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8.不正などしていません。もし疑われるのでしたら、今ここで証明してみせます!
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扉の向こうから現れたのは、眼鏡をかけた一人の青年だった。
色素の薄い灰色の髪に、理知的な――いや、少し神経質そうな青い瞳。
細身の身体には魔導師のローブを纏っているが、腕には抱えきれないほどの分厚い書物や羊皮紙の束が積み上げられている。
「遅い」
アレクシス様が低く呟く。
しかし青年は悪びれる様子もなく、眼鏡の位置を指で直しながら歩み寄ってきた。
「遅れたのは私のせいではありません。殿下が急な『聖竜樹復活』などという非科学的な報告を寄越すからです。そのデータの裏取りと、異常魔力値の計測データの解析に手間取っていたんですよ」
彼は早口でまくし立てると、私の目の前で立ち止まった。
そして、値踏みするようにジロジロと私を見下ろす。
「見た目はただの貴族令嬢ですね。魔力波長も微弱。本当にこの女が聖竜樹を復活させたのですか? 計器の故障か、殿下の見間違いでは?」
「クラウス、言葉を慎め。リリアーナは俺の客人だ」
アレクシス様の声が氷のように冷たくなる。
けれど、クラウスと呼ばれた青年は動じない。
「私は魔導師団長のクラウス・ラインハルト。客観的事実とデータしか信じない主義でしてね」
彼は私の目の前に、ドサッ! と抱えていた資料の山を置いた。
一番上にある羊皮紙には、何やら難解な数式と魔法陣がびっしりと書き込まれている。
「リリアーナ嬢、でしたか。昨日のポーション生成の際に観測された魔力データを見せてもらいました。……異常です」
「い、異常……ですか?」
「ええ。通常のポーション精製における魔力効率は、熟練の錬金術師でも60%程度。しかし、昨日の記録では『99.9%』という数値が出ています。理論上、不可能です」
クラウス団長は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。
「つまり、可能性は二つ。計測機器が壊れていたか、あなたが何か不正なトリックを使ったかです」
「なっ……!」
私は絶句した。
不正だなんて。私はただ、一生懸命作っただけなのに。
「おいクラウス、いい加減にしろ。リリアーナの力は本物だ。俺が保証する」
「殿下の愛のフィルターがかかった証言など、データとしては無価値です」
「貴様……!」
アレクシス様のこめかみに青筋が浮かぶ。
一触即発の空気だ。
まずい、このままでは喧嘩になってしまう。
私は意を決して、二人の間に割って入った。
「あ、あの! クラウス様!」
「……なんでしょう?」
「不正などしていません。もし疑われるのでしたら、今ここで証明してみせます!」
私が言い切ると、クラウス団長は少しだけ意外そうに眉を上げた。
「ほう……証明、ですか。口だけなら何とでも言えますが?」
「データがお好きなんですよね? だったら、クラウス様が納得するような数値を出して見せます!」
売り言葉に買い言葉みたいなところもあったけれど、私の薬師としてのプライドが燃え上がっていた。
ポーション作りを否定されるのは、私自身を否定されるのと同じだ。それだけは許せない。
クラウス団長は、口の端をニヤリと吊り上げた。
それは、獲物を見つけた肉食獣のような笑みだった。
「いいでしょう。その挑戦、受けて立ちます。……ちょうどここに、我が魔導師団が開発中の新型魔力測定器がありますからね」
彼は懐から、クリスタルのような複雑な形状をした魔道具を取り出した。
「お題を出します。私の指定する条件でポーションを作り、この測定器で純度90%以上を叩き出してみせてください。……もし出来なければ、殿下への虚偽報告罪として追及させてもらいますよ?」
「望むところです!」
アレクシス様が止めようとするのを手で制し、私はクラウス団長を睨み返した。
「では条件を提示します」
クラウス団長は意地の悪そうな笑みを深め、指を一本立てた。
「ポーションの主成分である水、これを使わずに作成してください」
色素の薄い灰色の髪に、理知的な――いや、少し神経質そうな青い瞳。
細身の身体には魔導師のローブを纏っているが、腕には抱えきれないほどの分厚い書物や羊皮紙の束が積み上げられている。
「遅い」
アレクシス様が低く呟く。
しかし青年は悪びれる様子もなく、眼鏡の位置を指で直しながら歩み寄ってきた。
「遅れたのは私のせいではありません。殿下が急な『聖竜樹復活』などという非科学的な報告を寄越すからです。そのデータの裏取りと、異常魔力値の計測データの解析に手間取っていたんですよ」
彼は早口でまくし立てると、私の目の前で立ち止まった。
そして、値踏みするようにジロジロと私を見下ろす。
「見た目はただの貴族令嬢ですね。魔力波長も微弱。本当にこの女が聖竜樹を復活させたのですか? 計器の故障か、殿下の見間違いでは?」
「クラウス、言葉を慎め。リリアーナは俺の客人だ」
アレクシス様の声が氷のように冷たくなる。
けれど、クラウスと呼ばれた青年は動じない。
「私は魔導師団長のクラウス・ラインハルト。客観的事実とデータしか信じない主義でしてね」
彼は私の目の前に、ドサッ! と抱えていた資料の山を置いた。
一番上にある羊皮紙には、何やら難解な数式と魔法陣がびっしりと書き込まれている。
「リリアーナ嬢、でしたか。昨日のポーション生成の際に観測された魔力データを見せてもらいました。……異常です」
「い、異常……ですか?」
「ええ。通常のポーション精製における魔力効率は、熟練の錬金術師でも60%程度。しかし、昨日の記録では『99.9%』という数値が出ています。理論上、不可能です」
クラウス団長は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。
「つまり、可能性は二つ。計測機器が壊れていたか、あなたが何か不正なトリックを使ったかです」
「なっ……!」
私は絶句した。
不正だなんて。私はただ、一生懸命作っただけなのに。
「おいクラウス、いい加減にしろ。リリアーナの力は本物だ。俺が保証する」
「殿下の愛のフィルターがかかった証言など、データとしては無価値です」
「貴様……!」
アレクシス様のこめかみに青筋が浮かぶ。
一触即発の空気だ。
まずい、このままでは喧嘩になってしまう。
私は意を決して、二人の間に割って入った。
「あ、あの! クラウス様!」
「……なんでしょう?」
「不正などしていません。もし疑われるのでしたら、今ここで証明してみせます!」
私が言い切ると、クラウス団長は少しだけ意外そうに眉を上げた。
「ほう……証明、ですか。口だけなら何とでも言えますが?」
「データがお好きなんですよね? だったら、クラウス様が納得するような数値を出して見せます!」
売り言葉に買い言葉みたいなところもあったけれど、私の薬師としてのプライドが燃え上がっていた。
ポーション作りを否定されるのは、私自身を否定されるのと同じだ。それだけは許せない。
クラウス団長は、口の端をニヤリと吊り上げた。
それは、獲物を見つけた肉食獣のような笑みだった。
「いいでしょう。その挑戦、受けて立ちます。……ちょうどここに、我が魔導師団が開発中の新型魔力測定器がありますからね」
彼は懐から、クリスタルのような複雑な形状をした魔道具を取り出した。
「お題を出します。私の指定する条件でポーションを作り、この測定器で純度90%以上を叩き出してみせてください。……もし出来なければ、殿下への虚偽報告罪として追及させてもらいますよ?」
「望むところです!」
アレクシス様が止めようとするのを手で制し、私はクラウス団長を睨み返した。
「では条件を提示します」
クラウス団長は意地の悪そうな笑みを深め、指を一本立てた。
「ポーションの主成分である水、これを使わずに作成してください」
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