役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜

きみつね

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18.そ、そんな義務知りません……っ、あっ……!

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 「……リリアーナ。俺への報酬は?」

 唇を離し、彼が甘えるように擦り寄ってくる。

「ほ、報酬って……」
「俺は今日、真面目に働いただろう? 店長として、優秀な従業員にご褒美をくれるのは当然の義務だと思うが?」

 彼はニヤリと笑い、私の首筋に顔を埋めた。

「そ、そんな義務知りません……っ、あっ……!」

 首筋に熱い息が吹きかけられ、甘い痺れが走る。
 抗う力なんて最初から残っていない。
 私は彼の髪に指を絡ませ、その身を預けてしまった。

(あぁ……どうしてこんなに……)

 王宮での彼も素敵だけど、こうして「ただの男女」として触れ合える時間が、何よりも愛おしい。
 このまま、もっと深く、彼に溺れてしまいたい……。

 そんな、とろけるような甘い空気が最高潮に達した、その時だった。

 カランコロン……。

 入り口のベルが、ものすごく空気を読まずに鳴り響いた。

「「ッ!?」」

 私たちは弾かれたように離れた。

「……客か?」

 アレックスが怪訝そうに眉をひそめる。
 こんな時間に誰だろう。
 私は慌てて立ち上がり、入り口へと向かった。

「すみません、本日はもう……」

 言いかけて、言葉が止まった。
 そこに立っていたのは見上げるような大男だったからだ。
 目深にフードを被り、黒いコートに身を包んでいる。
 その隙間からは鋭い眼光が見えた。

(ひっ……!? 強盗!?)

 私が身構えた瞬間、男がフードを外した。
 現れたのは、見覚えのある強面の男性。
 頬に傷のある、歴戦の戦士のような風貌。

「あ、あれ……? あなたは……」

「……夜分にすまない。ここが、何でも相談に乗ってくれる薬屋だと聞いてな」

 その声は低く、そしてどこか悲痛な響きを帯びていた。

「ジークフリート? どうした、そんな格好で」

 奥から出てきたアレックス――アレクシス様が、驚いたように声を上げた。
 男――竜騎士団長のジークフリート様。彼は確か、謁見の間で会った人だ。
 彼は主の姿を見てギョッとしたように目を見開いた。

「で、殿下!? なぜこのような所に……いや、その恰好は!?」
「お忍びだ。気にするな。……それより、お前こそどうした? 何かあったのか?」

 アレクシス様が尋ねると、ジークフリート様は気まずそうに視線を逸らし、それから意を決したように私の方を向いた。

「……実は、殿下には内密で、この店の聖女さま……いや、薬師さまに相談があって参った次第です」
「俺に内密で?」
「はい。……軍の公式ルートで相談すれば、大事になりますゆえ」

 彼は藁にもすがるような目で私を見つめた。
 瞳の奥には、深い深い苦悩の色が見えた。

「リリアーナ様……いえ、薬師殿。折り入って相談があるのだが……受けてもらえるだろうか」

「は、はい! 私でよければ、何でもおっしゃってください」

 彼は謁見の間で私を守ってくれたし、何より王子の配下だ。
 私が頷くと、彼は重い口を開いた。

「実は……私の相棒である黒竜のことなのだが……」
「黒竜、ですか?」
「ああ。最近、原因不明の衰弱を見せていてな。餌も食わず、誰の言葉も聞こうとしない。……獣医にも魔導師にも見せたが、原因は判明しなかった」

 彼は拳を握りしめ、声を震わせた。

「このままでは……凶暴化したと見なされ、殺処分される可能性がある。……だが、俺にとってあいつは家族だ。失いたくないのです……!」

 悲痛な叫びだった。
 強面で屈強な騎士団長が、今にも泣き出しそうな顔をしている。
 横を見ると、アレクシス様も深刻な表情をしていた。
 どうやら彼もこの事態は知らなかったようだ。

(……家族を、失いたくない)

 その言葉が私の胸に刺さった。
 私にも植物たちという大切な家族がいる。
 彼の気持ちは痛いほどわかった。

「わかりました。……私に、診させてください」

 私はジークフリート様の目を真っ直ぐに見て言った。

「植物の声が聞こえる私なら、動物や竜の声も、何かわかるかもしれません。……いえ、きっと何か力になれるはずです!」

「おお……! かたじけない……!」

 ジークフリート様は深々と頭を下げた。

 こうして、私の薬屋経営初日は、「帝国の竜騎士団長を救う」という、とんでもないミッションを受けて幕を閉じることになったのだった。
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