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7話
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ヴォルグが意識を取り戻してから、神殿の空気は少しだけ変わった。
傷が癒え始めたヴォルグは、クロム様との誓約通り、僕の「護衛」として常に数歩後ろに控えるようになった。寡黙で、岩のようにどっしりとした彼が背後にいるのは心強いけれど……。
「ヴォルグさん、あまり無理しないでくださいね。まだ傷が開いたら大変ですから。これ、滋養にいい薬草を使った特製のクッキーです。食べてください」
「……ナギ様。……勿体なきお言葉。……ありがたく、頂戴する」
ヴォルグが大きな手で、壊れ物を扱うようにクッキーを受け取る。
その瞬間、背後から突き刺さるような視線を感じて、僕は背筋を凍らせた。
「……ナギ。僕には?」
振り返ると、そこには豪華な長椅子に深く腰掛けたクロム様が、これ以上ないほど不機嫌な顔でこちらを凝視していた。
「あ、クロム様。もちろんありますよ。はい、どうぞ」
「いらない。……自分で食べるのは、もう飽きた」
クロム様は、ふいっと顔を背けてしまった。
……あ、これは、かなり拗ねている。
テトに続き、ヴォルグさんにまで優しくしたのが気に入らないんだ。
「クロム様……。じゃあ、どうすればいいですか?」
「わかっているだろう? こっちにおいで」
有無を言わせない力強い視線。
僕はヴォルグさんに軽く頭を下げてから、クロム様の元へ歩み寄った。
すると、彼は僕の手を強引に引き、自分の膝の上にナギを抱き上げた。
「く、クロム様! ヴォルグさんが見てます……っ」
「構わない。こいつは僕の影であり、僕の所有物だ。主(あるじ)が番をどう愛でようと、文句を言う筋合いはない」
クロム様はヴォルグを冷たく一瞥すると、僕の耳元に唇を寄せた。
「ナギ、あーん。……君の手からじゃないと、僕は毒を飲まされた気分だ」
「もう……極端ですよ」
僕は赤面しながらも、クッキーを一口分、彼の唇へと運んだ。
クロム様はそれを、僕の指先まで軽く食むようにして受け取った。
わざとらしいほど、熱っぽく、艶めかしい仕草。
ヴォルグさんに見せつけているのが丸わかりだった。
「ふむ……。ナギの愛が籠もっていて、格別に甘いね。……だが、足りない」
「えっ?」
次の瞬間、視界がぐるりと回った。
クロム様が僕を抱き上げたまま立ち上がり、大股で寝室へと向かい始めたのだ。
「クロム様!? まだお昼ですよ!?」
「関係ない。……ヴォルグ。これより先は、何があっても、何を聞いても入ってくるな。……いいな?」
「……御意」
ヴォルグさんが深々と頭を下げる音が聞こえた。
寝室の重厚な扉が閉じられ、鍵がかかる。
「ナギ。君が他の誰かに微笑むたび、僕の胸は嫉妬で焼き切れそうになるんだ。……そんな悪い子には、僕のことしか考えられないように、たっぷり『教育』し直さないといけないね」
クロム様の真紅の瞳が、暗い欲望を湛えて細められる。
シーツに押し倒され、彼に覆い被さられた瞬間、僕は悟った。
この龍神様にとって、僕は単なる番ではない。
一秒たりとも離したくない、呼吸さえも自分の一部であってほしいという、狂気的なまでの執着の対象なのだ。
「……クロム、さま……」
「名前を呼んで。……僕以外のすべてを忘れるまで、愛してあげるよ」
逃げ場のない檻の中で、僕は再び、彼という名の熱い奔流に飲み込まれていった。
傷が癒え始めたヴォルグは、クロム様との誓約通り、僕の「護衛」として常に数歩後ろに控えるようになった。寡黙で、岩のようにどっしりとした彼が背後にいるのは心強いけれど……。
「ヴォルグさん、あまり無理しないでくださいね。まだ傷が開いたら大変ですから。これ、滋養にいい薬草を使った特製のクッキーです。食べてください」
「……ナギ様。……勿体なきお言葉。……ありがたく、頂戴する」
ヴォルグが大きな手で、壊れ物を扱うようにクッキーを受け取る。
その瞬間、背後から突き刺さるような視線を感じて、僕は背筋を凍らせた。
「……ナギ。僕には?」
振り返ると、そこには豪華な長椅子に深く腰掛けたクロム様が、これ以上ないほど不機嫌な顔でこちらを凝視していた。
「あ、クロム様。もちろんありますよ。はい、どうぞ」
「いらない。……自分で食べるのは、もう飽きた」
クロム様は、ふいっと顔を背けてしまった。
……あ、これは、かなり拗ねている。
テトに続き、ヴォルグさんにまで優しくしたのが気に入らないんだ。
「クロム様……。じゃあ、どうすればいいですか?」
「わかっているだろう? こっちにおいで」
有無を言わせない力強い視線。
僕はヴォルグさんに軽く頭を下げてから、クロム様の元へ歩み寄った。
すると、彼は僕の手を強引に引き、自分の膝の上にナギを抱き上げた。
「く、クロム様! ヴォルグさんが見てます……っ」
「構わない。こいつは僕の影であり、僕の所有物だ。主(あるじ)が番をどう愛でようと、文句を言う筋合いはない」
クロム様はヴォルグを冷たく一瞥すると、僕の耳元に唇を寄せた。
「ナギ、あーん。……君の手からじゃないと、僕は毒を飲まされた気分だ」
「もう……極端ですよ」
僕は赤面しながらも、クッキーを一口分、彼の唇へと運んだ。
クロム様はそれを、僕の指先まで軽く食むようにして受け取った。
わざとらしいほど、熱っぽく、艶めかしい仕草。
ヴォルグさんに見せつけているのが丸わかりだった。
「ふむ……。ナギの愛が籠もっていて、格別に甘いね。……だが、足りない」
「えっ?」
次の瞬間、視界がぐるりと回った。
クロム様が僕を抱き上げたまま立ち上がり、大股で寝室へと向かい始めたのだ。
「クロム様!? まだお昼ですよ!?」
「関係ない。……ヴォルグ。これより先は、何があっても、何を聞いても入ってくるな。……いいな?」
「……御意」
ヴォルグさんが深々と頭を下げる音が聞こえた。
寝室の重厚な扉が閉じられ、鍵がかかる。
「ナギ。君が他の誰かに微笑むたび、僕の胸は嫉妬で焼き切れそうになるんだ。……そんな悪い子には、僕のことしか考えられないように、たっぷり『教育』し直さないといけないね」
クロム様の真紅の瞳が、暗い欲望を湛えて細められる。
シーツに押し倒され、彼に覆い被さられた瞬間、僕は悟った。
この龍神様にとって、僕は単なる番ではない。
一秒たりとも離したくない、呼吸さえも自分の一部であってほしいという、狂気的なまでの執着の対象なのだ。
「……クロム、さま……」
「名前を呼んで。……僕以外のすべてを忘れるまで、愛してあげるよ」
逃げ場のない檻の中で、僕は再び、彼という名の熱い奔流に飲み込まれていった。
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