生贄のオメガは孤独な黒龍に愛の刻印を刻まれる

たら昆布

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4話

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 嵐のような数日間が過ぎ、僕の初めての発情期(ヒート)は幕を閉じた。
 
 けれど、目が覚めた僕を待っていたのは、以前よりもさらに「密度」の増したクロム様の愛だった。
 
「……クロム、様。あの、そろそろ下ろしてくれませんか?」
「だめだよ。まだ体力が戻っていないだろう? 君に何かあったら、僕は自分を許せない」
 
 目覚めてからというもの、僕は一度も地面に足を着かせてもらっていない。
 食事はもちろん、着替えも、さらには移動することさえ、すべてクロム様の腕の中だ。
 
 彼は僕を「番」として繋いだことで、自分でも制御できないほどの独占欲を爆発させているようだった。
 僕が少しでも視線を逸らせば、不安そうに僕の髪を撫で、何度も何度も唇を重ねてくる。
 
「でも、少しは歩かないと……。今日は外がとても綺麗だから、お庭を見てみたいんです」
 
 窓の外には、粉砂糖を振りかけたような美しい雪景色が広がっていた。
 神殿の回廊から見える庭園は、静寂に包まれていて、どこか神秘的だ。
 
「……。ナギがどうしてもと言うなら。けれど、僕の側を離れないと約束して」
 
 渋々といった様子で、クロム様は僕を厚手の毛皮で何重にも包み込み、抱きかかえたまま回廊へと向かった。
 結局、歩かせてはくれないみたいだ。
 
 外気は冷たいはずなのに、クロム様の腕の中は驚くほど温かかった。
 白銀の世界を眺めていると、ふと、庭の片隅にある茂みが小さく揺れた。
 
「……? クロム様、あそこに何かいます」
「……野生の獣かな。放っておきなさい。君を驚かせるようなら、僕が追い払うよ」
「待ってください! なんだか、弱っているみたいなんです」
 
 僕はクロム様の腕から滑り落ちるようにして、雪の上に着地した。
 慌てて追いかけてくる彼の制止も聞かず、茂みに近寄る。
 
 そこには、雪と同じくらい真っ白で、もふもふとした毛並みの小さな生き物が丸まっていた。
 雪豹の子供だろうか。
 けれど、その背中には小さな翼のようなものが見える。
 
「……きゅう、……うぅ……」
「まぁ、可哀想に。凍えているの……?」
 
 僕がそっと手を差し伸べると、その子は怯えるように身を縮めた。
 でも、僕の中に眠る「植物や命の気配を感じる力」が、その子の警戒を少しずつ解いていく。
 
「大丈夫だよ、怖くないよ」
 
 僕が抱き上げると、その子は僕の胸に顔を埋め、小さな声で鳴いた。
 驚くほど軽くて、儚い命の鼓動。
 
「ナギ、危ないから僕に渡しなさい。得体の知れない生き物に触れるのは……」
「クロム様、お願いです! この子、お母さんとはぐれちゃったみたいなんです。見捨てられません……」
 
 僕が必死に訴えると、クロム様はひどく不機嫌そうに眉を寄せた。
 彼は、僕が自分以外の何かに意識を向けることが、たまらなく気に入らないようだった。
 
「…………。その生き物が、君に危害を加えないと誓うなら、置いておくことを許そう」
「本当ですか!? よかった……ねぇ、君。今日から君の名前は『テト』だよ」
 
 僕がそう呼ぶと、白い子豹――テトは、嬉しそうに僕の頬をぺろりと舐めた。
 
「あっ、こら、テト! くすぐったいよ」
 
 笑う僕を、クロム様が鋭い目で見つめていた。
 
「ナギ……。その獣に触れるのはいいけれど、僕への奉仕を忘れないで。今夜は、たっぷり可愛がってあげるからね」
 
 耳元で囁かれた低く甘い声。
 テトを抱きしめる僕の腰に、クロム様の強い腕が回される。
 
 新しい家族(?)が増えた喜びと、さらに深まるクロム様の独占欲。
 僕の神殿での生活は、ますます賑やかで、そして逃げ場のないほど甘いものになっていくのだった。
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