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第35話 第三者視点 夜霧の森 その2
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闇の力によりバラバラにされたミナ達一行は、それぞれ別の場所で敵と対峙していた。
『エリオット~ 近付いて来るのは人間みたいよ~』
「人間!? 行方不明の冒険者ってことか!?」
『そうかもね~ ただ~ なんか~ 様子が変よ~』
「変ってどういう風に?」
『自分で判断して~ そろそろ見えて来るわ~』
ウンディーネの言葉が終わらない内に、それは現れた。
「これはっ!?」
姿形は冒険者の格好をしている。数は四人。恐らく行方不明になったパーティーの内の一つだろう。ただし、その肌は青白く、目は虚ろで、足取りも覚束無い感じだ。しかも不気味な黒い靄が体中に巻き付いている。
「既に死んでいる!? そしてゾンビ化しているということか!?」
『う~ん、まだ生きてるみたいよ~ 何かに操られているみたい~』
「操られている!? 一体何に!?」
『そこまでは分からないわ~』
話してる間に間合いを詰めて来た相手は、いきなり攻撃してきた。
「うわっとっ! これどうすればいいんだ!?」
攻撃を避けながらエリオットが叫ぶ。
『なるべく傷付けないように~ 無力化するしかないんじゃない~?』
「難しいぞそれ!?」
エリオットは頭を抱えたくなった。
『私も手伝うわ~ まずは囲まれないように注意してね~』
そう言うと、ウンディーネはエリオットの背後に回った。
「分かった。よろしく頼むぞ」
◇◇◇
その頃、シャロンも同じ目に合ってた。
「ちょっとこれ、どうすればいいのよ!?」
やはり数は四人。行方不明のパーティーの一つに囲まれていた。
『シャロン、落ち着いて! 大丈夫! 私が手伝うから!』
シルフがシャロンの後ろに迫った相手を風で押し返す。
「あ、ありがとう。でも怪我をさせずに相手を無力化するって難しいわよ!?」
シャロンは鞭で牽制するが、相手はそれに構わず突っ込んで来る。どうやら痛みも感じていないみたいだ。
『そこはシャロンが考えてよ!』
「丸投げしないでよ!」
やっぱりこの精霊はダメだ。シャロンは頭を抱えるしかなかった。
◇◇◇
同時刻、シルベスターはまだパニックっていた。
「ヒィィィッッッ! 来るな、来るな、来るな~!」
やはりこちらも数は四人。行方不明のパーティーの最後の一つに囲まれていた。だが、前の二組と違い、シルベスターは...容赦なく攻撃を加えていた...
『ちょっと待ってシルベスター! 死んじゃう、死んじゃうから~!』
ノームが慌てて止めようとするが、パニックってるシルベスターに声は届かない。
「悪霊退散! ゾンビ退散! 心頭滅却! 急急如律令!」
『だから悪霊でもゾンビでもないんだって~! シルベスター、聞いてよ~!』
結局、ノームの叫びがシルベスターに届くことはなかった。結果的にシルベスターが一番早く相手を無力化させたが、このパーティーの怪我が一番重かったのは言うまでもない。
実はこのパーティー、行方不明になった三組の内、一番強いパーティーであった。だからこそシルベスターの容赦ない攻撃にも何とか耐え、幸いなことに死者は出なかった。シルベスターは知る由もなかったが、まさしく僥倖であると言えるだろう。
◇◇◇
アルベルトは戦っていた。と言うより苦戦していた。
「くぅっ! ただのゴブリンがなんでこんなに強いんだよ!?」
この森に出没する弱いはずの魔獣が、闇の力の影響かどれも手強い相手になっていた。
『...慌てるな、我も加勢する...』
イフリートがアルベルトの後ろに回ったワイルドボアを仕止める。
「助かる! だがこれじゃキリが無いぞ!?」
ホーンラビットの突進を躱しながらアルベルトが叫ぶ。
『...分かっている。仲間と合流せねば...』
「どうやって!?」
『...向こうから近付いて来る...』
「ホントか!?」
『...あぁ、それまでしばし耐えるぞ...』
「分かった!」
応えながらアルベルトは、こんなに長くイフリートと喋るのは初めてだなと思っていた。
◇◇◇
『アリシア、止まって』
「えっ!? なに!? どうしたの!?」
一刻も早く仲間と合流したいアリシアをレムが止める。
『...何か来るわ...』
その言葉が終わらない内に、地面が振動し始めた。
ドスン、ドスン、ドスン...
「な、なにぃ~!? 怖いんだけど~!」
『あれは...ベヒモス!? なんでこんな所に!?』
レムの焦った声が響く。
「パォーーーン!」
現れたのは象頭人身の怪物『ベヒモス』だった。5mを超す身の丈、長い鼻と象牙は象そのものだが、爛々と光る両目は血のように赤く、強靭な四肢は二足歩行に適応し、下腹部が異様に膨らんでいるその様は、まさしく異形と言える姿だ。
『アリシアっ! 避けてっ!』
呆然と立ち尽くしていたアリシアにレムの叱咤が飛ぶ。
「うわぁっ!」
その声に動かされ、辛うじて避けたアリシアがさっきまで立っていた場所に、ベヒモスの長い鼻が振り下ろされた。
ズゥーーンッ!
その一撃で地面が揺れる。とんでもない怪力だ。
「し、死ぬかと思った~!」
『油断しないで! また来るわよ!』
「パォーーーン!」
ベヒモスが鳴きながら突っ込んで来る。その巨体は迫力満点だ。
「うわぁっとっ!」
なんとか躱したが、風圧で吹っ飛ばされる。
『アリシアっ! すぐ体勢を立て直してっ!』
また長い鼻が襲って来る。
「もうやだ~!」
アリシアは必死で逃げ惑う。
◇◇◇
ミナは一人で暗闇の中に居た。思い出すのは『精霊王の祠』でプルートーから受けた仕打ち。あの悪夢の再現かと思うと体の震えが止まらない。思わず精霊王から貰ったペンダントを握りしめた。
「フンッ、貴様が精霊王の加護を受けた人間か。何とも矮小な者よ」
その声にハッと顔を上げると、そこには身の丈3mを超えるくらいか、頭部が黒山羊の姿をしている悪魔が佇んでいた。
「...あんたは?...」
震えた声で問い掛ける。
「我が名は『アモン』闇の眷族四天王の一柱」
「四天王...そんなのが何の用よ?」
ミナは気丈に言い返した。まだ声は震えている。
「なあに、プルートー様が手子摺った相手と聞いてな。どんな強者かと思って確かめに来たのだが、まさか貴様のような小者とは思わなんだ。とんだ拍子抜けだったようだな。ハハハッ!」
人を小馬鹿にしたような笑い声に、ミナは怖さよりも怒りが上回った。
「そりゃどうも。わざわざ偵察ご苦労様。あぁそうそう、偵察に回されたってことは、あんたが四天王の中で最弱ってことでいいのかしら?」
ミナは態と相手を挑発してみた。
「貴様っ! 人間如きが我を愚弄する気かっ!」
アモンの怒りが闇の力を増幅させる。ミナは頭がクラクラしそうになったが何とか耐えた。ペンダントを握る手に力が籠る。
「あら、図星だったのかしら? 気にしてたのならごめんなさいね」
「貴様ぁっ!」
アモンの体から触手のようなモノが何本も伸びて来る。先が鋭く尖っている。それで突き刺すつもりなのだろう。ミナは土壁を展開してガードする。
「くぅっ! 数が多い上に重い!」
何本かがガードし切れず、土壁をすり抜けてミナの体を抉る。軽傷ではあるが、積み重ねられると厳しくなる。いずれは致命傷を食らうだろう。守ってばかりでは勝ち目が無い。
『ツリーアタック!』
幸いここは森だ。土魔法の攻撃の手段が豊富にある。まずはアモンの周りに生えている木をアモン側に倒して攻撃する。
「舐めるなぁっ!」
アモンの体に触れる前に木が触手で切断される。だがこれはミナにとって予想通り。切断された木は切り口がギザギザになり攻撃力が上がる。しかも攻撃の手数をアモン自ら増やしてくれた。
『ツリーアロー!』
切断された面をアモンに向けて、先程より多くなった木で攻撃する。
「ぐわぁっ!」
今度は全ては防げなかったようだ。アモンが悲鳴を上げる。ミナはここがチャンスとばかり最大魔力での拘束技を構築しようとした。だが...
「人間め、よくもやってくれたなっ! 食らえぇ!」
アモンの力がまた増幅される。空間を捻じ曲げる程の闇の力の直撃を食らった。
「キャアァァァッ!」
ミナはガードごと吹き飛ばされた。
「フンッ、小賢しい真似をしおって。思い知ったか!?」
アモンの声を遠くに聞いたミナは、意識まで飛ばされそうになっていた。
『エリオット~ 近付いて来るのは人間みたいよ~』
「人間!? 行方不明の冒険者ってことか!?」
『そうかもね~ ただ~ なんか~ 様子が変よ~』
「変ってどういう風に?」
『自分で判断して~ そろそろ見えて来るわ~』
ウンディーネの言葉が終わらない内に、それは現れた。
「これはっ!?」
姿形は冒険者の格好をしている。数は四人。恐らく行方不明になったパーティーの内の一つだろう。ただし、その肌は青白く、目は虚ろで、足取りも覚束無い感じだ。しかも不気味な黒い靄が体中に巻き付いている。
「既に死んでいる!? そしてゾンビ化しているということか!?」
『う~ん、まだ生きてるみたいよ~ 何かに操られているみたい~』
「操られている!? 一体何に!?」
『そこまでは分からないわ~』
話してる間に間合いを詰めて来た相手は、いきなり攻撃してきた。
「うわっとっ! これどうすればいいんだ!?」
攻撃を避けながらエリオットが叫ぶ。
『なるべく傷付けないように~ 無力化するしかないんじゃない~?』
「難しいぞそれ!?」
エリオットは頭を抱えたくなった。
『私も手伝うわ~ まずは囲まれないように注意してね~』
そう言うと、ウンディーネはエリオットの背後に回った。
「分かった。よろしく頼むぞ」
◇◇◇
その頃、シャロンも同じ目に合ってた。
「ちょっとこれ、どうすればいいのよ!?」
やはり数は四人。行方不明のパーティーの一つに囲まれていた。
『シャロン、落ち着いて! 大丈夫! 私が手伝うから!』
シルフがシャロンの後ろに迫った相手を風で押し返す。
「あ、ありがとう。でも怪我をさせずに相手を無力化するって難しいわよ!?」
シャロンは鞭で牽制するが、相手はそれに構わず突っ込んで来る。どうやら痛みも感じていないみたいだ。
『そこはシャロンが考えてよ!』
「丸投げしないでよ!」
やっぱりこの精霊はダメだ。シャロンは頭を抱えるしかなかった。
◇◇◇
同時刻、シルベスターはまだパニックっていた。
「ヒィィィッッッ! 来るな、来るな、来るな~!」
やはりこちらも数は四人。行方不明のパーティーの最後の一つに囲まれていた。だが、前の二組と違い、シルベスターは...容赦なく攻撃を加えていた...
『ちょっと待ってシルベスター! 死んじゃう、死んじゃうから~!』
ノームが慌てて止めようとするが、パニックってるシルベスターに声は届かない。
「悪霊退散! ゾンビ退散! 心頭滅却! 急急如律令!」
『だから悪霊でもゾンビでもないんだって~! シルベスター、聞いてよ~!』
結局、ノームの叫びがシルベスターに届くことはなかった。結果的にシルベスターが一番早く相手を無力化させたが、このパーティーの怪我が一番重かったのは言うまでもない。
実はこのパーティー、行方不明になった三組の内、一番強いパーティーであった。だからこそシルベスターの容赦ない攻撃にも何とか耐え、幸いなことに死者は出なかった。シルベスターは知る由もなかったが、まさしく僥倖であると言えるだろう。
◇◇◇
アルベルトは戦っていた。と言うより苦戦していた。
「くぅっ! ただのゴブリンがなんでこんなに強いんだよ!?」
この森に出没する弱いはずの魔獣が、闇の力の影響かどれも手強い相手になっていた。
『...慌てるな、我も加勢する...』
イフリートがアルベルトの後ろに回ったワイルドボアを仕止める。
「助かる! だがこれじゃキリが無いぞ!?」
ホーンラビットの突進を躱しながらアルベルトが叫ぶ。
『...分かっている。仲間と合流せねば...』
「どうやって!?」
『...向こうから近付いて来る...』
「ホントか!?」
『...あぁ、それまでしばし耐えるぞ...』
「分かった!」
応えながらアルベルトは、こんなに長くイフリートと喋るのは初めてだなと思っていた。
◇◇◇
『アリシア、止まって』
「えっ!? なに!? どうしたの!?」
一刻も早く仲間と合流したいアリシアをレムが止める。
『...何か来るわ...』
その言葉が終わらない内に、地面が振動し始めた。
ドスン、ドスン、ドスン...
「な、なにぃ~!? 怖いんだけど~!」
『あれは...ベヒモス!? なんでこんな所に!?』
レムの焦った声が響く。
「パォーーーン!」
現れたのは象頭人身の怪物『ベヒモス』だった。5mを超す身の丈、長い鼻と象牙は象そのものだが、爛々と光る両目は血のように赤く、強靭な四肢は二足歩行に適応し、下腹部が異様に膨らんでいるその様は、まさしく異形と言える姿だ。
『アリシアっ! 避けてっ!』
呆然と立ち尽くしていたアリシアにレムの叱咤が飛ぶ。
「うわぁっ!」
その声に動かされ、辛うじて避けたアリシアがさっきまで立っていた場所に、ベヒモスの長い鼻が振り下ろされた。
ズゥーーンッ!
その一撃で地面が揺れる。とんでもない怪力だ。
「し、死ぬかと思った~!」
『油断しないで! また来るわよ!』
「パォーーーン!」
ベヒモスが鳴きながら突っ込んで来る。その巨体は迫力満点だ。
「うわぁっとっ!」
なんとか躱したが、風圧で吹っ飛ばされる。
『アリシアっ! すぐ体勢を立て直してっ!』
また長い鼻が襲って来る。
「もうやだ~!」
アリシアは必死で逃げ惑う。
◇◇◇
ミナは一人で暗闇の中に居た。思い出すのは『精霊王の祠』でプルートーから受けた仕打ち。あの悪夢の再現かと思うと体の震えが止まらない。思わず精霊王から貰ったペンダントを握りしめた。
「フンッ、貴様が精霊王の加護を受けた人間か。何とも矮小な者よ」
その声にハッと顔を上げると、そこには身の丈3mを超えるくらいか、頭部が黒山羊の姿をしている悪魔が佇んでいた。
「...あんたは?...」
震えた声で問い掛ける。
「我が名は『アモン』闇の眷族四天王の一柱」
「四天王...そんなのが何の用よ?」
ミナは気丈に言い返した。まだ声は震えている。
「なあに、プルートー様が手子摺った相手と聞いてな。どんな強者かと思って確かめに来たのだが、まさか貴様のような小者とは思わなんだ。とんだ拍子抜けだったようだな。ハハハッ!」
人を小馬鹿にしたような笑い声に、ミナは怖さよりも怒りが上回った。
「そりゃどうも。わざわざ偵察ご苦労様。あぁそうそう、偵察に回されたってことは、あんたが四天王の中で最弱ってことでいいのかしら?」
ミナは態と相手を挑発してみた。
「貴様っ! 人間如きが我を愚弄する気かっ!」
アモンの怒りが闇の力を増幅させる。ミナは頭がクラクラしそうになったが何とか耐えた。ペンダントを握る手に力が籠る。
「あら、図星だったのかしら? 気にしてたのならごめんなさいね」
「貴様ぁっ!」
アモンの体から触手のようなモノが何本も伸びて来る。先が鋭く尖っている。それで突き刺すつもりなのだろう。ミナは土壁を展開してガードする。
「くぅっ! 数が多い上に重い!」
何本かがガードし切れず、土壁をすり抜けてミナの体を抉る。軽傷ではあるが、積み重ねられると厳しくなる。いずれは致命傷を食らうだろう。守ってばかりでは勝ち目が無い。
『ツリーアタック!』
幸いここは森だ。土魔法の攻撃の手段が豊富にある。まずはアモンの周りに生えている木をアモン側に倒して攻撃する。
「舐めるなぁっ!」
アモンの体に触れる前に木が触手で切断される。だがこれはミナにとって予想通り。切断された木は切り口がギザギザになり攻撃力が上がる。しかも攻撃の手数をアモン自ら増やしてくれた。
『ツリーアロー!』
切断された面をアモンに向けて、先程より多くなった木で攻撃する。
「ぐわぁっ!」
今度は全ては防げなかったようだ。アモンが悲鳴を上げる。ミナはここがチャンスとばかり最大魔力での拘束技を構築しようとした。だが...
「人間め、よくもやってくれたなっ! 食らえぇ!」
アモンの力がまた増幅される。空間を捻じ曲げる程の闇の力の直撃を食らった。
「キャアァァァッ!」
ミナはガードごと吹き飛ばされた。
「フンッ、小賢しい真似をしおって。思い知ったか!?」
アモンの声を遠くに聞いたミナは、意識まで飛ばされそうになっていた。
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