2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな

弥生菊美

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第13話 聖女襲来

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「ゴコク君…君に一つ重大な話をしなければならない」

 いつものように閉店後の店にふらりと現れたシューちゃん事、エシュテル神がそう告げると世界が突然停止し無音になる。

 流石はこの世界の創造神、神産巣日神様と似た様な力を使えるようだ。
世界が停止し、カウンター内で夕飯の用意をしていた青葉も石化でもしたかのように止まっている。わざわざ、こんな事をするのだよほど青葉に聞かせたくない話のようだ。

「何でしょうか?」

 疲れ切ったかのようにゆっくりとした動作でカウンターまで来ると、深いため息をつきながら椅子に座る。いつものハイテンションな神の姿は、影も形もない

「うちの…聖女のことでね…なんて言うのかな…タカちゃんの世界でいう神主って言うより、神使にゴコク君達に近いかも、その聖女がね…ものすんごい変質者みたいな子でね
青葉ちゃんの事…ものすんごー--い、気に入っちゃったの…」

 聖女というからには女だろう。
それが変質者?だが、神に仕える者が人に害をなすような者になるなどあり得るのだろうか?まして、気に入らない!ではなく、すごく気に入っていると言う。

「その聖女殿が青葉を気に入る…
そんなにも重大な事のようには思えないのですが?」

 そう問えば、エシュテル神はカウンターに両肘をついて手を組むとそこに顎を乗せ、青葉を見つめる。

「なら、言い方を変えましょう。
その聖女の恋愛対象は女!!
そして、青葉ちゃんを是が非でも自分のモノにしようとしている!!
性的な意味で!!
これで伝わったかしら?」

「しっかりと事の重大さを理解しました」

そう即答すると大変よろしいと頷くエシュテル神

 冗談ではない…ただでさえ青葉目当ての男の客が多く、特にあの駄犬…青葉の視界にすら入れたくないと言うのに、今朝も青葉の手を握っていた駄犬を本気で始末しようかと思ったくらいだ。
しかし、神産巣日神様の顔に泥を塗るような真似はできない。

 ここで問題を起こして元の世界に強制送還など本末転倒、そこに今度はエシュテル神の聖女が青葉を…まして同姓であるなら、さぞ近づきやすいことだろう。
人の好い青葉の事だ流されるまま聖女の手籠めにされかねない。

性急に事を進めようにも通常の状態で青葉に度々おびえられているのだ。急にことを進めようものなら今度こそ嫌われかねない。
それだけは避けたい…絶対に嫌だ。

 こんな事なら、神議の際の大国主様の女神の口説き方やモテ自慢を真面目に聞いておくべきだった…。

「私の方でもできる限り青葉ちゃんに近づかないようにブロックしておくけど、本当にあの子の執着心ヤバいから、ゴコク君!青葉ちゃんを変態聖女から守ってね。
ほんと、ゴメンネ!!」

 幸いなのはエシュテル神が聖女の味方ではないと言うことかそれにしても、創造神であるエシュテル神の命も聞かないとはとんでもない女のようだ。

「必ず青葉は守ります」

 そう伝えるとエシュテル神は頷くと力を解除したのか世界が音を取り戻す。

「んっ!?あれ!?シューちゃんいつの間に!?」

 顔を上げたらカウンターに座っていたエシュテル神に驚き声を上げる青葉、それを見ながら自分も席へと座る。聖女の話は後で考えよう。
今は青葉が自分の為に食事を作る姿を眺めていたい。

「シューちゃん、なんだか…いつもより疲れてませんか?」

 シューちゃんにいつものレモンサワーとほうれん草の胡麻和えを出し、夕飯の準備の続くに戻る。

「色々あってねぇ…あっ、青葉ちゃん髪飾りありがとね
うちの聖女から受け取ったんだけど、何か…言われたり、されたりしなかった?」

 シューちゃんが恐る恐ると言うように問うてくる。
うっ…止められていたのに行ったことに触れて来ないのが逆に怖い…
めかじきの煮物を崩さないように皿に盛り付け刻み生姜を乗せシューちゃんを見る。

「むしろ大変良くしていただいて、それよりも…そのー
止められてたのに勝手に教会に行ってスミマセンデシタ…」
 
なんだか、シューちゃんが少しやつれているようにも見える
昨日の今日で一体何があったと言うのか?もしかして、私が教会に行った事により、シューちゃんに多大なるご迷惑をお掛けしたのではなかろうか?

「それは良いのよ、いずれはバレっ…じゃない
エリティナといずれは会うと思ってたし、ただね…あの子は執着心が強いと言うか…なんと言うか、青葉ちゃん…エリティナは猫被りの変わり者だから、あんまり2人っきりにならないようにね…」

 シューちゃんの言葉が俄かには信じられない。あんなに優しいエリティナ様が変わり者、でも、猫被りと言っていた…確かに今日会ったばかりの私よりシューちゃんの方がエイティナ様をよく知っているんだろうから本当のことなんだろう…
しかも、こんなに深刻そうに言うなんて、人は本当に見た目ではわからない者である。

「気をつけるようにします…」

 そう言いながら、めかじきの煮付けをシューちゃんとゴコクさんに出す。
ついでにシジミの味噌汁と白米も

「そうしてくれると助かるわーあの子本当に執着心凄いから、今から急に来たっておかしく無いくらいよ」

 そう言って味噌汁を啜るシューちゃん、シューちゃん、日本ではそれをフラグと呼ぶんですよ。
と思っていると、コンコンコンと店のドアがノックされシューちゃんがシジミ汁を吹き出す。

「シューちゃん!?フキンフキン!!」

「ゴコク君!!厳戒態勢!!!!」

 シューちゃんが叫ぶとゴコクさんは頷き、お茶碗と箸を置くとドアへと向いドア越しから声を掛ける。

「本日は閉店しました…何か御用ですか」

 シューちゃんにタオルを渡しながらドアの方を見る。
こんな時間にいったい誰が…?

「申し訳ありませんこんな時間に教会から参りました聖女エリティナと申します。
我が神がこちらにお世話になっているので、営業時間ではご迷惑かと思い
この時間にご挨拶に参りました」

 そう言い終わるとシンと静かになる。
ゴコクさんが困ったようにシューちゃんを見る。

「イヤァァァァァ!!変質者ぁぁぁぁ!!
本当に来たわよあの子!!!
エリティナァァァァァ!!」

 そう叫びながらシューちゃんがドアへと走る
普段のシューちゃんとはまるで別神、取り乱したこんな姿は初めて見るため呆気に取られる私とゴコクさん

「何やってるのよ!!!
来るなって言ったでしょ!!この変質者!!」

ドアを開けないあたり本気で入れたく無いらしい
そっ…そんなにヤバいのかっ…エリティナ様って…

「やっぱりいらっしゃったんですね我が神、ずるいですよ私を除け者にして、青葉ちゃ…じゃない、青葉さんを独り占めしようなんて」

「思ってない!思ってないから今すぐchurch!!
教会へお帰り!!」

「酷いです我が神、せっかく来ましたのに…」

「酷くない、むしろあなたが怖いわよ!」

「では、一目青葉さんを見たら帰ります」

 食い下がる聖女エリティナ様、たっ、確かに…私風情にそんなに執着、いや、異世界のご飯が食べてみたいと言うのもあり得るのでは?

「あの、シューちゃん
せっかく来てくださったんですし、簡単な物でしたらすぐ作ってお出ししますけど…」

そう言うと、シューちゃんとゴコクさんまでもが勢いよくこちらを振り向く

「ダメよ青葉ちゃん!!
こう言う輩に優しさを見せちゃ、そこに漬け込んでくるんだから!」

ウンウンと頷いているゴコクさん

「えぇ…そっ…ソウデスカ…」

2人の圧に押され後退りそうになる
もはや犯罪者のような扱いのエリティナ様である

「えっ?青葉さんが私に会いたいって?
…えへっ…えへへへ…」

「言ってない!一言も言ってない!!
ダメだ…青葉ちゃん…そのご飯、ちょっとタッパーか何かに入れてもらえるかしら?
変質者を強制送還するから今日は帰るわ!そこを動くんじゃ無いわよエリティナ!!」

 なんか、エリティナ様って独特の笑い方をされる方なのね…と思いつつも、シューちゃんの鬼気迫る雰囲気に手早くタッパーに夕飯を詰める。

 お味噌汁は…諦めてもらおう
ボトルがない…包んだお弁当をカウンタまで受け取りに来たゴコクさんに渡す。
カウンターから出ようとするもゴコクさんに手で制される
もはやドアに近づくことすら許されないらしい…
えぇぇ…

「ありがと、青葉ちゃん、ゴコク君
ゴコク君、こう言う事だからほんと気をつけてね」

 その言葉に無言で頷くゴコクさん、私からでは背中しか見えないのでその表情は見えない。
「じゃ、お騒がせしたわね!」

 そう言うと姿が消え店の外からエリティナ様の「いーやーでーすぅー」と言う、駄々をこねような声と「お黙んなさい!」と、怒るシューちゃんの声がした後、静まり返る店の外、ゴコクさんが扉に耳をつけて声が聞こえないことを確認した後扉の鍵を開けて外へと顔を出す。

「居ない…帰ったみたい」

そう言うとパタンと扉を閉めて施錠する

「明日にでも店と裏口の鍵を日本製の鍵に、窓ガラスは割られないように防犯用シートを貼る。
仕入れのリストに追加する」

 深刻そうなゴコクさんの顔に、そっ…そこまで警戒しなきゃならないのか…
もはやストーカーのような扱いのエリティナ様、今朝話した時は女同士、女友達でもできたようで楽しかったのに…

仕入れリストに早速書き込んでいるゴコクさんをみながら内心でため息をついた。
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