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第一章 離宮の住人
魔力暴走が効かない理由
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どういうこと? と言わんばかりに、殿下が小首を傾げる。
「うっ」
「リーシャ!? どうしたの!?」
彼のあまりの可愛さに、思わず息が詰まってしまった。胸をギュッと掴んで、呼吸を整える。
仕方ない。自分の情けない部分を伝えるのは少し恥ずかしいけれど、話すしかないようだ。
「いえ、何でもありません。その、実はわたくし、魔力が全くないのです。恥ずかしながら、小さな火をつけることもできないのですよ。ですからきっと、わたくしは魔力への感覚がとことん鈍いのだろうと思われます」
「……」
第二王子が、ポカンとした表情で私を見つめる。彼は魔力が多すぎて暴走するのを制御できないほどなので、魔力が全くないというのが想像できないのかもしれない。
「そんなことが……あるの、かな? いや、でも完全な魔力なしの情報は……」
殿下が顎に手を当て、何やらブツブツと独り言を言い始めた。少しの間待ってみたものの、彼の思考は、なかなか深く自分の世界に潜り込んでいるようだ。
「あの、殿下?」
軽く声をかけると、彼はハッと我に返ったように顔を上げた。
「あ、ごめんリーシャ、僕……」
「いいえ、とんでもないことです。実は、自分でもなぜ平気なのかよくわかっていないのですよ。でもそういうことですので、殿下がこれから何度魔力を暴走させても、わたくしは大丈夫ですよ! あ、でも、殿下のお体の負担にもなってしまいますから、ゆっくりでいいのでコントロールできるように頑張りましょうね」
「……あ、そうか。だから……」
「はい?」
殿下が何かに納得したように頷いたので、私はどうしたのだろうかと首を傾げた。
「あのね、リーシャ。僕は、さっきみたいに暴走しなくても、常に軽く魔力が漏れている状態らしいんだ。だから、普通の人はこの屋敷に近づくと無性に不安や恐怖を覚えるみたいで、部屋の前にまで食事を持ってきて僕に声をかけてくれた人なんて、今までいなかったんだ」
「えっ?」
なんと。食事の世話は交代でしていたと聞いていたのに、まさか部屋まで食事を持ってくる者が誰もいなかったとは。
「そんな。では、今まで食事は一体どこに準備されていたのですか?」
「だいたいは、玄関扉の前かな。玄関まで辿り着けなかったのか、たまに庭先に置かれていることもあるよ」
「……! そ、それを殿下がわざわざ取りに行っていたのですか……?」
「ううん。それは、ほらこうして」
殿下が視線を向けると、彼が食べ終えた食器類が、ふわりと宙に浮いた。
彼はこの部屋にいながら、玄関に置かれた食べ物を魔法で浮かせて、窓から取っていたらしい。
これで、離宮の中が埃だらけだった理由がわかった。玄関からこの部屋への導線まで埃まみれだったのは、しばらく誰もそこを通っていなかったからだったのだ。
「……だから、昨日リーシャがせっかく声をかけて食事を用意してくれたのに、僕びっくりしちゃって、部屋から出られなかったんだ。……ごめんね」
「い、いえ! そんなこと、気になさらないでください!」
私は慌てて首を横に振った。
お礼も言えるし、些細なことで謝ることもできるなんて、ルディオやマリッサと同じくらい、彼はいい子である。
「昨日の食事も、全部とても美味しかった。今日の、ソーセージが入ったパンも……」
ソーセージパンがとても気に入ったようで、彼の目が再びキラキラと輝く。
「お気に召したのなら、またお作りいたしますね」
「えっ! う、うん……」
殿下はなぜか驚いたような声をあげた後、うつむいてかすかに頷いた。
淡い金色の長い前髪にほとんど隠れてしまっていたが、私にはその表情が、嬉しそうに笑っているように見えた。
「うっ」
「リーシャ!? どうしたの!?」
彼のあまりの可愛さに、思わず息が詰まってしまった。胸をギュッと掴んで、呼吸を整える。
仕方ない。自分の情けない部分を伝えるのは少し恥ずかしいけれど、話すしかないようだ。
「いえ、何でもありません。その、実はわたくし、魔力が全くないのです。恥ずかしながら、小さな火をつけることもできないのですよ。ですからきっと、わたくしは魔力への感覚がとことん鈍いのだろうと思われます」
「……」
第二王子が、ポカンとした表情で私を見つめる。彼は魔力が多すぎて暴走するのを制御できないほどなので、魔力が全くないというのが想像できないのかもしれない。
「そんなことが……あるの、かな? いや、でも完全な魔力なしの情報は……」
殿下が顎に手を当て、何やらブツブツと独り言を言い始めた。少しの間待ってみたものの、彼の思考は、なかなか深く自分の世界に潜り込んでいるようだ。
「あの、殿下?」
軽く声をかけると、彼はハッと我に返ったように顔を上げた。
「あ、ごめんリーシャ、僕……」
「いいえ、とんでもないことです。実は、自分でもなぜ平気なのかよくわかっていないのですよ。でもそういうことですので、殿下がこれから何度魔力を暴走させても、わたくしは大丈夫ですよ! あ、でも、殿下のお体の負担にもなってしまいますから、ゆっくりでいいのでコントロールできるように頑張りましょうね」
「……あ、そうか。だから……」
「はい?」
殿下が何かに納得したように頷いたので、私はどうしたのだろうかと首を傾げた。
「あのね、リーシャ。僕は、さっきみたいに暴走しなくても、常に軽く魔力が漏れている状態らしいんだ。だから、普通の人はこの屋敷に近づくと無性に不安や恐怖を覚えるみたいで、部屋の前にまで食事を持ってきて僕に声をかけてくれた人なんて、今までいなかったんだ」
「えっ?」
なんと。食事の世話は交代でしていたと聞いていたのに、まさか部屋まで食事を持ってくる者が誰もいなかったとは。
「そんな。では、今まで食事は一体どこに準備されていたのですか?」
「だいたいは、玄関扉の前かな。玄関まで辿り着けなかったのか、たまに庭先に置かれていることもあるよ」
「……! そ、それを殿下がわざわざ取りに行っていたのですか……?」
「ううん。それは、ほらこうして」
殿下が視線を向けると、彼が食べ終えた食器類が、ふわりと宙に浮いた。
彼はこの部屋にいながら、玄関に置かれた食べ物を魔法で浮かせて、窓から取っていたらしい。
これで、離宮の中が埃だらけだった理由がわかった。玄関からこの部屋への導線まで埃まみれだったのは、しばらく誰もそこを通っていなかったからだったのだ。
「……だから、昨日リーシャがせっかく声をかけて食事を用意してくれたのに、僕びっくりしちゃって、部屋から出られなかったんだ。……ごめんね」
「い、いえ! そんなこと、気になさらないでください!」
私は慌てて首を横に振った。
お礼も言えるし、些細なことで謝ることもできるなんて、ルディオやマリッサと同じくらい、彼はいい子である。
「昨日の食事も、全部とても美味しかった。今日の、ソーセージが入ったパンも……」
ソーセージパンがとても気に入ったようで、彼の目が再びキラキラと輝く。
「お気に召したのなら、またお作りいたしますね」
「えっ! う、うん……」
殿下はなぜか驚いたような声をあげた後、うつむいてかすかに頷いた。
淡い金色の長い前髪にほとんど隠れてしまっていたが、私にはその表情が、嬉しそうに笑っているように見えた。
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