戀の再燃〜笑わぬ循環器内科医は幸薄ワンコを永久に手離さない

暁月蛍火

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第3部 あの恋の続きを始める

3-2 ※

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「ひ……っ、先生、やだ……ッ」

 繰り返し見る。

 女が顔を歪ませて、涙を流している。

 それでも手を休めない。汚い感情をぶつけて、吐き出している。細い手首を掴み上げて、自分本位に獣のように食らい付く。

 まるで、夢の中で暴れ回っている自分は化物同然だ。
 泣いても叫んでも、それは加虐心を煽るだけで。

 強制的に絶頂へ連れて行き、息を張り詰めて体をしならせている最中でもガツガツと嵌入を続ける。なんて横暴な行為をしているんだ。

 でも、それが深層心理であったのなら、止める術を知らない。

 喉が枯れるくらい、一頻り否定と喘ぎをした女はぐったりと横たわっていた。汗と、涙と、何方かの物か分からない体液で濡れて。艶かしい。
 ごくりと生唾を飲んで、女の腰を高く上げさせる。ぐっと腰を押し込む。

 女は揺さぶられるがままに、段々と内腿を引き攣らせて内側に傾く。長い髪はシーツに沿って広がっており、頸が不意に見える。歯型の痕と、無数の赤い花弁が散っている。真珠の様な肌だからより色濃く充血が目立つ。

 それなのに、まだひどいことをしている。

 辛い思いをさせて、体格があるのに無茶な体勢で。粟立つ蜜液がじゅぷじゅぷと淫靡な音を立てて責める。

「お願い、もう……ッ、せめて外に……」

 堪らず女はぶるりと体を震わせて膣壁が収斂した。蜜孔から漏れた愛液で膝頭が濡れてもお構い無しに律動を続ける。
 滝が流れるが如く、愛潮が隙間から流れても、結局は蓋をする物があるせいで足の間に水溜りを作るだけだった。
 全部搾り取るくらいの締め付けに、なんだか抑揚すら感じて。口角が上がった気がした。

 指で女の柔らかな臀部を左右に押し退けると、蜜孔にすっぽりと埋もれる姿がどうも腹奥が疼く光景だったらしい。

 畝る膣壁は襞がしっかりと最賀を捉えて、形を記憶している。抽挿を繰り返すと美味しそうに飲み込んだり顔を出したりと、蜜液が絡んだ。

「ひ、……ッぁ、あ……許して、下さいぃ……」

 肌と肌が鳴るくらいの打擲音と、昂る己の芯熱、そして支配欲。
 未だに余韻で身を震わせて連続的に快楽を与えられる女の両肘を掴んで体を起こした。足を少し肩幅くらいに開かせて、再開する。

 胸元が抽挿の度に揺れている。されるがままに揺さぶられている。甘く甲高い声が出ると海老反りに背中をしならせて白い喉を曝け出した時、同時に弾けた。

 腰を押し付け収縮に合わせて、最後の一滴まで無意識に吐き出す。
 前に徐に倒れた女は腰をガクガクと震わせて、丸い臀を晒したとき。蜜孔から白濁が止めどなく溢れて腿を伝っている。
 最賀は最低な行為をしたのだと、そこで初めて我に返ったのである。

「………っは、あ……?」

 最賀は吐精をしたばかりの沸騰した頭が段々と冷えていくのが分かった。嘘だと叫びたい。

「本当は有無を言わさず滅茶苦茶にしたかったんでしょう?」

 震えた声で振り向いた女は哀しげだ。涙で滲んだ溢れそうなほどの大きな瞳が揺らいでいる。

「ち、がう……こんな酷いこと、したかったわけじゃない」

「じゃあどうして止めてくれなかったんですか?」

「違う! これは俺の意思じゃ……夢なんだろう、早く、早く醒めてくれ……っこんなの……間違ってる……」

 女の体を乱暴にして、どう思った?

 気持ち良い以前に、掌握したんだと恍惚な強い感情に襲われた。女の隅々まで知り尽くし、何処を触って何をすれば甘い声が聴けるのかだとか。
 此処を摩ってやれば、腰を揺らして愛潮を出し、羞恥心に顔を紅潮させて涙する顔が可愛くてやめられない、とか。

 考えれば考えるほど、最低なことばかり頭に浮かぶ。

 あわよくば、手を縛って不自由にして滅茶苦茶にしたい。煽状的な表情で、名前を頻りに呼んで快楽を貪り合いたいなんて。

「お願いだ、こんな酷いこと……夢の中でも嫌だ……」

 ──夢の中でも優しく出来ないなんて!

 それからは暫く、夢から覚めて欲しくて何度も顔を己で殴ったり痛み刺激を繰り返したが残酷なことに夢は長かった。思ったよりも執拗に最賀を追い詰めたいようだ。

 女はゆっくりと体を起こして、最賀へ跨る。柔らかな肢体が晒されており、肌がひたりと触れる。最賀の首筋に女は顔を埋めて甘える素振りを今度は見せるのだ。





「酷いことをしてでも、引き留めて、手篭めにするのは簡単だったのに……どうして?」





 寝汗で背中はびっしょりだった。けたたましいアラーム音がスムーズを何度か繰り返していた。

「はは……やっと、醒めた、夢だよ、あれは……俺はあんなことしてでも、引き留めたかったのか?」

 最低だ、愚図だ。あまりの自分の闇が黒過ぎて、思わず嘔吐してしまった。
 嗚咽を漏らして、何度か堪らずシーツを力強く掴んで嘔吐反射に対抗する。数回波が収まるまで繰り返して、漸く水分すらも出切った胃液と吐瀉物の残骸と向き合った。

 滑稽だな、と自虐的に嘲笑しないと、罰が下ったのだとすら悲観的になるからだ。

 女の手が離れても、追い掛ければ良かったのに。 

 扉が閉まるのをただ見届けて、過ぎ去る電車が見えなくなるまで立ち尽くしていたあの日。最賀は愛する人を失ったのだと死にたくなった。
 灰色の世界は無情にも最賀を孤独にしたし、何なら世間の目は刃と化して容赦無く襲う。

 何も考えてなかったわけじゃあない。

 下手したら、全てを失いかけた女が最後に助けを求めて手を伸ばすのは自分だと、信じていたのである。

 だから、見知らぬ土地で体を休めて、ほとぼとり冷めたら退職代行を使って辞めてしまえば良い。

 暫く二人の時間を過ごして、何処か当直のないクリニックか救急外来のない病院へ転職すれば。そんな浅はかなくらい、最賀は浮かれていたのかもしれない。

 そこまで執着する職場でも、やり甲斐も無く使い勝手の良い中堅ドクターだったのだから。
 替えは幾らでも居るのだ。俺じゃあなくて良い、でも彼女には俺が必要なのだと心の底では強く疑いもしなかった。


 俺が、陽菜を必要としていたのだから。


 女が手を離そうとした時、赤子を捻り上げる要領で女を引き留めることなんか簡単なはずだった。男と力では絶対に敵わないし、無理矢理にでも部屋へ押し込むことも。

 己の意志で、最賀へついて来てほしかったのだ。

 ただ最賀の勝手で、手を掴まれて歩くようならば途中で歩みを止めることを嫌と言うほど知っていたからだった。
 拒絶を表した顔で私の意思ではないと何度も立ち去られても、最賀は気にも留めなかったのに。

 女の前では弱い男に成り下がる。自信が見る見るうちに無くなって、萎んだ風船と同じく非力になる。

 だから、足が鉛の様に重く、追い掛けられなかった。

「天罰なのか、今更……俺を痛めつけたところで、埃しか出てこないのにな」

 胃も相変わらず痛いし、顔色だって悪い。処方された薬を飲んでいると、あってない様な有給を使ったのに携帯が鳴り響く。

「──はい、ああ……わかり、ました。向かいます」

 担当患者が急に心筋梗塞でオペ適応になったらしい。
 本当に欲しいものは、手に入らない。喉が渇いて渇いて仕方がないのだ。

 蒼白い顔のまま、打刻を済ませて処置に取り掛かろうと粉付きグローブを手に病棟へ向かうと。見知った顔が詰所にひょっこりと出ていた。

 ごった返しの中で、一瞬耳障りな騒がしいナースコールや電子カルテを叩くキーボード音、心電図の波形を移すモニター音。全てがほんの数秒、無音になった気がした。

 老年の医師は、相変わらず清潔感のある白シャツに黒のスラックスとシンプルな装いだった。
 結婚三十周年に贈られた、唯一ブランド物の時計を身に付けており、数年ぶりの再会では貫禄さが増した面持ちだ。

「……飯田先生?」

「やあ、最賀君。元気だったかい?」

「すみません、呼び出しで今来たばかりで……」

 遠くで、最賀を呼ぶ声がする。看護師が書類を片手に病室で待っている。
 恩師の飯田いいだ先生は研修医時代の上級医師オーベンである。指導の際は褒めて伸ばすをモットーとしており、研修医は皆が彼の下で指導を受けたがっていた。早坂のスパルタ鞭打ち指導とは全く別物だ。

 そんな彼は大学病院を退職し、地元で開業をしたのは葉書のやり取りで知っていた。長閑な田舎町で地域に貢献をするのも悪くないと穏やかに話すのが印象的だった。

「まあ、僕は暇な老医師なので、ゆーっくりティータイムを楽しんで待ってますよ」

 にこりと微笑み、片手には自販機で買ったであろう紅茶だ。

「──先生、お会い出来て嬉しいです」

「うんうん、教え子が活躍していて鼻が高いよ」

 結局、最賀が落ち着いて腰を掛けることが出来たのは二時間後だった。

 やっと寝入ったところを叩き起こされたお陰で四時間しか眠れていなかった。変に頭が冴えてしまっており、体だけは布団の中と言う分裂状態だ。
 疲れた以上に、酷い倦怠感と胸焼けに椅子へ座った途端縫い付けられた様な心情に陥る。もう立ち上がりたくなかった。

「痩せたね、忙しいんでしょ?」

 温かい紅茶を淹れ直したようだ。最賀は力無く受け取る。

「先生、聞いてらっしゃるでしょうに、噂とか」

「ああ、失恋したってことは」

 雑談でも、最賀は気が楽になった。張り詰めていた緊張の糸はブツッと切れたからだ。顔の強張りが解けて、失恋をしたことを恩師に指摘されて初めて飲み込めた。

 あれは、最後の恋だった。

「しつ……れん、ああ、そうか、あれは失恋……になるのか」

「うーん、まあ、君がそう思ってなければ失恋じゃあないさ」

 せっかくしんみりと悲哀に浸りたいのに、掌をあっさり返すのも飯田先生である。

「若いんだから、痛い目に遭おうと、ぶつかっていかないと分からないこともあるよ」

 さて、と本題は教え子の顔を唯見に来ただけでは無かった。

 ヘッドハンティングをしたい、と声を大にして態と言うものだから最賀は注目を集めてしまう。間の抜けた声ではい?と聞き返すと、飯田先生は本気だよとお茶目に笑って見せた。

 いや、笑い事では無い。断じて、この騒然とした見渡しの良い詰所で話す内容では無いのだ。

「飯田、先生」

「君をヘッドハンティングしに遥々来たんだ、老体には堪えるよ」

「……先生、あの時は……お世話に、なりました」

「うーん、じゃあ、うちの診療所手伝ってくれない? 僕、腰痛くてさー、まあ老人しかいない田舎でなんだけど」

「飯田先生、俺の悪名くらい聞いてらっしゃるのに御冗談を」

「冗談言うくらいなら患者紹介してるよー、いいじゃん。最賀君一人僕が引き抜きしたって困らないでしょ?」

 話はつけたから、あとは退職届を提出するだけだと圧を掛けて来た。昔から変な所笑顔でスパルタである。
 用意周到にフォーマットを態々作成した紙を出して、ペンと朱肉と忘れていった印鑑を差し出される。年の功だろうか。世渡り上手は行動に無駄がない。

 最賀は退職届をその場で書いた。意外にも筆が進む。面白いくらいに。きっと誰かに背を押してもらいたかったのか。

 提出すると受理されたのだからそう言うことなのだろう。医局を辞めるのは、あっさりとした閉幕であった。
 飯田先生が段ボールに私物を詰め込み、とっとと脱兎の如くエレベーターの呼び出しボタンを連打し、最賀を荷物同様押し込んだ。

 二週間の有給をきっかり消化すると共に、実質一週間後付の退職となった。そのお役目を剥奪するのだけはスピーディーである。
 厄介者をボロ雑巾の様に使い古して、医局を辞めた元教授の老医者に押し付けてさぞ御満悦なのだろう。

 しかし、最賀は晴れやかな気持ちだった。

 重要な申し送りと引き継ぎをあとは片付ければ良い。患者と世話になったスタッフへ挨拶回りをして、監獄とも言える医局から卒業なのである。

「いやいや、可愛い教え子を田舎に来させるのはなあって思ってたけど、僕の奥さんがねえ」

 台車を使うほどでも無い、一箱の段ボールには歴史が物語っている。

「あそこよりはのんびり仕事出来るから、気楽にね。あと、家も目星つけたんだよ、知り合いの夫婦が手持ち無沙汰になってる平家。そこに引っ越してきなさい」

「先生……もしかして、全て計画通り?」

 にっこり満面の笑みで、無言を貫く老人は策士である。確か、早坂が何度も狸爺と叫んで地団駄踏むのを目撃したことがあったが、飯田先生は食えない軍師とも言えよう。
 頭脳明晰な早坂でも、カウンター攻撃に風の様にゆらゆらと巧みにかわすキャリア四十五年の医師には勝てまい。

 最賀はそのまま患者専用の簡素な駐車場へ連れられる。古い年季の入った車には四葉のクローバーのシールが貼られている。後ろのトランクを開けて荷物を積むと、助手席に座る様促された。


 食事会にそのまま連れられて、暫く婦人同好会の玩具になったのは言うまでもない。




***




 基盤を作ってから、一から一つずつ積み上げていく。


 相変わらず悪夢は続いていた。最早、それも四年になると最賀は受け入れた。自身の身勝手さや加虐心を認めると、途端に楽になった気がした。

 夢の中の女は儚く散りそうな雰囲気である。

 壊れそうな程に繊細で、優しくて、淫らに啼く。

 誰もいない診察室で事を始めたこともある。まだ制服のまま、だ。大抵夢は導入部分の様なシーンからでは無い。服を脱がしている最中だとか、既に挿入して快楽を得るところが圧倒的に多い。

「……当直室でした時、御免なさい」

 不意に、そう謝られた。現実逃避をしている最賀にとって、夢の中では女には明け透けに応える。女には最賀の心が読み解けるのか、何だって悪癖すら引っ張り出しては膿を搾り取るかの様に吐かせるまで続けるからだ。

 何を、とかは最早言わずもがな、であるが。

「どうして?」

「先生の立場を揺らがす行為になりかねなかったから」

「今こう言う背徳感のある場所でしているのに?」

「夢だから……何をしても大丈夫」

「夢でも、アンタが嫌なことは……もうしたくないな」

「先生の心の奥底はそう思ってないですよ。だから、いつも私の体を滅茶苦茶に壊すくらい激しく抱いている」

 一理あるな、と最賀は受け止めた。

 永遠と否定するのも疲れるのだ。違う、そんなわけがない!俺は大切に思っているし酷い事をしたいと思っていても行動に移したりはしない!とか。

 諦めにも近い。

 不埒な考えが夢を支配しているのなら、抵抗など無駄な足掻きである。

「先生、大丈夫。私、そんなやわじゃ無いです」

「そう言う問題じゃ……」

「人間って意外と頑丈です。あと、先生が感情をぶつけてくれるの、本当はちょっぴり……期待してて」

 女が最賀へ悦んでいるだとか、そんな誘惑めいた発言は耳にしたことはない。最賀が唯一の男で、初めてを暴き蹂躙して男を教えたのも、最賀であるのだから。

 辿々しく口付けを強請って、歯がカチリと軽くぶつかるくらいには不慣れなのだろう。キスすらまともにしたことが無い、いたいけな女へ淫らな行為を体へ刻む。

 耳後ろの黒子や、足と瞼の上の傷跡と誰も知らぬ場所を見つける度に、たった一人の男になれたことは愉悦どころか支配欲を生み出した。

 強目に膨れた陰核を舐られるのが好きだとか、深いキスをしながら深い場所を念入りに擦られると弱いとか。
 悦ぶことはなんだって、反応を目に焼き尽くしたくて、つい歳上の男は甘やかして、可愛がってしまうのである。

「だから、こんなに……濡れちゃう」

 ストッキングが破れて、ショーツが湿り気を帯びている。女は最賀の手を持っていくと、触れさせる。ぬるぬると蜜液が滲んでおり、指の腹で撫でる。水音と粘液の淫猥な音が響く。
 水色のショーツに染みが出来ており、中に侵入すると溢れんばかりに濡れそぼっていた。

「いやらしい?」

「いや、そんなことはないよ」

「はあ……、じゃあ好きにしなきゃ、良くないですよ」

 羞恥心の中で、足を広げる努力をしているのか女はぶるぶると小刻みに震える内腿を何とか開いて見せた。

「押し込めてばかりだと、いつか大事な時に爆発して、取り返しのつかないことが起きる前に折り合いをつける練習」

 指が蜜路へ掻い潜って行くと、ビクッと腰を揺らして指を締め付ける。くるりと一回転させて滑りを確認してから腹側を摩り上げてやる。

 ふ、と小さく息が漏れて女は恍惚な表情で蕩けた温床へ視線を落とした。にちゃにちゃと蜜液が絡んだ指の動きを凝視している。足に力が入るが、膝頭を撫でて諌めると女は素直になった。

 触りづらいな、と思いながら指を抜くと上に花開く陰核へ刺激を開始する。敏感な場所なので、たっぷりと蜜で濡らした指の腹で摩る。

「あ…………ッ!」

 すると、今日一番の大きな嬌声が口から出た。可愛く啼くものだから、下半身がずくりと疼いてしまう。本当は舐めて、味わい尽くして女の味を愉しみたいが状況的に難しかったのが残念だった。

「きも、ちぃ……はぁ、んっ……ッ」

 シャツボタンを外して露わになった、可愛らしいレース状のブラジャーを押し上げると可愛い双丘が垣間見える。
 ねっとりと唾液で濡らしてから嬲ってやる。愛撫しなくとも愉悦を得ているからか、先端は固く尖っており、舌先でも分かった。柔らかくて美味しい胸元にしゃぶりつき、味わう。

 女はくっと後屈して胸と秘所を弄くり回されているせいで、霰もなく声を上げている。

「美味しそうに吸い付いて……いつもより感じてるな」

「だって、白衣……」

「白衣?」

「カッコ良い……から、先生……」

「特別な診察、的なこと?」

 医療行為中に性的なことなんて、あってはならない。けれども、プレイとして双方合意の上ならば、正直制服でのセックスは格段に燃え上がるだろう。

 現に、女のチェックベストのボタンを外して、タイトスカートを捲り上げ背徳的な場所で行為に及んでいるのだから。

「陽菜の制服を乱して、こうやって……診察室で押し倒してるのは色々とクるものがあるなあ」

「──いっぱい、汚して……」

 とろとろに蕩けた温床に、剛結が口付けるとそんなことを呟かれた。女は出入り口付近で停止する最賀に対して、足を腰に絡めて誘い込んだ。
 女の言動一つ一つが、過去触れてきた足跡すらを消しているのかと一瞬頭が過ぎる。踏みとどまって、女の泥濘する秘所へあてがったまま最賀は何だか黒ずんだ胸のつかえが苦しくなる。燻って胸部中央で肥大する何かに、圧迫されている気分だ。

「汚す……か」

 ずきりと今度は胃が痛くなる。胃潰瘍と診断されてから内服治療中の身だが、ストレス社会の中で生きる最賀には中々気が休まる場面は訪れない。

 その痛みが断続的に向かって来ると、女の手は離れていく。体温が下がって、夢から醒める準備が始まるのだ。

 先程とは打って変わって、女はどうか休んでと何時かの日と同じ様に途端に泪ぐむ。最賀の頭を包んで、自分を大事にするよう小さな手が瞼を優しく閉じさせてくれる。
 段々と重たくなって、その掌の温もりが感じられなくなると視界が開けていくのだ。

 正直、夢から醒めれば、また嫌なものを目の当たりにしては命の駆け引きをするのかと落胆するのだが、女が望んだことと言えば、己の使命を全うすることだから蔑ろには出来ない。

 ただ、その約束があるからこそ、倒れて地を這ってでも使命を果たす努力は惜しまないのだろうか。

 最賀は現実世界に引き戻されると、やっぱり身に覚えのある天井に悪態を吐いた。

「俺の方がよっぽど、汚いよ」


 自己嫌悪、自己顕示欲。女を夜な夜な夢の中で犯して、汚す行為を悦んでいるのは誰だろうか。


 綺麗な思い出が穢れていく気がして、最賀は擦れて古びていく白のリボンを握り締めた。

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