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第5話 閑話 アルベルトとシャロン

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■■ アルベルトの場合 ■■


 俺が彼女を最初に見掛けたのは入学式の挨拶で壇上に上がった時だった。

 目を疑った。

 なんでこんな小さい子供が入学式に? それも制服を着て? 誰かの付き添いで来た家族とかじゃないのか? 彼女本人が入学するってことか? 俺は混乱しながら二度見して、
 
 次に目を奪われた。

 彼女は...泣いていた。なんで入学式で泣く? 卒業式で泣くなら分かるが、入学式のどこに泣く要素がある? 気にはなったがそれよりも...なんて可愛い。

 俺の目は釘付けになった。


 彼女の名は『ミナ・バートレット』子爵令嬢。


 すぐに王族のコネを使って彼女のことを調べ上げた。その結果、驚くべきことにどう見ても小さな子供しか見えないあの見た目で俺達と同い年だという。

 まさか家族に虐待されてる? だから栄養不足で発育不全に? 俺はより詳細な調査を依頼した。その結果、家族からは下に弟が一人居るが、娘は一人ということで可愛いがられて育ったということが判明した。

 ということは体質なのか。俺はホッとしながらも次にあの涙について考えた。入学間も無いこの時期にもう虐められているのではないか? クラスが違うので普段の生活を伺い知ることができないが、もしそうだったら何とか力になってあげたい。


 とは言うものの...王子である俺があからさまに動く訳にもいかない。なにせ俺には焼き餅焼きの婚約者が居るからな。

『シャロン・スカーレット』公爵令嬢。昔から嫉妬深かった。俺に少しでも近付こうとする令嬢を片っ端から威嚇してたっけ。最近はやっと少し落ち着いてきたみたいだけど、見た目が幼女のようだとはいえ同い年の女の子に関わったりしたら、また嫉妬心が再燃するだろう。

 どうしたものかと考えていたら、なんと向こうの方から話を振ってきた。どうやら俺と同じで、入学式の時のミナの様子がずっと気になっていたらしい。

 そこから話は早かった。昼休みに俺とシャロンでミナを拉致...もとい連行...じゃなくてお誘いして話を聞いた所、虐められてはいないと分かって安心した。

 しかしシャロンよ、膝上抱っこはやり過ぎだろ。なんて羨まし...ゲフンゲフン...と、とにかくこれからも昼飯は一緒に取ろうと思った。


◇◇◇


 学力テストの結果がロビーに張り出されているというので、シャロンと二人で見に行った。いやぁ今回はテストに集中できなくてマイった! なにせ俺の目の前の席にミナが居たからな。思わず後ろから抱きしめ...ゲフンゲフン...なんでもない...

 どれどれ順位の確認を...ってミナすげーな! 一位かよ! 可愛いだけじゃなく頭も良いってどんだけ~! って驚いてたら、ん? なんか騒がしいな? アレは...

 確か宰相んとこの三男『エリオット・カーライル』だっけ。なぬ? ミナがカンニングだと? ふざけやがって! ヨシこいつシメよう。俺はシャロンと頷きあってミナの所に向かったが...

 結果として俺とシャロンの助けは不要だった。ミナは見事に看破してのけた。グウの音も出ない程に。さすがだな! まあ俺とシャロンも少しは役に立ったと思うけどな。

 後日、エリオットが迷惑を掛けたことを謝ってきた。本当は追い込んでやろうかって思ってたけど、ミナに言われているからな。許してやることにした。ミナに感謝しとけよ!

 まぁコイツも出来の良い二人の兄貴と比べられて肩身の狭い思いしてるんだろうけどな。本来だったら同い年である俺の側近候補に上がってもおかしくないもんな。もちろんそれとこれとは話が別だけど、本人が反省してるみたいだし、今回だけ大目に見よう。次は無いけどな!


◇◇◇


 よし殺そう! やれ殺そう! すぐ殺そう! ぶっ殺そう! え? 誰をって? 『シルベスター・ホプキンス』ってクソ野郎に決まってんだろっ! あの野郎、こともあろうに俺のミナを害そうとしやがるなんて万死に値するっ!

 ハァハァ...全く、聞かされた時は身が縮む思いだったぜ。無事で良かったけどな。それにしてもミナよ、あんな怖い目にあったってのに、あの程度の処罰で許してあげるって...いくら本人が反省してるからっていっても、なんて慈悲深い...俺だったら即死刑にしてるけどな!

 きっとミナは天使なんだ。そうに違いない。そうに決まってる! だから俺はこれからもミナという名の天使を見守っていこうと心に決めた。


■■ シャロンの場合 ■■


 入学式で天使を見ました。

 いえ、私の頭がおかしくなった訳ではございませんのよ。勘違いしないで下さいまし。そうではなくてですね、私は壇上のアルベルト様の麗しいお姿をうっとり見詰めておりましたの。

 そうしましたら、アルベルト様が会場の一角をずっとご覧になっていることに気が付きましたの。なんだろう? って思ってそちらを見た瞬間、私の中で時が止まりましたわ。


 天使がそこに降臨されていたのですっ!


 今てもハッキリと思い出せますわ。我が校の制服を身に纏い、可憐で儚げなそのお顔から涙を流している様は、まるでそこだけ切り取った一枚の絵のようで尊くて...ってあら? どうして泣いていらっしゃっるのかしら?

 きっと入学式に感動してしまったのね。なんて感受性の豊かな方なのかしら!


 その後、お名前を『ミナ・バートレット』さんだとお聞きしましたわ。クラスが違ってしまったのは残念でなりません。

 後日、アルベルト様にそのことをお話しましたら、やっぱりアルベルト様も気付いていらっしゃったようで、何とかお近づきになれないかと相談されましたわ。これが他の令嬢であれば即座に切って捨てたでしょうが、私も同じ思いだったので喜んで協力することにしましたの。

 まずは、お昼を一緒に誘ってみましょうと提案しましたわ。その後、毎日ミナさんを待ち伏せ、何度か逃げようとするのを捕獲し、今現在ミナさんは私の膝の上におります。こればかりはアルベルト様にも譲れませんわ。はぁ~ 幸せ~♪


◇◇◇


 ミナさん、凄いですっ! ダントツの一位ですわねっ! 尊敬しますわっ! 私に勉強を教えて欲しいくらいですっ! 

 ハッ! そうですわっ! これって良いアイデアじゃありませんこと? 勉強会と称してミナさんをお泊まりにお誘いし、パジャマパーティーなんかしちゃったりして、その後に...グフフフ♪ あらいやだ、ヨダレが。オホホホ♪

 ん? なんか騒がしいですわね。人の妄想の邪魔をしないで頂きたいですわ。


『エリオット・カーライル』許すまじっ! あろうことかミナさんにカンニング疑惑を掛けるとわっ! 私のミナさんがそんな不正に手を染めるなんて有り得ませんっ!

 ご自分の頭の出来が良くないからってミナさんに八つ当たりするんじゃねぇよっ! あら失礼、私としたことが端ない言葉を使ってしまいましたわ、ホホホ。

 後日、謝りにきてましたけど、ミナさんが許しても私は許しませんとハッキリ言ってやりましたわっ!

 そう言えば、今思い出しましたがこの男、私がアルベルト様と婚約を結ぶ前、私と婚約を結びたいと申し込んできたんでしたわね。もちろん断りましたが。断っておいて正解でしたわね。


◇◇◇


『シルベスター・ホプキンス』ぶっ殺しますわっ! えぇ、誰がなんと言おうとも殺しますっ! 止めないで下さい、アルベルト様っ! こればかりは例えミナさんに止められても止まりませんわっ!

 我が公爵家の全軍でもって奴らの領土を灰にしてやりますわっ! えっ? アルベルト様? なんですって? 内戦に発展しかねないから止めろですって? 

 そんなこと知りませんわっ! お覚悟なさいっ!

 私の天使に手を出したらどうなるか、身をもって思い知るがいいわっ!
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