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 使用人扱いであるビビアンの朝は誰よりも早い。

 まだ暗い内から起き出して、屋敷の1日に使う量の水を井戸から汲み上げる。重いバケツを持って何往復もする。

 それが終わったら朝食の支度だ。まず屋敷の主人たる伯爵夫妻と義妹の分を作る。次に使用人達の賄いを作る。

 朝食の支度が終わった頃には既に明るくなっている。その頃になると使用人達が起き出して来る。

 テーブルセッティングを使用人に任せ、今度は溜まった洗濯物を洗い出す。洗濯が終わって洗い物を干し終わる頃に、ようやくグラントとイライザ、ブレンダが起き出して来る。

 ビビアンは急いで食堂に移動する。彼らの食事を給仕するためだ。使用人扱いであるビビアンには、一緒に食事を取ることを許されていない。

 彼らの食事が終わった後、後片付けしてからやっとビビアンは朝食にありつける。

「お嬢様、後片付けは私に任せてお早くお食事をお取り下さい。学校に遅刻してしまいます」

 その時、一人の侍女が他の使用人の目を盗んでコッソリと囁いて来た。

「エマ、ありがとう。いつも済まないわね」

「いいえ、このくらい。さぁお早く」

 ビビアンの母親が生きていた当時、この屋敷の使用人は皆いい人達ばかりだった。ビビアンを伯爵令嬢としてちゃんと敬っていた。

 それが気に入らなかったグラントは、使用人のほとんどを解雇して、自分の言う事しか聞かない者達と入れ替えてしまった。

 新しい使用人達は、雇い主であるグラントのビビアンに対する態度を見て、ビビアンには敬意を払う必要は無いと判断した。

 それ以降、ビビアンはこの屋敷の中で使用人以下のような扱いを受けて来た。だから誰もビビアンの仕事を手伝わないし、一番過酷な仕事を平気で押し付けて来た。
 
 そんな中で数少ない昔から残っている使用人達は、そんなビビアンの現状を憂いて影ながら支えてくれている。

 エマもその内の一人で、彼女以外では庭師のトム、御者のシドがビビアンの数少ない味方で居てくれている。

 ビビアンは彼らに助けられて、どうにかこの屋敷での理不尽な扱いに耐えていられた。

「じゃあ行って来るわね」

「行ってらっしゃいまし、ビビアンお嬢様」

 見送ってくれるのはエマ一人。馬車での送り迎えも無し。一緒の馬車に乗って登校することをブレンダが嫌がった為ビビアンは徒歩で通学している。

 伯爵令嬢としては有り得ないが、ビビアンは誰にも煩わされないこの時間がお気に入りだった。

 ビビアンは軽やかな足取りで学校へと向かって歩いて行った。


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