三国志外伝 張政と姫氏王

敲達咖哪

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華夏の巻

文明の波濤

 帯方タイピァン郡は、ハンの献帝の建安年間、楽浪ラクラン郡の南辺を割いて、新たに設置された。楽浪郡は、古の朝鮮テウシェン国である。その昔、朝鮮王の衛右渠ウェイ・ユーギォは、中国に東方の諸夷が通うのを妨げているとのかどで、漢の武帝によって滅ぼされた。武帝は、朝鮮国と、その勢威の下に在った諸方に、四つの郡を置いて統治することとした。北辺に玄菟グェント郡、東隣に臨屯リムツォン郡、南方に真番チェンプァン郡、中央に楽浪郡である。この年は元封げんほう三年(西紀前108)であった。
 楽浪郡治は、朝鮮県に置かれた。朝鮮の地は古くから、中国に戦災などがあると、北回り陸伝いに、或いは内海に舟を浮かべて、難民たちが流れ込む所であった。ここに土著どちゃくしていたのは、ワイマクなどと呼ばれる種族だったが、 文明を受け入れることに慣れていたので、郡県制による統治を及ぼすことも割り合い容易であった。しかし他の三郡では治績が上がらず、臨屯・真番両郡は昭帝の始元五年(前82)に廃止され、玄菟郡も元鳳六年(前75)までに漸次縮小されなければならなかった。
 楽浪郡には、もとの臨屯郡と玄菟郡の一部が併合され、県が二十五、戸数が六万、人口は四十万に及んだ。郡域が広大になったので、南北に走る単単タンタン山脈を境とし、その東に東部都尉を置いて嶺東七県を統括させたが、後にはこれも停止して、濊人の長を不耐ピゥナイ濊侯に封じて自治をさせた。
 漢の統治が衰え、董卓トゥン・タクが王朝を貪り、天下は砂と崩れて軍閥が割拠した頃、遼東レウトゥン郡の太守は公孫度クンスォン・ダクであった。公孫度が遼東侯・ビェン州牧を自称したのは、献帝の初平元年(西紀190)のことである。遼東の地は戦乱の中心から遠く離れていたので、災難を避けて中国から多くの人々が移り住んだ。公孫度は、北のかた玄菟郡の外地に勢力を張った高句麗カウクリ扶余プヨ両国と修好し、南は楽浪郡を押さえた。
 献帝の建安九年(204)、度が死んで、子のカンがその地位を継いだ。やがて中土を曹操ザウ・ツァウ、南東を孫権スォン・グェン、南西を劉備リウ・ブィが押さえて、天下三分の形勢が成ってきた頃、公孫康は楽浪郡の南部で荒廃していた諸県を割いて帯方郡とし、逃散していた庶民を呼び集めて邑里まちを復旧させた。帯方郡の南には、ガン人の諸国があり、その南には海を境として人の諸国が接している。倭・韓諸国との交渉は帯方郡に依嘱され、冷涼な遼東には不足しがちな穀物や南海の珍味を輸入することができた。
 公孫康が死ぬと、弟のキォンが推されて地位を継いだ。中国では漢の献帝がグィ曹丕ザウ・ピに天子の位を譲ったが、これが魏の文帝である。黄初元年(220)、文帝が即位すると、公孫恭を仮節・車騎将軍に拝し、平郭侯に封じた。黄初七年(226)、魏の文帝が崩御し、皇太子のユェイが跡を嗣いで二世皇帝となった。
 太和たいか二年(228)、公孫康の次子ウェンが恭の地位を奪うと、天子はこれを追認して揚烈将軍・遼東太守に拝した。しかし公孫淵は、江南地方を支配する孫氏のゴー国ともよしみを通じていたので、魏王朝としてはこれを伐つべきであった。ただ南西からは劉氏のジョク国が頻りに挑戦して来るし、呉国の動きも油断ならなかった。青龍せいりょう二年(234)、蜀の大将諸葛亮チョカツ・リァンが死ぬと、魏の戦略にはようやく余裕ができる様になった。
 景初元年(237)、天子はイェウ州刺史の毌丘倹クァンキウ・ギェムらを遣わし、公孫淵を京師洛陽ラクイャンに呼び出そうとした。淵の方では、兵を興して遼隧レウシュイ城で逆戦する態度を示した。倹は進軍して淵を討つつもりであったが、長雨が降って遼水レウかわが溢れたので足止めされ、兵粮の備えが足りなくなって引き返した。淵は、自ら立ってエン王と称し、王朝の体裁を整えると、鮮卑シェンピ人に焚き付けて魏の北辺を侵凌させた。
 今や公孫氏は、魏王朝にとって明らかに伐たざるべからざる敵である。景初二年(238)、皇帝は太尉の司馬懿シェィマ・イーに、兵を率いて遼東を討たせることとし、戦略を諮る。司馬懿は、あざな仲達ヂユンダツといい、河内ガーヌァイウォン県の人である。先年、蜀軍が繰り返し侵入するのを防ぎ、諸葛亮を陣中に疲労させ、死に追いやったのはこの人であった。皇帝が問う、
「淵は如何な計略を以て君を待つであろうか?」
 仲達が答える、
「城を棄てて予め逃げるなら、淵の為には上策というもの。遼水を堀として我が軍をふせぐなら、それは次策。坐して城を守るなら、籠の鳥になるだけのことでありましょう」
「然らば実際にはどうなるであろうか?」
「ただ明智なる者だけが、彼我の戦力を慎んで察し、予め居る所を棄てる事があるものですが、これは全く淵などの及ぶ所ではありますまい。我らは遠征軍を出すのですから、持久することができないと思い込んで、必ずまずは遼水で拒ぎ、後には城を守るでありましょう」
「どのくらいかかるであろうか?」
「往くに百日、攻めるに百日、還るに百日、六十日を休息とします。一年にて足りましょう」
 かくして、司馬仲達が陸路遼東を征伐する。長雨に降られて遼水が溢れたとしても、今度は船を仕立てて兵粮を十分に運び込む様に用意をしてある。
 これとは別に、水軍が編成され、海を越えて楽浪・帯方両郡を収める手筈である。
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