8 / 18
バカ王
しおりを挟む
私はすぐさま騎士団だかなんだかの偉い人の前に通された。
「あなたなら戦争を終わらせることができるのかしら?」
わざとふてぶてしい態度で話す。出来るだけ嘗められないように、一応考えてみたのだ。
すると、騎士団長だかなんだかの人は不愉快そうに顔を歪めた。
「あのな、俺なんかにそんな権限あるわけねえだろう。部下がえらい怯えながら訴えてくるもんだから一応会ってやったが、何なんだお前?」
太い腕を組んで私を高圧的に見下ろしてくる。
「だから言ったでしょう。私は精霊王の使い。戦争を終わらせるよう言いに来たのよ。いいわ、ちょっと面倒だけど、あなたも私の力が見たいってわけね?」
そう言って相手に向かって右手をかざした。
《氷の塊をとばして》
瞬く間にピキピキと尖った氷の塊が私の手の前に出現した。
男が目を見開いて驚愕している顔のすぐ横を、ギュンッとその塊が通りすぎ、ドゴーンと壁に勢いよく激突した。
「………」
団長とか言う人は氷の塊が顔のすぐ横を通っていって驚いたようでしばらく固まって動かなかったけれど、部屋の様子を窺っていた一般兵士たちは大騒ぎだった。
「うおおおお! なんだ今の!?」
「こ、これ氷が壁にめり込んでるぞ!」
「一体どうやったんだ!?」
「ちょ、見ろよ団長固まってるぞ!」
私はそんなパフォーマンスをあと二回ほど繰り返し、ついに国王に直接話をすることを許された。
「そなたが妖術使いか」
そんなことを高いところから偉そうに言ってくる国王は、なぜそんなに太る余裕があるのかと問い質したくなるほどぶくぶくと肥え太っている。
因みに美女三人を横に侍らしてもいる。なんなのあいつ。
私は嫌な気持ちを押し込めて、頭も下げずに返事をした。
「妖術ではなく、……魔術です。聞いているかもしれませんが、私は精霊王の使い。さっさと戦争を終わらせないと、精霊王はお怒りになりますよ」
「ふむ……」
「ただの使いである私ですら、雷を落とすことができるのです。精霊王がお怒りになればどうなるか、少しは想像できませんか?」
「いや、だがなぁ……」
ここまで言っても、国王の反応は悪い。というか、美女三人侍らしといて、こっちにまでなんだか下卑た目を向けてきてる気がするんだけど。
気持ち悪っ。
こんなのがこの国の王なわけ?
「困りましたね。聞き入れてくださらないならば、こちらは強硬手段も辞さないと考えていますけれど?」
《魔力をあげる。氷を出して》
私が素早く精霊たちにお願いすると、精霊たちはイメージ通りの細長い形の氷の塊をいくつも出してくれた。
それは広いホールの天井を埋め尽くすほどで、ホールにいた人たちが次々に叫び声をあげる。
「ぎゃあああっ」
「落ちてくるぞ!」
「うわあーっ」
「た、助けてくれ!」
脅すくらいやってみせるよ、私は戦争を終わらせるって決めたんだから!
「これを落としてあなたたちが死んだら、嫌でも戦争は終わりますよね?」
私はにこりと笑いながらそう言った。
本当にやる気はない。そもそも今の国王だけが死んでも、すぐ同じような人が国王になれば同じことだ。何とかして国に『戦争はしません』と約束してもらわなければならない。
一村娘の私が普通にやってそんなことできるわけがない。どうしても多少の武力行使は必要なのだ。
国王は自分の上にある鋭い氷の塊を見てガタガタと震え始めた。
「ぶ、無礼なっ! 貴様、余を誰だと思っておる!?」
「この国の王でしょう? けれどあなたを敬う気は私には全くないわ。さっさと決めて。戦争を止める? それとも、死ぬ?」
私は不敵に微笑んでみせた。
「お、お待ちください、使者様!」
国王の横にいる賢そうな人が私に声をかけた。
私はその人に視線を向ける。
「戦争を終わらせると言っても、簡単には参りません。あなたは我が国の兵士を何万と殺した敵国に、全面降伏を申し出ろと仰るのですか!?」
「この戦争をけしかけたのはこちら側でしょう? 何万の自国の民を殺したのもあなたたちのようなものではないですか。自分たちの責を棚に上げて、一体何を言っているの?」
私を説得しようとしていた男は愕然とした顔をした。
「い、いや、しかしそれは……」
彼は苦しそうな顔をして、ちらりと国王の方を見る。
……なるほど。バカな国王の鶴の一声というわけ?
「そこのバカ。今すぐ向こうの国に和平を申し入れなさい。でないとそのたるんだ脂身が本当にただの肉塊になるわよ?」
「………………」
その後しばらく声を発する者はいなかった。
けれど、笑うのを我慢しているのか、顔を真っ赤にして顔を背けている兵士が何人もいる。
「ぶ、ぶ、無礼者おぉぉぉっ! 誰か、こやつを捕らえよ! 何をボーッとしておるのだッ!」
脂身が真っ赤になって喚き出した。
「し、しかし陛下、あの魔術を使われたら……」
「何をこの腰抜けが! 全員でかかればあのような女一人、捕らえられぬわけがなかろうが! 行け! 行かねば貴様ら全員死刑にしてやるぞ!」
なんという予想を越えたバカなのだろうか。
私は怒りを通り越して呆れ果てた。
躊躇いながらも兵士たちの一部がジリジリと私に近寄ってくる。
「やめておいた方がいいわよ? 私に攻撃したらどうなるか……誰が試してみる?」
自分は安全だと思うと大胆なことが言えるものだなと考えながら不敵な笑顔で周囲を見渡す。
「く、くそっ!」
若い兵士が目を瞑りながらも果敢に向かってくる。素手で私を押し倒すなりして拘束するつもりなのか突進してきているけれど、彼は私には触れることはできないのだ。
《跳ね返して》
「ぶっ!」
私の腕三つ分くらいの距離で、兵士は何かに弾かれたように吹っ飛んでゴロゴロと転がった。
「………」
いくつもの目が恐ろしいものを見るように私を見ている。
ごめんね兵士さん。私、何が何でもやらなきゃいけないの。
「な、な、何をやっとるかあぁああああーっ! 全員で行け! 全員……っ」
ズドドドドッ!
うるさい豚のすぐそばに、浮かべていた氷の塊をいくつか突き刺した。
「次は当てるけど」
「………」
うるさかった脂身は、泡を吹いて気を失っていた。
「あなたなら戦争を終わらせることができるのかしら?」
わざとふてぶてしい態度で話す。出来るだけ嘗められないように、一応考えてみたのだ。
すると、騎士団長だかなんだかの人は不愉快そうに顔を歪めた。
「あのな、俺なんかにそんな権限あるわけねえだろう。部下がえらい怯えながら訴えてくるもんだから一応会ってやったが、何なんだお前?」
太い腕を組んで私を高圧的に見下ろしてくる。
「だから言ったでしょう。私は精霊王の使い。戦争を終わらせるよう言いに来たのよ。いいわ、ちょっと面倒だけど、あなたも私の力が見たいってわけね?」
そう言って相手に向かって右手をかざした。
《氷の塊をとばして》
瞬く間にピキピキと尖った氷の塊が私の手の前に出現した。
男が目を見開いて驚愕している顔のすぐ横を、ギュンッとその塊が通りすぎ、ドゴーンと壁に勢いよく激突した。
「………」
団長とか言う人は氷の塊が顔のすぐ横を通っていって驚いたようでしばらく固まって動かなかったけれど、部屋の様子を窺っていた一般兵士たちは大騒ぎだった。
「うおおおお! なんだ今の!?」
「こ、これ氷が壁にめり込んでるぞ!」
「一体どうやったんだ!?」
「ちょ、見ろよ団長固まってるぞ!」
私はそんなパフォーマンスをあと二回ほど繰り返し、ついに国王に直接話をすることを許された。
「そなたが妖術使いか」
そんなことを高いところから偉そうに言ってくる国王は、なぜそんなに太る余裕があるのかと問い質したくなるほどぶくぶくと肥え太っている。
因みに美女三人を横に侍らしてもいる。なんなのあいつ。
私は嫌な気持ちを押し込めて、頭も下げずに返事をした。
「妖術ではなく、……魔術です。聞いているかもしれませんが、私は精霊王の使い。さっさと戦争を終わらせないと、精霊王はお怒りになりますよ」
「ふむ……」
「ただの使いである私ですら、雷を落とすことができるのです。精霊王がお怒りになればどうなるか、少しは想像できませんか?」
「いや、だがなぁ……」
ここまで言っても、国王の反応は悪い。というか、美女三人侍らしといて、こっちにまでなんだか下卑た目を向けてきてる気がするんだけど。
気持ち悪っ。
こんなのがこの国の王なわけ?
「困りましたね。聞き入れてくださらないならば、こちらは強硬手段も辞さないと考えていますけれど?」
《魔力をあげる。氷を出して》
私が素早く精霊たちにお願いすると、精霊たちはイメージ通りの細長い形の氷の塊をいくつも出してくれた。
それは広いホールの天井を埋め尽くすほどで、ホールにいた人たちが次々に叫び声をあげる。
「ぎゃあああっ」
「落ちてくるぞ!」
「うわあーっ」
「た、助けてくれ!」
脅すくらいやってみせるよ、私は戦争を終わらせるって決めたんだから!
「これを落としてあなたたちが死んだら、嫌でも戦争は終わりますよね?」
私はにこりと笑いながらそう言った。
本当にやる気はない。そもそも今の国王だけが死んでも、すぐ同じような人が国王になれば同じことだ。何とかして国に『戦争はしません』と約束してもらわなければならない。
一村娘の私が普通にやってそんなことできるわけがない。どうしても多少の武力行使は必要なのだ。
国王は自分の上にある鋭い氷の塊を見てガタガタと震え始めた。
「ぶ、無礼なっ! 貴様、余を誰だと思っておる!?」
「この国の王でしょう? けれどあなたを敬う気は私には全くないわ。さっさと決めて。戦争を止める? それとも、死ぬ?」
私は不敵に微笑んでみせた。
「お、お待ちください、使者様!」
国王の横にいる賢そうな人が私に声をかけた。
私はその人に視線を向ける。
「戦争を終わらせると言っても、簡単には参りません。あなたは我が国の兵士を何万と殺した敵国に、全面降伏を申し出ろと仰るのですか!?」
「この戦争をけしかけたのはこちら側でしょう? 何万の自国の民を殺したのもあなたたちのようなものではないですか。自分たちの責を棚に上げて、一体何を言っているの?」
私を説得しようとしていた男は愕然とした顔をした。
「い、いや、しかしそれは……」
彼は苦しそうな顔をして、ちらりと国王の方を見る。
……なるほど。バカな国王の鶴の一声というわけ?
「そこのバカ。今すぐ向こうの国に和平を申し入れなさい。でないとそのたるんだ脂身が本当にただの肉塊になるわよ?」
「………………」
その後しばらく声を発する者はいなかった。
けれど、笑うのを我慢しているのか、顔を真っ赤にして顔を背けている兵士が何人もいる。
「ぶ、ぶ、無礼者おぉぉぉっ! 誰か、こやつを捕らえよ! 何をボーッとしておるのだッ!」
脂身が真っ赤になって喚き出した。
「し、しかし陛下、あの魔術を使われたら……」
「何をこの腰抜けが! 全員でかかればあのような女一人、捕らえられぬわけがなかろうが! 行け! 行かねば貴様ら全員死刑にしてやるぞ!」
なんという予想を越えたバカなのだろうか。
私は怒りを通り越して呆れ果てた。
躊躇いながらも兵士たちの一部がジリジリと私に近寄ってくる。
「やめておいた方がいいわよ? 私に攻撃したらどうなるか……誰が試してみる?」
自分は安全だと思うと大胆なことが言えるものだなと考えながら不敵な笑顔で周囲を見渡す。
「く、くそっ!」
若い兵士が目を瞑りながらも果敢に向かってくる。素手で私を押し倒すなりして拘束するつもりなのか突進してきているけれど、彼は私には触れることはできないのだ。
《跳ね返して》
「ぶっ!」
私の腕三つ分くらいの距離で、兵士は何かに弾かれたように吹っ飛んでゴロゴロと転がった。
「………」
いくつもの目が恐ろしいものを見るように私を見ている。
ごめんね兵士さん。私、何が何でもやらなきゃいけないの。
「な、な、何をやっとるかあぁああああーっ! 全員で行け! 全員……っ」
ズドドドドッ!
うるさい豚のすぐそばに、浮かべていた氷の塊をいくつか突き刺した。
「次は当てるけど」
「………」
うるさかった脂身は、泡を吹いて気を失っていた。
0
あなたにおすすめの小説
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ついで姫の本気
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。
一方は王太子と王女の婚約。
もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。
綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。
ハッピーな終わり方ではありません(多分)。
※4/7 完結しました。
ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。
救いのあるラストになっております。
短いです。全三話くらいの予定です。
↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。
4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる