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第二章
決着
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「何っ!?」
ロペス卿は、自身の真上に現れた現象に驚愕し、目を見開いた。オレが展開した巨大な風の球体は、彼を凄まじい圧力で地面へ叩きつけるように吹き荒れる。
「ふん、こんなもの!」
ロペス卿は、オレの魔法を相殺させようと、自身も素早く風魔法を発動させた。だが、体を崩壊させるほどに有り余るオレの魔力を込めた魔法だ。そう簡単には打ち消すことはできない。
暴風を伴う空気圧の塊に、ロペス卿は耐えきれず地面に這いつくばった。
「ぐっ、おのれぇ……! この私に、こんな情けない格好をさせるとは!」
「……」
別に、この魔法を選んだことに他意はない。
この大会での勝利条件は、対戦相手の降参か気絶、または審判による判定のみであり、国営の大会なので当然ながら殺してしまうのは厳禁。死人が出ないよう色々と対策はされているが、相手を死なせてしまうような攻撃をした者は、審判の判断により反則負けになる場合がある。
だから、魔法選びも気を使わなければならないのだ。こいつを這いつくばらせてやろうなんて、少ししか思っていない。
このまま圧力をかけて押し切ろうとしたが、ロペス卿は意外な反撃を見せた。
風魔法と水魔法が融合していく気配に、オレは急いで距離を取る。
「ふふふ。まさか、こんなに早く私に切り札を使わせるとはな。しかし、僕にこのカードを切らせたからには、貴様の勝利の目は確実になくなったぞ、名無し君!」
突然、目の前が真っ白に染まる。
――ピシャアアアアンッ! バチバチッ!
とっさに後ろに下がったため命中を避けられたが、ロペス卿が放った攻撃を受けた地面の中心部は、真っ黒に焦げていた。
オレは顔をしかめる。
今彼が使ったのは、恐らく雷魔法だろう。風と水、両方の属性を繊細な魔力操作で掛け合わせた特級魔法。非常に速いので視認での回避はほぼ不可能、しかも高威力だが、高い魔力操作技術が必要なため、これをまともに扱える人は帝国の歴史上でもごく少数だ。
……こいつ、今までこれを隠して戦っていたな。というかこれ、命中したら、高確率で死ぬんじゃないのか?
「ななななんとおお! 匿名希望さんの猛攻になす術なしかと思われたアンドリュー・ロペス卿、隠し玉の雷魔法で反撃だあー!!」
「「ウオオオオーーーー!!」」
しかし、会場は盛り上がっているし、審判にも動きはない。雷魔法は発動自体が難しいため威力調整まで行うとなると至難の業なのだが、待機している治癒班で対応可能と判断したのだろうか。
……仕方ない。
「ハッハッハァ! 私の華麗なる雷魔法に、恐れをなしたようだな! 手が止まっているぞ!」
集中を乱したせいで、解けてしまった風魔法から抜け出したロペス卿が、高らかに笑う。そして息つく間もなく、雷魔法を連発してきた。
オレは魔力を凝縮した防御壁を展開しそれらを防ぐ。そして、同時に土魔法でロペス卿の周囲に少し隙間を残しつつ壁を作っていった。全て覆ってしまうと、降参しようにも声が届かなくなるからだ。
「何ぃ!? ぐっ、この! これでは、私の雄姿を観客に見せられないではないか! なんだ、このバカ硬い土壁は!?」
壊されないよう、念入りに魔力を込めた。土は電気を通さないし、いくら威力のある雷魔法でも、そう簡単には破れないはずだ。
「チッ、ならば!」
「……!」
視界が大幅に塞がれているロペス卿は、手数の多い鎌鼬を、隙間から出鱈目に撃ってきた。数の多さに防御壁が間に合わず、腕にかすってしまう。だが、多少の負傷は想定内だ。気にせずさらに土魔法を構築していく。完全に身動きできなくしたところで、上から死なない程度に岩でも落としてやれば、降参か判定勝利に持ち込めるだろう。
そう思っていたのだが、そこで予期せぬことが起こった。
《――――!》
「はっ?」
何もするなと言っておいたはずの精霊たちが、オレに怪我をさせたとロペス卿に怒り出して、勝手にオレの魔法を大幅に強化させた。その影響で、グラグラと地面が揺れ始める。
「なっ、何だ!? 地震か!?」
「お、おい……!」
オレの想定を大きく上回る規模で発動した魔法は、会場中の地面を穴だらけにして、いくつもの土塊を作った。火魔法も追加されたらしく、中心が真っ赤になっていることから、かなり熱を含んでいるのがわかる。
それらが全てロペス卿へと向かうさまは、まるで彼に向かって数多の隕石が落ちていくかのようだった。
「は? う、嘘だろ……? ちょ、待て、これは反則……うわああああ!?」
――ドドドドドドドドドオオオオオオオオオン!!
土壁で逃げ場がなくなっているロペス卿は防御壁を展開するが、数が多すぎて捌ききれるはずもなく、大量の土煙と土塊の中に沈んだ。
しん、とあれほど騒がしかった会場中が静まり返る。
舞い上がった土煙が治まるまで待ってみたが、土塊の山の中にいるはずのロペス卿に、動きはない。
「……な、なんとっ! マギナリアの匿名希望さんから、見たこともない、とんでもない魔法が放たれました! アンドリュー・ロペス卿は、無事なのでしょうかー!?」
ロペス卿を心配する声が上がり始めたため、オレは彼の上に積み上がった岩のような土塊を魔法でどける。すると中から、土で汚れてボロボロになったロペス卿が姿を現した。白目をむいて意識を失っているようだが、大きな怪我はないようだ。
……とっさに精霊たちに頼んで彼に防御壁を纏わせたけど、間に合っていたみたいでよかった。
あれをまともにくらっていたら、恐らく彼の命はなかっただろう。
審判がロペス卿に駆け寄り、彼の状態を確認する。そして、ナレーターに合図を送った。
「ここで審判の判定が出ました! アンドリュー・ロペス卿、気絶により! 優勝はぁ……! 匿名希望さんに、決定でーーーす!!」
「「ウオオオオーーーーーー!!!」」
耳をつんざくような歓声の中、オレは小さく、安堵の息を吐いた。
こうして、建国祭三日目の武闘大会魔法の部は、マギナリアから来た匿名希望の優勝ということで、幕を閉じた。
……会場がひどい有り様になっているけど、これって怒られたりするんだろうか……。
ロペス卿は、自身の真上に現れた現象に驚愕し、目を見開いた。オレが展開した巨大な風の球体は、彼を凄まじい圧力で地面へ叩きつけるように吹き荒れる。
「ふん、こんなもの!」
ロペス卿は、オレの魔法を相殺させようと、自身も素早く風魔法を発動させた。だが、体を崩壊させるほどに有り余るオレの魔力を込めた魔法だ。そう簡単には打ち消すことはできない。
暴風を伴う空気圧の塊に、ロペス卿は耐えきれず地面に這いつくばった。
「ぐっ、おのれぇ……! この私に、こんな情けない格好をさせるとは!」
「……」
別に、この魔法を選んだことに他意はない。
この大会での勝利条件は、対戦相手の降参か気絶、または審判による判定のみであり、国営の大会なので当然ながら殺してしまうのは厳禁。死人が出ないよう色々と対策はされているが、相手を死なせてしまうような攻撃をした者は、審判の判断により反則負けになる場合がある。
だから、魔法選びも気を使わなければならないのだ。こいつを這いつくばらせてやろうなんて、少ししか思っていない。
このまま圧力をかけて押し切ろうとしたが、ロペス卿は意外な反撃を見せた。
風魔法と水魔法が融合していく気配に、オレは急いで距離を取る。
「ふふふ。まさか、こんなに早く私に切り札を使わせるとはな。しかし、僕にこのカードを切らせたからには、貴様の勝利の目は確実になくなったぞ、名無し君!」
突然、目の前が真っ白に染まる。
――ピシャアアアアンッ! バチバチッ!
とっさに後ろに下がったため命中を避けられたが、ロペス卿が放った攻撃を受けた地面の中心部は、真っ黒に焦げていた。
オレは顔をしかめる。
今彼が使ったのは、恐らく雷魔法だろう。風と水、両方の属性を繊細な魔力操作で掛け合わせた特級魔法。非常に速いので視認での回避はほぼ不可能、しかも高威力だが、高い魔力操作技術が必要なため、これをまともに扱える人は帝国の歴史上でもごく少数だ。
……こいつ、今までこれを隠して戦っていたな。というかこれ、命中したら、高確率で死ぬんじゃないのか?
「ななななんとおお! 匿名希望さんの猛攻になす術なしかと思われたアンドリュー・ロペス卿、隠し玉の雷魔法で反撃だあー!!」
「「ウオオオオーーーー!!」」
しかし、会場は盛り上がっているし、審判にも動きはない。雷魔法は発動自体が難しいため威力調整まで行うとなると至難の業なのだが、待機している治癒班で対応可能と判断したのだろうか。
……仕方ない。
「ハッハッハァ! 私の華麗なる雷魔法に、恐れをなしたようだな! 手が止まっているぞ!」
集中を乱したせいで、解けてしまった風魔法から抜け出したロペス卿が、高らかに笑う。そして息つく間もなく、雷魔法を連発してきた。
オレは魔力を凝縮した防御壁を展開しそれらを防ぐ。そして、同時に土魔法でロペス卿の周囲に少し隙間を残しつつ壁を作っていった。全て覆ってしまうと、降参しようにも声が届かなくなるからだ。
「何ぃ!? ぐっ、この! これでは、私の雄姿を観客に見せられないではないか! なんだ、このバカ硬い土壁は!?」
壊されないよう、念入りに魔力を込めた。土は電気を通さないし、いくら威力のある雷魔法でも、そう簡単には破れないはずだ。
「チッ、ならば!」
「……!」
視界が大幅に塞がれているロペス卿は、手数の多い鎌鼬を、隙間から出鱈目に撃ってきた。数の多さに防御壁が間に合わず、腕にかすってしまう。だが、多少の負傷は想定内だ。気にせずさらに土魔法を構築していく。完全に身動きできなくしたところで、上から死なない程度に岩でも落としてやれば、降参か判定勝利に持ち込めるだろう。
そう思っていたのだが、そこで予期せぬことが起こった。
《――――!》
「はっ?」
何もするなと言っておいたはずの精霊たちが、オレに怪我をさせたとロペス卿に怒り出して、勝手にオレの魔法を大幅に強化させた。その影響で、グラグラと地面が揺れ始める。
「なっ、何だ!? 地震か!?」
「お、おい……!」
オレの想定を大きく上回る規模で発動した魔法は、会場中の地面を穴だらけにして、いくつもの土塊を作った。火魔法も追加されたらしく、中心が真っ赤になっていることから、かなり熱を含んでいるのがわかる。
それらが全てロペス卿へと向かうさまは、まるで彼に向かって数多の隕石が落ちていくかのようだった。
「は? う、嘘だろ……? ちょ、待て、これは反則……うわああああ!?」
――ドドドドドドドドドオオオオオオオオオン!!
土壁で逃げ場がなくなっているロペス卿は防御壁を展開するが、数が多すぎて捌ききれるはずもなく、大量の土煙と土塊の中に沈んだ。
しん、とあれほど騒がしかった会場中が静まり返る。
舞い上がった土煙が治まるまで待ってみたが、土塊の山の中にいるはずのロペス卿に、動きはない。
「……な、なんとっ! マギナリアの匿名希望さんから、見たこともない、とんでもない魔法が放たれました! アンドリュー・ロペス卿は、無事なのでしょうかー!?」
ロペス卿を心配する声が上がり始めたため、オレは彼の上に積み上がった岩のような土塊を魔法でどける。すると中から、土で汚れてボロボロになったロペス卿が姿を現した。白目をむいて意識を失っているようだが、大きな怪我はないようだ。
……とっさに精霊たちに頼んで彼に防御壁を纏わせたけど、間に合っていたみたいでよかった。
あれをまともにくらっていたら、恐らく彼の命はなかっただろう。
審判がロペス卿に駆け寄り、彼の状態を確認する。そして、ナレーターに合図を送った。
「ここで審判の判定が出ました! アンドリュー・ロペス卿、気絶により! 優勝はぁ……! 匿名希望さんに、決定でーーーす!!」
「「ウオオオオーーーーーー!!!」」
耳をつんざくような歓声の中、オレは小さく、安堵の息を吐いた。
こうして、建国祭三日目の武闘大会魔法の部は、マギナリアから来た匿名希望の優勝ということで、幕を閉じた。
……会場がひどい有り様になっているけど、これって怒られたりするんだろうか……。
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