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第2部 魔王と勇者、いじめっ子と対決する
第8話 魔王、学級委員長に提言する
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勇美を追求してきたメガネの少年。
誰だコイツ? 俺は彼の名札をチラッと見た。
名札には『5年1組 丸木学』と書かれていた。
この名前、覚えがあるな。
一方、勇美は首をひねって言う。
「君は誰だ?」
「勇美くん冗談はよしてくれたまえ」
勇美が記憶喪失だと思っているそらが言った。
「勇美ちゃんと同じ学級委員長の丸木学くんだよ」
「む、そうか。これは失礼した。事故で少し記憶が混乱していたようだ。すまないな、丸木くん」
「なるほど。それは大変だね。だが、だからといって佐々倉くんへの暴力はいただけないな」
「ササクラ? あのデブ少年のことか?」
勇美の言葉に、学は「ふっ」と笑って右手でメガネを抑えた。
「一体どうしてしまったんだ、勇美くん。君は僕には叶わないとはいえ、クラスでも優秀な人間だと思っていたんだがな」
「ほう。評価してくれたことには礼を言おう」
「忠告しておくが、僕やキミのような選ばれた人間は、佐々倉くんや青井くんみたいな落ちこぼれと付き合うべきじゃない。影陽くんは双子だから無視もできないだろうが、やはり彼も落ちこぼれだ。必要以上に相手をしないことだ」
うわぁ、すさまじい上から目線だな。
もちろん、俺はこんな子どもの戯れ言にいちいち腹を立てたりはしないが。
勇美が学に言う。
「なんだかよく分らないが、先ほどの件ならば先に手を出してきたのはササクラだぞ」
「なるほど。正当防衛を主張するわけだね。確かに彼は乱暴者だしさもありなんだ。だが、少々やりすぎにも思うがね。あれでは正当防衛ではなく過剰防衛ではないかね?」
「……よくわからんな。攻撃に反撃することの何が悪いのだ?」
勇美の言葉に、学は目を細めた。
「ほう。それが答えか。がっかりだよ、勇美くん。君はクラスで唯一、ある程度僕に近い有能な人間だと思っていたのだが。佐々倉くんレベルまで落ちるのか」
随分と口が回る少年だ。
ムカつくといえばムカつくが、所詮子どもの戯言。
これ以上相手にしても仕方がない気もする。
俺は学に言った。
「学くん悪いけどさ。言いたいことがそれだけなら、とりあえず席に座らせてもらえないかな?」
俺の言葉に、学はとことんバカにした表情で「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「影陽くん、君みたいな落ちこぼれとは話したくないな」
「俺が落ちこぼれか。なぜそう思うんだ?」
「公立小学校のテストで80点以下なんて落ちこぼれだろう。ましてキミは毎回50点以下じゃないか」
「なるほど、勉学の話か」
「僕と口をききたいならば、せめて全教科80点はとって欲しいね。ま、それでも毎回100点の僕や、90点以上の勇美くんからみれば話にならないが」
学はクククと笑ってみせた。
俺は小さくため息。
「それが学くんの考え方か」
「なんだい、文句があるのか?」
「いいや。勉強ができるのは素晴らしいことだと思うぞ」
「ふっ、それがわかるなら黙っていろ」
「だが、自分が優秀だからと他人を見下すのはあまり賢いやり方ではないな」
学は目を細めて俺を睨んだ。
「どういう意味だ?」
「本当に頭がいいなら、説明しなくても理解しそうなものだがな」
「ふんっ。どうせ強い者は弱い者を助けるとかいうくだらない博愛主義の妄言だろう」
別にそんなつもりはないんだがな。
学はさらに続けた。
「バカな両親の方針で小学校は公立に入学せざるをえなかったが、中学は私立に行く。東大に入って官僚になって、政治家になる。最後は総理大臣になってみせるんだ」
総理大臣か。確か日本では政治のトップをそう呼んだはずだ。
11歳でそこまで考えるとは、なかなかに立派な目標だ。
それだけに惜しいな。
人生の先達として、すこし教育してやるか。
「俺の経験からすれば、人の上に立つ者は、他人の短所よりも長所を見るべきだな。戦いが得意な部下と学問が得意な部下とを上手く使い分けてこそ、国を統治できる」
これは魔王として40年魔族をひきいた俺の実感だ。
信賞必罰は軍の鉄則だが、それは指導者が部下の長所と短所を見極め適材適所に配置してからの話である。
「ふんっ、無能力者など僕の部下には必要ないな」
「なるほど、それも1つの考え方だろう。だが、全てにおいてキミよりも優秀な人間がいるとしたら、キミはその人間の上司ではなく部下になるべきではないか?」
俺の言葉に、学は「ちっ」と舌打ちした。
「影陽くん、随分と口が達者になったものだね。まるで事故前とは別人のようじゃないか。だが、だからといってキミが落ちこぼれなのは変わらないぞ」
やれやれ。やはり理解できないか。
日本のことわざで言うところの『井の中の蛙大海を知らず』状態なのだろうと推察するが。
ま、子どものうちは自信過剰なくらいでいいのかもしれない。
これ以上俺がどうこう言っても仕方が無いか。
しかし、影陽の日記を読んで少し気になったことがあるな。
「学くん、キミは学級委員長だな?」
「今更確認の必要があるかね?」
「いや。だが、それならばなぜ、一学期にササゴの横暴を無視していたのかと思ってな」
「ふんっ、あんな低脳など相手にしているほど僕は暇じゃないんだ。キミがいじめられようが知ったことじゃないねっ!」
彼は確かに優秀なのだろう。が、人の上に立つには足りないものが多いようだな。
とはいえ、11歳の小学生だ。まだまだ成長する余地はあるだろう。
「なるほど、よく分ったよ。キミのこれからの成長に期待するとしよう」
俺の言葉に、学が屈辱に震えた。
「影陽くんごときが上から目線でよく言ったものだな! 見ていろ! 僕は君たちみたいな負け犬とは違う! 必ず成功者になってみせる!!」
「おう、楽しみにしておくよ」
俺はそう返事してニヤリと笑った。
誰だコイツ? 俺は彼の名札をチラッと見た。
名札には『5年1組 丸木学』と書かれていた。
この名前、覚えがあるな。
一方、勇美は首をひねって言う。
「君は誰だ?」
「勇美くん冗談はよしてくれたまえ」
勇美が記憶喪失だと思っているそらが言った。
「勇美ちゃんと同じ学級委員長の丸木学くんだよ」
「む、そうか。これは失礼した。事故で少し記憶が混乱していたようだ。すまないな、丸木くん」
「なるほど。それは大変だね。だが、だからといって佐々倉くんへの暴力はいただけないな」
「ササクラ? あのデブ少年のことか?」
勇美の言葉に、学は「ふっ」と笑って右手でメガネを抑えた。
「一体どうしてしまったんだ、勇美くん。君は僕には叶わないとはいえ、クラスでも優秀な人間だと思っていたんだがな」
「ほう。評価してくれたことには礼を言おう」
「忠告しておくが、僕やキミのような選ばれた人間は、佐々倉くんや青井くんみたいな落ちこぼれと付き合うべきじゃない。影陽くんは双子だから無視もできないだろうが、やはり彼も落ちこぼれだ。必要以上に相手をしないことだ」
うわぁ、すさまじい上から目線だな。
もちろん、俺はこんな子どもの戯れ言にいちいち腹を立てたりはしないが。
勇美が学に言う。
「なんだかよく分らないが、先ほどの件ならば先に手を出してきたのはササクラだぞ」
「なるほど。正当防衛を主張するわけだね。確かに彼は乱暴者だしさもありなんだ。だが、少々やりすぎにも思うがね。あれでは正当防衛ではなく過剰防衛ではないかね?」
「……よくわからんな。攻撃に反撃することの何が悪いのだ?」
勇美の言葉に、学は目を細めた。
「ほう。それが答えか。がっかりだよ、勇美くん。君はクラスで唯一、ある程度僕に近い有能な人間だと思っていたのだが。佐々倉くんレベルまで落ちるのか」
随分と口が回る少年だ。
ムカつくといえばムカつくが、所詮子どもの戯言。
これ以上相手にしても仕方がない気もする。
俺は学に言った。
「学くん悪いけどさ。言いたいことがそれだけなら、とりあえず席に座らせてもらえないかな?」
俺の言葉に、学はとことんバカにした表情で「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「影陽くん、君みたいな落ちこぼれとは話したくないな」
「俺が落ちこぼれか。なぜそう思うんだ?」
「公立小学校のテストで80点以下なんて落ちこぼれだろう。ましてキミは毎回50点以下じゃないか」
「なるほど、勉学の話か」
「僕と口をききたいならば、せめて全教科80点はとって欲しいね。ま、それでも毎回100点の僕や、90点以上の勇美くんからみれば話にならないが」
学はクククと笑ってみせた。
俺は小さくため息。
「それが学くんの考え方か」
「なんだい、文句があるのか?」
「いいや。勉強ができるのは素晴らしいことだと思うぞ」
「ふっ、それがわかるなら黙っていろ」
「だが、自分が優秀だからと他人を見下すのはあまり賢いやり方ではないな」
学は目を細めて俺を睨んだ。
「どういう意味だ?」
「本当に頭がいいなら、説明しなくても理解しそうなものだがな」
「ふんっ。どうせ強い者は弱い者を助けるとかいうくだらない博愛主義の妄言だろう」
別にそんなつもりはないんだがな。
学はさらに続けた。
「バカな両親の方針で小学校は公立に入学せざるをえなかったが、中学は私立に行く。東大に入って官僚になって、政治家になる。最後は総理大臣になってみせるんだ」
総理大臣か。確か日本では政治のトップをそう呼んだはずだ。
11歳でそこまで考えるとは、なかなかに立派な目標だ。
それだけに惜しいな。
人生の先達として、すこし教育してやるか。
「俺の経験からすれば、人の上に立つ者は、他人の短所よりも長所を見るべきだな。戦いが得意な部下と学問が得意な部下とを上手く使い分けてこそ、国を統治できる」
これは魔王として40年魔族をひきいた俺の実感だ。
信賞必罰は軍の鉄則だが、それは指導者が部下の長所と短所を見極め適材適所に配置してからの話である。
「ふんっ、無能力者など僕の部下には必要ないな」
「なるほど、それも1つの考え方だろう。だが、全てにおいてキミよりも優秀な人間がいるとしたら、キミはその人間の上司ではなく部下になるべきではないか?」
俺の言葉に、学は「ちっ」と舌打ちした。
「影陽くん、随分と口が達者になったものだね。まるで事故前とは別人のようじゃないか。だが、だからといってキミが落ちこぼれなのは変わらないぞ」
やれやれ。やはり理解できないか。
日本のことわざで言うところの『井の中の蛙大海を知らず』状態なのだろうと推察するが。
ま、子どものうちは自信過剰なくらいでいいのかもしれない。
これ以上俺がどうこう言っても仕方が無いか。
しかし、影陽の日記を読んで少し気になったことがあるな。
「学くん、キミは学級委員長だな?」
「今更確認の必要があるかね?」
「いや。だが、それならばなぜ、一学期にササゴの横暴を無視していたのかと思ってな」
「ふんっ、あんな低脳など相手にしているほど僕は暇じゃないんだ。キミがいじめられようが知ったことじゃないねっ!」
彼は確かに優秀なのだろう。が、人の上に立つには足りないものが多いようだな。
とはいえ、11歳の小学生だ。まだまだ成長する余地はあるだろう。
「なるほど、よく分ったよ。キミのこれからの成長に期待するとしよう」
俺の言葉に、学が屈辱に震えた。
「影陽くんごときが上から目線でよく言ったものだな! 見ていろ! 僕は君たちみたいな負け犬とは違う! 必ず成功者になってみせる!!」
「おう、楽しみにしておくよ」
俺はそう返事してニヤリと笑った。
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