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第2章*専属メイドのお仕事?
閑話2 とある少女と幼なじみの出会い。
しおりを挟むそれは、しんしんと雪の降りしきる、寒い冬の日の出来事。
「うわーーん! こわいよーー!」
「うえええん!! ママーー!」
「ふふ、おれから逃げられると思ってるの?」
(うーん……どうしたものか)
目の前で、巨大な氷の塊を片手にほかの子どもたちをいじめている男の子が一人。
ルーナは思わずため息を吐き出した。
遠目から様子をうかがっているが、その子は異様に目立っている。
銀の髪、紫の瞳をもつ、異常なレベルで目鼻立ちの整った男の子。
魔法という不可思議な力を使える、稀な存在。
目立つ要素しかない彼は、どうやら最近この街の教会に引き取られてきたらしい。
(ほかの街でも問題起こしたから、今度はうちの街に回されたって噂を聞いたけど……)
真相がどうであれ、相当まずいやつなのは間違いなさそうだ。
現に銀髪の男の子は、ほかの同年代の子どもが大泣きしているにも関わらず、いじめじみた行為を繰り返している。
この街に来たばかりだというのに、暴れまわることができるのはある意味すごい。
きっと彼は極太神経の持ち主に違いない。
(だけど、子ども好きとしてこの状況は見ていられない)
今現在、6歳の姿のルーナが子どもを好きだと思うのは、いささか滑稽だろう。
だが、かつて愛梨だったころ、ルーナは子どもが大好きだった。
その記憶がある以上、ルーナとして6年過ごしていようが何も変わらない。
「ちょっと、何やってるの!」
子どもたちの前に、ルーナは飛び出す。
銀髪の男の子と、可哀想に泣かされている子どもたちの間にルーナは割り込んだ。
泣いている子どもたちを背に庇うように立ち、銀髪の男の子を強く見据える。
「みんな泣いてるじゃない。酷いことしないで」
「…………」
男の子はルーナをじっと見て、黙り込んでしまった。
ルーナとしては戸惑うばかりだ。
(なんなのこの子)
「……ねぇ、きいているの?」
訝しげにルーナが尋ねると、男の子はニコッと笑った。
(いやほんとになんなのこの子!)
「ね、君、名前なんて言うの?」
「は? 私? ……ルーナだけど」
突然普通に名前を聞かれて、ルーナはぽかんとしてしまった。
咄嗟に名乗ると、男の子はさらににこりと笑みを深める。
……はっきりいって、得体がしれない笑みだ。
(だって……目、笑ってなくない?)
それはまるで、ひやりとした氷のような微笑み。
笑っているはずなのに、笑っているように思えない。
楽しそうなのに、楽しそうではない。
(どっちなのよ)
自分自身の思考に自分でつっこむ。
だが目の前の男の子は、まさにそんな感じだった。
まだ幼いというのに、ポーカーフェイスが板についている。
「そっか……ルーナか。よく覚えておくよ」
「いや、覚えなくていいよ?」
(こんな得体の知れない子、関わりたくないんだけど)
ルーナの第六感が告げている。
この男の子に関わったら、間違いなくろくでもないことになると。
反射的にルーナが言い返すと、男の子はケラケラと楽しそうに笑った。
……彼が本当に楽しいと思っているのかは、ルーナには分からなかったが。
「あはははっ、君面白いね! おれはアステロッド。よろしくね、ルーナ」
(……アステロッド!?)
男の子が名乗った名前に、ルーナは信じられない思いで目を見開いた。
アステロッド。
それは、愛梨だった時に大好きだった『MRL』の攻略キャラ、得体の知れない魔法使いの名前と同じで……。
慌ててルーナは男の子の容姿をじっと観察した。
さらさらとした銀の髪。
暗く濁った紫の瞳。
胡散臭い微笑み。
それらを少しだけ、ルーナの脳内で成長させてみる。
すると、それは難なく『MRL』のアステロッドと重なった。
(……これはまずい事態かもしれない)
迂闊だった。
ルーナは思わず眉を寄せる。
ゲームでの主人公、ルーナの幼少期など頻繁にゲーム中に出てこないため、油断していたのだ。
ゲームでは、アステロッドは主人公ルーナの幼なじみでもある。だから、ゲームの世界かもしれないこの世界で出会っても何ら不思議では無いのだが……。
(6歳のときに出会うって知ってたら、全力で回避したのに!)
何せ、相手はデッドエンドとバッドエンドの豊富さに定評のあるヤンデレ魔法使いだ。
攻略キャラとして見ている分には良くても、実際にリアルで交流をもちたいかと言われたら、答えはNoだ。
シナリオ内に出会う年齢が描かれていなかったことを恨むしかない。
(とはいえ、これである意味確定してしまった)
ここが、ほぼゲーム『MRL』と同じ世界だということを。
神様の気まぐれなのかなんなのかよく分からないが、愛梨は記憶を持ったまま、ルーナとしてこの異世界に生まれてしまった。
(いや、でもまあ、まさかまんま同じにはならないでしょ。私に野心はないし)
そうであることを願うばかりだ。
ルーナはこの瞬間に、平凡な幸せを望むことを決意した。
その次の日からだ。
アステロッドのいじめ(?)の標的が、ほかの子供たちからルーナへ変わったのは。
「きゃああああ!!」
「あははは! 君は反応がいいなあ」
「何でいきなり落とし穴に落とされなくちゃいけないのよ!」
家を出たら、いきなり足元にぽっかり穴が空いて、ルーナの背の高さの2倍はあるであろう深い穴に落とされたり。
「あはははっ! ルーナ、待ってよ!」
「嫌よぉぉぉぉ!!」
白蛇を大量に持ったアステロッドに追いかけ回されたり。
(最悪!! あのとき関わらなければよかった!!)
後悔しても時すでに遅し。
幼いルーナは、今日もアステロッドから逃げ回る。
アステロッドの笑顔が少し前とは違って、心からのものだと、ルーナは気づかないままに。
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