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第二章
挨拶を受ける
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わたしは今、とても頑張っている。
何をって、次々とやってくる貴族たちや、各国の使者たちの挨拶の受け答えを、だ。
参加者の名前や特徴、それに併せて出身国や領地の特産まで、一生懸命覚えてきたものの、それらを上手く引き合いに出しながら和やかに会話を続けるというのは、なかなかに大変である。
まぁ、実際はほとんど父がやってくれているのだが、母もわたしも、ずっと黙ったままというわけにもいかない。たまに話を振られた時にきちんと対応できるよう、常に話の流れを意識して聞いておかなければならないのだ。これが、結構疲れる。
きっと、母も同じだと思うけれど、母はそんなことはおくびにも出さずに、ずっと美しく微笑みながら姿勢よく座り、皇后として会話をしている。わたしも頑張らなければ。
でも、こんなに疲れるのは、きっと先ほど父が言った通り、何かしらの思惑を持ってわたしに話しかけてくる人が多いからだと思う。
「皇女殿下におかれましては、聞きしに勝る美しさで……」とか「あとで是非二人きりで帝国の未来についてお話を……」とか「双方の国の結びつきを強めるには……」とか言いながらチラチラとこちらを見てくる男性が何人もいて、その度に背筋がゾワゾワして仕方なかった。父が無言で一睨みすると大体みんな引いてくれたけれど、たぶん、あれは少し竜気にあてられていたと思う。みんな、可哀想なくらい真っ青になっていたから。
……それにしても、わたしって、政略結婚の相手として狙われやすかったのね。確かに、今のところわたしは唯一の皇位継承者だから、わたしと結婚すれば、将来帝国のトップになれる可能性が高いものね。なるほど、そういう風に狙われるのは、盲点だったわ。
竜人族はつがいをとても大切にするので、政略結婚は少数派だ。よほど権力に固執する人でもなければ、皆自分が好きになった相手と結婚している。
ヴァルドゥーラ帝国は大陸一の強国だから、たとえ皇女でも、必要のない政略結婚をするつもりはないことなんて、わかりそうなものだけど。お父様だって、人間族のお母様を選んだのだし。
「皇女殿下。この後は是非、私とファーストダンスを踊っていただけませんか」
若い竜人族の男性が、夢見るような表情でそう声をかけてきた。妙にキラキラしくて、なぜか断られるなんて微塵も思っていないような、自信に溢れた態度だった。
……確か彼は、何代か前の皇族の血を引く、西方の土地を治める貴族の三男の、アンドリュー・ロペス卿だったと思う。でも、どうして彼は、こんなに自信満々なのかしら? 普通は、ファーストダンスはエスコートしてくれたパートナーと踊るものなのに。
疑問に思っていると、ふと彼に熱い視線を送る女性の多さに気がついた。もしかしたら、彼はすごく人気があるのかもしれない。確かに、金髪碧眼で鼻筋の通った外見は、歌劇のスターのように華やかだ。わたしは、彼のように華やかな外見には、あまり魅力を感じないけれど。
……たぶん、この人も例に漏れず、わたしを見る目がちょっと気持ち悪いせいもあるわね。
そう納得していると、ノアが後ろから、わたしの代わりに答えてくれた。
「申し訳ありませんが、皇女殿下は本日、私以外と踊る予定はございませんので」
ノアの言う通りだ。わたしはダンスはそれほど好きではないので、今日のパートナーであるノア以外とは、元々踊るつもりはなかった。
わたしは特に何も言うことはなく、ノアの言葉を肯定するように微笑んだ。
すると、ロペス卿は明らかに不快だという表情を浮かべて、ノアを睨んだ。
「僕は尊き皇女殿下に話しかけているのです。あなたの意見は聞いていない」
……あれー? そうだよって伝えたつもりなんだけどな。しっかり言わないとダメみたいね。
ノアに対する侮りが透けて見えるような、失礼な態度を取った時点で、わたしの彼に対する好感度は地に落ちていた。早々にこの会話を終わらせたい。
「そうでしたか、それは失礼。しかし、私は殿下の意に反することを申し上げているつもりはないのですが」
ノアの言葉に、今度はしっかりと頷いておく。
「ええ、彼の言う通りですわ。お誘いはありがたく存じますが、ダンスのお相手なら、他にもロペス卿のお誘いを待つ魅力的な女性たちがたくさんいらっしゃいますから、彼女たちを誘って差し上げてくださいませ」
……ほら、たくさんの女性があなたをあんなに熱く見つめているんだから、その人たちを誘ってあげて!
わたしの言葉に、彼は「信じられない」と言わんばかりの顔をした。そして、グッと唇を噛む。
「……で、では! これはダンスの申し込みをを受け入れて頂けたら、その時に提案しようと考えていたことなのですが、今提案させてください!」
この機会を逃すまいと、彼は焦ったように喋りだした。
「どうか、私を皇女殿下の側近にしていただけないでしょうか!?」
何をって、次々とやってくる貴族たちや、各国の使者たちの挨拶の受け答えを、だ。
参加者の名前や特徴、それに併せて出身国や領地の特産まで、一生懸命覚えてきたものの、それらを上手く引き合いに出しながら和やかに会話を続けるというのは、なかなかに大変である。
まぁ、実際はほとんど父がやってくれているのだが、母もわたしも、ずっと黙ったままというわけにもいかない。たまに話を振られた時にきちんと対応できるよう、常に話の流れを意識して聞いておかなければならないのだ。これが、結構疲れる。
きっと、母も同じだと思うけれど、母はそんなことはおくびにも出さずに、ずっと美しく微笑みながら姿勢よく座り、皇后として会話をしている。わたしも頑張らなければ。
でも、こんなに疲れるのは、きっと先ほど父が言った通り、何かしらの思惑を持ってわたしに話しかけてくる人が多いからだと思う。
「皇女殿下におかれましては、聞きしに勝る美しさで……」とか「あとで是非二人きりで帝国の未来についてお話を……」とか「双方の国の結びつきを強めるには……」とか言いながらチラチラとこちらを見てくる男性が何人もいて、その度に背筋がゾワゾワして仕方なかった。父が無言で一睨みすると大体みんな引いてくれたけれど、たぶん、あれは少し竜気にあてられていたと思う。みんな、可哀想なくらい真っ青になっていたから。
……それにしても、わたしって、政略結婚の相手として狙われやすかったのね。確かに、今のところわたしは唯一の皇位継承者だから、わたしと結婚すれば、将来帝国のトップになれる可能性が高いものね。なるほど、そういう風に狙われるのは、盲点だったわ。
竜人族はつがいをとても大切にするので、政略結婚は少数派だ。よほど権力に固執する人でもなければ、皆自分が好きになった相手と結婚している。
ヴァルドゥーラ帝国は大陸一の強国だから、たとえ皇女でも、必要のない政略結婚をするつもりはないことなんて、わかりそうなものだけど。お父様だって、人間族のお母様を選んだのだし。
「皇女殿下。この後は是非、私とファーストダンスを踊っていただけませんか」
若い竜人族の男性が、夢見るような表情でそう声をかけてきた。妙にキラキラしくて、なぜか断られるなんて微塵も思っていないような、自信に溢れた態度だった。
……確か彼は、何代か前の皇族の血を引く、西方の土地を治める貴族の三男の、アンドリュー・ロペス卿だったと思う。でも、どうして彼は、こんなに自信満々なのかしら? 普通は、ファーストダンスはエスコートしてくれたパートナーと踊るものなのに。
疑問に思っていると、ふと彼に熱い視線を送る女性の多さに気がついた。もしかしたら、彼はすごく人気があるのかもしれない。確かに、金髪碧眼で鼻筋の通った外見は、歌劇のスターのように華やかだ。わたしは、彼のように華やかな外見には、あまり魅力を感じないけれど。
……たぶん、この人も例に漏れず、わたしを見る目がちょっと気持ち悪いせいもあるわね。
そう納得していると、ノアが後ろから、わたしの代わりに答えてくれた。
「申し訳ありませんが、皇女殿下は本日、私以外と踊る予定はございませんので」
ノアの言う通りだ。わたしはダンスはそれほど好きではないので、今日のパートナーであるノア以外とは、元々踊るつもりはなかった。
わたしは特に何も言うことはなく、ノアの言葉を肯定するように微笑んだ。
すると、ロペス卿は明らかに不快だという表情を浮かべて、ノアを睨んだ。
「僕は尊き皇女殿下に話しかけているのです。あなたの意見は聞いていない」
……あれー? そうだよって伝えたつもりなんだけどな。しっかり言わないとダメみたいね。
ノアに対する侮りが透けて見えるような、失礼な態度を取った時点で、わたしの彼に対する好感度は地に落ちていた。早々にこの会話を終わらせたい。
「そうでしたか、それは失礼。しかし、私は殿下の意に反することを申し上げているつもりはないのですが」
ノアの言葉に、今度はしっかりと頷いておく。
「ええ、彼の言う通りですわ。お誘いはありがたく存じますが、ダンスのお相手なら、他にもロペス卿のお誘いを待つ魅力的な女性たちがたくさんいらっしゃいますから、彼女たちを誘って差し上げてくださいませ」
……ほら、たくさんの女性があなたをあんなに熱く見つめているんだから、その人たちを誘ってあげて!
わたしの言葉に、彼は「信じられない」と言わんばかりの顔をした。そして、グッと唇を噛む。
「……で、では! これはダンスの申し込みをを受け入れて頂けたら、その時に提案しようと考えていたことなのですが、今提案させてください!」
この機会を逃すまいと、彼は焦ったように喋りだした。
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