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18話
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嵐は去った。
深淵の魔王を消し去ったあの一撃の後、神殿を包んでいた禍々しい気配は嘘のように消え、代わりに柔らかな陽だまりのような温かさが戻っていた。
僕は地下の聖域で、サリアさんに支えられながら、地上から戻ってきた「彼ら」を待っていた。
「ナギ……!」
階段を駆け下りてきたのは、ボロボロになった黒衣を纏いながらも、その瞳に狂おしいほどの愛を宿したクロム様だった。
彼は僕の姿を見つけるなり、弾かれたように駆け寄り、僕を壊れ物を扱うような手つきで抱きしめた。
「よかった、無事だね……。君に何かあったら、僕は……」
「クロム様……。おかえりなさい。僕も、大丈夫です」
魂の繋がりを通して、彼の安堵が波のように伝わってくる。
けれど、僕の視線はその腕の中に釘付けになっていた。
そこには、先ほどまで白銀の仔龍だったはずの「御子」が、一人の赤ちゃんの姿になって眠っていた。
透き通るような白い肌、柔らかな銀色の髪。
そして何より、クロム様と同じ真紅の瞳を、寝ぼけ眼で少しだけ覗かせている。
「……この子が、僕たちの……」
「ああ。……見てごらん、ナギ。君によく似た、美しい子だ」
クロム様がそっと赤ちゃんを僕の腕に預けてくれた。
抱き上げた瞬間、驚くほどの魔力と、それ以上に圧倒的な「命の重み」を感じて、視界が涙で滲んだ。
「……あ、……ぁ……」
赤ちゃんは僕の胸に顔を寄せると、小さくて温かい手で僕の指をぎゅっと握りしめた。
その瞬間、僕の中にあった不安や痛みが、すべて祝福へと書き換えられていく。
「きゅう! きゅうぅぅん!」
テトが僕の足元で飛び跳ね、ヴォルグさんも静かに膝をついて、新しく産まれた小さな主(あるじ)に敬意を表している。
「……おめでとうございます、ナギ様、主様。……この御子の誕生を、世界中の精霊が祝っております」
「当然だ。僕とナギの愛の結晶なのだからね。……だが、ヴォルグ。……この子がナギの胸で眠るのは、今日だけだ」
……え?
僕が戸惑って顔を上げると、クロム様が赤ちゃんの頬を突きながら、どこか嫉妬深い、けれど蕩けるような甘い表情を浮かべていた。
「ナギ。この子は素晴らしいが……君の温もりを、僕以外が独占しすぎるのは許せない。これからは、僕とこの子で君を奪い合うことになりそうだ」
「もう、自分の子供相手に何を言ってるんですか……」
呆れる僕に、クロム様は構わず僕と赤ちゃんをまとめて抱きかかえ、そのまま寝室へと運んでいく。
「サリア、ヴォルグ。……今日はもう誰も入れるな。三日間は、家族水入らずで過ごさせてもらう。……いいな?」
サリアさんが「はいはい、親馬鹿龍神様」と肩をすくめるのを背に、僕たちは豪華な寝台へと沈められた。
大きな身体で、僕と赤ちゃんを包み込むように横たわるクロム様。
「ナギ。……あの日、谷底で君を拾ったのは、僕の人生で唯一にして最大の正解だった。……もう、どこへも行かせない。君も、この子も。一生、僕の腕の中で愛し抜いてあげる」
それは、龍神様らしい、重くて熱い独占の誓い。
けれど、今の僕には、その束縛こそが世界で一番心地よい居場所に感じられた。
「……はい、クロム様。ずっと、ずっと一緒にいさせてください」
赤ちゃんの柔らかな寝息を聞きながら、僕はクロム様の胸に顔を埋めた。
生贄だった僕の物語は、ここでひとつの結末を迎え、そして新しい「家族」としての、果てしない愛の物語が始まろうとしていた。
深淵の魔王を消し去ったあの一撃の後、神殿を包んでいた禍々しい気配は嘘のように消え、代わりに柔らかな陽だまりのような温かさが戻っていた。
僕は地下の聖域で、サリアさんに支えられながら、地上から戻ってきた「彼ら」を待っていた。
「ナギ……!」
階段を駆け下りてきたのは、ボロボロになった黒衣を纏いながらも、その瞳に狂おしいほどの愛を宿したクロム様だった。
彼は僕の姿を見つけるなり、弾かれたように駆け寄り、僕を壊れ物を扱うような手つきで抱きしめた。
「よかった、無事だね……。君に何かあったら、僕は……」
「クロム様……。おかえりなさい。僕も、大丈夫です」
魂の繋がりを通して、彼の安堵が波のように伝わってくる。
けれど、僕の視線はその腕の中に釘付けになっていた。
そこには、先ほどまで白銀の仔龍だったはずの「御子」が、一人の赤ちゃんの姿になって眠っていた。
透き通るような白い肌、柔らかな銀色の髪。
そして何より、クロム様と同じ真紅の瞳を、寝ぼけ眼で少しだけ覗かせている。
「……この子が、僕たちの……」
「ああ。……見てごらん、ナギ。君によく似た、美しい子だ」
クロム様がそっと赤ちゃんを僕の腕に預けてくれた。
抱き上げた瞬間、驚くほどの魔力と、それ以上に圧倒的な「命の重み」を感じて、視界が涙で滲んだ。
「……あ、……ぁ……」
赤ちゃんは僕の胸に顔を寄せると、小さくて温かい手で僕の指をぎゅっと握りしめた。
その瞬間、僕の中にあった不安や痛みが、すべて祝福へと書き換えられていく。
「きゅう! きゅうぅぅん!」
テトが僕の足元で飛び跳ね、ヴォルグさんも静かに膝をついて、新しく産まれた小さな主(あるじ)に敬意を表している。
「……おめでとうございます、ナギ様、主様。……この御子の誕生を、世界中の精霊が祝っております」
「当然だ。僕とナギの愛の結晶なのだからね。……だが、ヴォルグ。……この子がナギの胸で眠るのは、今日だけだ」
……え?
僕が戸惑って顔を上げると、クロム様が赤ちゃんの頬を突きながら、どこか嫉妬深い、けれど蕩けるような甘い表情を浮かべていた。
「ナギ。この子は素晴らしいが……君の温もりを、僕以外が独占しすぎるのは許せない。これからは、僕とこの子で君を奪い合うことになりそうだ」
「もう、自分の子供相手に何を言ってるんですか……」
呆れる僕に、クロム様は構わず僕と赤ちゃんをまとめて抱きかかえ、そのまま寝室へと運んでいく。
「サリア、ヴォルグ。……今日はもう誰も入れるな。三日間は、家族水入らずで過ごさせてもらう。……いいな?」
サリアさんが「はいはい、親馬鹿龍神様」と肩をすくめるのを背に、僕たちは豪華な寝台へと沈められた。
大きな身体で、僕と赤ちゃんを包み込むように横たわるクロム様。
「ナギ。……あの日、谷底で君を拾ったのは、僕の人生で唯一にして最大の正解だった。……もう、どこへも行かせない。君も、この子も。一生、僕の腕の中で愛し抜いてあげる」
それは、龍神様らしい、重くて熱い独占の誓い。
けれど、今の僕には、その束縛こそが世界で一番心地よい居場所に感じられた。
「……はい、クロム様。ずっと、ずっと一緒にいさせてください」
赤ちゃんの柔らかな寝息を聞きながら、僕はクロム様の胸に顔を埋めた。
生贄だった僕の物語は、ここでひとつの結末を迎え、そして新しい「家族」としての、果てしない愛の物語が始まろうとしていた。
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