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「隊長は仕事中はつまらなさそうな顔してますよ」
ピチカはシリンの大人っぽいほほ笑みに少しドキッとしながら、続けて尋ねる。
「疲れておられる様子もないですか? 休みが少ないので、少し心配で」
「大丈夫ですよ。毎日仕事をしても疲れないようです。――あ、そこ、毛虫がいますよ」
頭上すれすれに伸びていた木の枝の下を通ろうとした時、シリンがそう言ってピチカを自分の方に引き寄せてくれた。ピチカが枝の方を見ると、確かにそこには毛虫が一匹張り付いていた。あのまま通っていたら、もしかしたら頭にくっついていたかもしれない。
「どうもありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
礼を言って自然に離れようとしたが、シリンは優しく掴んだ腕を離してくれない。そのまま森の見回りを続けようとする。
「あの……」
腕を持たれているとシリンとの距離が近くなってしまい、ピチカは気まずくなった。女性相手ならそれほど気にならない距離だが、シリンは異性だし、今日会ったばかりの相手だ。
「そこにも大きな石があるので気をつけてください」
しかしシリンはピチカが戸惑っている事には気づいていないようで、地面を指差してそう言った。
(シリンさんは、意外と人懐っこい人なのかな?)
ピチカはよく知らない男性とこんなふうにくっついて歩くのは緊張するのだが、シリンはそういう事は気にならないのかもしれない。他人との距離が近い人というのはたまにいる。
けれどシリンに触れられていると、まるで浮気をしているような気になってしまう。この状況をシリンは全く気にしていないし、ヴィンセントもこれくらいの事で気分を害したりしないかもしれない。
けれどピチカはちょっと嫌だった。もしも逆の立場だったら――ヴィンセントが他の女性とこんなふうに歩いていたら、やきもちを焼いてしまうと思うからだ。
「あの、シリンさん」
しかしピチカがそう言ってやんわりとシリンの拘束から逃れようとした時、後ろを歩いていたデオもシリンに声をかけてくれた。
「おい、あんた。ピチカ様が結婚してる事を知らないのか? そんなふうに馴れ馴れしく触っていたら、ヴィンセントさんに怒られるぞ」
するとシリンはそんな事を注意されるとは思っていなかったのか、少しだけ目を丸くしてデオの方を振り返った。そして少し逡巡してから、にっこり笑ってこう言う。
「ああ、そうだね。そうだった。ピチカさんが危なっかしく見えて、つい」
にこにこ笑いながらシリンはピチカの腕を離す。しかし腕を離されても、シリンがピチカのすぐ隣を歩いているという状況は変わらない。肩が触れ合いそうになるこの距離は、シリンにとっては自然なのかもしれないが、ピチカにとっては緊張する距離だ。
歩きながら少しずつ離れて行ってみても、シリンが同じだけ寄ってくるので、どうしたって距離は変わらない。
(ううーん……)
ピチカは困って、心の中でうなった。シリンに悪気はなさそうだし、これから仲良くやっていきたいから、あからさまに避けるような事はしたくない。
けれどあまりくっついて歩いていると、ヴィンセントに悪いような気がしてくる。
「ピチカさん? どうしました?」
「あ、いえ、何でも……」
シリンが顔を覗き込んで来たが、その距離もやはり近い。遠慮がないのは、シリンがこちらの事を異性として意識していないからだろうかとピチカは思った。
そしてこの日の見回りは、デオに言わせれば「馴れ馴れしい」態度のシリンに困惑しつつ終えたのだった。
「ピチカ様」
「この後も仕事があるので」と言って城の方へ歩いていったシリンの背を睨みつけつつ、デオがピチカに声をかけてきた。
シリンはすでにここから離れたところにいるが、デオは一応声をひそめて言う。
「あいつには気を許さないようにした方がいいですよ。あいつ、きっと〝女たらし〟です」
「うーん、そうかしら」
同意はしなかったが、「そんな事ない」と完全に否定する事もできなかった。確かに物腰柔らかで優しく、こちらとの物理的な距離が近いシリンの態度に、勘違いする女性もいるかもしれないと思ったからだ。
ピチカもヴィンセントという好きな人がいなければ、シリンにドキドキと胸を高鳴らせていたかもしれない。
デオは続けた。
「なんか嘘っぽいんですよね。あの優しい雰囲気も、笑顔も。そう思いませんでした? ずっとほほ笑んでましたけど、何か貼り付けたような笑顔でしたよ」
「そう言われるとそうだったかも……」
ピチカはシリンの笑顔を思い出しながら呟いた。確かにシリンは顔に常に笑みを浮かべているが、整った笑顔過ぎて、笑っているのに感情が読めないのだ。作られた表情だと言われればそんな気もする。
だけど時々、本当に笑っていると思える場面もあった。例えばピチカがヴィンセントについて、「私の前にいる時より、仕事中の方が楽しそうな様子ならちょっと寂しいなと思っただけで……」と言った後に、大人っぽく笑った時などだ。
何がおかしかったのかは分からないが、あれは本当に笑っていたんだろうなと思う。
「シリンさんの本当の性格はまだよく分からないけど、ヴィンセント様が信用している人だから悪い人じゃないはずよ。今日はまだ初日だし、これから一緒に仕事をしていけば彼の人となりも分かってくるかも」
「そうですかね」
ピチカは気を取り直して言ったが、デオはシリンの後ろ姿にまだ疑いの目を向けていた。
***
シリンは歩いて森から離れ、城へと向かうと、真っ直ぐにヴィンセントの執務室に向かった。
その顔にはもう笑顔は浮かんでおらず、何を考えているのか分からないような無表情で覆われている。
執務室に着くと、シリンはノックもせずにいきなり扉を開けた。
「……シリン? お前、髪切った? ……じゃないや。お前、ちゃんとノックして名乗れよ! 寮の自分の部屋と間違えてるのか? ここは隊長の執務室だぞ」
中にいたノットが片眉を上げて、厳しく言った。奥の机に座っているヴィンセントは何も言わずシリンを見ている。
「おい、シリン? 何かお前、様子が変だな。どうした?」
いつもにこにこ笑っているシリンが、今はヴィンセント並に無表情で無口だ。おかしいと思ったノットは叱るのをやめ、突っ立ったままのシリンに近づこうとした。
しかしヴィンセントがそれを止める。
「ノット、いい。あれはシリンじゃない」
「は? 何言ってるんです?」
「あれは俺だ」
「……ピチカちゃんとの新婚生活が楽しすぎて、頭がおかしくなりましたか?」
深刻な表情をするノットに、ヴィンセントは詳しく説明を始めた。
「ピチィと一緒に見回りをしている兵士がピチィに手を出さないように、今日から〝護衛〟という名目で私もついて行く事にしたのだ。だが、ピチィに『仕事にまでついて来る鬱陶しい夫』だと思われたくないから、変身魔術を使って別人に成りすます事にした」
「それでシリンに?」
「最初はノットにしようかと思ったのだが、ピチィはノットの事を知っているからな、成りすましているのがバレる可能性があった。だがシリンの事はピチィは知らないはずだし、あいつはいつも笑っているから笑顔さえ貼り付けておけば私でも演技ができるかと思ってな」
「いや、いつも無表情な隊長の対極にいる奴でしょ」
ノットは思わずそう言ったが、ヴィンセントはそうは思っていないようだった。
「ころころと表情が変わる者や、喜怒哀楽がはっきりしている者よりは演じやすい。表情が変わらないという点では私もシリンも同じだからな」
「なら、ダリルとかでも良かったんじゃないですか? あいつもずーっとしかめっ面して表情が変わらないですよ」
「ダリルでは駄目だ。きっとピチィが怖がる。人の良さそうな人間でないと」
「なるほど」
ノットは一度納得したが、また不可解そうな顔をしてヴィンセントと、ヴィンセントが化けているシリンを交互に見た。
「でも、二人に分かれているのは……あ、待てよ。何かそういう魔術がありましたよね。難易度高くて俺は使った事ないですけど、自分の分身を作る術が」
「そうだ。それを使って、私はまず二人に分かれた。そして一方がシリンに変化する」
「言うのは簡単ですけど、二人に分かれた時点で魔力も削られてますから、長時間変身術を使うのは難しいはずなんですけどね。分身術ほどではないにしろ変身術も難易度高いですし。数分ならともかく、午前中ずっと変身してたなんて」
ヴィンセントが元々持っている魔力が膨大だからこそできるのだろう。
「シリンはこの事知ってるんですか?」
「知っている。変身術を使うのに髪の毛が必要だったから、事情を説明してハサミで切って貰ってきた。ちょうど伸びた髪を切りたかったらしいから、大量に。あれだけあれば毎日シリンに変身したとしても数年は持つ」
「ああ、それでシリンの髪が短くなってたんですね。本体の方にはまだ会ってないですけど、きっと同じ髪型してるんでしょうね」
ノットはそこで呆れたように、そして感心したように息を吐いて続けた。
「それにしても分身術で分かれた影にさらに変身術をかけるなんて……。やっぱり隊長はすごいですよ。しかも変身も完璧じゃないですか。あの術はどんなに上手くかけたとしても、声が元のままだったり、目の色が違ったり、耳の形が変だったり、どこかしら綻びが出るものなのに」
「お褒めに預かり光栄だが……」
じっと観察してくるノットに、シリンに変化した方のヴィンセントが言う。
「あいにく、本体は私の方だ。私は本体に変身術をかけたのだ」
「え? じゃあ俺とずっと仕事してた方が影?」
「そうだ」
そう言うと同時にヴィンセントは変身術を解き、元の姿に戻った。そして机に座っていた方のヴィンセントは消え、本体の方に魔力が戻っていく。
「いや、仕事があるっていうのに分身して魔力を分散させてた事は許すとしても、せめて本体は城にいてくださいよ!」
ノットがそう叫ぶも、ヴィンセントには悪びれる様子もなくこう返されるだけだった。
「仕事よりもピチィの方が大事だから仕方がない」
ピチカはシリンの大人っぽいほほ笑みに少しドキッとしながら、続けて尋ねる。
「疲れておられる様子もないですか? 休みが少ないので、少し心配で」
「大丈夫ですよ。毎日仕事をしても疲れないようです。――あ、そこ、毛虫がいますよ」
頭上すれすれに伸びていた木の枝の下を通ろうとした時、シリンがそう言ってピチカを自分の方に引き寄せてくれた。ピチカが枝の方を見ると、確かにそこには毛虫が一匹張り付いていた。あのまま通っていたら、もしかしたら頭にくっついていたかもしれない。
「どうもありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
礼を言って自然に離れようとしたが、シリンは優しく掴んだ腕を離してくれない。そのまま森の見回りを続けようとする。
「あの……」
腕を持たれているとシリンとの距離が近くなってしまい、ピチカは気まずくなった。女性相手ならそれほど気にならない距離だが、シリンは異性だし、今日会ったばかりの相手だ。
「そこにも大きな石があるので気をつけてください」
しかしシリンはピチカが戸惑っている事には気づいていないようで、地面を指差してそう言った。
(シリンさんは、意外と人懐っこい人なのかな?)
ピチカはよく知らない男性とこんなふうにくっついて歩くのは緊張するのだが、シリンはそういう事は気にならないのかもしれない。他人との距離が近い人というのはたまにいる。
けれどシリンに触れられていると、まるで浮気をしているような気になってしまう。この状況をシリンは全く気にしていないし、ヴィンセントもこれくらいの事で気分を害したりしないかもしれない。
けれどピチカはちょっと嫌だった。もしも逆の立場だったら――ヴィンセントが他の女性とこんなふうに歩いていたら、やきもちを焼いてしまうと思うからだ。
「あの、シリンさん」
しかしピチカがそう言ってやんわりとシリンの拘束から逃れようとした時、後ろを歩いていたデオもシリンに声をかけてくれた。
「おい、あんた。ピチカ様が結婚してる事を知らないのか? そんなふうに馴れ馴れしく触っていたら、ヴィンセントさんに怒られるぞ」
するとシリンはそんな事を注意されるとは思っていなかったのか、少しだけ目を丸くしてデオの方を振り返った。そして少し逡巡してから、にっこり笑ってこう言う。
「ああ、そうだね。そうだった。ピチカさんが危なっかしく見えて、つい」
にこにこ笑いながらシリンはピチカの腕を離す。しかし腕を離されても、シリンがピチカのすぐ隣を歩いているという状況は変わらない。肩が触れ合いそうになるこの距離は、シリンにとっては自然なのかもしれないが、ピチカにとっては緊張する距離だ。
歩きながら少しずつ離れて行ってみても、シリンが同じだけ寄ってくるので、どうしたって距離は変わらない。
(ううーん……)
ピチカは困って、心の中でうなった。シリンに悪気はなさそうだし、これから仲良くやっていきたいから、あからさまに避けるような事はしたくない。
けれどあまりくっついて歩いていると、ヴィンセントに悪いような気がしてくる。
「ピチカさん? どうしました?」
「あ、いえ、何でも……」
シリンが顔を覗き込んで来たが、その距離もやはり近い。遠慮がないのは、シリンがこちらの事を異性として意識していないからだろうかとピチカは思った。
そしてこの日の見回りは、デオに言わせれば「馴れ馴れしい」態度のシリンに困惑しつつ終えたのだった。
「ピチカ様」
「この後も仕事があるので」と言って城の方へ歩いていったシリンの背を睨みつけつつ、デオがピチカに声をかけてきた。
シリンはすでにここから離れたところにいるが、デオは一応声をひそめて言う。
「あいつには気を許さないようにした方がいいですよ。あいつ、きっと〝女たらし〟です」
「うーん、そうかしら」
同意はしなかったが、「そんな事ない」と完全に否定する事もできなかった。確かに物腰柔らかで優しく、こちらとの物理的な距離が近いシリンの態度に、勘違いする女性もいるかもしれないと思ったからだ。
ピチカもヴィンセントという好きな人がいなければ、シリンにドキドキと胸を高鳴らせていたかもしれない。
デオは続けた。
「なんか嘘っぽいんですよね。あの優しい雰囲気も、笑顔も。そう思いませんでした? ずっとほほ笑んでましたけど、何か貼り付けたような笑顔でしたよ」
「そう言われるとそうだったかも……」
ピチカはシリンの笑顔を思い出しながら呟いた。確かにシリンは顔に常に笑みを浮かべているが、整った笑顔過ぎて、笑っているのに感情が読めないのだ。作られた表情だと言われればそんな気もする。
だけど時々、本当に笑っていると思える場面もあった。例えばピチカがヴィンセントについて、「私の前にいる時より、仕事中の方が楽しそうな様子ならちょっと寂しいなと思っただけで……」と言った後に、大人っぽく笑った時などだ。
何がおかしかったのかは分からないが、あれは本当に笑っていたんだろうなと思う。
「シリンさんの本当の性格はまだよく分からないけど、ヴィンセント様が信用している人だから悪い人じゃないはずよ。今日はまだ初日だし、これから一緒に仕事をしていけば彼の人となりも分かってくるかも」
「そうですかね」
ピチカは気を取り直して言ったが、デオはシリンの後ろ姿にまだ疑いの目を向けていた。
***
シリンは歩いて森から離れ、城へと向かうと、真っ直ぐにヴィンセントの執務室に向かった。
その顔にはもう笑顔は浮かんでおらず、何を考えているのか分からないような無表情で覆われている。
執務室に着くと、シリンはノックもせずにいきなり扉を開けた。
「……シリン? お前、髪切った? ……じゃないや。お前、ちゃんとノックして名乗れよ! 寮の自分の部屋と間違えてるのか? ここは隊長の執務室だぞ」
中にいたノットが片眉を上げて、厳しく言った。奥の机に座っているヴィンセントは何も言わずシリンを見ている。
「おい、シリン? 何かお前、様子が変だな。どうした?」
いつもにこにこ笑っているシリンが、今はヴィンセント並に無表情で無口だ。おかしいと思ったノットは叱るのをやめ、突っ立ったままのシリンに近づこうとした。
しかしヴィンセントがそれを止める。
「ノット、いい。あれはシリンじゃない」
「は? 何言ってるんです?」
「あれは俺だ」
「……ピチカちゃんとの新婚生活が楽しすぎて、頭がおかしくなりましたか?」
深刻な表情をするノットに、ヴィンセントは詳しく説明を始めた。
「ピチィと一緒に見回りをしている兵士がピチィに手を出さないように、今日から〝護衛〟という名目で私もついて行く事にしたのだ。だが、ピチィに『仕事にまでついて来る鬱陶しい夫』だと思われたくないから、変身魔術を使って別人に成りすます事にした」
「それでシリンに?」
「最初はノットにしようかと思ったのだが、ピチィはノットの事を知っているからな、成りすましているのがバレる可能性があった。だがシリンの事はピチィは知らないはずだし、あいつはいつも笑っているから笑顔さえ貼り付けておけば私でも演技ができるかと思ってな」
「いや、いつも無表情な隊長の対極にいる奴でしょ」
ノットは思わずそう言ったが、ヴィンセントはそうは思っていないようだった。
「ころころと表情が変わる者や、喜怒哀楽がはっきりしている者よりは演じやすい。表情が変わらないという点では私もシリンも同じだからな」
「なら、ダリルとかでも良かったんじゃないですか? あいつもずーっとしかめっ面して表情が変わらないですよ」
「ダリルでは駄目だ。きっとピチィが怖がる。人の良さそうな人間でないと」
「なるほど」
ノットは一度納得したが、また不可解そうな顔をしてヴィンセントと、ヴィンセントが化けているシリンを交互に見た。
「でも、二人に分かれているのは……あ、待てよ。何かそういう魔術がありましたよね。難易度高くて俺は使った事ないですけど、自分の分身を作る術が」
「そうだ。それを使って、私はまず二人に分かれた。そして一方がシリンに変化する」
「言うのは簡単ですけど、二人に分かれた時点で魔力も削られてますから、長時間変身術を使うのは難しいはずなんですけどね。分身術ほどではないにしろ変身術も難易度高いですし。数分ならともかく、午前中ずっと変身してたなんて」
ヴィンセントが元々持っている魔力が膨大だからこそできるのだろう。
「シリンはこの事知ってるんですか?」
「知っている。変身術を使うのに髪の毛が必要だったから、事情を説明してハサミで切って貰ってきた。ちょうど伸びた髪を切りたかったらしいから、大量に。あれだけあれば毎日シリンに変身したとしても数年は持つ」
「ああ、それでシリンの髪が短くなってたんですね。本体の方にはまだ会ってないですけど、きっと同じ髪型してるんでしょうね」
ノットはそこで呆れたように、そして感心したように息を吐いて続けた。
「それにしても分身術で分かれた影にさらに変身術をかけるなんて……。やっぱり隊長はすごいですよ。しかも変身も完璧じゃないですか。あの術はどんなに上手くかけたとしても、声が元のままだったり、目の色が違ったり、耳の形が変だったり、どこかしら綻びが出るものなのに」
「お褒めに預かり光栄だが……」
じっと観察してくるノットに、シリンに変化した方のヴィンセントが言う。
「あいにく、本体は私の方だ。私は本体に変身術をかけたのだ」
「え? じゃあ俺とずっと仕事してた方が影?」
「そうだ」
そう言うと同時にヴィンセントは変身術を解き、元の姿に戻った。そして机に座っていた方のヴィンセントは消え、本体の方に魔力が戻っていく。
「いや、仕事があるっていうのに分身して魔力を分散させてた事は許すとしても、せめて本体は城にいてくださいよ!」
ノットがそう叫ぶも、ヴィンセントには悪びれる様子もなくこう返されるだけだった。
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