役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜

きみつね

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14.俺の妃になってくれないか

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 アレクシス様は楽しげに、けれど恐ろしく冷たい笑みを浮かべた。

「貴国が剣を抜いた瞬間、我が国の魔導師団と竜騎士団が、ベルディ王国の国土を地図から消し去ることになるだろう。リリアーナ一人を取り戻すために国を滅ぼす覚悟があるならな」

「あ……あぁ……」

 騎士団長は絶望に打ちひしがれ、言葉を失った。
 力の差は歴然だった。
 交渉などの余地は最初からなかったのだ。

「さあ、選択しろ」

 アレクシス様が氷柱を彼らの喉元に突きつける。

「今すぐ尻尾を巻いて逃げ帰るか。それともこの場で氷の彫像となって、永遠に帝国の一部となるか」

 騎士団長たちが恐怖に震え、答えに詰まっていたその時だった。

 ――ゾワリ。

 肌が粟立つような、強烈なプレッシャーが謁見の間を支配した。
 それはアレクシス様の氷の魔力とはまた違う、複数の異質な力の奔流だった。

「おやおや殿下。抜け駆けはずるいのう」

 空間が歪み、音もなく一人の少年――いや、老成した気配を纏うエルフが現れた。
 執事のシャミールさんだ。
 彼はニコニコと穏やかな笑みを浮かべているが、その背後には無数の鋭利なナイフが浮遊しており殺気の塊のようなオーラを放っている。

「害虫駆除ならば、執事であるワシの仕事じゃろう?リリアーナ嬢を不快にさせるゴミは、跡形もなく次元の彼方に消し去ってやろうかの」

「おいおい、シャミールの爺さんだけにいい格好はさせねぇぞ!」
 
 ドオン!と床が揺れた。
 高い天井から飛び降りてきたのは、筋骨隆々とした巨漢だった。
 頭にはライオンのような獣の耳、そして太い尻尾。
 ワイルドな野性味を漂わせる彼は、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべて使者たちを見下ろした。

「俺は帝国軍・第三部隊将軍、ガルフだ!おうおう、随分と美味そうな獲物じゃねぇか。ちょうど腹が減ってたんだ。……喰っちまっていいか?」

「野蛮なことを言うな、ガルフ。ここは神聖な謁見の間だ」

 冷静沈着な声と共に、コツン、コツンと硬質な足音が響く。
 現れたのは、全身を漆黒の鎧に包んだ長身の騎士。
 その手には身の丈ほどの巨大な槍が握られ、背後には幻影のような黒竜の影が揺らめいている。

「竜騎士団長、ジークフリート。……我が主と聖女様を愚弄する輩は、竜の炎で灰にする」

「まったく、筋肉バカどもはこれだから困ります」

 最後に現れたのは大量の羊皮紙と魔導書を浮遊させた、眼鏡の青年。
 魔導師団長のクラウスさんだ。
 彼は眼鏡をクイッと押し上げ、冷徹な瞳で使者たちを値踏みした。

「私の計算によると、貴国が我が国に勝てる確率は『0.00001%』以下ですね。……まあ、私が開発した新魔術の実験台になってくれるなら、少しは遊んであげてもいいですが」

 いつの間にか現れた強大な力を持つ男性たちが、使者たちを完全包囲していた。
 それぞれの放つ魔力や殺気が混ざり合い、空間が歪むほどの重圧となっている。

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
「ば、化け物だ……! この国は、化け物の巣窟だぁっ!!」

 限界だった。
 騎士団長とその部下たちは、泡を吹いて絶叫すると、転がるようにして扉へと殺到した。

「お、覚えていろ! こ、こんなことで終わると思うなよっ!!」

 捨て台詞とも言えない情けない悲鳴を残し、彼らは脱兎のごとく逃げ出して行った。
 彼らが去った後には、静寂だけが残された。

「口ほどにもない」

 アレクシス様が指を鳴らすと、謁見の間を覆っていた氷がキラキラと光の粒子になって霧散していった。
 張り詰めていた空気が緩み、温かい陽差しが戻ってくる。
 そして振り返り、今にも震え出しそうな私を、優しく抱きしめてくれた。

「大丈夫か、リリアーナ。怖かったな」
「ア、アレクシス様……みなさん……」

 私は彼らの顔を順に見渡した。
 先程までの殺気が嘘のように、みんなが私に温かい笑顔を向けてくれていた。

「フォッフォッフォ、ワシはリリアーナ嬢の世話役だからのぅ」
「おう! なんかあったら俺がぶっ飛ばしてやるから安心しな!」
「……我ら竜騎士団も、貴女様の剣となり盾となりましょう」
「あなたのデータは貴重ですからね。……いえ、あなたのことは私が守りますよ、師匠」

 胸がいっぱいになった。
 捨てられた私に、こんなにも頼もしい味方がたくさんできたのだ。

「ありがとうございます……! 私、本当に……幸せです……!」

「礼を言うのはまだ早い」

 アレクシス様は私の手を取り、その場に跪いた。
 えっ、と息を呑む私を見上げ、彼は真剣な眼差しで告げた。

「リリアーナ。……俺の妃になってくれないか?」

「えっ……?」

「婚約者という立場だけでは、まだ弱い。……お前を俺の『正妃』として迎え入れ、名実ともに、誰にも手出しできない存在にしたいんだ」

 プロポーズ。
 突然の言葉に、心臓が大きく跳ね上がった。
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