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第四部 少年少女と王侯貴族達 第一章 王都への行程
3.獅子と豚の化かし合い(準備編)
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領主館の中に僕らを案内しながら、ブッターヤ領主はアル様に尋ねた。
「本当にお部屋は1室でよろしいので?」
僕ら――子ども組とルアレさんをチラチラ見ながらアル王女に尋ねる彼。
「かまわん」
「然様でございますか。恐れながら伺いたいのですが、彼らはいかなるお立場の方々なのでしょうか」
「説明する必要はないな」
冷たい言葉で斬り捨てるアル様。
「もちろん、王女殿下のお連れの方々について詮索するのは本位ではございません。ですが、我が領主館に招き入れるからには、せめてお立場とお名前だけでも教えて戴ければ幸いでございます」
ブッターヤ領主のその言葉に、アル様は心底面倒そうな顔をし――とはいえ、それなりの正論でもあるためか、拒否し続けることもしなかった。
「我が国の臣民だよ。当然だがな。私が信頼している協力者達だ。名前は――」
アル様が順々に僕らの名前を語っていく。
ルアレさんのこともデゴルアではなく、ルアレと紹介した。
ここで偽名を使う意味も無い。
「協力者、でございますか」
ブッターヤ領主は少し顔を引きつらせる。平民の、それも5人中4人は子どもだからね。
「なるほど、王女殿下もそのようなご趣味が」
ボソッと彼が発した言葉の意味は、僕にはよく分からなかった。
---------------
ブッターヤ領主が、僕らを案内した一室はやたらと立派だった。
広さはラクルス村の僕の家の5倍はある。大きなテーブル、いくつもの椅子。いくらするんだか分からない調度品の数々。
テーブルの上にはガラスの花瓶が置かれ、真っ赤なベニーラの花が飾られている。ベニーラというのは茎に棘がある、大きな花を咲かせる植物だ。前世の世界で言えば薔薇に近いと思う。
「それではお疲れをお取りください。後ほど些末ではありますが晩餐会を開かせて戴きたく存じます。アル殿下とレイク殿、キラーリア殿、是非ご一緒いただければ幸いです」
やはり、ブッターヤ領主にとって客人はその3人だけらしい。
「ふむ。長居をするつもりはないのだが」
「ですが、本日はもう日も暮れます。王都へ向かわれるにしても、明朝馬車をご用意させていただきますので」
「そうか。では食事は馳走になろう。彼らにも食事を頼む」
「もちろん、お連れの方々のお食事はこのお部屋に運ばせていただきます」
あくまでも、僕らは晩餐会には呼ばないぞという態度。
そりゃあそうだろうけどね。
「では、後ほど」
ブッターヤ領主はそう言って部下を引き連れて、頭を下げて部屋から出て行った。
---------------
ブッターヤ領主達がいなくなった後、アル様はソファーにドカッと腰を下ろした。
「やはり、ああいう会話はなかなかに疲れるな、『闇』と戦っていた方がマシだ」
「お気持ちは分かりますが、王都に行けばそのような会話いくらでもしていただきますよ」
レイクさんがそう言うと、アル様は心底嫌そうな顔をした。
「まったく、肩が凝ることだな。ああ、お前達もいつまでも突っ立ってないで適当に座れ」
一応、王女様を尊重して立ちっぱなしだった僕らは、思い思いに床や椅子に腰掛けた。
「ところでキラーリア」
アル様が声を潜めて言う。
「はい」
「盗聴は?」
え、なんでそれをキラーリアさんに聞くの?
「扉の向こうに2人ほどの気配が。聞き耳を立てているかどうかは分かりませんが」
マジか。
驚いたのは僕だけではなかったようで、リラが代表して言う。
「よく分かるわね、そんなの」
「大したことではない。ちょっと訓練すればすぐに分かるようになる」
そうなの!?
あ、でもそういえばお師匠様も、『闇』が攻撃を仕掛ける前に気づいていたなぁ。
案外、気配って訓練すれば読めるようになるんだろうか。
僕がそんなことを真剣に考えていると、アル様が言う。
「……真に受けるなよ、パド。コイツはある意味お前や私以上の天才だ。普通の人間に扉の向こう側の様子が分かってたまるか」
やっぱりそうだよね。
じゃあ、お師匠様は……あの人はあの人で天才だから、常に薄い結界を張っていたとかそんなところだろ。たぶん。
「とはいえ、別に聞かれて困るような話もないがな。せいぜい美味い飯をごちそうになって、明日の朝を迎えるだけだ」
アル様の言葉に、レイクさんも頷く。
「確かに、あまり時間もありそうにありません」
レイクさんの言葉に、アル様は頷き、僕とキラーリアさんとリラは首をひねった。
代表してキラーリアさんが問う。
「時間? どういうことですか?」
確かにアル様の呪いの件はあるけれど、たぶんそのことじゃないよね。
そのキラーリアさんに、アル様は呆れたとばかりの表情を浮かべる。
「お前らは先ほどの話を聞いていなかったのか?」
何のことだか分からずポカンとする僕ら。
アル様はヤレヤレといった顔で説明を始めた。
「ブッターヤとかいう領主が言っていただろう。『テキルース王子が間もなく王位を継ぐ』と」
「言っていましたが、ハッタリではないんですか?」
僕の問いに、アル様は『やっぱり分かっていないか』という顔でさらに続ける。
「確かに王位継承問題が解決したというのはハッタリだろうさ。だが、ヤツは『間もなく王位継承権が決する』ではなく『王位を継承する』と言ったんだぞ」
「それって何か違いがあるんですか? どのみちハッタリなんだったら……」
「継承権を得るというのは、あくまでも未来に継承する人間を決めるという話だ。それに対して間もなく王位を継承するというのは現在進行形の話だ。あの領主はハッタリをかけたつもりで、つい漏らしたんだよ。もうすぐ、現国王の身に何かが起きるとな」
僕らは顔を見合わす。
「むろん、こちらがそう考えることも含めたブラフの可能性もあるが、ヤツがそこまで考えて話していたようにも見えん」
つまり、『王位をテキルース王子が継ぐと決まった』というのはハッタリだが、『もうすぐ誰かに王位継承がなされる』のは事実ということ……なのか?
少し強引な推理のような気がする。そう感じたのは僕だけではないようで、キラーリアさんも眉をひそめて言った。
「考えすぎではないのですか?」
「かもしれんな。だが、その可能性を示されてしまえば、こちらは急ぐしかなくなる。私がいないうちに国王に死なれたらお終いだ」
僕はふと思いついて尋ねる。
「まさかと思うんですけど、王子達が王様をその……他の王子様と同じように……ってことはないですよね?」
テキルース王子達が国王を殺害しようとしているのではないか。
さすがに直接表現は避けたが、そういう疑問もわく。
僕の言葉に、全員が固まる。
「ま、可能性はあるな。もっとも国王はすでに老体だからな。正直、1年間も私が王都をあけたのも、かなりの賭だったんだよ。途中で国王が寿命死してもおかしくなかった」
それでも、アル様は動かざるをえなかった。
人族の貴族達の協力はほとんど見込めず、起死回生の手は龍族やエルフの後ろ盾を得る以外になかったのだ。
そこまで話したところで、ルアレさんが別の話題を口にする。
「ところで、本当に晩餐会にはお三方でご出席されるんですか?」
「そのつもりだが、何か問題があるか?」
「私には人族の事情はあまりよく分かりませんが、ここはいわば敵地のようなものでしょう。本当に大丈夫なのでしょうか?」
確かに。
ディナーに毒でも盛られたら大変だ。
その問いにはレイクさんが答える。
「そこはご心配なく。アル殿下の食べる食事は十分に相手方に毒味させますし、私やキラーリアは水すら口にするつもりはありません」
なるほど。
「いや、そうではありません。残った我らが襲われたらどう対処するのかという話です」
「さすがにその可能性は低いと思いますが」
「ですが、0ではないでしょう? 人族同士の争いであなた方が亡くなったとしても関知するつもりもありませんが、私としては龍の方々の息子様を見守る義務があります。非戦闘員だけ残されても困ります」
ルアレさんの懸念は分かる。
実際、このパーティの戦闘員はアル様とキラーリアさんなのだ。
「もし、命の危険を感じたらどんな手段を使って逃げ出してもらって構わんよ。私やレイクがここで死ぬようなら、見限ってエインゼルの森林に戻ってくれ。その時はパドとリラの面倒も見てもらえると助かる」
アル様はあっさりそう言った。
「なかなかに無責任な発言にも聞こえますが?」
「悪いな。正直、今の私には駒が足りない」
率直なアル様の言葉に、ルアレさんはため息をつきつつ、とりあえず納得した様子で頷いた。
「まあいいでしょう」
そこまで話したとき、晩餐会の準備ができたと、領主の部下がアル様達を呼びに来たのだった。
「本当にお部屋は1室でよろしいので?」
僕ら――子ども組とルアレさんをチラチラ見ながらアル王女に尋ねる彼。
「かまわん」
「然様でございますか。恐れながら伺いたいのですが、彼らはいかなるお立場の方々なのでしょうか」
「説明する必要はないな」
冷たい言葉で斬り捨てるアル様。
「もちろん、王女殿下のお連れの方々について詮索するのは本位ではございません。ですが、我が領主館に招き入れるからには、せめてお立場とお名前だけでも教えて戴ければ幸いでございます」
ブッターヤ領主のその言葉に、アル様は心底面倒そうな顔をし――とはいえ、それなりの正論でもあるためか、拒否し続けることもしなかった。
「我が国の臣民だよ。当然だがな。私が信頼している協力者達だ。名前は――」
アル様が順々に僕らの名前を語っていく。
ルアレさんのこともデゴルアではなく、ルアレと紹介した。
ここで偽名を使う意味も無い。
「協力者、でございますか」
ブッターヤ領主は少し顔を引きつらせる。平民の、それも5人中4人は子どもだからね。
「なるほど、王女殿下もそのようなご趣味が」
ボソッと彼が発した言葉の意味は、僕にはよく分からなかった。
---------------
ブッターヤ領主が、僕らを案内した一室はやたらと立派だった。
広さはラクルス村の僕の家の5倍はある。大きなテーブル、いくつもの椅子。いくらするんだか分からない調度品の数々。
テーブルの上にはガラスの花瓶が置かれ、真っ赤なベニーラの花が飾られている。ベニーラというのは茎に棘がある、大きな花を咲かせる植物だ。前世の世界で言えば薔薇に近いと思う。
「それではお疲れをお取りください。後ほど些末ではありますが晩餐会を開かせて戴きたく存じます。アル殿下とレイク殿、キラーリア殿、是非ご一緒いただければ幸いです」
やはり、ブッターヤ領主にとって客人はその3人だけらしい。
「ふむ。長居をするつもりはないのだが」
「ですが、本日はもう日も暮れます。王都へ向かわれるにしても、明朝馬車をご用意させていただきますので」
「そうか。では食事は馳走になろう。彼らにも食事を頼む」
「もちろん、お連れの方々のお食事はこのお部屋に運ばせていただきます」
あくまでも、僕らは晩餐会には呼ばないぞという態度。
そりゃあそうだろうけどね。
「では、後ほど」
ブッターヤ領主はそう言って部下を引き連れて、頭を下げて部屋から出て行った。
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ブッターヤ領主達がいなくなった後、アル様はソファーにドカッと腰を下ろした。
「やはり、ああいう会話はなかなかに疲れるな、『闇』と戦っていた方がマシだ」
「お気持ちは分かりますが、王都に行けばそのような会話いくらでもしていただきますよ」
レイクさんがそう言うと、アル様は心底嫌そうな顔をした。
「まったく、肩が凝ることだな。ああ、お前達もいつまでも突っ立ってないで適当に座れ」
一応、王女様を尊重して立ちっぱなしだった僕らは、思い思いに床や椅子に腰掛けた。
「ところでキラーリア」
アル様が声を潜めて言う。
「はい」
「盗聴は?」
え、なんでそれをキラーリアさんに聞くの?
「扉の向こうに2人ほどの気配が。聞き耳を立てているかどうかは分かりませんが」
マジか。
驚いたのは僕だけではなかったようで、リラが代表して言う。
「よく分かるわね、そんなの」
「大したことではない。ちょっと訓練すればすぐに分かるようになる」
そうなの!?
あ、でもそういえばお師匠様も、『闇』が攻撃を仕掛ける前に気づいていたなぁ。
案外、気配って訓練すれば読めるようになるんだろうか。
僕がそんなことを真剣に考えていると、アル様が言う。
「……真に受けるなよ、パド。コイツはある意味お前や私以上の天才だ。普通の人間に扉の向こう側の様子が分かってたまるか」
やっぱりそうだよね。
じゃあ、お師匠様は……あの人はあの人で天才だから、常に薄い結界を張っていたとかそんなところだろ。たぶん。
「とはいえ、別に聞かれて困るような話もないがな。せいぜい美味い飯をごちそうになって、明日の朝を迎えるだけだ」
アル様の言葉に、レイクさんも頷く。
「確かに、あまり時間もありそうにありません」
レイクさんの言葉に、アル様は頷き、僕とキラーリアさんとリラは首をひねった。
代表してキラーリアさんが問う。
「時間? どういうことですか?」
確かにアル様の呪いの件はあるけれど、たぶんそのことじゃないよね。
そのキラーリアさんに、アル様は呆れたとばかりの表情を浮かべる。
「お前らは先ほどの話を聞いていなかったのか?」
何のことだか分からずポカンとする僕ら。
アル様はヤレヤレといった顔で説明を始めた。
「ブッターヤとかいう領主が言っていただろう。『テキルース王子が間もなく王位を継ぐ』と」
「言っていましたが、ハッタリではないんですか?」
僕の問いに、アル様は『やっぱり分かっていないか』という顔でさらに続ける。
「確かに王位継承問題が解決したというのはハッタリだろうさ。だが、ヤツは『間もなく王位継承権が決する』ではなく『王位を継承する』と言ったんだぞ」
「それって何か違いがあるんですか? どのみちハッタリなんだったら……」
「継承権を得るというのは、あくまでも未来に継承する人間を決めるという話だ。それに対して間もなく王位を継承するというのは現在進行形の話だ。あの領主はハッタリをかけたつもりで、つい漏らしたんだよ。もうすぐ、現国王の身に何かが起きるとな」
僕らは顔を見合わす。
「むろん、こちらがそう考えることも含めたブラフの可能性もあるが、ヤツがそこまで考えて話していたようにも見えん」
つまり、『王位をテキルース王子が継ぐと決まった』というのはハッタリだが、『もうすぐ誰かに王位継承がなされる』のは事実ということ……なのか?
少し強引な推理のような気がする。そう感じたのは僕だけではないようで、キラーリアさんも眉をひそめて言った。
「考えすぎではないのですか?」
「かもしれんな。だが、その可能性を示されてしまえば、こちらは急ぐしかなくなる。私がいないうちに国王に死なれたらお終いだ」
僕はふと思いついて尋ねる。
「まさかと思うんですけど、王子達が王様をその……他の王子様と同じように……ってことはないですよね?」
テキルース王子達が国王を殺害しようとしているのではないか。
さすがに直接表現は避けたが、そういう疑問もわく。
僕の言葉に、全員が固まる。
「ま、可能性はあるな。もっとも国王はすでに老体だからな。正直、1年間も私が王都をあけたのも、かなりの賭だったんだよ。途中で国王が寿命死してもおかしくなかった」
それでも、アル様は動かざるをえなかった。
人族の貴族達の協力はほとんど見込めず、起死回生の手は龍族やエルフの後ろ盾を得る以外になかったのだ。
そこまで話したところで、ルアレさんが別の話題を口にする。
「ところで、本当に晩餐会にはお三方でご出席されるんですか?」
「そのつもりだが、何か問題があるか?」
「私には人族の事情はあまりよく分かりませんが、ここはいわば敵地のようなものでしょう。本当に大丈夫なのでしょうか?」
確かに。
ディナーに毒でも盛られたら大変だ。
その問いにはレイクさんが答える。
「そこはご心配なく。アル殿下の食べる食事は十分に相手方に毒味させますし、私やキラーリアは水すら口にするつもりはありません」
なるほど。
「いや、そうではありません。残った我らが襲われたらどう対処するのかという話です」
「さすがにその可能性は低いと思いますが」
「ですが、0ではないでしょう? 人族同士の争いであなた方が亡くなったとしても関知するつもりもありませんが、私としては龍の方々の息子様を見守る義務があります。非戦闘員だけ残されても困ります」
ルアレさんの懸念は分かる。
実際、このパーティの戦闘員はアル様とキラーリアさんなのだ。
「もし、命の危険を感じたらどんな手段を使って逃げ出してもらって構わんよ。私やレイクがここで死ぬようなら、見限ってエインゼルの森林に戻ってくれ。その時はパドとリラの面倒も見てもらえると助かる」
アル様はあっさりそう言った。
「なかなかに無責任な発言にも聞こえますが?」
「悪いな。正直、今の私には駒が足りない」
率直なアル様の言葉に、ルアレさんはため息をつきつつ、とりあえず納得した様子で頷いた。
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