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「そういった経緯があった訳か...今回の王妃候補の合宿に、ラングレー公爵家が名乗りを上げた時、我々は戸惑ったものだった。ラングレー公爵家に娘が居たなんて話聞いたことがなかったからな。ラングレー公が外で作った子か、あるいはどこか他所の子を養子に迎えたのか、そのどちらかだと思っていた。なるほどな、ようやく理解したよ。それでドロシー嬢はラングレー公からどのように指示されてここに来たんだ?」

「...どんな手を使っても構わないからミハエル殿下を落とせと...失敗したら母の命は無いものと思えと...」

「あぁ、だからあんな強行手段に訴えた訳か。母親を人質に取られたんじゃ無理もない」

 ミハエルは心から納得し同情した。

「...えぇ、ライラさんには申し訳ないと思いつつも私も必死でしたから...日に日にミハエル殿下との仲を深めて行くライラさんの様子を見るにつれ、焦ってかなり追い詰められてもいましたし...もっとも、今となってはそんなこと言い訳にもなりませんが...本当にバカげた行為でした...深く反省してます...結果として無意味だった訳ですし...」

 ドロシーは諦観したような表情を浮かべた。

「そうだな...」

「...今は失敗して良かったと心から思っています...もし仮に成功していたらと思うとゾッとします...躊躇なくライラさんの御家族を犠牲にしようと思ったあの頃の自分自身にも...」

 そう言ってドロシーは、恐怖に震える体を自分の両腕で抱き締めた。

「...本当に良かった...母さんに顔向けできなくなるところだった...殿下、筋違いではありますがお礼を言わせて下さい...私を止めて頂きありがとうございました...」

 ドロシーは深々と頭を下げた。その瞳からは涙が溢れ床に滴り落ちていた。そんなドロシーの姿をミハエルはただ黙って見守っていた。

 ややあって顔を上げたドロシーは、涙を拭うと覚悟完了したような顔になった。

「ミハエル殿下、私はどのような厳しい処罰を下されても構いません。いっそ死罪にして下さい。先に逝った母さんの後を追いたいので」

「いや、待て待て! ちょっと待て!」

 ミハエルは慌てて止めた。

「まだ君の母親が始末されたって決まった訳じゃないだろう?」

「ですが...」

「まずは君の母親の安否を確かめることにする。そのためには君の協力が必要だ」

「協力?」

「ラングレー公の悪事を暴くために協力して欲しい。協力してくれたら、君の母親がまだ無事なら必ず保護すると約束しよう」
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