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XVI温かいパンの味
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太陽の位置が真上に来た頃。
漸く冴えてきた頭を振る。
(そろそろちゃんと起きようかな)
眠れないからとぼんやりと外を眺めながら寝転んでいても何も始まらない。
むくりと起き上がってみればくぅっと可愛らしい音が腹から聞こえてきた。
(そういえばなにも食べてない)
この5日間、1日携帯食を6分割して1食1欠片で食いつないできた。
まだひと欠片残っていただろうかと自分の荷物を漁るが、そこには食べかすしか残っていないボロ布しかない。
全財産はボロ布と雑巾にしても役に立たないぼろぼろの服だけ。
これでどう生きるというのか。
「おかね、かせがないと」
金がないことには食事にもありつけない。
弱い者は淘汰される。世の中の摂理だ。
なんとも世知辛い世の中である。
(幸いなことは職にありつけたということ)
ディンバーはただ好意だけで私に部屋と職を与えてくれたわけではないと思う。
おそらくなのだが、この酒場自体が元々そういう情報を提供する場所でもあるのだ。
冒険者や傭兵同士ではなく店側から情報を提供する。
そういう体系が既に整っているような気がした。
そうでもなければ私を引き取るようなこともしない。
私の『情報』という価値をどれだけ高められるか。
それはこれからの私の行動とディンバーとの友好関係次第。
(頑張ろう)
薄い腹を撫でながら拳を作って奮起する。
そうしていると、コンコンとノックの音がした。
ディンバーが起こしに来てくれたようだ。
「取り敢えず着替えはこれ。着替えたら降りてこい。飯を作ってあるから」
「ごはん……」
ぐぅっと切ない音が部屋に響く。
お腹が好きすぎて恥ずかしいなどと思う余裕はない。
手渡された気が手を抱えて、私はうつむいた。
「でも、おかね」
着替えと雨風を凌げる部屋まで借りている。
今のところ払える対価もないのだ。
それなのに食事までご馳走になるわけにはいかない。
空腹でも携帯食でなんとか生きてこられたのだ。
夜までなんとか耐えることも出来る。
そう思っていた私の頭を、ゴツゴツとした手がぽんっと叩いた。
「サービスだ。金の卵を生む鶏を粗末にする奴なんていないだろ。出世払いでいいぞ」
私を使って一儲けするのだと。
口ではそう言っているけど。
対して期待していない。
そんな口調。
(優しい人だ)
態と気付かせないようにそう言ったにしろ、それが本当であったとしても。
ならば、私もそれに報いるべきだと思った。
この恩は必ず返すべきだ。
頷いた私にやれやれとディンバーは先に降りていった。
ディンバーが部屋を出ていった後、急いで着替える。
ぶかぶかのシャツは変わらない。
男物の短パンは大きすぎて長ズボンのようになっていた。
腰紐で調整してなんとか引きずらないようにする。
着替え終わって1階にいくと、カウンターに目玉焼きとパン。
それからミルクが用意されていた。
ディンバーが私を持ち上げて座らせる。
(大変申し訳無い)
年齢に対して幼い体型はこれから稼いで食べてなんとかするしかない。
食べていいかと視線を上げれば、ディンバーが頷いた。
いただきます、と1番目の私が呟く。
それに合わせて目礼して私はパンを手に取った。
「!」
驚いたのはそのモチモチとした質感。
今生ではカビたカチカチのパンか、残飯の味もわからない謎の物体しか目にしたことがない。
1度目の私の世界では確かにこういうふわふわのパンはたしかにあった。
けれど、カリアの時代にはパンといえばカチカチが当たり前で。
この世界でこういったものを目にするのは初めてであった。
ごくり、と喉が鳴る。
子供の手でもちぎれることに驚き。
口にすればその触感に感動する。
「ふぁああ」
「パン一つで大げさな」
そうディンバーは口端をぴくぴくさせるが、本当に美味しいのだ。
パンを含んだあとにミルクを飲むのも美味しい。
フォークを突き刺した目玉焼きは半熟。
一口含めばその美味しさに自然と頬が緩んだ。
「おいちー」
「朝飯くらいでおおげさな」
そう言われて。
一瞬、食事を詰め込んだ頬の動きが止まる。
「お、おい。どうした」
そう慌てるディンバーの姿を見て。
どうしたのと聞く余裕もない。
大きな涙の粒が頬を伝った。
「あ……」
大げさと言われるくらいこの時代にとって簡素な料理。
でも、毒に怯えなくていい。
誰かの残飯でもない。
命をつなぐための最低限の携帯食でもない。
私だけのために用意された初めての温かい食事。
それに気付いてしまった私の無意識による涙だった。
「おい、ちー、よ」
出来る限りの笑顔で笑った。
今生で生まれて6年。
確かに3歳の頃に前世2つの記憶を取り戻した。
それでも、傷つかないわけがないのだ。
どうしてこんな理不尽が私を襲うのかと、世界を呪ってもおかしくはなかったのに。
気づかないうちに出来た傷口に、ディンバーの食事は優しく沁みた。
「そうかい。ゆっくり食え。子供から食べ物を奪うやつはここにはいないんだからな」
「あい」
ズズズッとディンバーに手渡された布で鼻を綺麗にする。
あまりの鼻水にちょっとドン引きされた。
ディンバーがコーヒーを飲みながら、私が食べ終わるのを待っていてくれる。
今日のことはきっと忘れないだろう。
そう思えた朝だった。
漸く冴えてきた頭を振る。
(そろそろちゃんと起きようかな)
眠れないからとぼんやりと外を眺めながら寝転んでいても何も始まらない。
むくりと起き上がってみればくぅっと可愛らしい音が腹から聞こえてきた。
(そういえばなにも食べてない)
この5日間、1日携帯食を6分割して1食1欠片で食いつないできた。
まだひと欠片残っていただろうかと自分の荷物を漁るが、そこには食べかすしか残っていないボロ布しかない。
全財産はボロ布と雑巾にしても役に立たないぼろぼろの服だけ。
これでどう生きるというのか。
「おかね、かせがないと」
金がないことには食事にもありつけない。
弱い者は淘汰される。世の中の摂理だ。
なんとも世知辛い世の中である。
(幸いなことは職にありつけたということ)
ディンバーはただ好意だけで私に部屋と職を与えてくれたわけではないと思う。
おそらくなのだが、この酒場自体が元々そういう情報を提供する場所でもあるのだ。
冒険者や傭兵同士ではなく店側から情報を提供する。
そういう体系が既に整っているような気がした。
そうでもなければ私を引き取るようなこともしない。
私の『情報』という価値をどれだけ高められるか。
それはこれからの私の行動とディンバーとの友好関係次第。
(頑張ろう)
薄い腹を撫でながら拳を作って奮起する。
そうしていると、コンコンとノックの音がした。
ディンバーが起こしに来てくれたようだ。
「取り敢えず着替えはこれ。着替えたら降りてこい。飯を作ってあるから」
「ごはん……」
ぐぅっと切ない音が部屋に響く。
お腹が好きすぎて恥ずかしいなどと思う余裕はない。
手渡された気が手を抱えて、私はうつむいた。
「でも、おかね」
着替えと雨風を凌げる部屋まで借りている。
今のところ払える対価もないのだ。
それなのに食事までご馳走になるわけにはいかない。
空腹でも携帯食でなんとか生きてこられたのだ。
夜までなんとか耐えることも出来る。
そう思っていた私の頭を、ゴツゴツとした手がぽんっと叩いた。
「サービスだ。金の卵を生む鶏を粗末にする奴なんていないだろ。出世払いでいいぞ」
私を使って一儲けするのだと。
口ではそう言っているけど。
対して期待していない。
そんな口調。
(優しい人だ)
態と気付かせないようにそう言ったにしろ、それが本当であったとしても。
ならば、私もそれに報いるべきだと思った。
この恩は必ず返すべきだ。
頷いた私にやれやれとディンバーは先に降りていった。
ディンバーが部屋を出ていった後、急いで着替える。
ぶかぶかのシャツは変わらない。
男物の短パンは大きすぎて長ズボンのようになっていた。
腰紐で調整してなんとか引きずらないようにする。
着替え終わって1階にいくと、カウンターに目玉焼きとパン。
それからミルクが用意されていた。
ディンバーが私を持ち上げて座らせる。
(大変申し訳無い)
年齢に対して幼い体型はこれから稼いで食べてなんとかするしかない。
食べていいかと視線を上げれば、ディンバーが頷いた。
いただきます、と1番目の私が呟く。
それに合わせて目礼して私はパンを手に取った。
「!」
驚いたのはそのモチモチとした質感。
今生ではカビたカチカチのパンか、残飯の味もわからない謎の物体しか目にしたことがない。
1度目の私の世界では確かにこういうふわふわのパンはたしかにあった。
けれど、カリアの時代にはパンといえばカチカチが当たり前で。
この世界でこういったものを目にするのは初めてであった。
ごくり、と喉が鳴る。
子供の手でもちぎれることに驚き。
口にすればその触感に感動する。
「ふぁああ」
「パン一つで大げさな」
そうディンバーは口端をぴくぴくさせるが、本当に美味しいのだ。
パンを含んだあとにミルクを飲むのも美味しい。
フォークを突き刺した目玉焼きは半熟。
一口含めばその美味しさに自然と頬が緩んだ。
「おいちー」
「朝飯くらいでおおげさな」
そう言われて。
一瞬、食事を詰め込んだ頬の動きが止まる。
「お、おい。どうした」
そう慌てるディンバーの姿を見て。
どうしたのと聞く余裕もない。
大きな涙の粒が頬を伝った。
「あ……」
大げさと言われるくらいこの時代にとって簡素な料理。
でも、毒に怯えなくていい。
誰かの残飯でもない。
命をつなぐための最低限の携帯食でもない。
私だけのために用意された初めての温かい食事。
それに気付いてしまった私の無意識による涙だった。
「おい、ちー、よ」
出来る限りの笑顔で笑った。
今生で生まれて6年。
確かに3歳の頃に前世2つの記憶を取り戻した。
それでも、傷つかないわけがないのだ。
どうしてこんな理不尽が私を襲うのかと、世界を呪ってもおかしくはなかったのに。
気づかないうちに出来た傷口に、ディンバーの食事は優しく沁みた。
「そうかい。ゆっくり食え。子供から食べ物を奪うやつはここにはいないんだからな」
「あい」
ズズズッとディンバーに手渡された布で鼻を綺麗にする。
あまりの鼻水にちょっとドン引きされた。
ディンバーがコーヒーを飲みながら、私が食べ終わるのを待っていてくれる。
今日のことはきっと忘れないだろう。
そう思えた朝だった。
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