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第50話 ちみっこと水竜の卵 その6

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 シルフの加護で足元に風が巻き起こり、アタシ達の体は少し宙に浮いた。


「なんか変な感覚だね...足元がフワフワして落ち着かない」

 そのまま恐る恐る歩を進め、ついに沼地の中へ。すると、

「おぉ~! 確かに水に沈まない! 浮いてる!」

 全員から感嘆の声が上がる。

『だから言ったじゃん! 大丈夫だって!』

 うん、ゴメン。疑って悪かったよ。普段のシルフの言動を見てるとさ、どうしてもね...だから機嫌直してよ。

「なんか来たぞ」

 沼地を渡り始めて半分ほど進んだ所だった。

「なにあれ? 泳いで来るよ。まさかワニ!?」

「いや、あれが『ザハギン』だよ」

「あれが?」

 体のほとんどが水の中にあるため、姿形の詳細は分からない。分かるのは水面に僅かに出ている頭の部分だけ。確かに半魚人だけあって顔は魚に見える。あれはエラかな? 頭の周りには襟巻きみたいな、大きく広がったエラらしきモノが着いてる。そう、まるでエリマキトカゲのよう。

「攻撃して来た! あれは水鉄砲!?」

 口から水を吹いて攻撃してくる。うん、水鉄砲だね。当たらないけどね。全てシルフの足元から吹く風に遮られて、アタシ達まで届かない。シルフ、本当にゴメン。とても頼りになります! そしてありがとう!

「今度はなにか投げて来たよ! 魚?」

「あれはピラニアだ! みんな注意して!」

 シルベスターが注意を促す。さすがにこれはシルフの風では防げない。鋭い歯を剥き出しにしてピラニアが迫って来る。だが、

「ハッ!」「ヤァッ!」「トゥッ!」「エイッ!」「ハァッ!」「オォッ!」

 近接戦でもみんな抜かりはない。訓練の成果だね。アタシもブーメランを振り回して応戦する。シルベスターなんか矢尻で攻撃してる。そんな余裕を見せていた時だった。

「うわぁっ!」

 叫び声と同時にエリオットの姿が水中に消えた。しまった! ザハギンに水中へと引き摺り込まれたんだ! 出発前、シルベスターが注意喚起してくれたのに! どうしよう? と焦っていたら、

『大丈夫よ~ すぐ浮いて来るわ~』

 ウンディーネの言葉が終わらない内に、エリオットが浮かび上がって来た。無事で良かった! うん? エリオットの顔色が悪いな。やっぱり水中に引き摺り込まれたのは怖かったんだね。

「エリオット、大丈夫? 怪我してない?」

「あぁ...怪我はない...ただ...」

「ただ? なにかあった?」

「周り中をピラニアに取り囲まれて...死ぬかと思った...」

 あぁ、それは...精神的に来るモノがあるよね...なので、

「ぜ、全員、一刻も早くこの沼地を抜けましょう!」

『平気よ~ ピラニアなんかに~ 私の加護は破られたりしないわ~』

 いや、ウンディーネ。そういう問題じゃないんだ! ピラニアに取り囲まれ、食われそうになるって...そんな恐怖には耐えられそうもないんだ! トラウマものなんだ! 幸い、その後は誰も水中に引き摺り込まれることなく、無事沼地を抜けることが出来た。全員が胸を撫で下ろす。

「エリオット、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ...」

「みんな、ちょっとここで休憩しましょう」

 まだ青い顔をしてるエリオットに無理をさせる訳にはいかない。それともう1つ、アタシには気掛かりなことがあった。

「殿下、ちょっといいですか?」

「あぁ、どうした?」

「純粋な疑問なんですけど、精霊達の加護を受けた我々だからここまで来れましたが、おバカさん達だけでここまで来れたと思います?」

「......」

 ありゃ、沈黙しちゃったよ。殿下も今気付いたみたいだね。これ以上先に進む意味がないかもってことを。

「もう死んでるでいいか...」

 ついに投げ遣りになっちゃったよ。アタシが答えようとした時、どこからか歌? が聞こえて来た。

「みんな! 耳を塞いで! 『セイレーン』の歌声だ! 聞いちゃダメだ!」

 シルベスターが焦ったように叫ぶ。聞くと状態異常を引き起こすんだっけ。でも、

『落ち着きなさい、問題ないって言ったでしょ?』

 そう、レムの言う通り、歌を聞いてもなんともならないんだよね。キレイな歌声だな~って思うくらいで。さすがは光の精霊の加護だね。

 歌声が響く方に目をやると、大きな岩の上になんか居る。あれがセイレーンか。確かに姿形は人魚みたいに下半身は魚、上半身は人の姿をしてるけど、青白い肌は死人みたいだ。濡れた髪が張り付いた顔からは凶悪そうな瞳が覗いてる。人魚のイメージはどこにもない。だから、

「アリシア、サクっとやっちゃって」

「ほ~い」

 サクっと倒しましたとさ。

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