【完結】R-18乙女ゲームの主人公に転生しましたが、のし上がるつもりはありません。

柊木ほしな

文字の大きさ
36 / 75
第2章*専属メイドのお仕事?

閑話2 とある少女と幼なじみの出会い。

しおりを挟む

 それは、しんしんと雪の降りしきる、寒い冬の日の出来事。

「うわーーん! こわいよーー!」
「うえええん!! ママーー!」
「ふふ、おれから逃げられると思ってるの?」

(うーん……どうしたものか)

 目の前で、巨大な氷の塊を片手にほかの子どもたちをいじめている男の子が一人。
 ルーナは思わずため息を吐き出した。

 遠目から様子をうかがっているが、その子は異様に目立っている。
 銀の髪、紫の瞳をもつ、異常なレベルで目鼻立ちの整った男の子。
 魔法という不可思議な力を使える、稀な存在。
 
 目立つ要素しかない彼は、どうやら最近この街の教会に引き取られてきたらしい。
 
(ほかの街でも問題起こしたから、今度はうちの街に回されたって噂を聞いたけど……)

 真相がどうであれ、相当まずいやつなのは間違いなさそうだ。
 現に銀髪の男の子は、ほかの同年代の子どもが大泣きしているにも関わらず、いじめじみた行為を繰り返している。
 この街に来たばかりだというのに、暴れまわることができるのはある意味すごい。
 きっと彼は極太神経の持ち主に違いない。
   
(だけど、子ども好きとしてこの状況は見ていられない)

 今現在、6歳の姿のルーナが子どもを好きだと思うのは、いささか滑稽だろう。
 だが、かつて愛梨だったころ、ルーナは子どもが大好きだった。
 その記憶がある以上、ルーナとして6年過ごしていようが何も変わらない。

「ちょっと、何やってるの!」

 子どもたちの前に、ルーナは飛び出す。
 銀髪の男の子と、可哀想に泣かされている子どもたちの間にルーナは割り込んだ。
 泣いている子どもたちを背に庇うように立ち、銀髪の男の子を強く見据える。

「みんな泣いてるじゃない。酷いことしないで」

「…………」

 男の子はルーナをじっと見て、黙り込んでしまった。
 ルーナとしては戸惑うばかりだ。

(なんなのこの子)

「……ねぇ、きいているの?」

 訝しげにルーナが尋ねると、男の子はニコッと笑った。

(いやほんとになんなのこの子!)

「ね、君、名前なんて言うの?」

「は? 私? ……ルーナだけど」

 突然普通に名前を聞かれて、ルーナはぽかんとしてしまった。
 咄嗟に名乗ると、男の子はさらににこりと笑みを深める。

 ……はっきりいって、得体がしれない笑みだ。
 
(だって……目、笑ってなくない?)

 それはまるで、ひやりとした氷のような微笑み。
 笑っているはずなのに、笑っているように思えない。
 楽しそうなのに、楽しそうではない。
 
(どっちなのよ)

 自分自身の思考に自分でつっこむ。
 だが目の前の男の子は、まさにそんな感じだった。
 まだ幼いというのに、ポーカーフェイスが板についている。

「そっか……ルーナか。よく覚えておくよ」

「いや、覚えなくていいよ?」

(こんな得体の知れない子、関わりたくないんだけど) 

 ルーナの第六感が告げている。
 
 この男の子に関わったら、間違いなくろくでもないことになると。

 反射的にルーナが言い返すと、男の子はケラケラと楽しそうに笑った。
 ……彼が本当に楽しいと思っているのかは、ルーナには分からなかったが。

「あはははっ、君面白いね! おれはアステロッド。よろしくね、ルーナ」

(……アステロッド!?)

 男の子が名乗った名前に、ルーナは信じられない思いで目を見開いた。

 アステロッド。
 それは、愛梨だった時に大好きだった『MRL』の攻略キャラ、得体の知れない魔法使いの名前と同じで……。

 慌ててルーナは男の子の容姿をじっと観察した。

 さらさらとした銀の髪。
 暗く濁った紫の瞳。
 胡散臭い微笑み。

 それらを少しだけ、ルーナの脳内で成長させてみる。
 
 すると、それは難なく『MRL』のアステロッドと重なった。

(……これはまずい事態かもしれない)

 迂闊だった。
 ルーナは思わず眉を寄せる。
 ゲームでの主人公、ルーナの幼少期など頻繁にゲーム中に出てこないため、油断していたのだ。
 ゲームでは、アステロッドは主人公ルーナの幼なじみでもある。だから、ゲームの世界かもしれないこの世界で出会っても何ら不思議では無いのだが……。

(6歳のときに出会うって知ってたら、全力で回避したのに!)
 
 何せ、相手はデッドエンドとバッドエンドの豊富さに定評のあるヤンデレ魔法使いだ。
 攻略キャラとして見ている分には良くても、実際にリアルで交流をもちたいかと言われたら、答えはNoだ。
 シナリオ内に出会う年齢が描かれていなかったことを恨むしかない。
 
(とはいえ、これである意味確定してしまった)

 ここが、ほぼゲーム『MRL』と同じ世界だということを。

 神様の気まぐれなのかなんなのかよく分からないが、愛梨は記憶を持ったまま、ルーナとしてこの異世界に生まれてしまった。
 
(いや、でもまあ、まさかまんま同じにはならないでしょ。私に野心はないし)

 そうであることを願うばかりだ。
 ルーナはこの瞬間に、平凡な幸せを望むことを決意した。


 その次の日からだ。
 アステロッドのいじめ(?)の標的が、ほかの子供たちからルーナへ変わったのは。



「きゃああああ!!」

「あははは! 君は反応がいいなあ」

「何でいきなり落とし穴に落とされなくちゃいけないのよ!」

 家を出たら、いきなり足元にぽっかり穴が空いて、ルーナの背の高さの2倍はあるであろう深い穴に落とされたり。


「あはははっ! ルーナ、待ってよ!」

「嫌よぉぉぉぉ!!」

 白蛇を大量に持ったアステロッドに追いかけ回されたり。


(最悪!! あのとき関わらなければよかった!!)

 後悔しても時すでに遅し。
 幼いルーナは、今日もアステロッドから逃げ回る。

 アステロッドの笑顔が少し前とは違って、心からのものだと、ルーナは気づかないままに。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...