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5話
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「……ナギ。そろそろ、その獣を離したらどうだい?」
神殿の広間。暖炉の火が爆ぜる音と共に、クロム様の低く、冷ややかな声が響いた。
僕は今、絨毯の上に座り込んで、テトの毛並みをブラッシングしているところだった。
「でも、テトはまだブラッシングが好きみたいで……。ね、テト?」
「きゅう! きゅうぅん」
テトは嬉しそうに喉を鳴らし、僕の膝に頭を擦りつけてくる。
その愛らしい仕草に、つい僕の顔も綻んでしまう。
「……ふん。僕にはそんな風に笑いかけないくせに」
「えっ? クロム様、今何か言いましたか?」
顔を上げると、そこには頬杖をつき、見たこともないほど不機嫌そうに唇を尖らせたクロム様がいた。
その真紅の瞳は、僕を独占したいという剥き出しの欲求で揺れている。
「何でもないよ。……ただ、僕が君のために用意した最高級の絹よりも、その獣の毛の方が心地いいのかと、少し悲しくなっただけだ」
……悲しくなったって。
この世の覇者とも言える龍神様が、小さな子豹相手に本気で嫉妬している。
その様子があまりに子供っぽくて、けれど僕への愛が深すぎるゆえのことだと分かり、胸の奥がキュンと痛んだ。
「すみません、クロム様。テトが可愛くて、つい夢中になっちゃって……。そうだ、お詫びと言ってはなんですけど、今夜は僕に夕食を作らせてもらえませんか?」
「君が、料理を……?」
クロム様が意外そうに眉を上げた。
この神殿には魔法で動く調理器具や、クロム様の使い魔たちが用意する完璧な食事が揃っている。僕がわざわざ台所に立つ必要なんて、本来はないのだけれど。
「はい。村にいた頃、いつも地下室でいろんな野草や食材を工夫して料理していたんです。クロム様に、僕の味を食べてほしくて」
僕がそう言うと、クロム様の表情が一変した。
不機嫌な霧が晴れ、代わりに熱烈な喜びの光が瞳に宿る。
「ナギが、僕のために……? ああ、それは素晴らしい。ぜひ、いただこう。……僕のナギが作る料理を独占できるなんて、最高の贅沢だね」
許可をもらった僕は、さっそく神殿の奥にある見事な厨房へと向かった。
用意したのは、冷えた体を芯から温める、野菜たっぷりの黄金色のポタージュスープ。
村では手に入らなかった新鮮な乳製品や香草を使い、心を込めて煮込んでいく。
しばらくして、厨房いっぱいに甘く香ばしい匂いが立ち込めた。
「きゅうー!」
「テト、まだだよ。……さあ、クロム様。どうぞ」
食卓に並べられたスープを見て、クロム様は神妙な面持ちで一口口にした。
「……。ナギ」
「あ、あの……お口に合いませんでしたか?」
不安になって顔を覗き込むと、クロム様はそのまま僕の手を掴み、力強く引き寄せた。
そのまま、僕は彼の膝の上に抱き上げられる。
「美味しすぎる。……こんなものを知ってしまったら、僕はもう、一生君の手料理以外受け付けられなくなってしまう。どうしてくれるんだい?」
「あはは……。それなら、毎日僕が作りますよ」
「毎日……。いい響きだ。ああ、ナギ。君は本当に、僕を狂わせる天才だね」
クロム様はスープを飲み終えると、テトが見ているのも構わず、僕の首筋に深く顔を埋めた。
「……スープよりも、君の方がずっと美味しそうな匂いがする。今夜は、君をデザートにしてもいいかな?」
耳元で囁かれた官能的な声に、僕の体は一瞬で熱くなった。
「クロム様、テトが見てます……っ」
「構わないよ。この家で誰が一番君を愛しているか、その獣にも教え込んであげないといけないからね」
クロム様の独占欲は、お腹を満たしてもなお、増していくばかりだった。
僕は彼の腕の中で、逃げられない悦びに震えながら、その熱い口付けを受け入れた。
神殿の広間。暖炉の火が爆ぜる音と共に、クロム様の低く、冷ややかな声が響いた。
僕は今、絨毯の上に座り込んで、テトの毛並みをブラッシングしているところだった。
「でも、テトはまだブラッシングが好きみたいで……。ね、テト?」
「きゅう! きゅうぅん」
テトは嬉しそうに喉を鳴らし、僕の膝に頭を擦りつけてくる。
その愛らしい仕草に、つい僕の顔も綻んでしまう。
「……ふん。僕にはそんな風に笑いかけないくせに」
「えっ? クロム様、今何か言いましたか?」
顔を上げると、そこには頬杖をつき、見たこともないほど不機嫌そうに唇を尖らせたクロム様がいた。
その真紅の瞳は、僕を独占したいという剥き出しの欲求で揺れている。
「何でもないよ。……ただ、僕が君のために用意した最高級の絹よりも、その獣の毛の方が心地いいのかと、少し悲しくなっただけだ」
……悲しくなったって。
この世の覇者とも言える龍神様が、小さな子豹相手に本気で嫉妬している。
その様子があまりに子供っぽくて、けれど僕への愛が深すぎるゆえのことだと分かり、胸の奥がキュンと痛んだ。
「すみません、クロム様。テトが可愛くて、つい夢中になっちゃって……。そうだ、お詫びと言ってはなんですけど、今夜は僕に夕食を作らせてもらえませんか?」
「君が、料理を……?」
クロム様が意外そうに眉を上げた。
この神殿には魔法で動く調理器具や、クロム様の使い魔たちが用意する完璧な食事が揃っている。僕がわざわざ台所に立つ必要なんて、本来はないのだけれど。
「はい。村にいた頃、いつも地下室でいろんな野草や食材を工夫して料理していたんです。クロム様に、僕の味を食べてほしくて」
僕がそう言うと、クロム様の表情が一変した。
不機嫌な霧が晴れ、代わりに熱烈な喜びの光が瞳に宿る。
「ナギが、僕のために……? ああ、それは素晴らしい。ぜひ、いただこう。……僕のナギが作る料理を独占できるなんて、最高の贅沢だね」
許可をもらった僕は、さっそく神殿の奥にある見事な厨房へと向かった。
用意したのは、冷えた体を芯から温める、野菜たっぷりの黄金色のポタージュスープ。
村では手に入らなかった新鮮な乳製品や香草を使い、心を込めて煮込んでいく。
しばらくして、厨房いっぱいに甘く香ばしい匂いが立ち込めた。
「きゅうー!」
「テト、まだだよ。……さあ、クロム様。どうぞ」
食卓に並べられたスープを見て、クロム様は神妙な面持ちで一口口にした。
「……。ナギ」
「あ、あの……お口に合いませんでしたか?」
不安になって顔を覗き込むと、クロム様はそのまま僕の手を掴み、力強く引き寄せた。
そのまま、僕は彼の膝の上に抱き上げられる。
「美味しすぎる。……こんなものを知ってしまったら、僕はもう、一生君の手料理以外受け付けられなくなってしまう。どうしてくれるんだい?」
「あはは……。それなら、毎日僕が作りますよ」
「毎日……。いい響きだ。ああ、ナギ。君は本当に、僕を狂わせる天才だね」
クロム様はスープを飲み終えると、テトが見ているのも構わず、僕の首筋に深く顔を埋めた。
「……スープよりも、君の方がずっと美味しそうな匂いがする。今夜は、君をデザートにしてもいいかな?」
耳元で囁かれた官能的な声に、僕の体は一瞬で熱くなった。
「クロム様、テトが見てます……っ」
「構わないよ。この家で誰が一番君を愛しているか、その獣にも教え込んであげないといけないからね」
クロム様の独占欲は、お腹を満たしてもなお、増していくばかりだった。
僕は彼の腕の中で、逃げられない悦びに震えながら、その熱い口付けを受け入れた。
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