役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜

きみつね

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7.キミを捨てた王子は、よほど目が腐っていたと見える

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 謁見の間の扉が、重々しい音を立てて開かれる。
 その向こうには、広い空間と、玉座の前に立つアレクシス様の姿があった。

 彼は窓の外を眺めていたようだったが、扉の音に気づいてゆっくりと振り返る。
 その視線が、私を捉えた瞬間――。

「…………」

 彼は目を見開き、動きを止めた。
 まるで時が止まったかのように、彫像のように固まってしまったのだ。

(えっ……?)

 私は不安になった。
 やっぱり、似合っていないのだろうか。
 それとも、どこかおかしなところがある?

「ア、アレクシス様……?」

 おずおずと声をかけながら、私は彼の方へ歩み寄ろうとした。
 けれど、慣れないヒールと、ボリュームのあるドレスの裾に足を取られてしまった。

「あっ……!」

 身体が大きく傾く。
 視界がぐるりと回り、石畳の床が迫ってくる。

(転ぶ……!)

 私は反射的に目を瞑り、衝撃に身構えた。
 しかし、予想していた痛みは訪れなかった。
 代わりに、ふわりと温かい何かが私を包み込んだのだ。

「危ない」

 耳元で、甘い声が降ってくる。
 恐る恐る目を開けると、そこにはアレクシス様の整った顔が至近距離にあった。
 彼は片手で私の腰をしっかりと支え、もう片方の手で私の背中を守ってくれていたのだ。

「あ……ありがとうございます……」
「怪我はないか?」

 心配そうに覗き込んでくる紫水晶の瞳。
 その瞳の中に、私が映っている。

「は、はい。ドレスに足を取られてしまって……申し訳ありません」

 恥ずかしさで顔が熱くなる。
 せっかく綺麗にしてもらったのに、登場早々転びそうになるなんて。
 これでは台無しだ。

「謝る必要はない。むしろ……」

 アレクシス様は言葉を切り、私を抱き起こすと、改めて頭のてっぺんからつま先までをじっと見つめた。
 その視線は熱を帯びていて、見られているだけで肌がピリピリとするようだ。

「……天使かと思った」

「え?」

 彼は溜息交じりに、けれど心の底から感嘆したように呟いた。

「入ってきた瞬間、あまりの美しさに言葉を失った。この世のものとは思えないほどだ。……シャミールの見立ては完璧だが、予想を遥かに超えている」

「う、美しすぎるだなんて……きっと化粧とドレスのおかげで……」

「違う」

 アレクシス様は私の言葉を遮ると、そっと私の頬に手を添えた。

「ドレスはただの飾りだ。お前自身の輝きが、ドレスを引き立てているんだ。……本当に、綺麗だ」

 真っ直ぐな言葉が、胸に突き刺さる。
 彼の手の温もりが、頬を通じて身体中に広がっていく。
 心臓の音が大きすぎて、彼に聞こえてしまいそうだ。

「……っ、アレクシス様……」

 嬉しくて、恥ずかしくて、私は言葉を失ってしまった。
 そんな私を見て、彼は愛おしそうに目を細めると、私の腰に回していた腕にさらに力を込めた。

「キミを捨てた王子は、よほど目が腐っていたと見える。……感謝したいくらいだ。おかげで俺が、お前という宝石を手に入れられたのだからな」

「殿下、そこまでにしておきなされ」

 甘い空気を切り裂くように、シャミールさんの呆れたような声が響いた。
 彼はいつの間にか私の後ろに立っていて、やれやれと肩をすくめている。

「リリアーナ嬢が茹で上がってしまいそうじゃ。……それに、本題を忘れておるのではないか?」

「……チッ、邪魔をするな」

 アレクシス様は不満げに舌打ちをしつつも、名残惜しそうに私から身体を離した。
 離れた瞬間の寒さに、私は少しだけ寂しさを感じてしまう。

「ああ、そうだったな。リリアーナ、ここへ呼んだのは、お前に紹介したい人物がいるからだ」

「紹介したい人物、ですか?」

「うむ。我が国の外交の要であり、お前の……『同類』かもしれない男だ」

 アレクシス様が合図を送ると、控えていた衛兵が奥の扉を開けた。
 そこから現れたのは――。
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