役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜

きみつね

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5.お主のような『薬草馬鹿』は嫌いではないぞ

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 案内されたのは、陽光が降り注ぐサンルームだった。
 真っ白なテーブルクロスの敷かれたテーブルには、見たこともないほど豪華な料理が並んでいた。

「わあ……美味しそう……」

「さあ、席に着かれよ。まずは基本の座り方からじゃ」

 シャミールさんの指導に従い、私はぎこちなく椅子に座った。
 背筋をピンと伸ばし、カトラリーを手に取る。

「スープを飲む時は音を立ててはならん。手前から奥へスプーンを動かすのじゃ」
「こ、こうですか?」
「角度が甘い! もっと優雅に!」

 杖で軽く肩を叩かれながら、私は必死にスープを口に運んだ。
 美味しい。すごく美味しいけれど、緊張で味が半分くらいしかわからない。

(うう……やっぱり帝国の文化って大変……)

 早くも心が折れそうになりながら、私は次の皿へと手を伸ばした。
 新鮮な野菜がたっぷり盛られたサラダだ。
 ドレッシングの良い香りが食欲をそそる。

「では、いただきます……」

 フォークで葉野菜を刺して、口に運ぼうとしたその時だ。

「……ん?」

 私の鼻腔を、微かだが独特な芳香がくすぐった。
 これは……?

 私はフォークを止め、皿の中を凝視した。
 ルッコラやレタスに混ざって、少しギザギザした形の、紫色の葉が入っている。

「こ、これは……『竜の吐息』!?」

 私は思わず叫んで、椅子から立ち上がってしまった。
 マナー違反だと叱られることも忘れて、その葉を指先で摘み上げる。

「な、なんという行儀の悪さじゃ!」

 シャミールさんが目を見開いて声を上げたが、私の耳には届かなかった。
 だって、これはとんでもない発見なのだ!

「すごい……! これ、高山地帯の、しかもドラゴンの巣の近くにしか自生しない幻の香草ですよね!? 滋養強壮効果が抜群で、一枚食べるだけで一日中疲れ知らずになれるという……!」

 私は興奮のあまり早口になりながら、その葉を光に透かして観察した。

「葉脈の走り方、色の濃さ……最高品質です! それに、このドレッシング! 微かに『月光草』の蜜が使われていますよね? ドラゴンブレスの苦味を消しつつ、薬効を高める相乗効果を狙っている……天才的な組み合わせです!」

 私はフォークをペンのように振り回し、熱弁を振るった。

「こんな貴重な薬草をサラダに使うなんて……ヴェルディア帝国の食文化、恐るべしです! あ、もしかして肉料理の下味にも『炎熱草』を使っていたりしますか? そうすれば消化吸収が助けられて――」

「……その通りじゃ」

 不意に、シャミールさんの声のトーンが変わった。
 ハッとして我に返る。
 私は食事中に立ち上がり、手掴みで野菜を持ち、大声でまくし立てていたのだ。

(や、やっちゃった……!)

 顔からサーッと血の気が引いていく。
 これは怒られる。絶対に怒られる。
 恐る恐るシャミールさんの顔を覗き込むと――。

 彼はなぜか、ニヤリと満足げに笑っていた。

「ほう……ただ食い意地が張っているだけかと思えば、まさか『ドラゴンブレス』と隠し味の『月光草』を一瞬で見抜くとはな」

「え……?」

「このサラダは、ワシが考案した特製メニューじゃ。普通の人間なら『美味しい』で終わる。だがお主は、その薬効と組み合わせの意味まで理解した」

 シャミールさんは杖をつき直し、私を見上げた。
 その瞳は、先程までの厳しさではなく、知的な光を宿していた。

「悪くない。……いや、面白い。お主のような『薬草馬鹿』は嫌いではないぞ」

「や、薬草馬鹿って……」

「褒め言葉じゃ。どうやらお主への教育は、単なるマナー講座だけでは勿体ないようじゃな」

 彼は楽しそうに髭を撫でた(やっぱり髭はないのだけれど)。
 どうやら、怒られずに済んだらしい。
 それどころか、ちょっと気に入られた……?

「腹は満ちたか? ならば、次は場所を変えよう」

「場所、ですか? 次はどんな授業を……」

「フン、身だしなみじゃよ。今日の午後、お主を正式にアレクシス様に紹介する場が設けられる。そんな地味な格好では、殿下の隣に立つ資格なしじゃ」

 シャミールさんは私の服装をジロリと見やった。
 まだシルクの寝間着の上にガウンを羽織っただけだ。確かにこれではマズい。

「とびきり美しく仕上げてやる。……素材は悪くないからの」

 最後の一言は小さすぎてよく聞こえなかったけれど、彼の瞳が怪しく光ったのだけは見逃さなかった。
 な、なんだか嫌な予感がする……!
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