役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜

きみつね

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12.あ、あいつは……俺たちは、とんでもないことをしてしまったのか……

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 ――少し時間を遡る。
 ところ変わって、こちらはリリアーナを追放したベルディ王国。

 王城の執務室には、怒号と悲鳴が飛び交っていた。

「おい! まだポーションは届かないのか!? 街で流行り病が拡大しているんだぞ!」

 第二王子エドワードが、机を叩きつけて叫ぶ。
 その顔色は優れず、目には隈ができている。
 リリアーナを追放してから。
 この国には、原因不明の不幸が立て続けに降りかかっていた。

「も、申し訳ありません殿下! 現在、セレスティア様が懸命に精製しているのですが、失敗続きで……」

「失敗だと!? あいつは『癒やしの聖女』だろうが! 祈りを捧げるだけで万病を治すのではなかったのか!?」

「そ、それが……」

 侍従が言い淀んでいると扉が乱暴に開かれた。
 入ってきたのは、豪奢なドレスを着崩し、髪を振り乱したセレスティアだった。

「もう無理よ! こんなのやってられないわ!」

 彼女は手に持っていたフラスコを床に投げつけた。
 ガシャン! とガラスが砕け散り、中からただの水がこぼれ出る。

「セレスティア!? ポーション作りはどうしたんだ!」

「作れないものは作れないのよ! 今までお姉様……あの陰気な女が地下室で何を作っていたかなんて、私が知るわけないじゃない!」

 セレスティアはヒステリックに叫んだ。
 そう。彼女は薬草の知識など皆無だった。
 これまではリリアーナが作ったポーションを自分の手柄として提出し、「聖女の祈りを込めた霊薬」だと偽っていただけなのだ。

 リリアーナがいなくなった今、彼女には何の力もないことが露呈してしまった。

「な、なんだと……? では、今まで国の病を治していたのは……」

「全部あいつのポーションのおかげよ! あーあ、なんで追い出しちゃったのかしら。あいつさえいれば、私はただ『聖女のふり』をして、ちやほやされていれば良かったのに!」

 開き直ったセレスティアの言葉に、エドワードは絶句した。
 自分が無能だと罵り、捨てた婚約者こそが、この国の医療を支える要だったのだ。

 だが、絶望はそれだけでは終わらなかった。

「で、殿下! 大変です!」

 別の衛兵が、真っ青な顔で飛び込んできた。

「今度は何だ!」
「せ、聖樹様が……国の守り神である大樹が、急速に枯れ始めています!」

「なっ……!?」

 エドワードは慌てて窓に駆け寄った。
 中庭に聳え立つ、国の象徴である巨大な聖樹。
 その葉が茶色く変色し、ハラハラと舞い落ちていくのが見えた。

「これは……どういうことだ……」

「王室魔導師の解析によると、聖樹はこれまで『強力な魔力を持つ者』から定期的に魔力を供給されて、その生命力を維持していたそうです。その供給が途絶えたため、枯渇し始めていると……」

「魔力供給だと? そんなことをしていたのは誰だ! すぐにそいつを呼べ!」

 エドワードが怒鳴るが、衛兵は泣きそうな顔で首を振った。

「そ、それが……記録によると、毎日深夜に聖樹へ祈りを捧げていたのは……リリアーナ・ベルモンド様ただお一人です」

「…………は?」

 エドワードの思考が凍りついた。
 薬草の研究だけでなく、国の象徴である聖樹の管理まで、リリアーナが一人で担っていたというのか。
 誰にも知られず。誰にも褒められず。
 ただひたむきに、この国のために。

「あ、あいつは……俺たちは、とんでもないことをしてしまったのか……?」

「殿下! このまま聖樹が枯れれば、大地の加護が失われ、農作物は全滅します! 経済的な損失は計り知れません!」
「流行り病も止まりません! 民衆の暴動が始まっています!」

 次々と舞い込むバッドニュース。
 エドワードはその場に崩れ落ちた。
 リリアーナという「本物の聖女」を失った代償は、国が滅ぶのと同じ意味を持っていたのだ。

「連れ戻せ……」

 エドワードは、虚ろな目で呟いた。

「え?」
「リリアーナを連れ戻すんだ! 手段は問わん! 彼女がいなければ、この国は終わりだ!!」

 こうして、ベルディ王国から隣国のアレクシス帝国へ、必死の形相で使者が放たれたのである。
 ――自分たちが捨てた聖女が、今や隣国で誰よりも愛され、幸せになっているとも知らずに。
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