転生幼女の引き籠りたい日常~何故か魔王と呼ばれておりますがただの引き籠りです~

暁月りあ

文字の大きさ
47 / 47

47:奪取失敗

しおりを挟む
「で、お前はどうするんだ」

 お兄様が振り向いて誰もいないはずの場所に問いかけます。
 ゆらりと現れたのはナハト。

「……」

 彼は無言で武器を構えます。
 答えは決まっているようでした。
 少ない時間でしたがナハトは仲間を見捨てるような性格ではありません。
 仲間を思いやり、気遣い、そして最善を尽くす。
 それは、彼等の隠密・暗殺とは不釣り合いな資質です。
 ナハトは無言で短剣を構えました。

「……そうか」

 お兄様は悲しげに目を伏せられます。
 その時。
 ナハトの後ろに月光がなにかに反射したように感じました。
 キラリと光る一筋の光。
 振り上げられた剣。
 急に背後に現れた気配に驚いたナハトが振り返ろうとしますが、それでは遅い。
 剣を振り上げる瞬間まで正面にいた私達でさえ気づかなかった。

──お父様。

 剣を向けた時点で答えは決まっていたのでしょう。
 それは、とてもゆっくりに見えました。
 世界のすべてが止まったかのようにも感じました。
 ピーネの瞳が極限まで見開かれます。
 気を失っているサシャはピクリとも動きません。
 相手の状況は絶望的。
 そして彼女たちを動かすナハトが死ねば、彼女たちはまともに動けないでしょう。
 それでも。

──元々今回を最後にして逃げるつもりだったんだ。お嬢様を連れて行っても殺すのと変わらんだろう。ってことで連れてきたというわけ。

 屋敷に忍び込んで私を連れ去ることが出来るくらいです。
 容易に殺すことだってできたはず。
 それなのに関わらず、危険を犯して私を生かす未来を彼なりに考えてくれました。

 失っていいの?
 でも、彼は出会ったばかりの人間。
 私を攫ったのです。
 人を今まで何人も殺してきたのでしょう。
 そんな人を助けるの?

 頭の片隅で語りかける私がいます。
 それでも。

「だめぇえええええええ!!」

 そう叫んだのはピーネではありません。
 声が引き連れそうなほど声高に。
 私の静止は、願いは。
 スキルを発動させた。

「──っ!」

 私を中心とした円範囲が発光します。
 お父様が咄嗟に飛び退きました。
 お兄様は私を抱え、アンナも眼を庇います。

「どういうつもりだ。……コーラル」

 お父様の怖い声にびくりと体を揺らしました。
 そっとお兄様が私の背中をなでてくれることが救いでしょうか。
 光が治まった時、そこにはピーネも、サシャも、お父様に切られそうになっていたナハトさえ消えていたのです。
 何が起きたのか。
 私にもわかりません。
 でも、何かをしたのは私なのでしょう。
 状況的にそうとしか思えません。

「父上。今のは」
「転移だ。力の残滓からして、狭間の世界にコーラルが飛ばしたのだろう」

 スキルはほとんど魔力を消費しません。
 けれど、完全に魔力を使わないのかと言えばそうでもないのです。
 お父様ほどの強い方でしたらそれくらい容易に調べられるのでしょう。
 お父様は私を抱えたお兄様の側で跪きます。

「コーラル、何故生かす? あれらはお前を攫ったのだ」

 そうやってお父様は私を諭します。
 殺すべきだと。
 邪魔者は排除するべきだとお父様はおっしゃるのです。

「やぁーの。やぁあのっ」

 私はお兄様に抱きつきながら首を振ります。
 誰にも死んでほしくないなんて。
 そんなことはエゴであることくらいわかっています。
 それでも、私の生を望んでくれた優しい暗殺者達。
 雇い主から逃げると言ったのです。
 それまで望んで暗殺や隠密をやっていたのではないのでしょう。
 少しくらいは酌量の余地があっても良いのではないでしょうか。
 そう考えるのは、私がとても甘いのでしょうね。
 私の考えをお父様達へ伝える術はありません。

「父上、私からも報告したいことがあります」

 お兄様は私を抱え直しながらそう言います。

「残りの者達は私が」
「アンナ、生かして連れてきてほしい」

 お兄様の指示にお父様が片眉を上げましたが、アンナの視線にお父様は頷きます。
 幼いとは思えないほど利発的なお兄様。
 お父様はお兄様の意見を無視するべきではないと判断したのでしょう。

「畏まりました」

 アンナはそう言ってすぅっと音もなく消えます。

「帰ろう。コーラル」

 お兄様の声音はとても優しくて。
 私はぽろぽろと涙を止めることができませんでした。
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

ゆてぃあ
2022.03.19 ゆてぃあ

更新再開やったぁ!
続きを楽しみにしてます!

2022.03.22 暁月りあ

ありがとうございます∠( 'ω')/
書けたら次はすぐに更新しますね!
次回もお楽しみに(`・ω・´)!!

解除
2021.08.25 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.08.25 暁月りあ

ありがとうございます!!
最近割とマジな話しか書いてなくて「幼女が欲しい!!」と叫んでしまったあたおかですがよろしくお願いします∠( 'ω')/

解除
スパークノークス

お気に入りに登録しました~

2021.08.15 暁月りあ

わぁ!ありがとうございます(*'ω'*)!!
最近幼女成分が足りなくて「そうだ、幼女を書こう」という残念思考になった作者の作品ですがよろしくおねがいします~。

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。