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第十五章・鼓動なき者と鼓動ある者……死者と生者の禁断の愛 〔コミカルホラー〕
第48話・楡崎 愛斗の場合①
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海が近い古い洋館の朝──ウミネコの声が聞こえる庭で、エプロン姿の亜夢が竹ボウキで庭を掃除していた。
亜夢が独り呟く。
「今回の世界シチュエーションでの。オレの役は古い洋館の管理人か……この洋館は、戦時中は旧陸軍の科学研究所施設として使われていた」
庭にあるコンクリートの縁で長方形に囲まれた、葉っぱが浮かぶ人工の排水槽池の水面には。
死んだカエルが、白い腹を上に向けて浮んでいた。
突然、死んでいるはずのカエルがクルッと、背を水面に向けると亜夢に向かって水を蹴って飛びかかってきた。
赤く充血した目は、左右バラバラの方向を向き、口には鋭い牙が生えている。
亜夢は冷静に、飛びかかってきた。ゾンビカエルを竹ホウキで、レンガの壁に向かって叩きつけた。
壁にぶつかったカエルは、死体へともどる。
亜夢がまた、独り呟く。
「季節や状況によって、ゾンビ池の効果は異なります……狂暴なゾンビとして、甦るコトもあれば、知性と理性を持ったゾンビになるコトもある」
旧陸軍の科学研究所が廃棄した、さまざまな薬品が、化学反応を起こして排水槽池は、死者を甦らせる【ゾンビ池】となっていた。
竹ボウキで掃除をしながら、亜夢はまた呟く。
「今回のインナースペースのマルチバースも、男と絡む場面はなさそうだな……最近、体が男を求めて、少し疼いている」
少し両目を閉じた亜夢は、今回の世界の情報を集める。
「この世界の心格は『楡崎 創生』と『楡崎 愛斗』の男子高校生二人……今夜、二人はこの洋館に忍び込んでくる。あまり、情報を出さない世界もあるのに……この世界は情報の流れ込みが多いな、愛斗? 別の世界にもいたな? 同名かな?」
ゾンビ池の中に泡が浮かび、池の色がピンク色に変色してゾンビ効果が変わった。
◇◇◇◇◇◇
その日の、半月の夜──洋館前の道に、裸電球の街灯に照らされる人影があった。
高校生くらいの男の子が二人……酒屋のビールケースを足場にして、洋館の塀を登って敷地内に侵入しようとしていた。
「手を伸ばせ、大丈夫だ……変な色の池みたいなのがあるけれど、上手く着地すれば侵入できる」
先に塀の上に登った『楡崎 創生』が、塀の外でビールケースの上に立っている。不安そうな表情の友人に向かって、差し出した手を握るように催促する。
「早くしろよ、屋敷の人が来ちまうぞ」
渋々、創生の手を握って塀を登る『楡崎
愛斗』
塀の上に座って愛斗が、創生に言った。
「やっぱり、やめようよ……肝試しなんて。この洋館、たまに庭を掃除している管理人の姿、見た人いるから無人の廃墟じゃないよ」
「ちょっと、庭に降りて探検するだけだから……ガラスが割れた窓から、洋館の中を覗くだけだから」
創生は、もう一つの用意したビールケースの足場を、洋館の庭に落として塀から庭に飛び降りる。
「愛斗も、早く降りてこい」
創生が立てたビールケースに足を乗せて、ゆっくりケースの上に立つ愛斗。
その時、洋館の玄関にセンサーライトの明かりが灯り。
驚いてバランスを崩した愛斗が、近くにあった不気味なショッキングピンク色の池へと転落する。
「あっ⁉」
小さな叫び声を発した愛斗の体は、池の中へと沈んでいった。
不思議な池だった……ドロッとした水質で愛斗が落ちても、ミルククラウンのような水飛沫が上がっただけで、高粘質なオイルの池といった感じだった。
ゆるやかに水面に広がる波紋と、気泡のドームが池の中から浮かび上がる。
「愛斗‼」
動揺している創生を、洋館から出てきたエプロン姿の亜夢がライトで照らして言った。
「不法侵入者ですか……あなたたち二人が塀を乗り越えているのは、部屋の窓から見えていました」
茫然自失している、創生の傍らに立った亜夢は、愛斗が落ちて沈んだゾンビ池を覗き込む。
「お友だちは完全に、池の底に沈みましたね……ちょっと待っていてください、この池の水は毒ですから」
洋館にもどった亜夢は、先端に?状の金具が付いた竹の棒を持ってきて、ゾンビ池の中を探るように搔き回す。
「沈んだのは、この辺りかな……おっ、手応えあり」
亜夢が竹の棒を、慎重に引き上げると両目を閉じて、全身がグッタリと弛緩した状態の愛斗が浮かんできた。
「愛斗! 大丈夫か!」
地面まで引き上げた愛斗の体に近づいて、触れようとした創生を亜夢が制する。
「近づかないで……廃棄された薬品が混ざった水ですから」
亜夢は、洋館の外にあった水道の蛇口に接続されていたホースの、出水口を引っ張ってくると。
愛斗の体に水をかけて洗浄してから、愛斗の胸のシャツのボタンを外して、露出した愛斗の胸に片耳を当てて心音が無いコトを確認する。
「間違いなく、死んでいますね」
死んだ愛斗の片方の腕を肩に回して愛斗の死体を、洋館の中に運び入れようとしていた亜夢は。
恐怖に震えて立ち尽くしている、創生に向かって言った。
「あなたの友だちでしょう、洋館の中に運び込みますから手伝ってください」
亜夢と創生は、死んだ愛斗を両側から支えて、洋館の部屋テーブルの上に運んで乗せた。
創生が「救急車を呼んでくれ」の言葉に首を横に振る亜夢。
「もう、手遅れですよ」
愛斗の露出させた胸に、聴診器を当てた亜夢は創生にも愛斗の心音を確認させた。
聴診器で愛斗の心臓の鼓動を確認した、創生の顔色が青ざめる。
「心臓が動いていない」
「お友だちは、もう死んでいます……ほら、顔色がゾンビ色に変わってきた。もうすぐ、復活します」
亜夢の言葉通りに、ゾンビになった愛斗が薄っすらと目を開けた。
愛斗が言った。
「あれ? 創生……オレ、いったいどうしたんだ?」
愛斗は知性と理性を保った、ゾンビ男子として甦った。
亜夢が独り呟く。
「今回の世界シチュエーションでの。オレの役は古い洋館の管理人か……この洋館は、戦時中は旧陸軍の科学研究所施設として使われていた」
庭にあるコンクリートの縁で長方形に囲まれた、葉っぱが浮かぶ人工の排水槽池の水面には。
死んだカエルが、白い腹を上に向けて浮んでいた。
突然、死んでいるはずのカエルがクルッと、背を水面に向けると亜夢に向かって水を蹴って飛びかかってきた。
赤く充血した目は、左右バラバラの方向を向き、口には鋭い牙が生えている。
亜夢は冷静に、飛びかかってきた。ゾンビカエルを竹ホウキで、レンガの壁に向かって叩きつけた。
壁にぶつかったカエルは、死体へともどる。
亜夢がまた、独り呟く。
「季節や状況によって、ゾンビ池の効果は異なります……狂暴なゾンビとして、甦るコトもあれば、知性と理性を持ったゾンビになるコトもある」
旧陸軍の科学研究所が廃棄した、さまざまな薬品が、化学反応を起こして排水槽池は、死者を甦らせる【ゾンビ池】となっていた。
竹ボウキで掃除をしながら、亜夢はまた呟く。
「今回のインナースペースのマルチバースも、男と絡む場面はなさそうだな……最近、体が男を求めて、少し疼いている」
少し両目を閉じた亜夢は、今回の世界の情報を集める。
「この世界の心格は『楡崎 創生』と『楡崎 愛斗』の男子高校生二人……今夜、二人はこの洋館に忍び込んでくる。あまり、情報を出さない世界もあるのに……この世界は情報の流れ込みが多いな、愛斗? 別の世界にもいたな? 同名かな?」
ゾンビ池の中に泡が浮かび、池の色がピンク色に変色してゾンビ効果が変わった。
◇◇◇◇◇◇
その日の、半月の夜──洋館前の道に、裸電球の街灯に照らされる人影があった。
高校生くらいの男の子が二人……酒屋のビールケースを足場にして、洋館の塀を登って敷地内に侵入しようとしていた。
「手を伸ばせ、大丈夫だ……変な色の池みたいなのがあるけれど、上手く着地すれば侵入できる」
先に塀の上に登った『楡崎 創生』が、塀の外でビールケースの上に立っている。不安そうな表情の友人に向かって、差し出した手を握るように催促する。
「早くしろよ、屋敷の人が来ちまうぞ」
渋々、創生の手を握って塀を登る『楡崎
愛斗』
塀の上に座って愛斗が、創生に言った。
「やっぱり、やめようよ……肝試しなんて。この洋館、たまに庭を掃除している管理人の姿、見た人いるから無人の廃墟じゃないよ」
「ちょっと、庭に降りて探検するだけだから……ガラスが割れた窓から、洋館の中を覗くだけだから」
創生は、もう一つの用意したビールケースの足場を、洋館の庭に落として塀から庭に飛び降りる。
「愛斗も、早く降りてこい」
創生が立てたビールケースに足を乗せて、ゆっくりケースの上に立つ愛斗。
その時、洋館の玄関にセンサーライトの明かりが灯り。
驚いてバランスを崩した愛斗が、近くにあった不気味なショッキングピンク色の池へと転落する。
「あっ⁉」
小さな叫び声を発した愛斗の体は、池の中へと沈んでいった。
不思議な池だった……ドロッとした水質で愛斗が落ちても、ミルククラウンのような水飛沫が上がっただけで、高粘質なオイルの池といった感じだった。
ゆるやかに水面に広がる波紋と、気泡のドームが池の中から浮かび上がる。
「愛斗‼」
動揺している創生を、洋館から出てきたエプロン姿の亜夢がライトで照らして言った。
「不法侵入者ですか……あなたたち二人が塀を乗り越えているのは、部屋の窓から見えていました」
茫然自失している、創生の傍らに立った亜夢は、愛斗が落ちて沈んだゾンビ池を覗き込む。
「お友だちは完全に、池の底に沈みましたね……ちょっと待っていてください、この池の水は毒ですから」
洋館にもどった亜夢は、先端に?状の金具が付いた竹の棒を持ってきて、ゾンビ池の中を探るように搔き回す。
「沈んだのは、この辺りかな……おっ、手応えあり」
亜夢が竹の棒を、慎重に引き上げると両目を閉じて、全身がグッタリと弛緩した状態の愛斗が浮かんできた。
「愛斗! 大丈夫か!」
地面まで引き上げた愛斗の体に近づいて、触れようとした創生を亜夢が制する。
「近づかないで……廃棄された薬品が混ざった水ですから」
亜夢は、洋館の外にあった水道の蛇口に接続されていたホースの、出水口を引っ張ってくると。
愛斗の体に水をかけて洗浄してから、愛斗の胸のシャツのボタンを外して、露出した愛斗の胸に片耳を当てて心音が無いコトを確認する。
「間違いなく、死んでいますね」
死んだ愛斗の片方の腕を肩に回して愛斗の死体を、洋館の中に運び入れようとしていた亜夢は。
恐怖に震えて立ち尽くしている、創生に向かって言った。
「あなたの友だちでしょう、洋館の中に運び込みますから手伝ってください」
亜夢と創生は、死んだ愛斗を両側から支えて、洋館の部屋テーブルの上に運んで乗せた。
創生が「救急車を呼んでくれ」の言葉に首を横に振る亜夢。
「もう、手遅れですよ」
愛斗の露出させた胸に、聴診器を当てた亜夢は創生にも愛斗の心音を確認させた。
聴診器で愛斗の心臓の鼓動を確認した、創生の顔色が青ざめる。
「心臓が動いていない」
「お友だちは、もう死んでいます……ほら、顔色がゾンビ色に変わってきた。もうすぐ、復活します」
亜夢の言葉通りに、ゾンビになった愛斗が薄っすらと目を開けた。
愛斗が言った。
「あれ? 創生……オレ、いったいどうしたんだ?」
愛斗は知性と理性を保った、ゾンビ男子として甦った。
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