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ギャグ時空なのでアフロ程度ですみます
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【今回の内容】
エロ無し
宿で少し体調のマシになったイリアを寝かせて、前回よろしく事情に精通した吟遊詩人でも呼んでもらえないか相談してみたけどこないだの宿の主人と似たような顔の宿の主人Bは「何の話ですか?」「わからないです」としか言わなかった。
埒があかない、前の宿屋がおかしかっただけなんだと改めて認識したけどとりあえず、宿内にいても始まらないのでイリアの世話は索敵能力の低いレインにお願いして一人で情報収集に出た。
…けど、当てがなくて困った。
「もうなぁ、夜だし酒場くらいしか空いてないんだよなぁ」
流石に街。
これまでの殺風景なクソ寂村どもとは違い街灯が星の代わりに周囲を照らしている。
夜でも一部の店が開いていたり、ちょっと裏路地の方ではいかがわしい格好のセクシーお姉さんやお兄さんが客引きを行なっていて実に賑やかだ。
いろんな人が集まっているであろう酒場は、情報収集にはもってこいだが、客層の悪さのせいなのか俺は何故か酒場で難癖をつけられて揉めることが人生経験上多いので面倒なイメージが強く、率先してあまり行きたい場所ではない。
けど今はそんなこと言ってる場合でもない。
苦しそうにしているイリアの顔を思い出して、かれこれ5回はもう命救ってもらってるしな、と意を決する。
灯りの多い賑やかな方へ向かおうと足を向けた瞬間、目の前の石造りの壁がとんでもない音と共に爆発し、
「グェーーー!!!!」
とか言いながらギャグ時空でないと死んでるタイプの吹き飛び方をした男が転がって壁に打ち付けられた。
「え??は?…あ???」
心身ともにあまりの衝撃に驚いてその場に立ち尽くす。
土煙が晴れると、瓶底眼鏡の男が数回壁に打ち付けられたショックで痙攣してた。
生きてるのか自信がなくて、凝視しているとやがて何事もなかったかのように男は立ち上がり、どこからかメモを取り出して何かを書き始めた。
「オイアホグレイ!?今何時だと思ってるんだ!」
「つまんねえ発明してねえで寝ろバーーーカ!!!!!」
が、すぐに近隣の皆さんが窓を開けて怒号を飛ばしているので集中できないのかイライラした様子でやめてしまった。
「うっさい!お前ら低脳が覚えとけよ!
俺が一発当てたらこの辺全部ダムにして沈めてやるからなざまぁみろバーーーカ!!!ハーーーゲ!!!!アッーヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」
そして暴言の数々。
グレイと呼ばれた男は欠片も心配してくれない周囲に言いたい放題に罵詈雑言のほどを尽くし煽りまくっていたが、怒った彼らが家を飛び出てくると何故か慌てて俺の手を取って全力疾走で逃げだした。
「え!?なんで、俺も!??」
「さてはアイツもグルだな!?」
「捕まえろ!捕まえて二度と刃向かえないほどのトラウマを植え付けろ!!!!」
後ろで変な勘違いをされている、捕まるととんでもない目にあう。
クワとかまぐわとか包丁とか、とりあえず刺せるタイプの色々を装備した奴らに追いかけられて俺は顔が真っ青になった。
催眠魔法でもかけたらすぐに逃げ切れたんだろうけど、こんな街中で魔法を使ってテロリスト扱いされても言い訳もできないしマズイ。
手遅れだと判断して諦めて目の前のズレ落ちる眼鏡を必死に直し走っているグレイと呼ばれていた白衣の男と並走して逃げた。
「ぜぇ、ぜぇ…!」
だいぶ走って息が苦しくて、耳鳴りがしだした頃、
男たちと距離を取れた事を確認したグレイは「そろそろだな」と言って見たこともない輝き方をする銀色の箱を懐から取り出した。
それの真ん中には赤いボタンが付いていて、押すと数メートル先の地面が急に盛り上がる。
それから数秒、地面はぽっかりと四角く人工的な口を開けた。
「え??なにこれ?」
「早く!捕まれば言い訳と誤解を解くのに時間を無駄に使うぞ!」
…あれ?捕まってもその程度なんだ、逃げずに大人しくしとけば良かった。
選択を誤った事を後悔しつつ、勢いのまま渋々その穴の中へ足を踏み入れる。
中は全面が何かの金属でできているようで石と少し感触の違う、長い階段をコツコツと降りてようやく一番下まで辿り着くとその瞬間明かりが一面にぱっと灯った。
「……?」
俺にはよくわからない、眩しい中目を凝らすと広がる風景は見たことのないものだらけだ。
金属やガラスでできた色々なサイズの見慣れない何か。
聞き慣れない、ゴゥンゴゥンという謎の轟音が満ちる部屋に困って振り返ると背後で俺と同じ距離を走っただけなのに死にそうなほどの汗をかき小鹿のよう膝震わせているグレイが肺に穴でも開いてるのかと心配になる掠れた大きい息を仕切に繰り返していた。
「コヒュ、コヒュー…、コヒュー…」
「あ、あの、グレイ?なにここ」
「おれ、お、おれの、おれの、コヒュー、け、けん、コヒュッ、けんきゅ、コヒュッ室」
「……」
喋るとそのまま逝きそうで怖くて一回座って落ち着かせてからもう一度聞くと、研究室と言っているのがようやく分かった。
「…あぁ、そう…?
なんで連れてきてくれたのか知らないけどさ、ごめん、今俺結構急いでるんだ。
…ビュービューミルク?だか変なの飲んじゃったせいで、仲間が苦しんでて」
ここでうだうだしているよりは上で俺たちを探しているであろう方々に素直に謝った方が(俺悪くないけど)手がかりを掴める気がする。
人も集まっているし。
走ったせいかやけに頭が冴えていてじゃあね、とさっき登ってきた階段に足をかけたところでグレイは何か考えて腕を組んだ。
「ビュービューミルク……懐かしいな、俺の曾祖父さんが作った代物だ」
「えっ!?」
そんなことある?
驚いて振り返る、その反応に気を良くしたのかグレイは続ける。
「昔、曾祖父さんがこの辺の飢饉の時に頑張って開発したけど凡人どもにはその有能性がわからなかったみたいでね。
誰もほぼ買わないまま、豊潤の魔素の含有率が20%を超えるミルクはもはや禁止魔道具に指定されてしまったよ。
…今市場で売られているのは魔素わずか0.1%しか含まれていない模造品のようなものだが、それでも取り扱っているのはライセンスを持たないような違法商人だけらしいね」
「……」
0.1%であれなの?
原液の存在が怖くなったがそれどころじゃあない。
俺は思わぬ出会いに感謝しながらグレイに詰め寄る。
「その魔素はどうやったら抜ける!?解毒剤とか教えて!仲間が間違えて飲んでて…!」
「あぁ、簡単だよ」
そう言ってグレイは机の上に置かれた大きな瓶と管が合体したような何かを掴んで笑った。
「解毒剤?そんなもの毒じゃああるまいし、必要ない。
たったの1リットル、ミルクを出し切ればいい。…それで魔素は全部抜けるよ」
「…リットル…?」
…俺が知らないだけで一般人が簡単に出せる平均的な量が1リットルだったりする?
俺だったら多分干物になるんだけど、もしかして少ないのかな。
簡単に言われて不安になっていると、グレイは大丈夫!と付け足した。
「俺は天才発明家、グレイ様だ。
これから1リットルを一晩で搾り取れる物凄い発明の数々を紹介しよう!」
…ん?
俺の理解が追いつかない間にグレイは勝手にまずはこれ!と手に持っていた重そうな瓶を掲げた。
「全自動搾乳機くん!
この裏側の起毛で乳の出を促し、自動吸引システムでミルクをこの瓶に貯めていってくれるんだ!
しかも学習機能があるから、より牛の乳を絞れる動きを全自動でカスタマイズしてくれるぞ!」
「うわっ」
グレイが大きい柔らかい素材でできた半透明の吸盤を裏返す。
なんかエッグい搾り取る気満々のイソギンチャクみたいな毛がびっしり生えてるしうぞうぞのたうち回ってて怖かった。
「ちなみに胸用もある」
「怖い」
開発するやつの頭がおかしくて怖い。
そう言ったつもりだったのに、「天才すぎて怖い」と言われたと勘違いしたグレイは鼻高々に次のアイテムを取り出した。
「これは無限液体男爵。これをこうして口に咥えるとね」
グレイはどう見てもボールギャグにしか見えないその皮のベルトを顔につけると、
「ほほなふうにももほかわふと、はっへにへふをほまへへふへふふほ!ふふんほひゅーもはっほひほ!
(こんなふうに喉が渇くと勝手に水を飲ませてくれるんだ、水分補給もバッチリさ!)」
と、よくわからないけどモゴモゴ言っていた。
多分口から水が大量に溢れてるし便利なコップみたいなものなんだろう、…見た目最悪だけど。
もう面倒になってきてスゴーイと雑に言うと、調子に乗ったグレイはそれを外して最後に…!と、もうどう見てもちんこの形をしたバカ太いピンク色の何かを握りめていた。
「グヨグヨブル太郎、淫部に入れるとツボを刺激する」
「それは普通なんだ」
…いや、張型が動くような技術この世界にはない。
オーバーテクノロジーのはずなんだけど。
「全部魔素石または少量の雷呪文で終日稼働!
これさえあれば一晩で1リットル、いや、5リットルはお約束しよう!こんな商品がいまなら~!」
「なんでこれ作ったの?」
あ、今、値段言おうとしてた?
つい口を挟むと決め台詞を阻止されたらしきグレイは一瞬俺を恨めしそうに睨んだ後、他のものもガチャガチャと取り出して話し始めた。
「…なんでこれ作ったの…か、ふっ…そういうことに興味津々だから、以外に理由があるか?」
「たしかに…」
「興味はあるけど面倒くさい、だから全部自動化できるようこいつらを作ったんだ」
グレイの手元でヴヴヴ、と変な細い管が振動している。
あれもへんな起毛ついてるけどどこに何をする用途なんだろうか。
…いや、それを決めるのはきっと“俺”だ。
グレイの無機質な返事を聞いて、つい、俺はわかってない…、と首を振ってしまった。
「確かに面倒くさい、声をかけて事前に飯を奢って、シャワー浴びさせてその後ももうクソ面倒。
出会って5秒で即合体じゃダメなのか俺も悩む」
「俺がしてるのそこの話じゃない」
「でも」
グレイの手を取った。
持っている器具の揺れが伝わり小刻みに手が振動する。
「全部自動化しちゃダメだろ…!
科学で自動化して、それで得れる新しいものを俺たちは受け入れるべきだ、でも…!大事なひと手間は、昔ながらの職人の手で作り上げる、これがものづくりの心じゃないのか…!?」
…あれ、俺何の話してたっけ?
我に返る。
なんか語った挙句、言いたいことと違う話してめちゃくちゃ恥ずかしくなった。
けれど一気に冷めた俺とは反対にグレイは雷に打たれたような顔をして硬直していた。
「…確かに俺は…、大事なことを忘れていた…?」
ヨロヨロ地面に手を着いた。
俺の手の中に振動する細い棒が残っている。
「…もうずっと、忘れていたよ、自動化する悦びに俺は取り憑かれてそこに、そこにあるはずのセッションを忘れていた…!」
「ん?」
本当に何の話?
自分で振っといて申し訳ないが全くわからず困っていると、グレイはまた立ち上がってやけに男前な顔つきでさっきのオモシロ発明を全部雑に袋に入れてこっちは新品だからと渡してくる。
「試供品だ、受け取ってくれ」
「えっ?」
「本当は1つ億はくだらない価格で売れるんだが、今日話を聞いて俺にこの衝動を思い出させてくれた“漢”へ、これをプレゼントしたいんだ」
ほら、と持たされたそれはそこそこの重量があって驚いた。
「行きなさい、そして、作りなさい。…最高のセッションを…!」
こいつなんか研究の一環でキめてたりする?
目があっているのになぜか目が合わない違和感へレインを思い出すが、こいつはテンションが高い分違う怖さがある。
袋からどう見ても牛柄のビキニパンツみたいなのが見えてたので思わず、これは?と聞くとサービスだ、と笑って親指を立てられた。
「ちょ、押すな、危ない」
「そして願わくば、曾祖父さんの発明に光を」
勝手にヒートアップしたグレイが俺の背中をグイグイと押し、部屋の脇の薄暗い通路に俺を押し出していく。
…どう見ても、普通の床じゃない。
怖くてとりあえず床の正体の確認をしようとしたのに、背中を思い切り突き飛された。
「ぎゃっ!?」
「神は火を与えたもうた!!!」
そこから先の記憶はあまりない。
ものすごい風の中、爆速で勝手に動く通路が俺をいろんな方向へ運び最後にバネで打ち上げられたと思ったら街の入り口にある宿屋の前に着地していた。
…俺もギャグ時空じゃないと死んでた高度から今落ちた気がする。
振り返ってもどこにもさっき自分が飛び出してきた穴は見当たらない。
変な夢でも見ていたんだろうか、一瞬荒唐無稽な機械や、あまりに非常識な変態眼鏡を思い出してそんな気がしたが、手にずしりとある重量にそれが夢ではないと俺は確信する。
もう、ここまできたら仕方ないか。
奇跡的に得た解毒方法と、手土産。
半分の善意ともう半分の下心を抱いて俺はイリアの元へ向かった。
エロ無し
宿で少し体調のマシになったイリアを寝かせて、前回よろしく事情に精通した吟遊詩人でも呼んでもらえないか相談してみたけどこないだの宿の主人と似たような顔の宿の主人Bは「何の話ですか?」「わからないです」としか言わなかった。
埒があかない、前の宿屋がおかしかっただけなんだと改めて認識したけどとりあえず、宿内にいても始まらないのでイリアの世話は索敵能力の低いレインにお願いして一人で情報収集に出た。
…けど、当てがなくて困った。
「もうなぁ、夜だし酒場くらいしか空いてないんだよなぁ」
流石に街。
これまでの殺風景なクソ寂村どもとは違い街灯が星の代わりに周囲を照らしている。
夜でも一部の店が開いていたり、ちょっと裏路地の方ではいかがわしい格好のセクシーお姉さんやお兄さんが客引きを行なっていて実に賑やかだ。
いろんな人が集まっているであろう酒場は、情報収集にはもってこいだが、客層の悪さのせいなのか俺は何故か酒場で難癖をつけられて揉めることが人生経験上多いので面倒なイメージが強く、率先してあまり行きたい場所ではない。
けど今はそんなこと言ってる場合でもない。
苦しそうにしているイリアの顔を思い出して、かれこれ5回はもう命救ってもらってるしな、と意を決する。
灯りの多い賑やかな方へ向かおうと足を向けた瞬間、目の前の石造りの壁がとんでもない音と共に爆発し、
「グェーーー!!!!」
とか言いながらギャグ時空でないと死んでるタイプの吹き飛び方をした男が転がって壁に打ち付けられた。
「え??は?…あ???」
心身ともにあまりの衝撃に驚いてその場に立ち尽くす。
土煙が晴れると、瓶底眼鏡の男が数回壁に打ち付けられたショックで痙攣してた。
生きてるのか自信がなくて、凝視しているとやがて何事もなかったかのように男は立ち上がり、どこからかメモを取り出して何かを書き始めた。
「オイアホグレイ!?今何時だと思ってるんだ!」
「つまんねえ発明してねえで寝ろバーーーカ!!!!!」
が、すぐに近隣の皆さんが窓を開けて怒号を飛ばしているので集中できないのかイライラした様子でやめてしまった。
「うっさい!お前ら低脳が覚えとけよ!
俺が一発当てたらこの辺全部ダムにして沈めてやるからなざまぁみろバーーーカ!!!ハーーーゲ!!!!アッーヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」
そして暴言の数々。
グレイと呼ばれた男は欠片も心配してくれない周囲に言いたい放題に罵詈雑言のほどを尽くし煽りまくっていたが、怒った彼らが家を飛び出てくると何故か慌てて俺の手を取って全力疾走で逃げだした。
「え!?なんで、俺も!??」
「さてはアイツもグルだな!?」
「捕まえろ!捕まえて二度と刃向かえないほどのトラウマを植え付けろ!!!!」
後ろで変な勘違いをされている、捕まるととんでもない目にあう。
クワとかまぐわとか包丁とか、とりあえず刺せるタイプの色々を装備した奴らに追いかけられて俺は顔が真っ青になった。
催眠魔法でもかけたらすぐに逃げ切れたんだろうけど、こんな街中で魔法を使ってテロリスト扱いされても言い訳もできないしマズイ。
手遅れだと判断して諦めて目の前のズレ落ちる眼鏡を必死に直し走っているグレイと呼ばれていた白衣の男と並走して逃げた。
「ぜぇ、ぜぇ…!」
だいぶ走って息が苦しくて、耳鳴りがしだした頃、
男たちと距離を取れた事を確認したグレイは「そろそろだな」と言って見たこともない輝き方をする銀色の箱を懐から取り出した。
それの真ん中には赤いボタンが付いていて、押すと数メートル先の地面が急に盛り上がる。
それから数秒、地面はぽっかりと四角く人工的な口を開けた。
「え??なにこれ?」
「早く!捕まれば言い訳と誤解を解くのに時間を無駄に使うぞ!」
…あれ?捕まってもその程度なんだ、逃げずに大人しくしとけば良かった。
選択を誤った事を後悔しつつ、勢いのまま渋々その穴の中へ足を踏み入れる。
中は全面が何かの金属でできているようで石と少し感触の違う、長い階段をコツコツと降りてようやく一番下まで辿り着くとその瞬間明かりが一面にぱっと灯った。
「……?」
俺にはよくわからない、眩しい中目を凝らすと広がる風景は見たことのないものだらけだ。
金属やガラスでできた色々なサイズの見慣れない何か。
聞き慣れない、ゴゥンゴゥンという謎の轟音が満ちる部屋に困って振り返ると背後で俺と同じ距離を走っただけなのに死にそうなほどの汗をかき小鹿のよう膝震わせているグレイが肺に穴でも開いてるのかと心配になる掠れた大きい息を仕切に繰り返していた。
「コヒュ、コヒュー…、コヒュー…」
「あ、あの、グレイ?なにここ」
「おれ、お、おれの、おれの、コヒュー、け、けん、コヒュッ、けんきゅ、コヒュッ室」
「……」
喋るとそのまま逝きそうで怖くて一回座って落ち着かせてからもう一度聞くと、研究室と言っているのがようやく分かった。
「…あぁ、そう…?
なんで連れてきてくれたのか知らないけどさ、ごめん、今俺結構急いでるんだ。
…ビュービューミルク?だか変なの飲んじゃったせいで、仲間が苦しんでて」
ここでうだうだしているよりは上で俺たちを探しているであろう方々に素直に謝った方が(俺悪くないけど)手がかりを掴める気がする。
人も集まっているし。
走ったせいかやけに頭が冴えていてじゃあね、とさっき登ってきた階段に足をかけたところでグレイは何か考えて腕を組んだ。
「ビュービューミルク……懐かしいな、俺の曾祖父さんが作った代物だ」
「えっ!?」
そんなことある?
驚いて振り返る、その反応に気を良くしたのかグレイは続ける。
「昔、曾祖父さんがこの辺の飢饉の時に頑張って開発したけど凡人どもにはその有能性がわからなかったみたいでね。
誰もほぼ買わないまま、豊潤の魔素の含有率が20%を超えるミルクはもはや禁止魔道具に指定されてしまったよ。
…今市場で売られているのは魔素わずか0.1%しか含まれていない模造品のようなものだが、それでも取り扱っているのはライセンスを持たないような違法商人だけらしいね」
「……」
0.1%であれなの?
原液の存在が怖くなったがそれどころじゃあない。
俺は思わぬ出会いに感謝しながらグレイに詰め寄る。
「その魔素はどうやったら抜ける!?解毒剤とか教えて!仲間が間違えて飲んでて…!」
「あぁ、簡単だよ」
そう言ってグレイは机の上に置かれた大きな瓶と管が合体したような何かを掴んで笑った。
「解毒剤?そんなもの毒じゃああるまいし、必要ない。
たったの1リットル、ミルクを出し切ればいい。…それで魔素は全部抜けるよ」
「…リットル…?」
…俺が知らないだけで一般人が簡単に出せる平均的な量が1リットルだったりする?
俺だったら多分干物になるんだけど、もしかして少ないのかな。
簡単に言われて不安になっていると、グレイは大丈夫!と付け足した。
「俺は天才発明家、グレイ様だ。
これから1リットルを一晩で搾り取れる物凄い発明の数々を紹介しよう!」
…ん?
俺の理解が追いつかない間にグレイは勝手にまずはこれ!と手に持っていた重そうな瓶を掲げた。
「全自動搾乳機くん!
この裏側の起毛で乳の出を促し、自動吸引システムでミルクをこの瓶に貯めていってくれるんだ!
しかも学習機能があるから、より牛の乳を絞れる動きを全自動でカスタマイズしてくれるぞ!」
「うわっ」
グレイが大きい柔らかい素材でできた半透明の吸盤を裏返す。
なんかエッグい搾り取る気満々のイソギンチャクみたいな毛がびっしり生えてるしうぞうぞのたうち回ってて怖かった。
「ちなみに胸用もある」
「怖い」
開発するやつの頭がおかしくて怖い。
そう言ったつもりだったのに、「天才すぎて怖い」と言われたと勘違いしたグレイは鼻高々に次のアイテムを取り出した。
「これは無限液体男爵。これをこうして口に咥えるとね」
グレイはどう見てもボールギャグにしか見えないその皮のベルトを顔につけると、
「ほほなふうにももほかわふと、はっへにへふをほまへへふへふふほ!ふふんほひゅーもはっほひほ!
(こんなふうに喉が渇くと勝手に水を飲ませてくれるんだ、水分補給もバッチリさ!)」
と、よくわからないけどモゴモゴ言っていた。
多分口から水が大量に溢れてるし便利なコップみたいなものなんだろう、…見た目最悪だけど。
もう面倒になってきてスゴーイと雑に言うと、調子に乗ったグレイはそれを外して最後に…!と、もうどう見てもちんこの形をしたバカ太いピンク色の何かを握りめていた。
「グヨグヨブル太郎、淫部に入れるとツボを刺激する」
「それは普通なんだ」
…いや、張型が動くような技術この世界にはない。
オーバーテクノロジーのはずなんだけど。
「全部魔素石または少量の雷呪文で終日稼働!
これさえあれば一晩で1リットル、いや、5リットルはお約束しよう!こんな商品がいまなら~!」
「なんでこれ作ったの?」
あ、今、値段言おうとしてた?
つい口を挟むと決め台詞を阻止されたらしきグレイは一瞬俺を恨めしそうに睨んだ後、他のものもガチャガチャと取り出して話し始めた。
「…なんでこれ作ったの…か、ふっ…そういうことに興味津々だから、以外に理由があるか?」
「たしかに…」
「興味はあるけど面倒くさい、だから全部自動化できるようこいつらを作ったんだ」
グレイの手元でヴヴヴ、と変な細い管が振動している。
あれもへんな起毛ついてるけどどこに何をする用途なんだろうか。
…いや、それを決めるのはきっと“俺”だ。
グレイの無機質な返事を聞いて、つい、俺はわかってない…、と首を振ってしまった。
「確かに面倒くさい、声をかけて事前に飯を奢って、シャワー浴びさせてその後ももうクソ面倒。
出会って5秒で即合体じゃダメなのか俺も悩む」
「俺がしてるのそこの話じゃない」
「でも」
グレイの手を取った。
持っている器具の揺れが伝わり小刻みに手が振動する。
「全部自動化しちゃダメだろ…!
科学で自動化して、それで得れる新しいものを俺たちは受け入れるべきだ、でも…!大事なひと手間は、昔ながらの職人の手で作り上げる、これがものづくりの心じゃないのか…!?」
…あれ、俺何の話してたっけ?
我に返る。
なんか語った挙句、言いたいことと違う話してめちゃくちゃ恥ずかしくなった。
けれど一気に冷めた俺とは反対にグレイは雷に打たれたような顔をして硬直していた。
「…確かに俺は…、大事なことを忘れていた…?」
ヨロヨロ地面に手を着いた。
俺の手の中に振動する細い棒が残っている。
「…もうずっと、忘れていたよ、自動化する悦びに俺は取り憑かれてそこに、そこにあるはずのセッションを忘れていた…!」
「ん?」
本当に何の話?
自分で振っといて申し訳ないが全くわからず困っていると、グレイはまた立ち上がってやけに男前な顔つきでさっきのオモシロ発明を全部雑に袋に入れてこっちは新品だからと渡してくる。
「試供品だ、受け取ってくれ」
「えっ?」
「本当は1つ億はくだらない価格で売れるんだが、今日話を聞いて俺にこの衝動を思い出させてくれた“漢”へ、これをプレゼントしたいんだ」
ほら、と持たされたそれはそこそこの重量があって驚いた。
「行きなさい、そして、作りなさい。…最高のセッションを…!」
こいつなんか研究の一環でキめてたりする?
目があっているのになぜか目が合わない違和感へレインを思い出すが、こいつはテンションが高い分違う怖さがある。
袋からどう見ても牛柄のビキニパンツみたいなのが見えてたので思わず、これは?と聞くとサービスだ、と笑って親指を立てられた。
「ちょ、押すな、危ない」
「そして願わくば、曾祖父さんの発明に光を」
勝手にヒートアップしたグレイが俺の背中をグイグイと押し、部屋の脇の薄暗い通路に俺を押し出していく。
…どう見ても、普通の床じゃない。
怖くてとりあえず床の正体の確認をしようとしたのに、背中を思い切り突き飛された。
「ぎゃっ!?」
「神は火を与えたもうた!!!」
そこから先の記憶はあまりない。
ものすごい風の中、爆速で勝手に動く通路が俺をいろんな方向へ運び最後にバネで打ち上げられたと思ったら街の入り口にある宿屋の前に着地していた。
…俺もギャグ時空じゃないと死んでた高度から今落ちた気がする。
振り返ってもどこにもさっき自分が飛び出してきた穴は見当たらない。
変な夢でも見ていたんだろうか、一瞬荒唐無稽な機械や、あまりに非常識な変態眼鏡を思い出してそんな気がしたが、手にずしりとある重量にそれが夢ではないと俺は確信する。
もう、ここまできたら仕方ないか。
奇跡的に得た解毒方法と、手土産。
半分の善意ともう半分の下心を抱いて俺はイリアの元へ向かった。
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