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第20話 ちみっこと舞踏会

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 アリシアを『精霊の愛し子隊』に加える。

 
 アタシの提案に他の皆は最初難色を示した。アリシアの奇行を目の当たりにしたせいもあるが、一人だけ精霊の加護を持たないってことが主な理由だ。

 だからアタシは、アリシアが貴重な聖属性持ちのヒーラーであること、皆と同じように試練を乗り越えてレベルアップすれば、光の精霊から加護を貰えると確約されていることを力説した。その結果、何とか皆の了承を得ることが出来た。良かったよ~


 三日後からは夏休みに入る。夏休み前の最後の日、つまり明後日は乙女ゲームならではのイベントが開催される。皆さんお馴染みの...そう、


 舞踏会である。


 学年単位だと100名を越える生徒達が一堂に会する、それくらい大きな規模の舞踏会場が、このバカでかい学園には三ヶ所もある。なので学年毎に分かれての開催が可能となる。本当、貴族ってお金の使い方間違ってるよね...

「それでアリシア、舞踏会のパートナーは決まった?」

「うぐっ...まだ...」

 アリシアはあの日から毎日アタシの部屋に遊びに来る。ちなみに今日は遮音結界は張ってない。側にマリーも控えてる。もうすっかりマリーとも顔馴染みだ。

「まだって...もう明後日だよ? エリオットを誘ってないの?」

「ゆ、勇気がなくて...そんな簡単に誘えたら苦労しないよ...」

「エリオット、あれで結構人気あるから、今頃他の人に獲られてるかも知れないよ?」

「うぅ...そ、そういうミナはどうなのよ?」

「私? 私はシルベスターと行くよ?」

「へ? い、何時の間に?」

「誘われたから」

「そうなんだ...」

 アリシアには言わないけど、実はエリオットからも誘われたんだよね...身長差を理由に断ったけどさ。180越えてるエリオットとアタシとじゃ大人と子供だしね。アリシアのことが無くても断ってた。

 シルベスターは160ちょいでアタシの父親と同じくらいだから、アタシが高いヒール履けば辛うじてサマにはなると思う。実家に居た時は父親か弟がアタシのパートナーだったし。

 ちなみにバカ王子も性懲りもなく誘ってきたけど、シャロン様に鉄拳制裁食らってた。まぁ当然だから同情する気にもならんかったけど。婚約者を蔑ろにした罰だ。

「私から言ってあげようか?」

「い、いや、それはさすがに...」

「このままだと壁の花だよ?」

 ヒロインとしてそれはどうかと思う。

「そうなんだけど...さすがにそこまでして貰うのは...」

 あぁ、確かに。プライドが許さないか。本来なら男の方から誘って来るまで女は黙って待ってるっていう、暗黙のルールみたいなのあるからねぇ。

「ちなみにアリシア、ダンスの方は?」

「前の学校で行儀作法やマナーの授業があったから、それなりには。それに実家の商売相手が貴族だったりするから、夜会や舞踏会に招待された時の為に家でも練習してたよ」

「なるほど、じゃ誰かに誘われても問題無く踊れるんだね」

「へ? 誰か? 誘われる?」

「さっきは壁の花って言ったけど、考えて見たらアリシア美人さんだから、相手が居ないなら引く手数多かなって」

「び、美人って...そ、そんなことぉ..」

 アリシアがテレテレしてるけど、そりゃヒロインなんだから美人で当然だよ。

「だからさ、自信持って。当たって砕けてみれば?」

「砕けたくはないんだけど...」

 その時、アタシの部屋のドアがノックされる。すかさずマリーが応対する。

「ミナお嬢様、玄関にお客様がいらしたそうです」

「そう、ありがと。じゃアリシア行こうか」

「へ? な、なんで私まで?」

 頭にクエスチョンマークを浮かべるアリシアを玄関まで引っ張って行く。

「エリオット、ゴメンね。わざわざ来て貰って」

「いや、それはいいんだが、なんでアリシアまで居るんだ?」

「そこはまぁ...後は若い二人にお任せってことで」

 未だ呆然としているアリシアの背中を押す。

「じゃあ、ごゆっくりどうぞ~」

「「 ちょっとミナっ!! 」」

 重なった二人の声を背にアタシは自分の部屋に戻る。アタシに出来るのはここまでだよ。エリオットの相手がまだ居ないことは確認済だし。だからさ、


 頑張れ、アリシア。


◇◇◇


 舞踏会当日、アタシは実家から贈られて来たドレスに身を包んでいる。淡いピンクのドレスはちょっと子供っぽいけど、アタシの身長だとこういう可愛い感じのドレスしかないんで仕方無い。救いはヒラヒラのフリルとか付いてなくてシンプルなとこかな。

「良くお似合いです」

「ありがとう、マリー」

「髪形はどうしましょう? やはりツインテ」

「ツインテールはしないから!」

 全くもう、このメイドは! 隙あらばアタシをツインテールにしたがる。なんだ? これもゲームの強制力かなんかなのか!? まぁでも今日はちょっと気分を変えて、

「ポニーテールにしてくれる?」

「畏まりました」

 項を見せてちょっとだけ色っぽくね。後はこれも実家から贈られて来たネックレスとイヤリングを付けてと。うん、いい感じじゃない? ただなんかマリーの鼻息が荒いのが気になるけど。

 マリーに軽くメイクして貰って、準備万端整った所でドアがノックされる。

「ミナ、お待たせ...」

 ドアを開けると、待ち合わせしてたアリシアが立っている。今日のアリシアはワインレッドのドレスを着ていて、黒い髪によく映えてとてもキレイで...さすがはヒロインだと思わせる美しさだった。

「アリシア、とても良く似合ってるよ、凄くキレイ...ってアリシア? どうかした?」

「あ、あぁ、ゴメン、ちょっとボーっとしちゃって...ミナも素敵だよ」

「ありがと、じゃ行こうか」

 玄関にエリオットとシルベスターが迎えに来てくれた。うん、アリシアとエリオットは上手くいったんだよね。お膳立てした甲斐があったよ。

 二人とも今日は黒いタキシードでバッチリキメてる。おや? なんか二人とも固まってる? さてはアリシアの美しさにアテられちゃった? そりゃヒロインだもんね~

「シルベスター、お待たせ」

「「 ミナ...その...凄く可愛い... 」」

「ありがと~ シルベスターもカッコ良いよ」

 ん? なんかエリオットの声が重なったような気がしたけど...気のせいだよね? ちゃんとパートナーを誉めないとダメだぞ。


◇◇◇


 舞踏会のファーストダンスは、アルベルト殿下とシャロン様が務める。今日のシャロン様は殿下の瞳の色に合わせてコバルトブルーのドレスを着ている。ゴージャスな体型と相まって妖艶さが半端ない。

 音楽に合わせて白のタキシードを着た殿下と優雅に踊る様は、会場中の視線を一身に集め、あちこちからフウッとため息が漏れる。普段バカやってても、こういう時はやっぱり王子様なんだなって思う。会場を完全に二人の世界にしてしまい、アタシも目を離すことが出来ない。

 ダンスが終わると割れんばかりの拍手が会場中に鳴り響いた。アタシも感激して何度も手を叩いた。

「凄かったね...」

「うん、あのお二人の後で踊り辛いけど、そろそろボク達も行こうか」

「うん、よろしくね」

 シルベスターが苦笑しながらアタシの手を取って会場の真ん中まで移動する。周りには沢山のペアが次の曲が始まるのを待っている。その中にはアリシアとエリオットの姿もあった。

「スライ、あのね...慣れないヒール履いてるからさ、足踏んじゃったらゴメンね...」

「気にしないで。楽しく躍ろう」

 やがて音楽が流れ二曲目のダンスが始まる。シルベスターと共にリズムを合わせて踊り出す。

 踊り易い...

 シルベスターのリードは優しく、それでいて力強く、曲に合わせて流れるようにアタシを引っ張ってくれる。楽しい...このままずっと踊っていたいくらい。

「スライ! なんかね、凄く楽しい!」

「ボクもだよ!」

 シルベスターと二人で笑い合う。ふと見るとアリシアとエリオットが近付いて来た。アリシアはちょっと緊張してるかな? でもなんだか嬉しそう。アタシも嬉しくなった。

 曲が終わると名残惜しそうにシルベスターが手を離す。そして躊躇いがちに、

「あの、ミナ...良かったらボクともう一曲」

「「 ミナっ! 次の曲は是非俺とっ(僕とっ)! 」」

 そこに殿下とエリオットの声が被る。おい、お前ら、自分のパートナーどうした? って突っ込もうと思ったら、

「あっ! 痛っ!」

「「「 どうした!? 」」」

 今度は三人の声が被る。仲良いな、お前ら。

「あ~ どうやら慣れないヒール履いたから靴擦れおこしたみたい」

「なにい!? 心配するな、俺がすぐ医務室に連れて行ってやるからなっ!」

 またこのパターンかっ! 

 アタシをお姫様抱っこして駆け出した殿下の後ろから、シャロン様が叫ぶ。さすがにドレスじゃ走れないよね...

「アルっ! アンタって人はもうっ! いい加減にしなさいっ!」

 全くもう、感動が台無しだよ...
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