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第37話 第三者視点 夜霧の森 その4

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 アルベルトと合流したシルベスターは混戦の中に居た。


「殿下っ! ボクの後ろに! 少し休んで下さい!」

「すまん、助かる...」

 疲労の見えるアルベルトを後ろに下がらせた。辺りを見回すと、後から後から次々に魔獣が現れて来る。良くこれだけの数を相手にたった一人で戦っていたものだ。

『ボクが守るよ! シルベスターは攻撃に専念して!』

『...我は攻撃に加勢しよう...』

 ノームが元気良く叫び、イフリートが力強く告げる。

「ありがとう! よろしく!」

 (そっか、殿下もボクも一人じゃなかったね)

 シルベスターは心の中で囁き、感謝しながら敵と対峙した。

『見つけた! シャロン! 早く早く! こっちだよ!』

 そこにシルフの可愛らしい声が響く。

「シルベスター? あなたですの?」

 遅れてシャロンの声がする。やっと合流出来たようだ。

「シャロン様! 良かった! 殿下がお疲れです! フォローをお願いします!」

「アルが!? 分かったわ!」

 シャロンは周りの状況を確認した。これだけの敵に囲まれては疲労も蓄積するだろう。すぐにアルベルトの側に寄る。

「おう、シャロン。済まない...」

 アルベルトが疲れた声で呟く。

「いいから休んでなさい!」

 シャロンが嗜めるように優しく言う。

「シャロン様! ミナとアリシア、エリオットの姿を見ませんでしたか?」

 シルベスターが敵を攻撃しながら聞いて来た。

「いいえ、誰も見なかったわ。あなた達が初めて合流出来た相手よ」

「そうですか...無事だといいんですが...」

「何言ってるのよ! 無事に決まっているじゃない!」

 シャロンは自分自身に言い聞かせるように叫んだ。本当はシャロン自身も不安で不安で仕方無いのだが、そこは高位貴族としてのプライド故か、人前で弱音は吐かない。

「そ、そうですよね! すいません!」

 シャロンが後ろの守りに加わったことで、シルベスターはより攻撃に専念出来るようになったが、まだまだ敵の数は減る気配が無い。段々とシルベスターも疲労が蓄積してきた。

『エリオット~ 見付けたわよ~ こっちよ~』

 そこに緊張感の無いウンディーネの声がした。

「シルベスターか!? 良かった。やっと合流出来た!」

 エリオットがホッとしたように言った。

「エリオット! 助かった! フォローをお願い!」

「分かった! 任せろ!」

 エリオットもすぐさま状況を確認した。敵に囲まれている。後ろではアルベルトを庇うようにシャロンが戦っていた。すかさずシルベスターの援護に回る。

「ところで、ミナとアリシアは見なかった?」

「いいや、見てない。お前達と合流したのが初めてだ」

「そっか...うん、きっとどこかでボク達と同じように戦ってるよね」

 シャロンと同じように自分自身ヘと言い聞かせるように言った。

「そうだな...さっさと敵を片付けて合流しよう!」

「オッケー!」

 シルベスターは不安を払拭すべく殊更に明るく振る舞った。


◇◇◇


「ハァァァッ!」

 トラウマを克服したアリシアは戦っていた。ベヒモスの強力な攻撃を掻い潜り、その太い足にローキックをぶちかます。右、左、と交互に打ち分ける。

「パォッ!」

 効いてるようだ。明らかに嫌がってる。長い鼻で牽制してくるが、アリシアはその軌道に慣れてきたのでカスリもしない。更に踏み込み、間合いを詰める。

「おっと! 危ない危ない!」

 近付き過ぎて象牙の攻撃に晒される所だった。鋭く尖った象牙の攻撃は侮れない。少し距離をおく。するとベヒモスは体当たりの構えを見せた。

『やらせないわ!』

 レムから放たれた強力な光がベヒモスの視力を奪う。体当たりは明後日の方向にズレた。

「レム! ありがとう!」

『もうひと息よ! 頑張って!』

 体当たりを外したベヒモスの体勢が崩れる。そこへすかさずローキックを畳み掛ける。ベヒモスの体が前に倒れてきた。あともう少し。アリシアがそう思った時だった。

「パォーーーン!」

 一際高くベヒモスが吠えた瞬間、ミナも食らった闇の力の大威力攻撃がアリシアを直撃した。

『アリシアっ!』

「カハッ...」

 レムの悲痛な叫びが響く。ふっ飛ばされたアリシアは衝撃のあまり呼吸困難に陥り、その場に踞ってしまった。今にも意識が飛びそうだ。立場が逆転したベヒモスは、勝利を確信したのか、ゆっくりとした足取りでアリシアに近付いて行く。

『アリシアっ! しっかりしなさいっ!』

 レムの声が届いているのかいないのか、アリシアはピクリとも動かない。ついにベヒモスがアリシアの正面に立ち、長い鼻を振り上げてそのまま振り落とした。

 ズゥゥゥンッ!

『アリシア~!』

 レムの絶叫が響き渡った。

「...捕まえた」

「パオッ?」

 潰れされたと思ったアリシアは、間一髪で避けていた。太い鼻を掴んだアリシアは、それを足掛かりにそのまま一気にベヒモスの頭まで駆け上がり、更にもっと高くジャンプした。


「食らえぇぇぇっっっ!!!」
 

 アリシア渾身のかかと落としが炸裂する。

「パオ...」

 ベヒモスは力無くその場に崩れ落ちた。

「ハァハァ...やっと...終わった...」

『アリシア~! やったわね~!』

「レム、ありがとう」

『最後はハラハラしたわよ...やられたかと思った...』

「アハハッ、ごめんね。相手を油断させようと思ってさ。捨て身の策だったけど、上手くいって良かったよ」

『...約束して、もうあんな無謀なことはしないって...』

「...分かった。ごめん、もうしないよ」

『うん、それならいい。さ、ミナの所に急ぎましょう』

「うん、行こう!」

 アリシアはレムの導きに従ってミナの元へ急いだ。


◇◇◇


 ミナはアモンの周りをちょうど一周した。それに伴い、円を描く形で倒された木々が繋がった。木のリングの出来上がりだ。攻撃の準備は整ったが、その間やはりアモンは一歩も動くことは無かった。

 植物系の悪魔なのは間違い無い、とミナは確信した。だとすれば自分との相性は良い方だろう。最後の仕上げに取り掛かろうとした時だった。

「おのれ~! ネズミのようにチョコマカと動き回りおって~! もう一度吹き飛ばしてくれるわ~!」

 マズい、今もう一度アレを食らったら、せっかくの準備が無駄になるし、何より次は体力的にも魔力的にも耐えられないかも知れない。ミナは焦り出した。その時だった。胸元のペンダントが一際大きな輝きを放ち出す。

「そうはさせぬ。我が愛し子に手を出すことは許さん」

 精霊王の厳かな声が響き渡った。するとあれだけ溢れていた闇の力が霧散した。

「精霊王! このくたばり損ないが、よくも~!」

 アモンが苦し気に呻く。

「精霊王様!」

「ミナよ、遅れてすまんかった。すぐに駆け付けるつもりじゃたんじゃが、こやつらに邪魔されての」

「いいえ、来てくれてありがとうございます!」

「儂がこやつの力を押さえ込む故、思う存分戦うが良いぞ!」

「はいっ!」

 精霊王から元気付けられ、勇気百倍になったミナはアモンから少し離れて魔法を放つ。

『アントライオン!』

 するとアモンを中心に周りの地面がサラサラと砂状になり、次第に下へ下へと沈み始めた。そう、まるで蟻地獄のように。

「グォォォッ! な、なんだこれは~!」

 アモンが藻掻けば藻掻く程、下に沈んで行く。そして砂状になった穴の縁が木のリングに達した時、その自重で穴に滑り落ち、アモンを直撃した。そう、まるで巾着袋の口を締めるように。

「ウギヤァァァッッッ!」

 木の重量に押し潰されたアモンの断末魔のような悲鳴が轟いた後、周りに漂っていた闇の力の気配が消えた。あれだけ濃かった霧も晴れて太陽の光が差し込んで来た。

 終わった...そう思った途端、ミナは脱力して座り込んだ。
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