役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜

きみつね

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21.「お、おっさん……!?」

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「お二人とも! 勝手に死なないでください!」

 私は大きく息を吸い込むと、涙の別れに酔いしれている一人と一頭に向かって叫んだ。
 洞窟内に響き渡る声にジークフリート様とファフニールがビクリと震え、同時にこちらを振り向く。

「……え?」
「グル?」

 キョトンとした顔だ。
 さっきまでの悲壮感はどこへやら。

「まだ諦めるのは早いです。……というか諦める必要なんてありません!」

 私はポーチの中から、二つの瓶を取り出した。
 一つは怪しく光る金色の液体。
 もう一つは、どこか懐かしい土の香りがする茶色い液体だ。

「ジークフリート様。ファフニールが食事を拒んだのは、あなたの身体を守るため。……つまり、解決方法は一つです」

 私は茶色い瓶をジークフリート様に突きつけた。

「あなたが、ファフニールの魔力に耐えられるくらい元気になればいいんです!」

「げ、元気……? しかし、俺はもう三十半ばだぞ? 若い頃のような体力は……」
「年齢なんて関係ありません! これは、私が徹夜で調合した特製栄養ドリンク――名付けて『おっさんブレンド』です!」

「お、おっさん……!?」

 ジークフリート様がショックを受けたようによろめく。
 
「名前は適当ですが、効果は保証します。あなたの古傷を癒やし、低下した魔力回路を洗浄し、若かりし頃のバイタリティを取り戻す……まさにあなたのための薬です。さあ、飲んでください!」

「し、しかし……」

「死ぬ覚悟があるなら、これを飲む覚悟も決めてください!」

 私の剣幕に押され、ジークフリート様はおっかなびっくり瓶を受け取ると、一気に煽った。

「ぐっ……!? にがっ……! ――うおおおっ!?」

 飲み干した瞬間、カッと全身から湯気が上がった。
 彼の顔色が劇的に良くなり、淀んでいた瞳に精悍な光が戻る。
 さらに、肩の古傷から黒い靄のようなものが抜け出ていき――。

「か、身体が……軽い!? 痛みが……消えた!?」

 彼は信じられないという顔で自分の腕を見つめ、ブンブンと振り回した。

「すごい……まるで二十代の頃に戻ったようだ! 力が……力が湧いてくるぞ!!」

「ふふ、成功ですね」

 私はニッコリと笑い、次は黒竜に向き直った。

「そしてファフニール。あなたにはこちらを」

 金色の液体が入った瓶。
 かつて、魔力酔いを起こしたアレクシス様のために作った『中和ポーション』の改良版だ。

「これは竜気活性ポーションです。あなたの強力すぎる魔力を、主人の身体に負担をかけない優しい波長に変換する薬です。これを飲めば、もうジークフリート様の寿命を削ることはありません」

 私は瓶の蓋を開けた。
 甘い花の香りが広がる。

「グルッ……!」

 ファフニールが鼻を鳴らし、興味深そうに顔を寄せた。
 もう敵意はない。
 彼は私の手から直接、ペロリと液体を舐め取った。

 ――ボシュッ。

 かわいい音と共に、竜の全身から溢れていた刺々しい魔力が、柔らかな光へと変わっていく。
 濁っていた瞳が、透き通るような黄金色に戻った。

「ガァッ! ガァァーッ!!」

 喜びの咆哮。
 それは洞窟を震わせ、空へと突き抜けていった。

「ファフニール……!」

 ジークフリート様が駆け寄ると、黒竜は甘えるように巨大な頭を擦り付けた。
 その力強さは、さっきまでの瀕死の状態とは比べ物にならない。

「あぁ……よかった……! 本当によかった……!」

 再び男泣きする騎士団長。
 でも今の涙は、悲しみの涙ではなく、再会と喜びの涙だった。

「……見事だな」

 アレクシス様が背後から私の肩を抱いた。

「流石は俺の聖女だ。……あの堅物と竜を、一瞬で手懐けてしまうとはな」
「違いますよ。……二人の絆が、跡を起こしたんです」

 私が照れ隠しに言うと、アレクシス様は優しく私の髪にキスをした。

 こうして、竜騎士団長と黒竜の命懸けのすれ違いは、私の薬で無事に解決したのだった。



♢   ♢   ♢




 騒動が落ち着いた後。
 私たちは竜舎の外で、すっかり元気になった一人と一頭に見送られていた。

「聖女殿……いや、リリアーナ様」

 ジークフリート様が、深々と膝をついて頭を下げた。

「この度は、本当に……これ以上ないほどの恩を受けました。我が命、そして我が兄弟の命を救っていただき、感謝の言葉もありません」

「顔を上げてください、ジークフリート様。私は薬師として当然のことをしただけですから」

「いいえ。貴女が来てくださらなければ、私たちは愚かな最期を迎えていたでしょう」

 彼は顔を上げ、真剣な眼差しで私を見つめた。
 その顔はもうただの強面の中年男性ではない。
 精気が満ち溢れ、歴戦の勇者としての誇りを取り戻した、かっこいい「おじさま」の顔だった。

「この命、これからは貴女様のために使いましょう。……何かあればいつでも呼んでください。ファフニールと共に地の果てでだろうと馳せ参じます」

「グルルッ!」

 ファフニールも同意するように翼を広げた。

「……俺の婚約者に、あまり気安く忠誠を誓われても困るのだがな」

 アレクシス様が少し不機嫌そうに割り込んでくる。
 また嫉妬してる……。

「まあよい。ジークフリート、これからは身体を労れよ。……お前が倒れれば、ファフニールがまた絶食しかねんからな」
「はっ! 肝に銘じます!」

 敬礼するジークフリート様に見送られ、私たちは帰路についた。

 馬車の中で、アレクシス様が私の手を握る。
 その横顔は、どこか満足げだった。

「……次は、誰の悩みを解決しようか」
「え?」
「帝国の重鎮、全員お前の薬で骨抜きにしてやればいい」

 彼は悪戯っぽく笑った。

「そうすれば……この国はお前なしでは回らなくなる。誰もお前を他国の捨て子などと呼べなくなるようにな」

 ──ああ、そっか。
 彼は私の居場所を作るために、色々させてくれてるんだ。

 私は彼の手をギュッと握り返した。
 薬師聖女の世直しは、まだ始まったばかりだ。
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