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脅迫
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その後、国王は寝室へと運び出され(五人がかりだった)私は宰相だか大臣だかとお話することになった。
「その……し、使者様は一体何者なのでしょうか」
恐る恐るといった風に聞かれた。まあ仕方がないと思う。そもそもこれは狙いどおりなのだ。怖がってくれた方が話が早い。
「私はただの人間ですよ。但し、私は精霊王から戦争を終結させるよう言付かり、力を与えられた人間です。で、あの無能な国王に代わってあなた方が戦争終結に向けてお話を進めてくださるんですか?」
「……我々としても国王には何度も終戦を申し入れていたのですが、一向に聞き入れていただけませんでした。国はすでに疲弊しきっているということを理解していただけないのです。和平を申し出ると言っても、これだけ長引いた戦争です。こちらからから和平を願い出るとなれば降伏も同然、莫大な賠償金が必要になるでしょう」
……このヒゲの賢そうなおじさんも戦争を終わらせたがっているのね。
よく見たら、あの国王以外はみんな疲れきっているような顔つきだし、ぶくぶく太っている人もいない。もしかしたら、みんなあの豚に嫌々従っているだけなのかもしれないな。
……それでも、乱暴な徴兵や食べ物の徴収、民に横暴な仕打ちをさんざん繰り返し実行してきたあんたたちを、私はやっぱり好きにはなれそうにないけど。
「十年以上も決着がつかないんですもの、いつ終わらせようが有利な結果なんてどのみち得られないでしょう? なら今すぐ終わらせて、国力の回復に努め、借金を返していくのが賢い考えではないかしら?」
「しかし、そう王を説得するのは難しいと思われます。何か戦争を終わらせることによって得られる目に見える利益でもないと……」
やつれた宰相さんの声がだんだんと不穏な響きを含んでいく。
「あの方は物事の先を想像する力というものがないのです。無理な徴兵や徴収を命令するだけしてその結果国民がどのような状態になりどのように考えるのかなど予想できる脳みそがそもそもない。あのバカは死んでもきっと治らな……あ、いえ、聞かなかったことにしてください」
私にしか聞こえないような小さな声で宰相さんがそう言った。
……この人のことは、ちょっと好きになったかもしれない。ちょっとだけだけど。
苦い顔で私の要求を渋る宰相に、私はわかりやすい利益を提示することにした。
「戦争を止めるなら、私はこの国にきっと利益をもたらすと約束しましょう。精霊王は、その条件が成るならばこの土地を豊かなものにするとおっしゃってくださいましたから。それが国王を釣る餌になるかもしれませんね。但し、それには皆様の魔力が必要なんですけど」
部屋にいるみんなが不可解だと言わんばかりの顔をした。
「ま、魔力……?」
「ええそうです。土地を豊かにするためには、魔力が必要なのです。魔力とは私が使うような魔法に使うエネルギーのことです。そうですね、実際にやってみせますから、外に出ていただけますか?」
にっこり笑った私に対し、みんなは訝しげな顔を返しながらも外に出ることを了承してくれた。
部屋を出るとちょうど中庭だった。
お城の中庭とは言え、花があったりするわけでもなく、土まで枯れている。人員に手入れする余裕がないのもあるだろうけど、国王が中庭の景観には興味がないのかもしれない。
土はあるしここでいいか、と魔法を使う。
《魔力をあげる。土を耕して》
すると、枯れてひび割れていた土があっという間に濃い茶色になり、畝ができていった。
「……!」
声にならない驚きの声がそこかしこから聞こえる中、私は持参した野菜や果物の種をばら蒔いた。無から作り出すこともできなくはないけれど、一つ作り出せば私でも気分が悪くなるくらい、魔力が大量に必要になる。
《魔力をあげる。育てて》
すると、見る間ににょきにょきと種から芽が出て花を咲かせさらに成長して実ができていった。
おぉ、すごい。少し試してみていたとはいえ、この力があればきっと食べ物には困らないね。
《ありがとう》
精霊たちに向けてお礼を言うと、精霊たちは嬉しそうにころころと笑った。
「いかがでしょう? 私一人の魔力では量が知れていますけど、皆さんの中にある魔力を目覚めさせることはできます。大勢でこの力を使えば、国を立て直すのも少しは楽になるのではないでしょうか」
気づけば大勢の大臣や兵士たちが集まってきていた。みんな信じられないというように、今できたばかりの畑を唖然呆然といった様子で見ている。
「こ、このような……素晴らしい力を、私たちにも授けてくださると言うのですか?」
宰相は震えた指で畑を指しながら、まさかと言いたげに私に問いかけた。
「使者の私とは使える条件は少し違いますし、全員が使えるようになる確証はないですがチャンスは与えます。力に目覚めるかはその方次第。……それに、まず戦争を終結させるとお約束くださるのなら、ですけれど」
私はにっこり笑ってそう答えた。
今この辺りの土地は戦争のせいで干からびていて、精霊たちの魔力だけでは回復がなかなか追い付かない。戦争を止めさせる交換条件にできるなら一石二鳥だから、是非人間たちの魔力を使って土地を豊かにしてくれとシスイには言われている。
「そ、それならば、なんとか陛下を説得してみせます!」
「四日後……いや三日後にまたお越し下されば、必ず良いお返事を」
大臣たちが口々にそう言ってくるけれど、それでは遅い。
「明日です」
「……は?」
「明日までに国王を説得してください。そして終結宣言は……一週間以内にお願いしますね。でないとこの国は、精霊王の怒りに触れることになるでしょう」
ルトが今も危険な目に遭ってるかもしれないのに、説得に三日もかけられるか!
私の脅迫するような眼差しに、宰相たちはただ震えるようにして頷いた。
◇◇◇◇◇
「ふざけるなっ! なぜ国王である余があんな小娘の言うことを聞かねばならんのだ! 貴様ら、揃いも揃って無能か!? あの無礼な小娘をむざむざと帰しおって!!」
アルバトリスタ国王は、部下たちの報告を聞いて怒り狂っていた。
それを老年の大臣が必死に諌めている。
「しかし、使者は実際不思議な力を使い、我々や騎士団が束になっても敵わないのです。彼女は明日にも和平を取り付けなければこの国はどうなるかわからないと」
「そんなもの脅しに決まっておろうが! この国が潰れて困るのはここに住むあの娘も同じだろう!」
いつものように他人の意見など全く聞き入れない国王は、ヤツを殺せと無様に騒ぐだけだ。
「陛下」
そこへ、別の大臣がスッと前へ出た。
「よくお考えください。彼女は、戦争を終結させれば我々にもあの不思議な力を与えると言っているのですよ?」
「なに?」
怒りに顔を歪ませた国王がピクリと反応する。
「あの力は使い方を考えれば無限に富を生む人外の力。あの力が手に入れば、戦争での損失などすぐに取り戻せましょう」
「……ふむ」
「とりあえず、言うことを聞いておけばいいのです。そうすればあの素晴らしい力が手に入る。その後でなら、彼女が与えてくれたその力で、我々にも彼女を制することができるでしょう」
「むぅ……それもそうだな。愚かな娘め。貴様が与えるその力で貴様自身を捻り潰してくれるわ」
国王はその時を想像して、ニヤリと醜く笑った。
「………」
大臣たちがその姿を苦々しい顔で眺めていることに、国王は全く気づいていなかった。
──五日後、十二年に渡る戦争についに終結の時が訪れた。
アルバトリスタ側からの申し出により、相手国から戦争状態終結宣言があったのである。
しかしその結果、望んでいた領土は手に入らなかったのは当然のこと、アルバトリスタは莫大な賠償金という借金を背負うことになった。
しかし、そんなものはすぐに取り戻せる、と国王はほくそ笑んでいた。
あの不思議な力さえあれば無限に富を生み出すことができる。生意気なあの娘にも痛い目に遭わせてやれる。国王は笑いが止まらなかった。
──娘が来ると約束した日を過ぎるまでは。
「あの娘はどうしたのだ!? なぜ現れんッ!」
「いえ、ですからすでに一昨日現れました! ただ先にすることがあるから、力を与えるのはもう少し待つようにと言われただけで」
「何だと!? 余との約束を後回しにするとは、どこまでも馬鹿にしおって!」
──そしてその頃、アイリスは。
「ルトッ!!」
「アイリス!?」
ルトが送られていた戦地へ、ルトを迎えに行っていた。
「その……し、使者様は一体何者なのでしょうか」
恐る恐るといった風に聞かれた。まあ仕方がないと思う。そもそもこれは狙いどおりなのだ。怖がってくれた方が話が早い。
「私はただの人間ですよ。但し、私は精霊王から戦争を終結させるよう言付かり、力を与えられた人間です。で、あの無能な国王に代わってあなた方が戦争終結に向けてお話を進めてくださるんですか?」
「……我々としても国王には何度も終戦を申し入れていたのですが、一向に聞き入れていただけませんでした。国はすでに疲弊しきっているということを理解していただけないのです。和平を申し出ると言っても、これだけ長引いた戦争です。こちらからから和平を願い出るとなれば降伏も同然、莫大な賠償金が必要になるでしょう」
……このヒゲの賢そうなおじさんも戦争を終わらせたがっているのね。
よく見たら、あの国王以外はみんな疲れきっているような顔つきだし、ぶくぶく太っている人もいない。もしかしたら、みんなあの豚に嫌々従っているだけなのかもしれないな。
……それでも、乱暴な徴兵や食べ物の徴収、民に横暴な仕打ちをさんざん繰り返し実行してきたあんたたちを、私はやっぱり好きにはなれそうにないけど。
「十年以上も決着がつかないんですもの、いつ終わらせようが有利な結果なんてどのみち得られないでしょう? なら今すぐ終わらせて、国力の回復に努め、借金を返していくのが賢い考えではないかしら?」
「しかし、そう王を説得するのは難しいと思われます。何か戦争を終わらせることによって得られる目に見える利益でもないと……」
やつれた宰相さんの声がだんだんと不穏な響きを含んでいく。
「あの方は物事の先を想像する力というものがないのです。無理な徴兵や徴収を命令するだけしてその結果国民がどのような状態になりどのように考えるのかなど予想できる脳みそがそもそもない。あのバカは死んでもきっと治らな……あ、いえ、聞かなかったことにしてください」
私にしか聞こえないような小さな声で宰相さんがそう言った。
……この人のことは、ちょっと好きになったかもしれない。ちょっとだけだけど。
苦い顔で私の要求を渋る宰相に、私はわかりやすい利益を提示することにした。
「戦争を止めるなら、私はこの国にきっと利益をもたらすと約束しましょう。精霊王は、その条件が成るならばこの土地を豊かなものにするとおっしゃってくださいましたから。それが国王を釣る餌になるかもしれませんね。但し、それには皆様の魔力が必要なんですけど」
部屋にいるみんなが不可解だと言わんばかりの顔をした。
「ま、魔力……?」
「ええそうです。土地を豊かにするためには、魔力が必要なのです。魔力とは私が使うような魔法に使うエネルギーのことです。そうですね、実際にやってみせますから、外に出ていただけますか?」
にっこり笑った私に対し、みんなは訝しげな顔を返しながらも外に出ることを了承してくれた。
部屋を出るとちょうど中庭だった。
お城の中庭とは言え、花があったりするわけでもなく、土まで枯れている。人員に手入れする余裕がないのもあるだろうけど、国王が中庭の景観には興味がないのかもしれない。
土はあるしここでいいか、と魔法を使う。
《魔力をあげる。土を耕して》
すると、枯れてひび割れていた土があっという間に濃い茶色になり、畝ができていった。
「……!」
声にならない驚きの声がそこかしこから聞こえる中、私は持参した野菜や果物の種をばら蒔いた。無から作り出すこともできなくはないけれど、一つ作り出せば私でも気分が悪くなるくらい、魔力が大量に必要になる。
《魔力をあげる。育てて》
すると、見る間ににょきにょきと種から芽が出て花を咲かせさらに成長して実ができていった。
おぉ、すごい。少し試してみていたとはいえ、この力があればきっと食べ物には困らないね。
《ありがとう》
精霊たちに向けてお礼を言うと、精霊たちは嬉しそうにころころと笑った。
「いかがでしょう? 私一人の魔力では量が知れていますけど、皆さんの中にある魔力を目覚めさせることはできます。大勢でこの力を使えば、国を立て直すのも少しは楽になるのではないでしょうか」
気づけば大勢の大臣や兵士たちが集まってきていた。みんな信じられないというように、今できたばかりの畑を唖然呆然といった様子で見ている。
「こ、このような……素晴らしい力を、私たちにも授けてくださると言うのですか?」
宰相は震えた指で畑を指しながら、まさかと言いたげに私に問いかけた。
「使者の私とは使える条件は少し違いますし、全員が使えるようになる確証はないですがチャンスは与えます。力に目覚めるかはその方次第。……それに、まず戦争を終結させるとお約束くださるのなら、ですけれど」
私はにっこり笑ってそう答えた。
今この辺りの土地は戦争のせいで干からびていて、精霊たちの魔力だけでは回復がなかなか追い付かない。戦争を止めさせる交換条件にできるなら一石二鳥だから、是非人間たちの魔力を使って土地を豊かにしてくれとシスイには言われている。
「そ、それならば、なんとか陛下を説得してみせます!」
「四日後……いや三日後にまたお越し下されば、必ず良いお返事を」
大臣たちが口々にそう言ってくるけれど、それでは遅い。
「明日です」
「……は?」
「明日までに国王を説得してください。そして終結宣言は……一週間以内にお願いしますね。でないとこの国は、精霊王の怒りに触れることになるでしょう」
ルトが今も危険な目に遭ってるかもしれないのに、説得に三日もかけられるか!
私の脅迫するような眼差しに、宰相たちはただ震えるようにして頷いた。
◇◇◇◇◇
「ふざけるなっ! なぜ国王である余があんな小娘の言うことを聞かねばならんのだ! 貴様ら、揃いも揃って無能か!? あの無礼な小娘をむざむざと帰しおって!!」
アルバトリスタ国王は、部下たちの報告を聞いて怒り狂っていた。
それを老年の大臣が必死に諌めている。
「しかし、使者は実際不思議な力を使い、我々や騎士団が束になっても敵わないのです。彼女は明日にも和平を取り付けなければこの国はどうなるかわからないと」
「そんなもの脅しに決まっておろうが! この国が潰れて困るのはここに住むあの娘も同じだろう!」
いつものように他人の意見など全く聞き入れない国王は、ヤツを殺せと無様に騒ぐだけだ。
「陛下」
そこへ、別の大臣がスッと前へ出た。
「よくお考えください。彼女は、戦争を終結させれば我々にもあの不思議な力を与えると言っているのですよ?」
「なに?」
怒りに顔を歪ませた国王がピクリと反応する。
「あの力は使い方を考えれば無限に富を生む人外の力。あの力が手に入れば、戦争での損失などすぐに取り戻せましょう」
「……ふむ」
「とりあえず、言うことを聞いておけばいいのです。そうすればあの素晴らしい力が手に入る。その後でなら、彼女が与えてくれたその力で、我々にも彼女を制することができるでしょう」
「むぅ……それもそうだな。愚かな娘め。貴様が与えるその力で貴様自身を捻り潰してくれるわ」
国王はその時を想像して、ニヤリと醜く笑った。
「………」
大臣たちがその姿を苦々しい顔で眺めていることに、国王は全く気づいていなかった。
──五日後、十二年に渡る戦争についに終結の時が訪れた。
アルバトリスタ側からの申し出により、相手国から戦争状態終結宣言があったのである。
しかしその結果、望んでいた領土は手に入らなかったのは当然のこと、アルバトリスタは莫大な賠償金という借金を背負うことになった。
しかし、そんなものはすぐに取り戻せる、と国王はほくそ笑んでいた。
あの不思議な力さえあれば無限に富を生み出すことができる。生意気なあの娘にも痛い目に遭わせてやれる。国王は笑いが止まらなかった。
──娘が来ると約束した日を過ぎるまでは。
「あの娘はどうしたのだ!? なぜ現れんッ!」
「いえ、ですからすでに一昨日現れました! ただ先にすることがあるから、力を与えるのはもう少し待つようにと言われただけで」
「何だと!? 余との約束を後回しにするとは、どこまでも馬鹿にしおって!」
──そしてその頃、アイリスは。
「ルトッ!!」
「アイリス!?」
ルトが送られていた戦地へ、ルトを迎えに行っていた。
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