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広がる魔術
しおりを挟む「よかったああああっ、ルト、生きてたぁ……」
私はぐすぐす泣きながらルトにしがみついた。
ルトと同じ戦地に派遣されていた、周囲にいる兵士たちが唖然としてこちらを見ているけど全く気にしていられない。
「あ、アイリス、どうしてここに?」
ルトは驚きながらも、しゃくりあげる私の背中をぎこちない手つきで撫でてくれている。
「……シスイがね、私に加護を与えてくれたの。悪魔族とかが使うような魔術を使えるようにしてくれて、国王や大臣たちを脅して戦争を止めさせたの」
「………………」
背中を撫でてくれていたルトの手がピタリと止まった。
「ルト?」
「……なにやってんの、アイリス……」
ルトは少し青ざめたような顔で、盛大にため息を吐いた。
「だって、ルトが死んじゃうなんて絶対に嫌だったから! そしたらシスイが戦争を終わらせればルトは帰ってくるって、魔術を教えてくれたから……」
そのルトは今目の前にいて少し呆れた顔をして私を見ている。ルトが生きてて本当によかった。
「……その魔術って、もしかしてさっきすごい早さでここまで走ってきたやつ? 見間違いじゃなかったんだ……」
ルトは直前に起こった出来事を思い出すように少し遠い目をして言った。
そう、私は魔術で超高速移動をしてルトを送ったと聞いた戦地までやってきたのだ。
「すごいでしょ? 他にも色々できるよ! 水や火や雷を出したり、植物を育てたり鉱石を作ったり」
「……それが本当ならすごい力だね。でも、その力を見せつけて国王に終戦を迫ったなら、何か交換条件があったんじゃないの? 今は言われていなくても、きっとこの先アイリスはその力を利用しようとする人たちに狙われることになるよ」
私の肩を掴んで目を合わせ、ルトが心底心配そうに私を見つめる。
「大丈夫、基本的に武力行使だったから! それに、交換条件は提示したけど、その交換条件は疲弊したこの国の復興にも繋がることなんだよ」
私はシスイがくれた闇の魔石がついた腕輪から、シスイの魔力が籠った石の器と透明で小さな玉を取り出した。この魔石は魔力の籠ったものなら私の任意でしまったり取り出したりできるらしい。ものすごく便利。
……それに、初めてシスイからアクセサリーをもらっちゃったよ!
実用性重視というか、渡す必要があったからだけどね!
もらったのは確かだもん!
石の器に玉を入れると、ブワッと水が出てきて、石の器にすぐさまなみなみと満たされた。
「…………」
ルトはただ呆然とその様子を見ていた。すごく驚いているようだ。
私はさらに銀の杯を取り出した。因みにこれにも魔力は籠っているけれど、飲む容器は何でもいいらしい。
私はその杯に水を汲んだ。
「はい、ルト。これ飲んでみて」
「……なんで?」
ルトはとても怪しいものを見る目でこちらを見ている。
……失礼だなー。
「これを飲めばもしかしたらルトも魔術が使えるようになるかもしれないの。その人が持ってる魔力が解放されるんだって。魔力量は個人差があるから、これを飲んでも魔術が使えない人もいるらしいけど」
「……へえ?」
ルトが恐る恐る杯に口を付けて水を飲み干すと、カッと眩しい光がルトから溢れ出した。
「!?」
「わっ」
その光はすぐにルトの中へと収まったけれど、結構強い光だった。
「ルトにも魔力はたくさんあったみたいだね!」
「こんなに光るかもしれないならそうと言っておいてよ、アイリス!」
驚いた心を落ち着けるように胸に手を当てながら、ルトが恨めしげに私を見た。
ごめんごめん、忘れてた。
次からは飲む人にちゃんと注意をしないとね。
それから城に帰ってきた私は、ぎゃーぎゃーうるさい国王とその臣下たちにもシスイの魔力が籠った水(みんなはそれを『聖水』と呼び出した)を与えた。
国王は聖水を飲んでも全く体が光らなかった。
「余には魔力がないというのか!? 余は国王だぞ! 貴様は魔術を使える力を与えると言ったというのに、話が違う!」
「そう言われましても」
なぜ自分には魔力がないのかと国王はいつまでも喚いていたけど、私の関知するところではない。全員ではないとあらかじめ言っておいたのに一体何を言っているのか。
宰相さんはまあまあ光った。感動したように震えながら私を見て感謝してきたけれど、感謝はシスイにしてあげてください。
他にもちらほらと光った人たちはいたけれど、十人に一人というところ。
国の重役になるような人たちなら強い魂、つまり魔力を持っている可能性が高いらしく、一般人ならばもっと確率は落ちるようだ。
けれど、国民全員に聖水を飲ませればかなりの人数が魔術を使えるようになるはずだし、是非その魔力を使って土地を豊かにしてもらいたいと思う。
シスイに注意されていたので、魔力を解放させるのは十歳からというのも徹底するようお願いした。精神が未熟な内は魔力が暴走しやすいんだって。
もうひとつシスイに教えられていたのは、加護がない人間は魔術を使う時に事前に精霊へ呼びかける言葉が必要であるということ。
精霊は気まぐれで、知らない人間がいきなり精霊語でただお願いしたところで興味を持たない。だから事前に『魔力をあげるからお願いを聞いてください』という呼び掛けが必要とのこと。私が大臣たちが考えた呼び掛けの言葉を精霊語に訳してあげました。
それがこれ。
《精霊たちよ》
《力をお貸しください》
《我が魔力を対価に》
《理外の力を齎し給え》
……大臣たちの精霊信仰が強くなってて、無駄に長い言葉になってしまったけどまあいいか。
本人たちが言いたいなら丁寧に呼び掛けてあげるといいよ。魔術を使う前にいちいちこれを言うのはかなり面倒だと思うけど。
聖水はとりあえず城に置くことにした。
そのうち精霊殿というものを建てて、聖水はそこに置くことにするらしい。
聖水を国民に与えて魔力を解放し、魔術を広げていく仕事は大臣たちに丸投げです!
元々私はただの平民ですからね。使者として、魔力解放のやり方や役に立ちそうな呪文はいくつか教えたんだし、あとは国のやることだよね。
そのうち魔力を望む国民の間で「聖水を飲む前に精霊王に祈れば魔力を得られる確率が上がるらしい」という噂が流れ、それが定着していくのはアイリスの知らない出来事なのであった。
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