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3話
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神殿での生活は、僕のこれまでの人生を塗りつぶすほどに穏やかで、贅沢なものだった。
ふかふかの寝台、温かい食事、そして何よりも、僕の一挙一動を愛おしげに見守るクロム様の存在。
けれど、そんな夢のような日々に、ある異変が忍び寄っていた。
「……はぁ、……っ、あつい……」
その日の午後、図書室でクロム様に読み聞かせをしてもらっていた僕は、急激な体温の上昇に襲われた。
最初は、部屋の暖炉が効きすぎているのだと思った。
けれど、体の内側からせり上がってくる熱は、ただの室温のせいではない。
下腹部が鈍く疼き、頭がぼうっと霞んでいく。
肌が過敏になり、纏っている絹の衣類が擦れるだけで、背筋に甘い震えが走った。
「ナギ……? どうしたんだい、顔が真っ赤だ」
クロム様が本を閉じ、僕の額に手を触れた。
その冷たいはずの掌が、今の僕には焼け付くような熱源に感じられる。
「あ……く、クロム……さま……」
自分の口から漏れた声が、あまりにも熱っぽく、艶を含んでいて、自分でも驚いた。
クロム様の真紅の瞳が、一瞬で鋭いスリット状に変化する。
彼から放たれる、圧倒的な『アルファ』の圧。
それが、僕の中に眠っていたΩの本能を、容赦なく叩き起こした。
「……ああ、そうか。初めての発情期(ヒート)が来たんだね」
クロム様の声が、一段と低く、深く響く。
彼は僕の腰を抱き寄せ、そのまま首筋に鼻を押し当てた。
「……くっ、なんて……なんて甘い匂いだ。神殿中の空気が、君の匂いで書き換えられていくよ」
クン、と深く匂いを嗅がれ、僕は腰が抜けるような感覚に襲われた。
Ωの匂い――。
村では「獣を呼び寄せる汚らわしい臭い」と言われていたものが、クロム様にとっては極上のご馳走であるかのように、彼は恍惚とした表情を浮かべている。
「……あ、あ、……だめ、……はずかしい……っ」
「恥ずかしがることはないよ。これは君が僕を求めている証拠なんだから。……ねえ、ナギ。僕に、君のすべてを預けてくれるかい?」
クロム様の手が、僕の着物の合わせ目に忍び込む。
触れられた肌から、強烈な快楽の火花が散った。
理性が「まだ早い」と叫んでいるのに、体は正直だった。
僕は彼の広い胸に縋り付き、自分から彼の香りを求めて首を伸ばした。
「……たすけて、クロム様……熱くて、おかしくなりそう……」
「助けてあげるよ。……でも、僕に抱かれたら、もう二度と離してあげられない。……それでもいいかな?」
逃げ場を塞ぐような、恐ろしいほどの執着を孕んだ問いかけ。
けれど、熱に浮かされた僕には、その独占欲こそが世界で一番甘い蜜のように感じられた。
「……いい、です……っ。僕を、クロム様のものに、して……」
その言葉が合図だった。
クロム様は僕を力強く抱き上げると、寝室へと向かった。
寝台に沈められ、見上げるクロム様の姿は、もう「優しい保護者」ではなかった。
獲物を狙う、剥き出しの捕食者――『男』の目だった。
「愛しているよ、ナギ。……君のすべてを、僕の中に刻み込ませて」
重なり合う体温の中で、僕は初めて、自分が『番』として生きる運命を受け入れた。
外の世界なんて、もうどうでもいい。
この神殿という名の檻の中で、僕は彼という名の、甘い毒に溺れていく道を選んだんだ。
それは、痛みと悦びが混ざり合う、永劫の契約の始まりだった。
ふかふかの寝台、温かい食事、そして何よりも、僕の一挙一動を愛おしげに見守るクロム様の存在。
けれど、そんな夢のような日々に、ある異変が忍び寄っていた。
「……はぁ、……っ、あつい……」
その日の午後、図書室でクロム様に読み聞かせをしてもらっていた僕は、急激な体温の上昇に襲われた。
最初は、部屋の暖炉が効きすぎているのだと思った。
けれど、体の内側からせり上がってくる熱は、ただの室温のせいではない。
下腹部が鈍く疼き、頭がぼうっと霞んでいく。
肌が過敏になり、纏っている絹の衣類が擦れるだけで、背筋に甘い震えが走った。
「ナギ……? どうしたんだい、顔が真っ赤だ」
クロム様が本を閉じ、僕の額に手を触れた。
その冷たいはずの掌が、今の僕には焼け付くような熱源に感じられる。
「あ……く、クロム……さま……」
自分の口から漏れた声が、あまりにも熱っぽく、艶を含んでいて、自分でも驚いた。
クロム様の真紅の瞳が、一瞬で鋭いスリット状に変化する。
彼から放たれる、圧倒的な『アルファ』の圧。
それが、僕の中に眠っていたΩの本能を、容赦なく叩き起こした。
「……ああ、そうか。初めての発情期(ヒート)が来たんだね」
クロム様の声が、一段と低く、深く響く。
彼は僕の腰を抱き寄せ、そのまま首筋に鼻を押し当てた。
「……くっ、なんて……なんて甘い匂いだ。神殿中の空気が、君の匂いで書き換えられていくよ」
クン、と深く匂いを嗅がれ、僕は腰が抜けるような感覚に襲われた。
Ωの匂い――。
村では「獣を呼び寄せる汚らわしい臭い」と言われていたものが、クロム様にとっては極上のご馳走であるかのように、彼は恍惚とした表情を浮かべている。
「……あ、あ、……だめ、……はずかしい……っ」
「恥ずかしがることはないよ。これは君が僕を求めている証拠なんだから。……ねえ、ナギ。僕に、君のすべてを預けてくれるかい?」
クロム様の手が、僕の着物の合わせ目に忍び込む。
触れられた肌から、強烈な快楽の火花が散った。
理性が「まだ早い」と叫んでいるのに、体は正直だった。
僕は彼の広い胸に縋り付き、自分から彼の香りを求めて首を伸ばした。
「……たすけて、クロム様……熱くて、おかしくなりそう……」
「助けてあげるよ。……でも、僕に抱かれたら、もう二度と離してあげられない。……それでもいいかな?」
逃げ場を塞ぐような、恐ろしいほどの執着を孕んだ問いかけ。
けれど、熱に浮かされた僕には、その独占欲こそが世界で一番甘い蜜のように感じられた。
「……いい、です……っ。僕を、クロム様のものに、して……」
その言葉が合図だった。
クロム様は僕を力強く抱き上げると、寝室へと向かった。
寝台に沈められ、見上げるクロム様の姿は、もう「優しい保護者」ではなかった。
獲物を狙う、剥き出しの捕食者――『男』の目だった。
「愛しているよ、ナギ。……君のすべてを、僕の中に刻み込ませて」
重なり合う体温の中で、僕は初めて、自分が『番』として生きる運命を受け入れた。
外の世界なんて、もうどうでもいい。
この神殿という名の檻の中で、僕は彼という名の、甘い毒に溺れていく道を選んだんだ。
それは、痛みと悦びが混ざり合う、永劫の契約の始まりだった。
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