執着王子のお気に入り姫

暁月りあ

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XVII栄養失調

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 食事も摂った後、色々あって落ち着いた。
 実は急な食事にお腹をくだしてしまったのだ。
 あれには私もディンバーも慌てた。
 少しくらいの毒になら慣らされている私だけど、量には耐性がなかったようだ。
 確かに、初めてまともな食事を摂った。
 いきなり多く食べすぎてしまったからだとは近くに住んでいる薬師の言。
 栄養失調気味で虐待の痕もある私を診て薬師はディンバーを大変怪しんでいた。
 ディンバーに保護してもらったのだと言って人を呼ぶのを止めたりと。
 色々大変だった。
 薬師に暫くはパン粥にすること、回復するまではベッドから出ないこと。
 また診にくると告げられて去っていく頃にはだいぶ時間が経っていた。

「色々時間を食っちまったな」
「ごめんにゃさい……」
「お前のせいじゃねぇ。気にするな」

 ガシガシと強めに撫でられる。
 近くの部屋から椅子を持ってきたディンバーはベッドの隣に置いて座った。

「じゃあ落ち着いたことだし、この店について説明するか」
「あい」

 キリッとした表情で姿勢を正したが、どこか締まらない。
 鼻で笑われながら、ディンバーは説明を開始した。

「この店の店主は俺で、給仕担当ウエイトレスが1人と厨房担当が1人。こいつらは来たら紹介する」

 うん、と私は頷く。
 知っている。
 だって魔法の糸で知っていたから。
 実際にこの店に入ることはできなかったが、人が発する音を拾うように人の魔力も大体感知できる。
 人の音には魔力が篭る。
 なら、人が自然に排出する魔力も感じ取れる。
 そういう仕組みだ。

「俺はカウンターで酒を準備する。開店は夕方。日付が過ぎたら食事の提供は終了。片付けが済み次第店員2人は帰宅。その後は閉店まで酒とチーズか干物肉の提供だな」

 カウンター内は簡易的なキッチンも付いているが、流石に本格的な料理は作れない。
 席を降りてカウンター内に入れてもらって見学すると、並んだ酒樽とワインの他にもこっそりと魔法具で食べ物を冷やせる冷蔵庫的なものがあった。
 これはカリア時代にはなかったものだ。
 流石に1度目の私が使っていたような高機能では無い。1番上の層に氷を作る魔法具がセットされており、そこから冷気がでていた。

「元々この酒場は情報を提供することもある。副業みたいなもんだな。話のネタは多い方がいい」

 カウンターの引き出しから宝石のついた砂時計を出してひっくり返す。

「これは音を記録する魔法具だ。この砂が落ち切るまでの間、音を記録する」

 宝石部分を押してひっくり返すと記録した音声が聞けるらしい。
 この世界の録音機器。
 ただひっくり返すだけでは録音のオンオフは出来ないため、渡された録音機をクルクルと回して私は眺めた。

「とある注文をしたやつにこれを渡す。客はこれに依頼を吹き込んで、お前が翌日の昼間に確認する」
「いっしょに、きいちゃ……め?」

 そう聞くとディンバーは首を振った。

「お前がこの店に堂々と居られるようになる年齢になったら考えやるよ」
「ふたんじゃにゃい?」

 元より副業として情報屋も兼ねていたディンバーにとって営業時間内に行うやり取りだ。
 この様子ならこのやり方でやったことも1度や2度じゃない。
 聞いてから愚問だったことに気付く。

「情報が欲しいやつってのは人が少ない時ほど来たがるもんだ。知られたくないことならなおさらな。そんな時間は子供が起きてる時間じゃねぇよ」
「おきりゅよ」
「馬鹿。寝てろって言われたばっかりだろ」
「むぅ」

 今までの虐待経緯から暫くは療養生活が続きそうである。
 薬代も稼がなければならないのに倒れては元も子もない。ここは甘えておくべきだ。
 その代わり、きちんと仕事をこなさなければ。

「俺はお前に仕事の仲介をする。依頼承諾なら次に客が来た時、サービスのとある酒を振る舞う。依頼料を貰って俺はお前から得た情報を伝える」

 どうだ? 
 と聞かれた。
 断る理由なんてあるのだろうか。

「まあ、なんにせよ体調が良くなってからだな」
「?」

 やれやれと肩をすくめたディンバーに首を傾げる。
 と、ここで私は気付いた。
 彼は私がどうやって情報を集めているか知らない。
 知らないからここにいても情報が集められると思ってないのだ。

(薬代も払って置いてくれるなんて変じゃない?)

 ディンバーはそんなタイプではない。
 誠実なタイプじゃない。
 仕事なら汚れたことも平気でやれる。

(それに……)
 
 気を抜いたら売り飛ばされるんじゃ無いだろうかとも考えたが、それならもっといい獲物はいるだろうと考え直した。
 5日間、ただそれぞれの店を盗み聞きしていたわけじゃ無い。
 人があまり来ないような治安の悪い場所や貧民街と呼ばれる場所も気配を消して魔法の糸を張ってきた。
 そうすれば私よりも肉付きの良い子供なんてあちらこちらにいた。
 私よりも肉付きがいいだけで飢えているような子供ばかりだったが。

(敢えてこんなガリガリの頭がイカれた子供を売ろうとなんてしないか)

 知りもしない大人に自分のスキルを売るなんて正気じゃ無いことくらい分かってる。
 それでも、そこから始めなければならなかった。
 変に魔法の糸が使えることがバレてもしたら私から搾取するような奴が群がってくるだろう。
 そんなこと、赦すつもりはない。

「だいじょうぶ」

 クイっとディンバーの裾を引いて興味を向けさせる。

「でもなぁ」
「だいじょうぶ」

 じっとディンバーを見上げた。
 やがて諦めたように、彼は「お試しからだな」と言って私をベッドへと戻したのだった。

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