上 下
176 / 176

ちみっこと黒い竜 その1

しおりを挟む
「残念だ...久し振りに本体で戦ってみたかったのに...」

「ほ、本体って! ちょっと! 止めて下さいよね! ナギはまだ子供なんですから!」

 アタシはナギを抱き締めながら叫んだ。本体ってあの巨体でしょ? いくら軽く手合わせするって言っても限度があるだろ! ヘタすりゃナギ食われそうじゃん!

 アタシしゃてっきり人の姿のまま戦うもんだとばっかり思ってたよ!

「キュイ~...」

 ほら、ナギだって怖がってるじゃん!

「とにかく! 許可できない! 分かったな!」

「仕方ない。またにしよう」

 またもありません! 絶対やらせませんからね!

「...今日はこの辺で切り上げましょうか...」

「そうだな。そろそろ日が暮れるしな」

 アタシ達は下校することにした。


◇◇◇


 翌日、ヒルダさんから呼び出しが掛かった。

「良く来てくれたわ。Sランクの指名依頼が来ているのよ」

「あれ? てっきり前回の報酬の件で呼ばれたんだとばっかり思ってたんですけど...」

「報酬の件はこの後で構わないでしょう? どうせ折半なんだろうから。それよりもこっちは緊急案件なのよ」

 どうせって...実はまだ報酬の件に関してはなにも話し合ってないんだよな。なにせ前回アタシ達はほとんどなにもやってないようなもんだから。

 アリシアがほとんどやってくれちゃったからね。アタシ的にはアリシアが半分くらい手にしてもいいと思ってるんだけど。なんかそんなことを言い出せる雰囲気じゃないな...

「緊急だって!? 内容は!?」

「あなた達がレッドドラゴンを倒したダンジョン覚えてる?」

「あぁ、初心者向けだと思ったら全く違った所だよな?」

「えぇ、そうよ。あなた達が攻略してくれた後、どうなったか知ってる?」

「いや、そういえば気にしたことなかったな」

「実はあの後、全く魔物が出なくなってね。ダンジョンというより単なる大きな洞窟と化したのよ」

「良いことじゃないか」

「それがついこの間、たまたま近くを通り掛かった人がギルドに連絡して来たのよ。洞窟の奥の方からなにやら獣のような吼え声が聞こえるって。それで調査のために冒険者を派遣したんだけど、彼らが言うには洞窟の最奥に見たこともないほど巨大で真っ黒な姿をしたドラゴンが居たらしいのよ」

 アタシ達は全員が顔を見合わせた。ウインディは顔を強ばらせている。 

「冒険者達は命からがら逃げ出して来て今に至るって訳よ。こんな案件、あなた達以外に頼めないわ。どうか引き受けて頂戴」

 黒い竜...その意味することは一つだけ。

 闇落ちした竜ということだ。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,569pt お気に入り:5,996

もふもふの王国

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:437

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:510

処理中です...