帯びて甘い。
彼はエリオットを振り向かせると、その指先に付いた土をそっと拭い、代わりに自分の魔力を指先から流し込んだ。
「……っ、ん……。また、そんな風に……。今はお花に魔法をかけていたのに」
「花よりも、私を見ろ。……エリオット、最近のお前は、外の世界へ戻りたいとは微塵も思わないのか?」
ふと、ヴィクトールの瞳にわずかな不安がよぎった。
かつては「光の聖騎士」として大衆の憧憬を浴びていた男だ。こんな隠者のような生活に、いつか飽きてしまうのではないか。
そんな攻めの「愛ゆえの脆さ」に気づいたエリオットは、慈しむような微笑みを浮かべ、主の首に腕を回した。
「戻りたい場所なんて、どこにもありません。……僕は、あなたの隣にいる時が、一番自分らしくいられるんです。ヴィクトール様こそ、僕のような元騎士に、この塔を占領されて嫌ではありませんか?」
「嫌なものか。むしろ、この塔そのものをお前で満たし、お前を永遠にここに閉じ込めておきたいくらいだ」
ヴィクトールの唇が、エリオットの唇を深く、吸い付くように塞いだ。
共鳴する魔力が二人の周囲で渦を巻き、花々が祝福するように光り輝く。
二人の生活は、もはや「主と奴隷」ではなく、互いの欠けた魂を補い合う「つがい」そのものだった。
しかし、平和な楽園に、新たな影が忍び寄る。
王国を追放されたエリオットの「実家」の者たちが、落ちぶれた生活から脱却するために、エリオットを「家宝」として売り飛ばそうと画策を始めていたのだ。
「……エリオット、お前の過去の残滓が、まだ掃除しきれていなかったようだな」
ヴィクトールの紅い瞳が、不穏な魔力の接近を察知して鋭く光った。
エリオットは、もう怯えなかった。ヴィクトールの隣で、彼は自らの意志で戦う覚悟を決めていたからだ。
10
あなたにおすすめの小説
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
俺の婚約者は悪役令息ですか?
SEKISUI
BL
結婚まで後1年
女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン
ウルフローレンをこよなく愛する婚約者
ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい
そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる