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第九章 勇者と保護者
4.最後の我儘
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『勇気の試練』から帰還した俺達は、ダルネスら総本山の首脳陣にそのことを報告した。
ダルネスは「了解した。明日『祝福の試練』に案内しよう」と俺達に言った。
そして、俺だけに聞こえるように「双子達に『別れ』についてきちんと話をせいよ」と言ってくれた。
そう。
もう先送りできない。
いや、本当ならば3年前――エンパレの街を出る前に話しておくべきことだったのだ。
だから。
俺は今、アレルとフロル、それにライトやソフィネと向かい合って座っている。
「4人に言っておくことがある」
「なに?」
尋ねるアレルに、俺は続けた。
「神様――シルシルが言ったらしい『別れ』についてだ」
その言葉に、フロルの顔が曇る。彼女は俺の顔を覗き見、そしてアレルの方を見た。
ライトとソフィネも何かをさっしたように黙り込む。
アレルだけが、無邪気にキョトンとしたままだ。
もう、フロルもライトもソフィネも分かっているのだ。
言い出さないのは、俺がハッキリつげるのを待っていてくれたからだ。
子ども達に気を使わせていただけだ。俺は最後までだめな保護者だったな。
「アレルとフロルが最後の試練を乗り越えたとき、俺は元の世界に戻ることになる。俺はお前達と別れることになる。たぶん、2度と会えない」
その言葉に、アレルが目を見開く。
見開いたまま、うつむく。
もう一度顔上げたとき、彼はぐちゃぐちゃの表情で涙を流していた。
「どうして?」
「最初からその予定だった……らしい。俺はお前とフロルが勇者となるまでの保護者だ。その勤めも十分できたかは分からないが、2人が勇者となった時点で俺の役目は終わる。そういうことだ」
沈黙――あるいは静寂が数秒。
それから、アレルはフロル達3人を見る。
「フロルは気づいていたの?」
「神様の話を聞いたときに、なんとなくは」
ライトとソフィネも同様のようだ。
「そうか、アレルだけが気づかなかったんだ。そっか……」
アレルは再び俯き。
そして言う。
「やだ」
小さく、ハッキリと。
「だったら、アレルは勇者になんてならない。最後の試練なんてうけないもん。そうしたらご主人様は元の世界に戻らないでいいんだよね?」
おいおい。
いや、確かに理屈はそうなるのかもしれないが。
「アレル!」
そんなアレルに、フロルが叫ぶ。
「そんな我儘が通ると思うの!?」
「……通すもん」
「神様は言っていたでしょう。もうすぐ魔王が攻めてくるって。その前に私たちが勇者にならないと……」
「そんなの知らないもん」
「……いや、知らないって……私たちは勇者として……」
「別に、好きで勇者に生まれたわけじゃない!」
アレルは叫んだ。
「フロルはご主人様……ショートのこと嫌い? ライトは? ソフィネは?」
アレルの問いに、フロルは真っ直ぐ答える。
「私はショート様のことが好きよ。私を奴隷から人間にしてくれた方だもの。だからこそ、ここまで来た。ショート様がいてくれたから、私はあなたと一緒に勇者になろうと思えた。アレルはそうじゃないの?」
「アレルは……アレルはご主人様と一緒がいい! だから、最後の試練は受けないの!」
叫ぶと、アレルは立ち上がり駆け出す。
「アレル!」
フロルが叫び追い縋ろうとするが、アレルの動きは早い。
確か、今のアレルの『素早さ』は600以上あったはずだ。あるいは、2つの試練を乗り越えたことで700以上になったかもしれない。
そのスピードはもはや音速に近く、俺やフロルに止められるわけがない。
ライトが俺に言う。
「どうするんだよ、ショート?」
「どうするったって……困ったなぁ」
「『困ったなぁ』じゃねーだろ。お前はさっき言ったよな。『最初からその予定だった』って。前から思っていたんだ。試練の話をすると、どこかお前がさみしそうで変だなぁって。つまり、最初の最初から、『別れ』のことをお前は知っていたんだろう?」
問い詰められ、俺は頷くしかなかった。
「なのに、今の今まで言わなかった。理由は知らねーよ。聞きたくもない。だけど、明日試練を受けるって段になっていきなり告げるのは卑怯だ。アレルやフロルがかわいそうすぎるだろ」
ライトの言葉は正論だった。
もっと早く言うべきことだった。
俺に言い出す勇気がなくて、だからここまで伸ばし伸ばしになっていた。
「ゴメン」
俺はそう呟くように言うことしかできなくて。
ライトは。
「ま、いいさ」
そう言って立ち上がった。
「元々、ショートはこの世界の人間じゃないらしいからな。この世界を救う勇者様の面倒は、本来この世界の人間が見るべきなんだろうさ」
ライトは歩き出す。
そんなライトの背へ、ソフィネが尋ねる
「どこへ行くの?」
「こうなったとき、アレルの面倒を見るのは俺の役目だろ」
そう言い残し、ライトはアレルのあとを追って駆けだしたのだった。
ダルネスは「了解した。明日『祝福の試練』に案内しよう」と俺達に言った。
そして、俺だけに聞こえるように「双子達に『別れ』についてきちんと話をせいよ」と言ってくれた。
そう。
もう先送りできない。
いや、本当ならば3年前――エンパレの街を出る前に話しておくべきことだったのだ。
だから。
俺は今、アレルとフロル、それにライトやソフィネと向かい合って座っている。
「4人に言っておくことがある」
「なに?」
尋ねるアレルに、俺は続けた。
「神様――シルシルが言ったらしい『別れ』についてだ」
その言葉に、フロルの顔が曇る。彼女は俺の顔を覗き見、そしてアレルの方を見た。
ライトとソフィネも何かをさっしたように黙り込む。
アレルだけが、無邪気にキョトンとしたままだ。
もう、フロルもライトもソフィネも分かっているのだ。
言い出さないのは、俺がハッキリつげるのを待っていてくれたからだ。
子ども達に気を使わせていただけだ。俺は最後までだめな保護者だったな。
「アレルとフロルが最後の試練を乗り越えたとき、俺は元の世界に戻ることになる。俺はお前達と別れることになる。たぶん、2度と会えない」
その言葉に、アレルが目を見開く。
見開いたまま、うつむく。
もう一度顔上げたとき、彼はぐちゃぐちゃの表情で涙を流していた。
「どうして?」
「最初からその予定だった……らしい。俺はお前とフロルが勇者となるまでの保護者だ。その勤めも十分できたかは分からないが、2人が勇者となった時点で俺の役目は終わる。そういうことだ」
沈黙――あるいは静寂が数秒。
それから、アレルはフロル達3人を見る。
「フロルは気づいていたの?」
「神様の話を聞いたときに、なんとなくは」
ライトとソフィネも同様のようだ。
「そうか、アレルだけが気づかなかったんだ。そっか……」
アレルは再び俯き。
そして言う。
「やだ」
小さく、ハッキリと。
「だったら、アレルは勇者になんてならない。最後の試練なんてうけないもん。そうしたらご主人様は元の世界に戻らないでいいんだよね?」
おいおい。
いや、確かに理屈はそうなるのかもしれないが。
「アレル!」
そんなアレルに、フロルが叫ぶ。
「そんな我儘が通ると思うの!?」
「……通すもん」
「神様は言っていたでしょう。もうすぐ魔王が攻めてくるって。その前に私たちが勇者にならないと……」
「そんなの知らないもん」
「……いや、知らないって……私たちは勇者として……」
「別に、好きで勇者に生まれたわけじゃない!」
アレルは叫んだ。
「フロルはご主人様……ショートのこと嫌い? ライトは? ソフィネは?」
アレルの問いに、フロルは真っ直ぐ答える。
「私はショート様のことが好きよ。私を奴隷から人間にしてくれた方だもの。だからこそ、ここまで来た。ショート様がいてくれたから、私はあなたと一緒に勇者になろうと思えた。アレルはそうじゃないの?」
「アレルは……アレルはご主人様と一緒がいい! だから、最後の試練は受けないの!」
叫ぶと、アレルは立ち上がり駆け出す。
「アレル!」
フロルが叫び追い縋ろうとするが、アレルの動きは早い。
確か、今のアレルの『素早さ』は600以上あったはずだ。あるいは、2つの試練を乗り越えたことで700以上になったかもしれない。
そのスピードはもはや音速に近く、俺やフロルに止められるわけがない。
ライトが俺に言う。
「どうするんだよ、ショート?」
「どうするったって……困ったなぁ」
「『困ったなぁ』じゃねーだろ。お前はさっき言ったよな。『最初からその予定だった』って。前から思っていたんだ。試練の話をすると、どこかお前がさみしそうで変だなぁって。つまり、最初の最初から、『別れ』のことをお前は知っていたんだろう?」
問い詰められ、俺は頷くしかなかった。
「なのに、今の今まで言わなかった。理由は知らねーよ。聞きたくもない。だけど、明日試練を受けるって段になっていきなり告げるのは卑怯だ。アレルやフロルがかわいそうすぎるだろ」
ライトの言葉は正論だった。
もっと早く言うべきことだった。
俺に言い出す勇気がなくて、だからここまで伸ばし伸ばしになっていた。
「ゴメン」
俺はそう呟くように言うことしかできなくて。
ライトは。
「ま、いいさ」
そう言って立ち上がった。
「元々、ショートはこの世界の人間じゃないらしいからな。この世界を救う勇者様の面倒は、本来この世界の人間が見るべきなんだろうさ」
ライトは歩き出す。
そんなライトの背へ、ソフィネが尋ねる
「どこへ行くの?」
「こうなったとき、アレルの面倒を見るのは俺の役目だろ」
そう言い残し、ライトはアレルのあとを追って駆けだしたのだった。
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