139 / 201
第四部 少年少女と王侯貴族達 第三章 王位継承戦
4.御前の戦い その3 神託の行方(2)
しおりを挟む
国王陛下としても、教皇は邪険にはできない存在らしい。
立ち上がりこそしなかったものの、頭を下げ挨拶をする。
「これは教皇猊下、お久しぶりです」
「しばらく顔を出せずに失礼いたしておりました。ところで……」
教皇は目を細め、未だ兵士に捕らわれているテミアール王妃に目を向ける。
「国王陛下、私の娘が兵に捕らわれているようにしか見えないのですが、一体いかなることですかな?」
テミアール王妃は教皇の実子だからね。そりゃあ、目の前で自分の娘が捕らわれていればそう尋ねもするよね。
国王陛下はテキルース王子に目を向ける。
「ふむ、此度のことはテキルースとフロールがおこなったこと。余も少し困惑していてな」
そのテキルース王子は目をキョロキョロさせてわかりやすく動揺している。一方、フロール王女はさすがの貫禄で、動揺は表に出していない。あるいは、本当に動揺していないのか。
「フロールによれば、アルとテミアールが共謀して世界を滅ぼそうとしているというのだ」
「ははは、それは面白い」
いや、面白くないですよ、教皇さん。
「しかし、世界を滅ぼすとは。一体どうすれば世界を滅ぼすことができるというのか。大変遺憾ながら、我が教会にも王国にも、世界を滅ぼすような力はありますまい。故に、そのような疑惑、ありえないことと愚考します」
「教皇猊下のご意見はごもっともなのだが、フロール曰く世界を滅ぼす神託がなされたという。そして、その要といえるのが、そこにいる少年とか。教皇猊下、それは真のことか?」
国王陛下の質問に、教皇は『なるほど』と頷く。
「あの神託ですか。あれについては、私とアル殿下とですでに話し合っていますよ」
「ほう?」
「神託によれば、『放置すれば世界が揺らぎ、やがて滅びる』とのこと。ゆえに、彼を放置せず、アル殿下とレイク殿に預けたのです」
「つまり、アルは世界を滅ぼすのではなく、神託が実現しないように動いたと?」
「然り。もしも、テミアールがそれに協力したというならば、テミアールの思いも同じかとおもいます」
めまぐるしく変わっていく事態。
ほんの数分前までアル殿下と僕がピンチに思えたが、教皇が現れたことで形勢逆転だ。
いや、違う。
教皇の登場はあまりにも狙ったタイミングだ。
あきらかにアル殿下と――あるいはレイクさんと打ち合わせ済だったということ。
僕がお皿洗いとかをしている間に、アル様はしっかり教会と話をつけていたのだろう。
ベストタイミングだったのは、あるいは通信の魔石を使っていたのかもしれない。声に出さなくてもテレパシーみたいに話せるらしいし。
「お待ちください、教皇猊下。それでは私の弟があまりにも救われませぬ」
勢い込み――あるいは泣き叫ぶように言い出したのは枢機卿アルテ。
だが、教皇は彼を見ることもなく言う。
「アルテ、貴方の弟とは一体誰のことですか?」
それはひどいんじゃ。いや、異端審問官は僕やリラを殺そうとしたわけで、同情する気にはなれないけど、それにしても、存在否定はちょっと。
アルテもさすがにワナワナと震える。
「……なっ、そんな……」
「アルテ、貴方の弟についてはすでに調べてあります。その結果、教会内で存在してはならない集団を未だ捨てていなかったことも判明しています」
存在してはならない集団――異端審問官という存在そのものか。
弟の存在そのものを否定され、アルテも我慢ならなかったのだろう。叫び、抗議する。
「教皇猊下は誰の味方なのですか!?」
「私は教会とその教えのために動いています。そして、教会の教えには幼子を殺すなどというものも、異端審問官などという存在もないのですよ」
「しかしっ!」
「アルテ、ここは国王陛下の御前です。教会内部の問題は後ほど教会にてかたをつけましょう。
そもそも、総本山に申告することなく枢機卿の立場で国王陛下の御前に立つこと自体、教会の規範違反に等しいと知りなさい」
「くっ」
アルテは押し黙った。
「国王陛下。失礼いたしました。アルテのことは教会に預けてはいただけないでしょうか? その上で申し上げますが、テミアールの解放を要求します」
国王陛下は『うむ』と頷く。
「テキルース、フロール、聞いての通りだ。もはや、テミアールを拘束する理由はなかろうと思うが、如何に?」
フロール王女が顔を歪ませ包む頷く。
「……やむをえませんね」
「また、そなたがアルにかけた疑惑も誤解であったということになる。そうなれば、此度のことは一件落着と思うが如何に?」
国王陛下の言葉に、テキルース王子が目を白黒させる。
一方、フロール王女は苦虫をかみつぶしたような顔で言った。
「ひとまずは、そう認めるしかありませんか」
「ふむ、それでは一同解散としたいが、意義のあるものはいるか?」
異議無しという声が上がる中、ただ1人異議を唱えた者がいた。
「ちょっと待ってほしい、父上。私が教皇を呼んだ用件がすんでおらん」
異議を唱えたのは、アル殿下だった。
「ふむ、そなたが教皇猊下を呼んだのは神託についてではなかったということか?」
「いや、神託についてには違いない。だが、パドについてではない」
「どういうことか?」
「もう一つ、別の神託があるのだよ。そうだな、教皇?」
アル殿下が教皇に視点をやった。
教皇は少し考えるそぶりを見せ、そしておもむろに頷いた。
「はい、私がずっと胸の内に秘めていた神託がございます。今日は皆様にそれをお聞かせしたい」
そして、教皇は特大級の爆弾を投げ込むような話を始めたのだった。
立ち上がりこそしなかったものの、頭を下げ挨拶をする。
「これは教皇猊下、お久しぶりです」
「しばらく顔を出せずに失礼いたしておりました。ところで……」
教皇は目を細め、未だ兵士に捕らわれているテミアール王妃に目を向ける。
「国王陛下、私の娘が兵に捕らわれているようにしか見えないのですが、一体いかなることですかな?」
テミアール王妃は教皇の実子だからね。そりゃあ、目の前で自分の娘が捕らわれていればそう尋ねもするよね。
国王陛下はテキルース王子に目を向ける。
「ふむ、此度のことはテキルースとフロールがおこなったこと。余も少し困惑していてな」
そのテキルース王子は目をキョロキョロさせてわかりやすく動揺している。一方、フロール王女はさすがの貫禄で、動揺は表に出していない。あるいは、本当に動揺していないのか。
「フロールによれば、アルとテミアールが共謀して世界を滅ぼそうとしているというのだ」
「ははは、それは面白い」
いや、面白くないですよ、教皇さん。
「しかし、世界を滅ぼすとは。一体どうすれば世界を滅ぼすことができるというのか。大変遺憾ながら、我が教会にも王国にも、世界を滅ぼすような力はありますまい。故に、そのような疑惑、ありえないことと愚考します」
「教皇猊下のご意見はごもっともなのだが、フロール曰く世界を滅ぼす神託がなされたという。そして、その要といえるのが、そこにいる少年とか。教皇猊下、それは真のことか?」
国王陛下の質問に、教皇は『なるほど』と頷く。
「あの神託ですか。あれについては、私とアル殿下とですでに話し合っていますよ」
「ほう?」
「神託によれば、『放置すれば世界が揺らぎ、やがて滅びる』とのこと。ゆえに、彼を放置せず、アル殿下とレイク殿に預けたのです」
「つまり、アルは世界を滅ぼすのではなく、神託が実現しないように動いたと?」
「然り。もしも、テミアールがそれに協力したというならば、テミアールの思いも同じかとおもいます」
めまぐるしく変わっていく事態。
ほんの数分前までアル殿下と僕がピンチに思えたが、教皇が現れたことで形勢逆転だ。
いや、違う。
教皇の登場はあまりにも狙ったタイミングだ。
あきらかにアル殿下と――あるいはレイクさんと打ち合わせ済だったということ。
僕がお皿洗いとかをしている間に、アル様はしっかり教会と話をつけていたのだろう。
ベストタイミングだったのは、あるいは通信の魔石を使っていたのかもしれない。声に出さなくてもテレパシーみたいに話せるらしいし。
「お待ちください、教皇猊下。それでは私の弟があまりにも救われませぬ」
勢い込み――あるいは泣き叫ぶように言い出したのは枢機卿アルテ。
だが、教皇は彼を見ることもなく言う。
「アルテ、貴方の弟とは一体誰のことですか?」
それはひどいんじゃ。いや、異端審問官は僕やリラを殺そうとしたわけで、同情する気にはなれないけど、それにしても、存在否定はちょっと。
アルテもさすがにワナワナと震える。
「……なっ、そんな……」
「アルテ、貴方の弟についてはすでに調べてあります。その結果、教会内で存在してはならない集団を未だ捨てていなかったことも判明しています」
存在してはならない集団――異端審問官という存在そのものか。
弟の存在そのものを否定され、アルテも我慢ならなかったのだろう。叫び、抗議する。
「教皇猊下は誰の味方なのですか!?」
「私は教会とその教えのために動いています。そして、教会の教えには幼子を殺すなどというものも、異端審問官などという存在もないのですよ」
「しかしっ!」
「アルテ、ここは国王陛下の御前です。教会内部の問題は後ほど教会にてかたをつけましょう。
そもそも、総本山に申告することなく枢機卿の立場で国王陛下の御前に立つこと自体、教会の規範違反に等しいと知りなさい」
「くっ」
アルテは押し黙った。
「国王陛下。失礼いたしました。アルテのことは教会に預けてはいただけないでしょうか? その上で申し上げますが、テミアールの解放を要求します」
国王陛下は『うむ』と頷く。
「テキルース、フロール、聞いての通りだ。もはや、テミアールを拘束する理由はなかろうと思うが、如何に?」
フロール王女が顔を歪ませ包む頷く。
「……やむをえませんね」
「また、そなたがアルにかけた疑惑も誤解であったということになる。そうなれば、此度のことは一件落着と思うが如何に?」
国王陛下の言葉に、テキルース王子が目を白黒させる。
一方、フロール王女は苦虫をかみつぶしたような顔で言った。
「ひとまずは、そう認めるしかありませんか」
「ふむ、それでは一同解散としたいが、意義のあるものはいるか?」
異議無しという声が上がる中、ただ1人異議を唱えた者がいた。
「ちょっと待ってほしい、父上。私が教皇を呼んだ用件がすんでおらん」
異議を唱えたのは、アル殿下だった。
「ふむ、そなたが教皇猊下を呼んだのは神託についてではなかったということか?」
「いや、神託についてには違いない。だが、パドについてではない」
「どういうことか?」
「もう一つ、別の神託があるのだよ。そうだな、教皇?」
アル殿下が教皇に視点をやった。
教皇は少し考えるそぶりを見せ、そしておもむろに頷いた。
「はい、私がずっと胸の内に秘めていた神託がございます。今日は皆様にそれをお聞かせしたい」
そして、教皇は特大級の爆弾を投げ込むような話を始めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる