半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第二章

入場

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「来たか」
「お父様、お母様!」
「キアラ!」

 ノアと共に廊下を進んでいくと、皇族専用入り口の前で、父と母が待っていた。父は皇帝としての威厳たっぷりといった盛装で、とても格好いい。いつもわたしに対してニコニコ笑う父とは、イメージがまるで違っている。母もまた、皇后に相応しい上品ながら煌びやかな装いで、いつもに増して美しい姿だった。

「お父様もお母様も、とっても素敵よ!」
「まぁ、キアラ。あなたの方が素敵だわ。それに、なんだかいつもよりお姉さんに見えますよ」
「うむ。サーシャと同じくらい綺麗だし、可愛いぞ」
「ありがとう、お父様、お母様」

 笑顔で家族の会話を終えると、父がノアに視線を向ける。

「今日は普段あまり関わりのない者たちも大勢いるため、何が起こるかわからない。騎士たちも厳戒態勢で臨んでいるが、万が一ということもある。娘を頼んだぞ、ノアルード」
「はい。陛下より皇女殿下のエスコートをお任せいただいた信頼に、必ずやお応え致します」

 ノアは厳しい顔で、父へ向かって礼をする。

 ……え? まさか、竜人族の治める帝国において、暗殺やテロなんてあり得ないでしょ?

「お父様、少し大げさじゃない?」
「何を言う。帝国の至宝たるキアラを狙う不届き者は、掃いても掃いても出てくるものだ。キアラも、ちゃんと気をつけるんだぞ」

 そんなまさか。わたしを攫ったりすれば、帝国を敵にまわすことになるのに、そんなことをする人がいるとは思えない。何か要求を通す前に潰されるのが目に見えている。それに、わたしだって、大人しくやられるつもりはない。見た目が人間族だからって舐められているのなら、返り討ちにできる自信はある。帝国騎士くらい強い人でないと、わたしに危害を加えることはできないと思う。

「大丈夫よ、お父様。わたし、充分に気をつけるし、最悪の場合でも、自力で対処するつもりだから」
「ああ、そうするといい。後の責任は私が取るから、キアラは自由に振る舞いなさい」

 もしも攫われたら、自力で脱出したり、暴れたりしてもいいらしい。後始末は任せろなんて、お父様ったら、頼りになるわ!

「……なんだか話が噛み合っていない気がするのだけど、私だけかしら?」
「オレもそう思います、サーシャさん」

 母とノアが後ろでそんな会話をしていたけれど、わたしは気づいていなかった。




 父と母が揃って入場して少しすると、わたしとノアの入場を促す声が響いた。

「我が帝国の至宝たる皇女、キアラ・ヴァン・ヴァルドゥーラ殿下と、シェルディア国の第一王子、ノアルード・シェルディア殿下、ご入来!」

 大きな扉が開かれる。
 すると、目に飛び込んできたのは、いつもよりきらびな装飾が施されたホール内。
 そして、大勢の帝国貴族たちや、各国の使者が賑やかに会話を交わしている中、わたしとノアは、一緒にホールへと入場した。

 すると、ざわりと静かなどよめきが広がった。
 主に戸惑った様子なのは、普段皇城に出入りしない人たちだ。彼らは一様に、意外なものを見るようにわたしの隣にいるノアを見ている。ノアが人質として帝国へ滞在していることは知っていても、皇女のエスコート役として皇族専用の入り口から入場するとは思っていなかったのだろう。
 でも、わたしはノアを大切に思っているし、それをアピールしておけば、何も知らない人がノアを所詮は人質だと軽んじることもなくなるだろうから、こうした方がいいと思ったのだ。

 この場にはシェルディアの大使も来ている。人質に出した王子が過分な厚遇を受けていると知れば調子に乗る可能性があるのでは、なんて心配する人もいたけれど、乗ったところで何ができるわけでもないので大丈夫だろう、と父が言ってくれた。

 ……お父様のこういうところ、大好きなのよね!

 ノアの腕を取りながら、ゆっくりと階段を下りる。動きにくいドレスでも、ノアがいれば不安定さは全く感じなかった。
 父と母が座っている高位席へ、ノアと向かう。わたしが着席すると、ノアはわたしの斜め後ろへと下がった。それを合図に、静寂を促す声が響く。

「皆様、ご静粛に!」

 ざわざわとした話し声が収まると、父が立ち上がり、挨拶を始めた。

「皆、今宵はよく集まってくれた。遠方より来た者も、多くいると思う。この建国祭は、竜神に感謝を捧げ、我が帝国の建国を祝い、末永い繁栄を願う祭典だ。これまでは幸いにも、我が帝国と諸国、竜人族と他種族との結束により、この帝国は平和と繁栄を築いてきた。これを継続していくには、諸侯の協力が不可欠であると考えている。今宵は共に未来への志を誓い、存分に祝宴を楽しみ、我が帝国の栄光に心を寄せて欲しい。そして明日からの建国祭は、様々な催しを用意している。皆が存分に楽しんでくれることを願っている」

 そんな父の言葉と共に、前夜祭が幕を開けた。
 
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