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子孫編『アフター・エピソード』

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「聖魔剣佰壱之型《シームレスブレイズ》:半月殺しルナティクス


男が神話級の剣を目にも止まらない
超速度で十文字に刻むやいなや
50メートルを超える地竜、30メートルを
超える翼竜その両方が一度に両断される。


「ユータ師匠、今日も危ないところを
 助けていただきありがとうございます! 
 僕だけではかなりヤバかったです」


ユドラはユータが両断した
翼竜と地竜の肉を調理しながら語る。
ユドラとユータの目の前には
焚き火があかあかと燃えている。

ユドラが未開の地で
同行しているのは聖魔剣士にして
元勇者のユータである。

ユドラとユータの出会いは
完全に偶然である。

ユドラが未開の土地の
探索中に真神・バハムート、
極神・ベヒーモスに襲われ窮地に
陥っていった時に颯爽とあらわれて
救ったのがユータだったのである。

その日からユドラはユータを
師匠と呼び慕っている。

ユドラはユータに何度も命を
救われている。ユドラに
とってユータは憧れの英雄なのだ。


焚き火で炙られたユドラが作った
串肉を食べながらユータは語る。


「ユドラは筋がいいでござる。
 拙者と違って天賦の才の
 ようなものを感じるでござる。
 場数を踏み毎日の鍛錬を欠かさずに
 続ければそのうちに同じことが
 できるようになるでござる。
 だから、焦らずゆっくりと
 精進を続けるでござるよ」


瘴気に覆われていた未開の土地に
生息する魔獣は恐ろしく強い。
それこそ、神にも匹敵するのではと
思わされるくらいの化け物揃いだ。

そんな世界のなかでユータは
一人、最先端を走り続ける。


「それにしてもユドラ氏の能力は
 凄いでござるな。盟友サトシ氏
 からいただいたゴーレムを修理
 できるとは思っていなかった
 でござる。感謝しているでござる」


サトシがプレゼントに送った
ゴーレムも最大限に強化された
ゴーレムで非常に強いのだが

それでもこの未開の地に
生息する魔獣はそれを遥かに
それを凌ぐ強さなのだ。

ゴーレム二体はこの地では
戦闘に参加せず荷物持ち
に専念している。


「ユータ師匠は僕以外に
 パーティーを組んだり
 しないんですか?」

「拙者もパーティーを組まないと
 決めている訳ではござらんが……
 うむ。なんとも説明しずらいでござるな」


ユータは少し逡巡したあとに
言葉を紡ぐ。


「昔話になるのでござるが、
 ユドラには聞いて欲しいでござる。
 過去に拙者はパーティーの
 リーダーをやっていた時期
 があったでござる」


ユドラはサトシからユータの
人となりや冒険譚をよく聞いて
いたので知っていることだが
黙って耳を傾ける。


「その時は、拙者の力が足りないために
 仲間をパーティーから追放しなければ
 いけないということがあったのでござる
 真の友だったにも関わらずでござる」


もちろんこの一件もユドラは
サトシから聞いて知っているし
ユータが悪いのではないことは
十分に理解している。


「だからでござるかな……。
 パーティーを組むことにどこか恐れを
 抱いていたのかもしれないでござる。
 ユドラの安全を考えるのであれば、
 より多くの仲間がいた方が安全だと
 頭では理解しているでごるが……」


ユドラは自分がサトシの息子だと
ユータには言っていない。
それを言えば優しいユータのことだから
サトシの息子というだけの理由で
自分を特別扱いしてしまう事が
分かっているからだ。

ユドラは自分の実力をユータが
心の底から認めてくれた時にはその
出自を明かそうと考えている。
目下のユドラの目標はそこに置いている。


「……きっと、いや絶対にその人は
 ユータ師匠に感謝していますよ。
 だから気にしないでください! 師匠!」


ユータも師匠と呼ばれることは
まんざらでもないようである。
頬をポリポリとかきながら、
弟子であるユドラの肩をポンと叩く。


魔獣の串肉を頬張りながらそんな
ことを話していると何者かが
会話に入ってくる。


「へー。こんな瘴気のが強い所に人が
 居るなんてヴァンちゃんおっどろきー!」

世界に一人のヴァンパイア始祖。ヴァンピー。
サトシがずっと昔に通りすがりに
助けた者の一人だ。


「警戒を怠るな。……もしここが私の村
 でだったら既にお主は死んでいるぞ」

伝説の血を引く村人女。レジェ。
サトシがずっと昔に通りすがりに
(以下省略)


「ふぇえ~? あーなーなーもーごーれーむー
 をーつーかぁーえーるぅーのぉー?」

ゴーレム研究の第一人者。レム。
サトシがずっと(以下省略)


「にゃにゃにゃんとっ! このような
 ところに人がいるとはびっくりにゃ~。
 にゃんとにゃんだふるにゃ~!」

絶滅寸前の希少種の猫獣人。ケイトリン。
(以下省略)


「はじめましてでござる。
 拙者はユータと申す。そしてこちらが
 弟子のユドラでござる」


(やった! ユータ師匠の口から
 僕のことを弟子と言ってもらった!)


「ふーん。ところで、ちょこーっとだけ
 さっきあなたたちの話を立ち聞き
 させてもらったんだけど、あなた達
 いまパーティーメンバーを探しているの?」


「お……拙者は……ごぽぉっ……ござる」


師匠であるユータが口ごもっているので
代わりにユドラが元気よく応える。


「はい! 師匠は一緒に冒険をしてくれる
 パーティーを現在絶賛募集中です!
 ぜひぜひパーティーに参加してくださいっ!」


「ならば、我らが村に入らせてもらおうかユータさんのパーティーに皆で参加させてもらいます
 ……お主達の村ユータさんとユドラさんがどの程度の村《実力》か
 我が双眸でしかと見届けさせてもらおう」

「……よっ、よろしくお願いするでござるっ」


ユータ、ユドラ、ヴァンピー、レジェ、
レム、ケイトリンの6人のこの世界の
未開の地をめぐる冒険の旅が新たに
幕を開けるのであった。



  ◇  ◇  ◇



《座標:20200125に――目標発見
 開拓村超距離ジャンプ準備開始
 土壁シェルターの完全展開完了
 ダンジョンコアによるエネルギー
 供給は臨界点を突破。転移可能
 転移シークエンス…3…2…1》


カウントが終わる
と開拓村を改造した宇宙船が
蜃気楼に包まれ転移する。

開拓村は村ごと宇宙船となった。

意味がわからないと思うが事実である。
外観は天空の城○ピュタ的な感じだ。


宇宙船とは言っても基本的には
開拓村ベースに内部を
改造したものだ。


外宇宙探索モード時には村の外壁から
半月型の土のドームを展開している。

シェルターとして作った地下施設は
現在は宇宙船の操縦室として機能している。
構造自体は簡単な物である。

村を改造した宇宙船なので
地上部分は牧歌的な田舎村そのもので
畑には色とりどりの野菜が育っている。
外宇宙探索時にも食糧に困る事はない。

この宇宙船の外側の作りは
サトシの”土属性”のスキルに
よって作ったものであるが、

“転移機能”とか”魂レーダー”等の謎技術は
セフィの"智属性ダアト"によるものだ。
細かい原理はセフィしか理解していない。
ミミですら半分くらいしか理解できていない。


転移に必要な膨大なエネルギーは
ダンジョン・コアを埋め込んだ
ゴーレムを数珠つなぎにすることで
無限のエネルギーを生み出すエンジン
として使っている。ウ・ラヴォース
さん想像以上に有能だったようだ。


(まさか……。たったの10年たらずで
 外宇宙に出るっていう夢を叶えちゃう
 んだから凄いよなぁ……我が娘)


この船のキャプテンはサトシ、
副キャプテンはミミ。
操縦士はセフィである。
村の住人はクルーである。


「よーし。それじゃ手順通りに
 あの"魂"をゴーレムアームで
 キャッチしてくれい。 
 ……壊れやすいから、慎重になぁ」

「あ~い! 繊細な作業は
 セフィちゃんにおまかせ~」


セフィは操作盤のようなものを
小さくて細い指でピアノの鍵盤を
叩くかのようにリズミからに叩くと、

宇宙船から射出された
ゴーレムアームが孤独な
宇宙空間にただよう淡い光――魂を
キャッチする。


「えへへ~。今日の魂は白いね~。
 いい光のだぁねぇ~」

「そうだな。確かに
 なかなか白くピカってるね」

「わずかな色の違いが分かるとは!
 さす旦那さまなのじゃな」


色の違いが分かること自体は
本当に色が明らかに違うだけなので
特に凄くないのだがミミは褒める。
とはいえ、サトシもミミを
しょっちゅう人前で褒めてのろけて
いるのでお互い様である。
あいも変わらずラブラブなのであった。


なお、セフィの分析によると
魂の色は心の綺麗さを意味するそうだ。

とはいっても基準は厳しくはない。
基本的に生前に人を意図的に殺めたり
痛めつけたりしていない限りは
基本的に白かグレーだ。つまり転生に
必要な魂の基準はクリアしている。


「パパ~。この魂どうするぅ?」

「おーっし! そのまま
 ゴーレムアームを船内の
 転生部屋Cに転送してくれ」


転生部屋はA~Gまである。
何個か魂をキャッチした際に
同時に作業を進めることが
できるようにしたものであり
特に何か部屋によって機能の
差がある訳ではない。
インテリアが若干違う程度の差だ。


「はぁい!」


転生部屋はサトシが異世界ファンタジー
作品で見たことがあるあの白い部屋を
リスペクトした感じの内装になっている。
あの白い転生部屋だ。

この部分だけはミミは若干不満をもって
いるようで「むぅ。殺風景じゃの?」
と遠回しの指摘されたこともあったが
なんとか認めてもらえたのだった。

なお、ミミがデザインしたのは、
なんかカラフルでファンシーな感じの
部屋でぬいぐるみとかも置いてあるので
子供の転生者の場合はこの部屋に送っている。


「セフィ、それじゃあ。
 魂の解析を頼めるか?」

「あいあいさぁ~! セフィちゃん、
 ちゃちゃっといくよぉ~!」


解析機の中に移した異世界の
人間の魂を解析。


「ふむ……。今回の"ヤマダ"という
 人間の魂は俺とは異なる地球から
 やってきた者の魂みたいだな。
 死因は……過労死か。どこの
 地球も過酷だな。生前はあまり
 恵まれた環境じゃなかったようだけど
 コツコツ頑張っていたみたいだな。
 犯罪歴は無し、善良な成人男性だ」


「パパ。この子《魂》ゴーレム体に
 移しても大丈夫~?」

「おっけー。そのゴーレムなら
 事前に負荷テストも終了済みだ」


サトシは"土属性"の能力によって土で
人体の雛形を錬成する。
もちろん内蔵まできっちり作る。
その作成の要領はほとんど
ゴーレム作成時と同じである。

ただし、"土属性"のサトシが
できるのはここまでである。

サトシが土属性により錬成した
土の人体を有機体にするのは
セフィの智属性《ダアト》の力によるものだ。


「顔は転生前の顔の面影を残しつつ
 ちょっとだけイケメンにしておこう。
 転生特典というやつだな」


サトシは"土属性"で顔を微調整する。
まだこの時点では土人形でしかないが、
それでも結構なイケメンに仕上がっている。


「ふぅ。こんなもんかな?
 ミミ、どう思う?」

「ふむ。妾にとってはちいっとばかし
 若すぎる容貌に思えるのじゃが、
 妾の好みを転生者に押し付けるのも
 ちっとかわいそうじゃの。うんうん。
 完璧じゃ! さす旦那さまのじゃ!」


「おしゃ! ミミの"さす旦那"
 いただきましたぁ~!」

「それじゃ。ゴーレム体への
 魂移植手術を進めるよ」

「まかせた!」


ぼんやりした白い魂が
土の体に吸い込まれる。


「成功~。じゃあ引き続き、
 土を有機体に変更してみるね~」


セフィが手をかざしただけで
土の体が人の体へと変わっていく。
その過程はちょっとだけグロい。


「それじゃハンギョさん
 この転生者の体を転生部屋C
 の椅子まで運んでくれますか?
 力仕事で申し訳ないんですが……」

「了解ギョギョ。転生者への
 転生のガイダンスは
 基本マニュアルA-1で問題ないギョ?」

「ああ。そうですね。地球からの
 転生者さんなのでそれで大丈夫ですよ。
 ユキさん、よくセリフを忘れるから、
 セリフを忘れたらハンギョさんがカンペ
 出してサポートしてくれると助かります」

「既にカンペは準備ずみギョ!
 ユキさんのサポートは任せるギョ!」


単純に美形ということで
転生女神役は雪女のユキさんが
担当することになった。
新たな人生で最初にあう神役は
絶世の美女がいいだろうという配慮である。


(まあ。……俺の私見としてはミミが
 女神役が適任だと思うのだけど
 パッと見の女神っぽさっていう
 観点だとユキさんが神っぽいのかな? 
 村民アンケート結果だから仕方ないかぁ)


雪女のユキは女神っぽく
きちんとセリフ通りに話せれば
完璧な女神なのだが、

常時-20度なので転生者とは
若干距離をおいた感じでの
会話になるのはご愛嬌である。


転生部屋Cで転生者
"ヤマダ"は目を覚ます。


女神役のユキはハンギョが掲げる
カンペをチラ見しながら、
目の前の転生者ヤマダに向かって
深くお辞儀をした後に、言葉を紡ぐ。


「……大変申し訳ございません。
 神である私の手違いで本来は死ぬ
 予定ではなかったヤマダさんを
 うっかり死なせてしまいました。
 せめてものお詫びの印としてチートを
 授けた上で剣と魔法と冒険の異世界で
 新たな人生を快適に過ごせるように
 誠心誠意サポートさせていただきます」






            おしまい






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みんなの感想(11件)

masaki_a
2023.01.04 masaki_a

1話目より

ファルシのルシがコクーンで意味がわからないのルビに笑ってしまった。
確かに。

解除
安心院
2022.10.28 安心院

俺の勘違いじゃなければ玉縄居ませんか?これ笑

解除
坂本餅太郎
2022.07.02 坂本餅太郎

なんか玉縄がおる

解除
1 / 5

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