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17.「あ、あの……お客様? 関係者以外立ち入り禁止なのですが……」
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「やあ、リリ店長。今日からここで働くことになった新人の『アレックス』だ。よろしく頼むよ」
彼は――変装したアレクシス様は、爽やかに言い放ち、勝手にカウンターの中に入ってきた。
「……は?」
私は持っていた布巾を取り落としそうになった。
一瞬、思考が停止する。
目の前にいるのは、どう見てもこの国の王太子殿下だ。
地味な黒縁メガネをかけてはいるが、隠しきれない高貴なオーラと無駄に整った顔立ちはメガネごときでは誤魔化せていない。
「あ、あの……お客様? 関係者以外立ち入り禁止なのですが……」
「おや、冷たいな。俺だと言っているだろう?」
彼は悪戯っぽく微笑み、顔を近づけてきた。
「……っ! わ、わかっています! わかっていますけど!」
私は慌てて彼の胸を押し返した。
心臓がバクバクと五月蝿い。
「何をしているんですか、アレクシス様! いえ、どうしてそんな格好でここに!?」
「しっ。ここでは『アレックス』だ。……それとも、客の前で俺の名前を呼ぶつもりか? リリアーナ」
「うっ……」
痛いところを突かれた。
ここで「アレクシス様」なんて叫んだら、大騒ぎになってしまう。
「で、でも、困ります! ここは私の職場です。殿下がこんなところで店番なんて……公務はどうされたんですか!?」
「公務なら、通常の三倍の速度で終わらせてきた」
「さ、三倍……」
「こんな隙だらけの店に、お前を一人で置いておけるはずがない」
彼は店内のセキュリティを一瞥し、鼻を鳴らした。
まぁ、セキュリティなんて呼べるものはないんだけど。
「ですが……!」
「それに、この店の物件を用意したのは誰だ?」
「う……アレクシス様、です……」
「ならば、オーナーである俺が視察に来て、ついでに手伝うことに何の問題がある?」
ぐうの音も出ない正論(?)だった。いや、ぐうの音も出るけど……。
彼は私が言葉に詰まったのを見計らい、ニヤリと笑ってエプロンを手に取った。
「わかったら、諦めて仕事を教えろ」
「……わかりました。わかりましたよ!」
私はがっくりと肩を落とした。
この人に口で勝てる気がしない。
それに……少しだけ、嬉しかったりもするのだ。
多忙なはずの彼が、こうして私のために時間を作ってくれたことが。
「……その代わり、あくまで『新人店員』として扱いますからね。特別扱いはしませんよ、アレックスさん」
「望むところだ、リリ店長」
こうして、私のささやかな抵抗は虚しく終わり、とんでもない大型新人との共同生活が幕を開けたのだった。
◇
それから数時間。
私の不安をよそに、アレックスは優秀すぎた。
「いらっしゃいませ。腰痛ならこちらの湿布がおすすめです」
「重い荷物はお持ちしましょう」
「美しいお嬢さんには、こちらの美容クリームをおまけしておきますよ」
完璧な所作と眼鏡越しの上目遣い(キラースマイル)で、女性客の心を鷲掴みにしていく。
おかげで店はマダムや若い女性たちで大繁盛。
薬は飛ぶように売れ、閉店時間を待たずに棚の商品がほとんどなくなってしまった。
「……ふぅ。まさか、完売するなんて」
私は空っぽになった棚を見て、心地よい疲労感と共に椅子に座り込んだ。
「よくやったな、リリ店長」
いつの間にか、アレックスが隣に立っていた。
彼は労うように私の頭をポンポンと撫でると、温かいハーブティーを差し出してくれた。
「ありがとう、アレックス。……あなたも、お疲れ様」
「ああ。……意外と、悪くない時間だった」
彼は眼鏡を外し、ふっと表情を緩めた。
無防備な顔に、また胸が高鳴る。
二人きりの静かな時間。
薄暗くなり始めた店内に、甘い沈黙が降りてくる。
「……だが」
不意に、アレクシス様が私の手首を掴み、ぐいっと引き寄せた。
「きゃっ!?」
バランスを崩した私は、そのまま彼の膝の上に抱きとめられてしまった。
至近距離で彼の瞳が熱っぽく私を射抜く。
「あ、あの……アレクシス様? まだお店の中です……!」
「構わん。今はもう閉店だろう?」
彼は私の腰に腕を回して逃げ場を塞ぐと、拗ねたように唇を尖らせた。
「今日は一日、よく我慢したと思わないか? お前が他の男……客の爺さんや、ガキどもに愛想を振りまくのを、指を咥えて見ていたんだぞ」
「そ、それは……仕事だし……男性といっても、お爺さんと子供だし……」
「分かっている。分かっているが……面白くないものは面白くない」
王太子殿下ともあろうお方が、まるで子供のような嫉妬。
そのギャップが可愛くて、私はついふふっと笑ってしまった。
「笑い事ではない。……俺の聖女が可愛すぎて、店ごと結界で封鎖してしまいたいくらいだったんだ」
「もう、過保護なんですから……んっ」
言葉の途中で唇を塞がれた。
優しいけれど、独占欲の滲む、深い口づけ。
彼の熱が伝染して頭がくらくらする。
「……リリアーナ。俺への報酬は?」
報酬……?
彼は――変装したアレクシス様は、爽やかに言い放ち、勝手にカウンターの中に入ってきた。
「……は?」
私は持っていた布巾を取り落としそうになった。
一瞬、思考が停止する。
目の前にいるのは、どう見てもこの国の王太子殿下だ。
地味な黒縁メガネをかけてはいるが、隠しきれない高貴なオーラと無駄に整った顔立ちはメガネごときでは誤魔化せていない。
「あ、あの……お客様? 関係者以外立ち入り禁止なのですが……」
「おや、冷たいな。俺だと言っているだろう?」
彼は悪戯っぽく微笑み、顔を近づけてきた。
「……っ! わ、わかっています! わかっていますけど!」
私は慌てて彼の胸を押し返した。
心臓がバクバクと五月蝿い。
「何をしているんですか、アレクシス様! いえ、どうしてそんな格好でここに!?」
「しっ。ここでは『アレックス』だ。……それとも、客の前で俺の名前を呼ぶつもりか? リリアーナ」
「うっ……」
痛いところを突かれた。
ここで「アレクシス様」なんて叫んだら、大騒ぎになってしまう。
「で、でも、困ります! ここは私の職場です。殿下がこんなところで店番なんて……公務はどうされたんですか!?」
「公務なら、通常の三倍の速度で終わらせてきた」
「さ、三倍……」
「こんな隙だらけの店に、お前を一人で置いておけるはずがない」
彼は店内のセキュリティを一瞥し、鼻を鳴らした。
まぁ、セキュリティなんて呼べるものはないんだけど。
「ですが……!」
「それに、この店の物件を用意したのは誰だ?」
「う……アレクシス様、です……」
「ならば、オーナーである俺が視察に来て、ついでに手伝うことに何の問題がある?」
ぐうの音も出ない正論(?)だった。いや、ぐうの音も出るけど……。
彼は私が言葉に詰まったのを見計らい、ニヤリと笑ってエプロンを手に取った。
「わかったら、諦めて仕事を教えろ」
「……わかりました。わかりましたよ!」
私はがっくりと肩を落とした。
この人に口で勝てる気がしない。
それに……少しだけ、嬉しかったりもするのだ。
多忙なはずの彼が、こうして私のために時間を作ってくれたことが。
「……その代わり、あくまで『新人店員』として扱いますからね。特別扱いはしませんよ、アレックスさん」
「望むところだ、リリ店長」
こうして、私のささやかな抵抗は虚しく終わり、とんでもない大型新人との共同生活が幕を開けたのだった。
◇
それから数時間。
私の不安をよそに、アレックスは優秀すぎた。
「いらっしゃいませ。腰痛ならこちらの湿布がおすすめです」
「重い荷物はお持ちしましょう」
「美しいお嬢さんには、こちらの美容クリームをおまけしておきますよ」
完璧な所作と眼鏡越しの上目遣い(キラースマイル)で、女性客の心を鷲掴みにしていく。
おかげで店はマダムや若い女性たちで大繁盛。
薬は飛ぶように売れ、閉店時間を待たずに棚の商品がほとんどなくなってしまった。
「……ふぅ。まさか、完売するなんて」
私は空っぽになった棚を見て、心地よい疲労感と共に椅子に座り込んだ。
「よくやったな、リリ店長」
いつの間にか、アレックスが隣に立っていた。
彼は労うように私の頭をポンポンと撫でると、温かいハーブティーを差し出してくれた。
「ありがとう、アレックス。……あなたも、お疲れ様」
「ああ。……意外と、悪くない時間だった」
彼は眼鏡を外し、ふっと表情を緩めた。
無防備な顔に、また胸が高鳴る。
二人きりの静かな時間。
薄暗くなり始めた店内に、甘い沈黙が降りてくる。
「……だが」
不意に、アレクシス様が私の手首を掴み、ぐいっと引き寄せた。
「きゃっ!?」
バランスを崩した私は、そのまま彼の膝の上に抱きとめられてしまった。
至近距離で彼の瞳が熱っぽく私を射抜く。
「あ、あの……アレクシス様? まだお店の中です……!」
「構わん。今はもう閉店だろう?」
彼は私の腰に腕を回して逃げ場を塞ぐと、拗ねたように唇を尖らせた。
「今日は一日、よく我慢したと思わないか? お前が他の男……客の爺さんや、ガキどもに愛想を振りまくのを、指を咥えて見ていたんだぞ」
「そ、それは……仕事だし……男性といっても、お爺さんと子供だし……」
「分かっている。分かっているが……面白くないものは面白くない」
王太子殿下ともあろうお方が、まるで子供のような嫉妬。
そのギャップが可愛くて、私はついふふっと笑ってしまった。
「笑い事ではない。……俺の聖女が可愛すぎて、店ごと結界で封鎖してしまいたいくらいだったんだ」
「もう、過保護なんですから……んっ」
言葉の途中で唇を塞がれた。
優しいけれど、独占欲の滲む、深い口づけ。
彼の熱が伝染して頭がくらくらする。
「……リリアーナ。俺への報酬は?」
報酬……?
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