【完結】R-18乙女ゲームの主人公に転生しましたが、のし上がるつもりはありません。

柊木ほしな

文字の大きさ
37 / 75
第3章*パーティーと気持ちの行方

30・マクシミリアンルートのイベントをください(切実)

しおりを挟む

 ルーナがその話を聞いたのは、マクシミリアンに『二人の時は敬語を使わなくてもいい』と言われた夜から二日後のことだった。

「え? 王子主催のパーティー……?」

 使用人控え室で朝の打ち合わせ中。
 突然のマクシミリアンの言葉に、ルーナは思わず聞き返してしまった。マクシミリアンは静かに頷いた。

「ええ、開催する予定です。しばらく仕事が増えるということを、貴女にもお伝えしておこうと思いまして」

(これは、まずい)

 マクシミリアンの言葉さえ、ルーナの耳を右から左へ抜けていく。
 王子主催のパーティーなど、とんでもない。 
 なぜならそれは、王子ルートのイベントなのだから。

(ねぇ、待ってよ待って。私、王子ルートを目指してなんかないんだけど?)

 むしろルーナが入りたいのは、今目の前で書類を片手にこちらを見ているマクシミリアンのルートなのに。 

(いやいや待て待て。まだ王子ルートに入ったと決まったわけじゃない。だってほら、他のイベントは起こしてないもん)

 本来のゲーム『MRL』では、どのキャラのルートであっても、主人公ルーナは身体を使ってのし上がろうとする。
 つまり、どのルートであっても色仕掛けをしているというわけだ。

(でも私はしてないもんね)
 
 ある意味個別ルートに入る必須条件であると思われる身体を重ねるという行為は、何故か王子ではなくマクシミリアンとしてしまった。
 それも、アステロッドのせいで。

 だが、マクシミリアンルートに入っているのかと言われれば、ルーナはそれにも首を捻らざるを得ない。
 王子ルートに似たイベントばかり発生するのに、マクシミリアンのイベントが発生してくれないのは何故だ。

(どうやったら、マクシミリアンは私を見てくれるのよ)

 今のルーナにとって、これはゲームではなく現実だと分かっている。
 それでも納得いかなかった。
 嫌われてはいなくても、異性として好かれている自信がない。

(……好きなのに)

 好きな人のルートに入れないのは何故だ。
 現実とは、かくも上手くいかない。

「ルーナさん、聞いていますか?」

「あっ! はい! 聞いています!」

 不審げなマクシミリアンの声に、ルーナははっと我に返る。
 慌てて返事をしたルーナに、マクシミリアンは少しだけ不満そうな顔をした。

(……?)

「マクシミリアン? どうかしたの? ……ですか」

(……敬語使わないのって、今更だと逆に難しい) 

 本当は「どうかしたの?」と聞くつもりだった。
 だが、どうにも勇気が出ない。
 中途半端に「ですか」と付け加えてしまって、ルーナ自身違和感を感じる。
 言われたマクシミリアンは、ルーナよりも違和感を感じているだろう。

「……敬語は使わなくてもいいと申しましたが」

 案の定、ほんの少しだけ不満そうな色を滲ませたマクシミリアンにそう言われてしまう。
 その表情が可愛く見えてしまって、ルーナは誤魔化すように苦笑した。

「はは……つい、うっかり癖で……」

「いえ、すみません。別に強制するつもりは無いのです。わがままを言って、申し訳ありません」

「えっ! いやいやいや!!」

 マクシミリアンが落ち込んだように言う。
 ルーナはマクシミリアンの言葉を否定するように慌ててぶんぶんと手を振った。

「わがままなんかじゃないですよ! むしろ仲良くなれたみたいで嬉しいです!」

 何もかもを忘れてしまうくらい、マクシミリアンの言葉ひとつに舞い上がってしまう。
 控え室に誰もいないことをいいことに、ルーナは素直に気持ちを打ち明けた。

 何を思ってマクシミリアンがそんなことを言ってきたのか、ルーナには分からない。
 だけど、マクシミリアンに「敬語を使わなくてもいい」と言って貰えたことは、どうしようもないほど嬉しい。
 まるで、気を許して貰えたような気がしてしまう。

(あ、しまった。また敬語使っちゃった)

 今世で、マクシミリアンの部下として彼に接することに慣れてしまったせいか、なかなか敬語が抜けそうにない。
 
「……っ貴女は」

 ルーナの言葉に、マクシミリアンは片手で口元を押さえて目を逸らした。
 マクシミリアンの耳が赤く染まっていることに気づいてしまい、ルーナにまで伝染うつって顔が熱くなってくる。

(そういえば私、いつからこんなにマクシミリアンの表情を読めるようになったんだろう)

 ベースが無表情だから、些細な表情の変化などわかりにくいはずなのに。
 なのに、以前よりもマクシミリアンの表情が読めるようになった気がした。
 
(もしかして、私が読めるようになったんじゃなくて)

 マクシミリアンのほうが感情豊かになったのかもしれない。
 そう思いながら、ルーナは照れているマクシミリアンを見つめ続けた。

「あまり……見ないでください」

「ご、ごめんなさい!」

 マクシミリアンは書類を机に置くと、椅子から立ち上がる。
 これは合図だ。
 専属としての仕事をはじめる、合図。

「殿下がそろそろお目覚めでしょう。行きますよ、ルーナさん」

 そう告げたマクシミリアンの頬の赤みは、既に引いていた。

(耳、まだ赤いけど)

 ほんのりとまだ朱に染っているマクシミリアンの耳に、ルーナの期待が勝手に募っていく。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

処理中です...