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第31話 ちみっこと夏休み その11

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 アタシ達は村に戻って依頼の達成報告を行った。


 村長さんにむちゃくちゃ感謝された後、是非泊まっていって欲しいと言われ、お言葉に甘えることにした。その晩は村人総出となっての宴会まで開かれ、アタシ達は恐縮しながらも歓待されて結構楽しんだ。

 さすがに酒は飲まなかったけど、その分たらふく食った。この世界、15歳で成人だから飲んでも良いんだけどね。アタシも前世では酒飲みだったし。今のこの体じゃヴィジュアル的にちょっとね...他のみんなも飲まなかったみたいだ。

 次の日、村長さんから依頼達成証明のサインを受け取り、帰路に着いた。馬車の中では全員が昨晩の宴会で食い過ぎ、乗り物酔いに悩まされたのは内緒だ。

 ギルドに戻って報告すると、ヒルダさんは呆けたような顔になってこう言った。

「はぁ~...今度はリッチですって? あの依頼はそんな大物が出るはずじゃなかったと思うんだけど...確かCランクの依頼だったわよね?」

「えぇ、ランクに拘らず、アンデッド系の依頼を優先して受けるようにしてますから」

「ドラゴンといい、もしかしたらこれも、あなた達が何か引き寄せたりしてるのかしらね...」

「いや、そう言われましても...」

 そんな人を化け物寄せみたいに言わんで欲しい...なにもこっちから頼んでるんじゃないんだからさ...アタシ達だって困惑してるっつーの...

「はぁ...まぁ、いいわ。依頼達成料は50万ペイル。あなた達4人で折半ということでいいのね?」

「ちょっと待って下さい」

 そこでアタシはマリーを振り返る。

「マリー、この際だからあなたも冒険者登録しなさい」

「いえ、お嬢様。私は...」

「ダメよ。あなたも一緒に達成した依頼なんだから。報酬を受け取る権利があるわ」

 今度はヒルダさんに向き直る。

「ヒルダさん、このマリーを冒険者登録するとしたら、ランクはどこからスタートになりますか?」

 ヒルダさんは少し考えてから言った。

「そうねぇ...あなた達と一緒に依頼を熟せるレベルってことは、最低でもDランクからのスタートになると思うわ。ギルマスに相談してみるわね」

「よろしくお願いします。それとあの杖のことですが」

「あぁ、あのいかにも呪われていそうな禍々しい杖ね。鑑定した結果、呪われてはいなかったわ。レアなモンスタードロップ品であること、骨董的価値があることを踏まえて、良かったら200万ペイルで引き取るけど如何?」

 アタシは全員を見回す。アリシアだけが惜しそうにしてるが、あんな不吉っぽいモノ持っていたくないんで即答した。

「売ります。報酬と合わせてみんなで折半します」

「分かったわ。それじゃ手続きするからちょっと待ってて。それとマリーさんだっけ? あなたは私と一緒に来て」

 アタシの側から離れることを渋るマリーの背中を「大丈夫だから」と押して、ヒルダさんに付いて行かせる。いやどんだけ過保護なんだよ...さすがに引くわ...

「ねぇミナ、ホントに売っちゃって良かったの? 何か凄い追加効果が付与されてるかも知れないよ?」

 アリシアの言う通り、RPGのゲームなんかだとそういうの多いよね。でもアタシは...

「いいの。ヴィジュアル的に無理だから」

 うん、あんなの持ちたくない。「そんな理由で...」とか言ってアリシアが呆れた顔してるけど、いいんだよそれで...女の子が持つようなもんじゃないっしょ?

 その後、マリーの冒険者登録も無事Dランクで纏り、報酬を折半したアタシ達はギルドを後にした。


◇◇◇


 数日後、アタシ達は王宮に来ていた。冒険者としての初任務を報告するのと、殿下達の近況を知る為だ。いつまでもマリーを頼る訳にもいかないしね。本人は嬉々として付いて来るだろうけど...

「なるほどな、俺達が居ない間にそんなことが...」

「なんだか嫌ですわね...思わぬ所で強敵に遭遇するなんてまるで...」

 シャロン様が思わず言葉を切ったように、そしてヒルダさんにも言われたように、アタシも段々と偶然だとは思えなくなっていた。なんか怖いよね...

「えぇ、ですから今後、依頼を受ける際は、なるべくフルメンバーが揃う時にしようかなと思っています。お二方のご予定はどうなっていますか?」

 するとお二方共にかなりお疲れのご様子で...

「それがなぁ...毎年この時期は他国の外交団や使節団やらがひっきり無しにやって来ては、やれ夜会だの舞踏会だの食事会だのお茶会だのと...忙しくて休む間も無くてな...」

「私も常にアルベルト様のパートナーとして付き添いますから...それに加えて王子妃教育もありますし、休みはありませんわね...」 

 うわぁ...学生の内からこれなんて..王族ってのはどんだけブラック企業なんだよ...うん、王族になんかなるもんじゃないね。なりたくてもなれないけどね。なんにせよ、くわばらくわばら...

「そうですか...分かりました。当面は私達だけで近場の、日帰りが可能な、簡単そうに見える依頼だけを受けようかと思います」

「あぁ、悪いがそうしてくれ。それとこれを人数分渡しておく」

 そう言って殿下が何やらチケットのような物を渡して来た。

「なんですかこれ?」

「水着で入れる温泉があるっていうスパリゾートのチケットだ。夏休みなんだし、たまには学生らしく遊ぶのもいいだろ? 俺達は無理だが...」

「私達も休みが取れればご一緒したいんですが...せめてあなた達だけでも楽しんでいらっしゃいな」

 お二方が残念そうに呟く。でもアタシはそれどころじゃなかった!

「あ、ありがとうございます!」

 うわっ! 温泉だって! この世界にもあったんだね~! 前世でも温泉好きで良く旅行とか行ってたから、こっちでも入れるなんて嬉しいな~! めっちゃ楽しみ~! お二方、ありがとう~!

「あぁ、そうだ。警備の都合もあるから、出掛ける日が決まったら必ず連絡するように」

「分かりましたっ!」

 ...この時、浮かれてたアタシは気付かなかった。殿下とシャロン様が陰でニヤリと笑っていたことを...
 

◇◇◇


「ね、ねえアリシア、これはちょっと布が少なくない?」

「なに言ってんの! これくらい普通だって!」

「そ、そうかなぁ~?」

「お嬢様、こちらは如何でしょうか?」

「それもっと布少ないじゃん! ほとんどマイクロビキニだよ!」

「良くお似合いかと」

「却下です!」

 今日、アタシはアリシアとマリーを連れて、早速水着を選びに来ているんだが...この二人は事有る毎にアタシを露出狂にしたがる。ワンピースでいいっていくらアタシが言っても、頻りにビキニを勧めてくる。それもやたらと布が少ないのばっかり...

 そりゃこの二人はいいよ? スタイル抜群だからさ。出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでるし。アタシと違って背も高いし...どれ着たって似合うだろうよ。

 アタシの場合、胸はそこそこあると思うんだけど、他がチンチクリンだからね...う、羨ましくなんかないんだってばっ!...ウソです...羨ましいです...

「ミナ、これも可愛いよ?」

「お嬢様、こちらも良くお似合いかと」

「アンタらさ...人を着せ替え人形にしてないで自分の選びなよ...」

「私達はもう決めたよ? ね? マリーさん?」

「はい。あとはミナお嬢様の分だけでございます」

「い、何時の間に!?」

 結局、アタシは白いビキニにパレオを巻くことにした。少しでも露出は控え目にね...アリシアは赤、マリーは黒と、それぞれ髪の色に合わせたコーディネートにしたようだ。二人共、かなり露出高めだけど大丈夫?


 その後、ギルドで「日帰りが可能」「簡単そうに見える」の条件に合う依頼のみを何度か受けた。ゴブリンやオークの群の討伐など、アンデッド系に拘らず受けることにした。

 もうシルベスターも怖さを大分克服したみたいだからね。ちなみにその間、警戒は十分してたけど、異常に強い敵と遭遇することは無かった。なにか条件でもあるんだろうか? 

 
 そしていよいよ明日、スパリゾートに出発する! いやぁ、楽しみだなぁ~! エリオットとシルベスターも水着の用意はバッチリだって! 殿下達にはその旨を連絡しておいた。

「楽しんでこい。そして十分に英気を養うように」

 とのことなので、殿下達には申し訳ないけど目一杯楽しむよ~!


 スパリゾートのある町は『ティターン』という名前で、王都から馬車で三日掛かる火山地帯にあるらしい。温泉と言ったらやっぱ火山だよね。前世でもそうだったもん。

 そこに二泊する予定。たっぷり遊んで英気を養うぞ~!

 アタシ達はテンション高く王都を後にした。
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