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第1話 プロローグ

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 ここは学園の食堂。お昼休みの一時。その一角で繰り広げられる異常な光景。


「ほ~らミナ、あ~んして」

「...あぐっ...モシャモシャ...」

「ミナさん、こちらもどうぞ。はい、あ~ん」

「...うぐっ...ムシャムシャ...」

「「はぁ~なんて可愛い~」」

「...あの殿下、そしてシャロン様...」

「なんだい?」「なあに?」

「...一人で食べられますので...」

「ダメだよ」「そうよ、ダメよ」

「...なんで...」

「「だってこんなに小さいんだからっ!」」

 いや、アタシあんたらと同い年っ! 身長130cmにも満たないちみっこだけど、これでも15歳だからっ! って何度言わせりゃ気が済むんだよっ! ...ハァハァ...

 昼休みの度に日常化しつつあるこの光景、アタシはいつものようにこの国の第二王子アルベルト様とその婚約者シャロン様に挟まれて学食のテーブルに付いている...否、付かされている...

 同じ学年だけどクラスが違うこの二人は、昼休みの鐘が鳴ると同時に毎日アタシを拉致し連行する。その手際たるや見事なもので、アタシは何度か逃げようとしたものの、都度回り込まれてしまうので今では諦めている。

「フフフ、ミナさんったらお口の周りが汚れてましてよ。フキフキ...これでキレイになりましたわ。あぁ、それにしてもなんて尊い! ハァハァ...」

「ホラ、ミナお水飲みなさい。あぁ、なんて愛らしい。同じクラスだったらずっと愛でていられたのに...来年こそは王族の権威を行使してでも同じクラスに。フフフ...」

「まあアルベルト様、私も及ばずながらお力になりますわっ!」

 おいそこっ! 権威の無駄遣いすんなっ! 片や王族片や公爵令嬢だからって勝手過ぎるだろっ! それにあんたら仲良いなっ!? 乙女ゲームの腹黒王子と悪役令嬢のはずじゃなかったんかいっ!?


◆◆◆


 もうお気付きだと思うが、アタシは日本人の転生者だ。
 
 前世のアタシはアラサーの小学校教師だった。あの日、朝いつものように校門で子供達を出迎えていた。そこに居眠り運転のトラックが突っ込んで来た。

 『子供達を助けないと!』

 アタシは必死にトラックの前へ飛び出した。前世の記憶はそこまでである。アタシの意識はブラックアウトした...

 次に目が覚めた時は、この学園の入学式の最中だった。いきなり前世の記憶がフラッシュバックして意識が朦朧とする中、子供達は無事だったろうか? アタシはあのまま死んじゃったのかな? などなど思い出したら急に悲しくなって涙をボロボロ溢していた。

 隣に座っていた人が心配そうに声を掛けてくれたので、何とか大丈夫と答えたアタシの目に映ったのは、壇上に上がった新入生代表という生徒だった。
 
 その途端、このタイミングで前世の記憶が蘇った理由を唐突に理解した。

 ここは『アルタイル王国』の王都にある『魔道学園シリウス』壇上に上がったのはこの国の第二王子『アルベルト・フォン・アルタイル』乙女ゲーム『星の乙女と煉獄の王』の世界における攻略対象者の一人であると。

 そしてアタシこと『ミナ・バートレット子爵令嬢』は悪役令嬢でもヒロインでもない。そもそもそんなキャラはゲームに登場しない。

 そう、モブですらなかったのである...

 
 

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