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第二章
アンドリュー・ロペスの嘆願
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ざわっ、とどよめきが起こった。
……突然何を言い出すの、この人?
「私は皇女殿下と身分も年齢も近いですし、魔法の腕にも自信があります。きっと、護衛としていい側近になれるかと存じます!」
……ええー? そう言われても……。
優秀なのも大切だけど、側近は、当然ながら一緒にいることが多い。だから、能力よりも性格が合うかどうかが、わたしは一番大切だと思っている。
だから、側近としての能力を身につける前から、わたしはセラをほとんど側近にすると決めていたし、ミリーシャだって、ルーシャスのつがいだからと、すぐさま側近にはしなかった。何度かお話しして、仲良くなれると思ったから、側近にしたのだ。
この人とは初対面だけれど、全く仲良くなれる気がしない。けれど、やんわりと断ろうとしたその時、周囲から期待の声がそこかしこから聞こえ始めた。
「まぁ、ロペス卿が皇女殿下の側近に?」
「確かに、彼ならば相応しいのではないか?」
「優秀だと聞くし、側近に相応しい身分も持っている。皇女殿下も、きっと喜んで受け入れられるだろう」
「アンドリュー様ほど素敵な方なら、皇女殿下も断る理由がないわよね?」
「彼は帝国でも指折りの婿候補ですもの。ゆくゆくは、お二人がつがいになられるかもしれませんわ」
なぜか、やけに周りが盛り上がってしまっている。彼をつがいにするなんてあり得ないし、婿どころか側近にするのも嫌なんだけど、ここまで注目されてしまっては、曖昧にしておくと了承したと見なされかねない。
彼は人気者みたいだし、周囲の空気を後押しにして承諾させようとしたのかもしれないけれど、この場できっぱり断っておかなくちゃ。
口を開きかけたわたしの返事を察したのか、彼はまた、すぐさま焦ったように切り出した。
「私は厳しい予選を勝ち抜き、建国祭三日目の武闘会の出場が決まっております。武闘会で優勝すると、法に触れるかよほど無茶なことでなければ、皇族の皆様より、願いをひとつ叶えて頂けることになっているはずです。ですから私が優勝した暁には、皇女殿下の側近として、私を召し上げて頂きたいのです!」
……えぇー!?
なんてことを言うのだ、この人は。
確かにそういう制度はあるけれど、ほとんど形骸化したものだと聞いている。本当に具体的な願いを皇族へ向かって口にする人は、ほぼいない。
「望むものはあるか」と訊かれたら、「陛下の御心のままに」と答えるのが、普通なのだ。つまり、報奨はだいたいお金になるという寸法である。
そのお金では叶えられないような、皇族ならば与えることができる名誉を得たい時。
例えば子供の名前を考えてほしいとか、皇帝夫妻に結婚の証人になってほしいとか、そういうささいな名誉を求める人はいると聞いていたけれど。
……まさか、優勝したら私の側近にしてほしいなんて!
結婚してほしいなんて言われたら、無茶な願いとして退けられるけれど、あくまでも側近だ。この人は血筋のいい竜人族で、もし大会で優勝したとしたら、間違いなく腕もいい。無茶な願いとは言えない……よね……?
父をチラリと見てみるけれど、苦々しそうな顔をするだけで、彼を止める気配はない。つまり、無茶な願いではないから、止められないということだろう。
まずい。父が先ほどからずっと、軽くとはいえロペス卿に向かって威圧しているはずなのに、全く堪えてない様子からして、腕に自信があるというのは嘘ではなさそうだ。もしかしたら、本当に優勝してしまうかもしれない。
でも、この人が護衛になるのは、ちょっと嫌だな。しかも、この人はルーシャスたちとは違って、皇城の中でも常についてきそうな感じがする。……うん、やっぱり結構嫌だな。
一度側近にしてしまうと、辞めさせるには明確な理由が必要になる。周囲から、安心して仕えることができる主ではないと思われてしまうからだ。
早く答えないと、不審に思われてしまう。でも、彼を避けるためのいい考えが浮かばない。どうしよう、困ったな……。
《不本意だろうけど、ここは受けるしかないな》
頭を悩ませていると、ノアから念話で話しかけられた。ちらりと視線を向けると、ノアはわずかに頷いた。
《でも、おそらくだけど、こいつは優勝できないと思う。今年は、マギナリアからの参加者がいるから》
……そっか! そういえばそうだったわ!
魔法国家、マギナリア。
マギナリアは小さな島国だが、土地に魔素が溢れているとかで、人口のほとんどが魔法使いという、とても珍しい土地だ。
普段はあまり国交もなく、彼らの外見や生活環境など、多くは謎に包まれている。けれど今回、そこからやってきたという魔法使いが、予選で大暴れしたという話はわたしも聞いた。かなりの実力者で、優勝候補筆頭だと、噂になっていた。
ここで断れないのだから、あとはロペス卿が、彼に負けてくれることを祈るしかない。
「……わかりました。もしロペス卿が優勝できたなら、その件は前向きに検討いたしますね」
「はい! ありがとうございます、殿下!!」
嬉しそうな彼を、たくさんの拍手と歓声が包んだ。盛り上がる周囲の空気とは裏腹に、高位席には苦い空気が広がる。
……本当に頑張って! 応援してるからね、マギナリアの人!!
……突然何を言い出すの、この人?
「私は皇女殿下と身分も年齢も近いですし、魔法の腕にも自信があります。きっと、護衛としていい側近になれるかと存じます!」
……ええー? そう言われても……。
優秀なのも大切だけど、側近は、当然ながら一緒にいることが多い。だから、能力よりも性格が合うかどうかが、わたしは一番大切だと思っている。
だから、側近としての能力を身につける前から、わたしはセラをほとんど側近にすると決めていたし、ミリーシャだって、ルーシャスのつがいだからと、すぐさま側近にはしなかった。何度かお話しして、仲良くなれると思ったから、側近にしたのだ。
この人とは初対面だけれど、全く仲良くなれる気がしない。けれど、やんわりと断ろうとしたその時、周囲から期待の声がそこかしこから聞こえ始めた。
「まぁ、ロペス卿が皇女殿下の側近に?」
「確かに、彼ならば相応しいのではないか?」
「優秀だと聞くし、側近に相応しい身分も持っている。皇女殿下も、きっと喜んで受け入れられるだろう」
「アンドリュー様ほど素敵な方なら、皇女殿下も断る理由がないわよね?」
「彼は帝国でも指折りの婿候補ですもの。ゆくゆくは、お二人がつがいになられるかもしれませんわ」
なぜか、やけに周りが盛り上がってしまっている。彼をつがいにするなんてあり得ないし、婿どころか側近にするのも嫌なんだけど、ここまで注目されてしまっては、曖昧にしておくと了承したと見なされかねない。
彼は人気者みたいだし、周囲の空気を後押しにして承諾させようとしたのかもしれないけれど、この場できっぱり断っておかなくちゃ。
口を開きかけたわたしの返事を察したのか、彼はまた、すぐさま焦ったように切り出した。
「私は厳しい予選を勝ち抜き、建国祭三日目の武闘会の出場が決まっております。武闘会で優勝すると、法に触れるかよほど無茶なことでなければ、皇族の皆様より、願いをひとつ叶えて頂けることになっているはずです。ですから私が優勝した暁には、皇女殿下の側近として、私を召し上げて頂きたいのです!」
……えぇー!?
なんてことを言うのだ、この人は。
確かにそういう制度はあるけれど、ほとんど形骸化したものだと聞いている。本当に具体的な願いを皇族へ向かって口にする人は、ほぼいない。
「望むものはあるか」と訊かれたら、「陛下の御心のままに」と答えるのが、普通なのだ。つまり、報奨はだいたいお金になるという寸法である。
そのお金では叶えられないような、皇族ならば与えることができる名誉を得たい時。
例えば子供の名前を考えてほしいとか、皇帝夫妻に結婚の証人になってほしいとか、そういうささいな名誉を求める人はいると聞いていたけれど。
……まさか、優勝したら私の側近にしてほしいなんて!
結婚してほしいなんて言われたら、無茶な願いとして退けられるけれど、あくまでも側近だ。この人は血筋のいい竜人族で、もし大会で優勝したとしたら、間違いなく腕もいい。無茶な願いとは言えない……よね……?
父をチラリと見てみるけれど、苦々しそうな顔をするだけで、彼を止める気配はない。つまり、無茶な願いではないから、止められないということだろう。
まずい。父が先ほどからずっと、軽くとはいえロペス卿に向かって威圧しているはずなのに、全く堪えてない様子からして、腕に自信があるというのは嘘ではなさそうだ。もしかしたら、本当に優勝してしまうかもしれない。
でも、この人が護衛になるのは、ちょっと嫌だな。しかも、この人はルーシャスたちとは違って、皇城の中でも常についてきそうな感じがする。……うん、やっぱり結構嫌だな。
一度側近にしてしまうと、辞めさせるには明確な理由が必要になる。周囲から、安心して仕えることができる主ではないと思われてしまうからだ。
早く答えないと、不審に思われてしまう。でも、彼を避けるためのいい考えが浮かばない。どうしよう、困ったな……。
《不本意だろうけど、ここは受けるしかないな》
頭を悩ませていると、ノアから念話で話しかけられた。ちらりと視線を向けると、ノアはわずかに頷いた。
《でも、おそらくだけど、こいつは優勝できないと思う。今年は、マギナリアからの参加者がいるから》
……そっか! そういえばそうだったわ!
魔法国家、マギナリア。
マギナリアは小さな島国だが、土地に魔素が溢れているとかで、人口のほとんどが魔法使いという、とても珍しい土地だ。
普段はあまり国交もなく、彼らの外見や生活環境など、多くは謎に包まれている。けれど今回、そこからやってきたという魔法使いが、予選で大暴れしたという話はわたしも聞いた。かなりの実力者で、優勝候補筆頭だと、噂になっていた。
ここで断れないのだから、あとはロペス卿が、彼に負けてくれることを祈るしかない。
「……わかりました。もしロペス卿が優勝できたなら、その件は前向きに検討いたしますね」
「はい! ありがとうございます、殿下!!」
嬉しそうな彼を、たくさんの拍手と歓声が包んだ。盛り上がる周囲の空気とは裏腹に、高位席には苦い空気が広がる。
……本当に頑張って! 応援してるからね、マギナリアの人!!
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